6.力の持ち腐れ
次の日、僕は真紀に前日に起きた力の事を話して共にこの力を少しでも使い慣らす為の訓練をする事にした。
「なるほど、たしかにこんな力を持ってしまったらパニックになるのも分かる。でも、マイナスにならずにその力をプラスに変えるのも大事よ」
「まぁ、力の持ち腐れっても言うしな。何かに使えるかもしれないから……日常生活も大変だよ。ノズル捻るのも大変なんだから」
「そりゃ大変だわね」
ということで運動部に所属してフレッシュな真紀に指導してもらう事になり、体操服に着替えさせられて山頂の公園へと来た。ここならあまり人は来ないから存分に訓練と真紀は言っていた。
「で、何をするんだ?」
「まずは走ったりして、体力の増強ね。基礎よ」
「体力?」
「当たり前よ。さぁ、適当に全力で走ってみて」
「……分かったよ」
走って体力がどうにかなるかなんて僕には分かんないし、でもやれと言ってるから、取り敢えずやってみる事にした。
約百mほど真紀から離れて、僕は走る構えを取った。
「よーい、ドン!」
真紀が大きな声で合図を出し、僕は大きな一歩を踏み出して全速力で走った。足を踏み込んだ瞬間、身体全体の力が強ばり手の甲に炎の文字が浮かび上がった。
その走る速度速度は自動車をも凌ぐかもしれない。自分の身体がとても軽く、足を動かせば動かすほどスピードがどんどん増していく。
ものの数秒で真紀の元に到着した。だが真紀は僕じゃくて僕が走った場所を見てびっくりしていた。
「凄い……早さね」
「……正直、自分でもびっくりだよ」
「う、後ろ見て……」
後ろを見ると僕が走った場所の草が燃え散っていた。
「映画のワンシーンみたいね……」
「そうだな……」
真紀は用意していたノートに計測時間を一応書いた。
「速度は申し分ない……ね。でも、もう少し速度抑えられないの? 体育の時とか、こんな速度じゃみんなに怪しまれるわよ」
「それもそうだな。もう少し、抑えてみるよ」
「なら、もう少しやってみましょう」
その後、何回か走らされて、速度を抑える練習もした。
何回かやっている内に少しずつ、制御出来る様になり、速度を抑えられるようになった。
だが、運動部でも何でもない僕は力とかはパワーアップしてるが体力は別なのかすぐに疲れてしまう。
「はぁ、はぁ……本当にこれで、体力増強出来るのかね……」
「つべこべ言わずに走る! 次はスクワットや腕立て伏せよ!」
「はい……こりゃあ疲れるな」
スクワットも腕立て伏せも何回もやらされた。それに全速力で公園の周りを何周も走らされた。
でも、最初こそは息が乱れてしまったが、徐々に慣れていき力を発動しながらも安定した状態を保てるようになって来た。
「すごいわ鷹斗!走りは十分。次の特訓よ!!」
「まだ、やるのか……」
次に真紀は野球ボールを渡して来た。
「ボール?」
「そうそう。握る力の制御や、投げたりする力の制御の訓練よ」
「それも必要だな」
「なら、適当に木に向かって投げてみて」
「あ、あぁ」
少々不安になるが僕はボールを軽く握りしめて、目標の木に狙いを定めてアンバランスなフォームで木に投げた。だが、投げて手を離す瞬間、少し力んでしまい投げたボールは真っ赤に燃え上がり燃える魔球になりながら目標の木を貫き、いくつもの木を貫きながらボールは木にめり込み激しく回転しながら動きを止めた。
目標の木は真ん中にボールの穴が空いており、穴からは残り火が散っていた。
「もう少し力を抑えないと鷹斗!もう少しで山火事になるわよ」
「す、すまんちょっと力んでしまって……」
「もう少し練習ね……」
「はい」
その後何度も練習してボールを投げる事に慣れ、安定して握り流れるようになっていった。
やはり使い続けると疲れてしまい、休憩していると真紀はジュースを買って来てくれて渡してくれた。
「ありがとう」
「いいのよ。それにしても、その力の正体って何だろうね。やっぱり特殊な能力的なやつかしら?」
「だと思うけど、何か分かることが出来ればいいんだけどなぁ」
「そうね……」
こうして僕達は夕方まで練習したのであった。
*
次の日の夜──俺はその日家に帰る事なく、フードを頭をかぶって夜の繁華街をビルの上から眺めていた。力を使いこなせば、空まで飛べる様になり、ビルの上なんて簡単に飛んでいける。
今も大勢の帰宅途中の人間がわんさか歩いている。今の俺にとってこの街を歩いている人間がゴミの様に感じたのは初めてだ。
「おっ、あれは……」
歩道に先輩の姿があった。それも大勢の不良仲間を連れている。あの先輩、先生殴って退学になった馬鹿丸出しの奴だ。学校にいた時はよく頭を下げてパシリにされたなぁ。そしてよく殴られたなぁ。ふっ、良い事思いついた。
俺はビルから飛び降りて路地裏に降り立ち、フードを下ろして奇遇を装って先輩と出会った。
「先輩、久しぶりですね」
「劉生じゃねぇか久しぶりだな」
「先輩学校辞めてから何してるんですか?」
「まぁブラブラとしながら遊んでいるぜ。恐喝とかしながらな」
「ふん。道を外れたゴミのやる事だな。ゴミはゴミらしく底辺を這いつくばるのがお似合いだな」
その言葉に先輩はキレて俺の胸ぐらを掴みかかった。周りの不良らもガン飛ばしながら俺の周りを囲んだ。
「貴様ぁ……俺にそんな口聞いて──」
「そんな口聞いて良いほど、俺がお前らより優れているんだからよぉ。うるさく語るなよ……」
「あぁん!?」
先輩は俺を殴り飛ばし、周りの不良らも倒れた俺を踏みつけ、蹴り、俺はボロボロになった。先輩達は気が済んだのか立ち去ろうとしていた。
「けっ、可愛がってあげたのにその態度。二度と俺の前に現れるなよクズが」
「クズ……か。俺の一番好きで嫌いな言葉だ」
「!?」
ボコボコにしたはずの俺が宙に浮いている事に驚きを隠せていないようだ。
「何だお前……何が」
「見ろよ……今度は俺がお前らを見下す番だ」
俺は目の前のビルに手を翳した。その瞬間付近に止まっている車から一気にアラームが鳴り響き、周りの人間は一斉に足を止めた。そして力を込めて一気に地面に手を振り下ろした。手が振り下ろされると同時にそのビルの窓ガラスが上から順に割れていき、周りはいきなりの事に燦然とし悲鳴が巻き起こった。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
先輩達は俺に恐怖し、聞いた事ない悲鳴を上げながら逃げていった。その顔だ、その顔を待っていた。恐怖に慄く顔だ。
だが、そんだけじゃ満足出来ねぇよ。俺は再びフードを被って顔を隠して先輩を追いかけた。
「逃がせやしねぇよ!!先輩よ!!」




