【Part27】クマに遭遇しました!
「クマが喋った!?」
「いやいやいや、そんな事ない」
と冷静にツッコむ蓮だが、目の前のクマ男に対して咄嗟に臨戦態勢に入る秋。
「これってあの研究所から!?」
「そうだと思う!そうじゃなかったらジャパンイエティかも。じゃなかったら生体実験!?」
「どっちにしたって私達を狙っている事には変わりないよ!」
二人で話していると、クマ男が爪を立てて秋に飛びかかってきた。
秋は刻印を発動して、振り翳して来た爪を眼前にして片手で受け止めた。予想以上のパワーに押されるも、もう片方の空いた手で目一杯フルスイングして顔面を殴り飛ばした。
クマ男が木を薙ぎ倒しながらぶっ飛んでいき、暗闇の中に消えていった。
倒したという手応えを感じなかった秋は決死な表情で蓮に訴えた。
「蓮!早く車出して!!敵はまだ倒しきってない!」
「て、でも」
「ここにいるのが、他の人らに見つかったら、より大変になるのよ!星夜の為にもここは撤退するよ!」
「わかった!」
蓮が急いで車の中に乗り込み、エンジンを掛けた。
秋が森の中を見渡し、クマ男の行動を目視する。何処から現れるか、どれくらい体力が残っているのか、そして奴は何者なのか、何もかもが謎であった。
考えが頭を巡っていたその時──
「そこ!」
秋は背後に気配を感じて後ろに回し蹴りを放った。背後にいたクマ男に直撃……いや、受け止められた。
「くっ!」
「コロス!!」
もう片方の脚で蹴ろうとした。受け止められた足を握りしめられ、軽々と身体ごと持ち上げられて宙ぶらりんな状態に晒された。
「ふざけんな!この馬鹿!」
「コロス!コロス!コロシテヤル!」
秋は掴まれてない足を一度引いて、クマ男の喉元を足で突いた。「ガウッ!」と動物の情けない鳴き声を出して、足を離した。
秋は着地してクマ男の懐に入り込んで、片腕を両腕で持ち、自分の何倍もある大きさのクマ男を背負い投げで地面に叩きつけた。
激しい衝撃で地面が一度揺れてトラックまでもが少しだけ宙に浮いた。
「うわっ!」
「ちょっとまだエンジンかからないの!?」
いくらエンジンを掛けても車は動く事はなかった。そのせいか、蓮から焦りの表情が出てきた。
「元々廃車だったトラックだから、中々エンジン掛からなくてね」
「星夜の力でなんとかならなかったの!?」
「試運転時は大丈夫だったんだけど、こんな時に!」
「ホラーやパニック映画じゃないんだから!そんなんじゃアンタ一番最初に殺されるわよ!」
「僕はしぶとく生き残きて最後らへんに死ぬキャラだよ!」
「結局死ぬじゃ無い!」
と言い争いを続けている間に、ようやくトラックのエンジンに起動した。
「つ、ついた!」
「やった! はっ!?」
と喜んだ瞬間、クマ男が起き上がり、再び背後から不意打ちで仕掛けて来た。
咄嗟な反応で攻撃こそは回避したが、肩に爪が掠り肩から血が滲み出して来た。更に爪を突いてきたが、それを腕で弾いて再び懐に入り込んで腹部に正拳突きを喰らわせた。
クマは血混じりの唾を吐き散らしながら暗闇の森の奥へと殴り飛ばされて行った。
「チャイサー!!」
拳を振り上げて喜びを露わにする秋。
蓮も喜んでいたが、何かを察知し、顔色が変わった。
「待って秋。嫌な感覚がある」
「まだクマ男倒れてないの?」
蓮は耳を澄ませた。
複数のプロペラが空を裂く感覚と、車の迫り来る感覚が。
「いや、ヘリの音と複数の車がこっちに向かってきてる。ヘリ三機、車五台……いや七台ほどが来る」
「ねぇ、それやばくない?」
「超やっばい。色んな方向から敵が来るぞ!」
焦り始めた蓮。各方面から感じる風の流れ。近づいてくる感覚に。これは囲まれているのか?
「急いで秋! すぐに乗って! 囲まれる!」
「分かった!」
秋は軽トラに飛び乗り、ドアを叩いて発進の合図を送る。
「行くよ!」
車を発進させた瞬間、森の奥から光が見えた。
上空から複数のヘリが現れ、蓮のトラックを囲むようにライトを照らした。
更に複数の車も到着した。何人かの傭兵が肩に銃をぶら下げて降りてきて、蓮達に話しかけてきた。
「お前達!こんな所で何をしている!ここは侵入禁止なはずだぞ!」
その光景は、まるで警察に追い詰められた犯人のような状況になっていた。
「へ、ヘリまで」
「マジのマジでやばいじゃん……やるしか」
秋が戦う覚悟で拳を握りしめると、蓮はすぐに口止めした。
「下手に動いちゃダメだ。まだ、僕達を刻印を持っているとは思っていないようだ」
「なら、どうするの?」
「僕に話を合わせて」
傭兵の話からすると、自分達が刻印を持っているとはまだ分かっていないようで、ただの不審者にしか思われていない。
それに先程の戦闘も気づかれてなく、クマ男を追ってきた可能性が高い。そこを逆手にこの状況を打破する気だ。
「す、すいません!僕達、この付近で大学で天体観測のクラブをやっていまして」
高校生だから、運転しているのはマズイとして大学生の設定で通すことにした。だが、荷台の刻印石はビニールを被せているし、運転席もハンドルじゃなくてコントローラーなので、近づかれたアウト。
もしも近づいてきて、バレたら刻印を発動して逃げると覚悟を決めた。
「そしたら今さっき、ここらで大きな爆発音?のようなものが聞こえたので、ちょって気になって」
「おじさん達は、何の用事で?」
秋が問うと、傭兵らの中でリーダー格のような男が他の傭兵達に耳打ちしてから言う。
「いや、我々は近くの研究所の警備をしている。動物の鳴き声か何かは聞こえてここに来たまでだ」
「僕達も音が気になってここに来たんですよ。ですけど、この木が倒れていてびっくりですよ。それにサイレンがどっかから鳴るはで大変ですよ」
と秋が殴り飛ばして、薙ぎ倒された木を指す。
傭兵らはまだ、二人が刻印を持った者らとは気づいてはいないが、ウルフからの山に刻印を持った少年がいる可能性があると言う命から、少しだけ疑いを持ち始めた。
「一応だが、荷台のビニールには何があるんだい?」
「に、荷台ですか? ただの天体観測の道具ですよ。運転席に載せる所はありませんし」
蓮の額から汗が流れて始めた。
荷台を気にし始めた。このままではバレてしまう。刻印の石だと。
すると、秋が荷台のビニールを外して、傭兵らに見せつけた。
「これはただ石よ! 天体観測なんて嘘よ! 嘘!」
「え?」
思いっきり石を見せた秋に、正直びっくりして声を出してしまった。
だが、秋は自信満々に話を進める。
「本当は私達、付き合ってここでドライブの途中に休んでいただけよ! 車も彼氏のお父さんの車! 仕事で大きな石を運んでいるのよ! 彼氏が恥ずかしいから嘘言ったまでよ! 二人の時間を邪魔しないでよ!」
その強気な言葉に傭兵達は本気にしたのか、肩の力を抜いて、ヘリを無線で連絡を入れて、その場から離れた。
「分かった。だが、一応は仕事だ。少しだけ、石だろうと調べさせてもらう」
傭兵達が念の為に、石を観察している。
蓮は星夜がもしもの時のためにダミーのハンドルを渡してくれていた。車を確認しに来た男が覗く前に風の刻印をそっと発動して、地面から砂を巻き上げて男の目に砂を入れて、その間にハンドルを装着して、何とか騙した。
「あまり車を覗かないでよ! プライベート空間なんだから!」
「分かったよ。すまなかったな」
車の中も機材などが転がっていたが、秋の言葉にあまり覗かずに事を得た。
何とか誤魔化すことに成功して二人は解放された。
「あまりこの付近で、お熱くなるなよ」
「すいません。今後は気をつけますぅ」
車を発進させて、傭兵らの間を抜けて森から抜け出せそうになり、二人は拳をぶつけ合った。
その時──
「!?」
刻印石が突然、発光を始めた。
ビニールの上からでも分かるくらい光り、疑惑は確信へと変わり、周りの傭兵らは銃を構えて蓮らへと警告した。
「お前ら! その石はただの石ではないな!」
「や、やばい!」
いきなり光り出したことに全員がトラックへと注目が向いた。
危険を察知して、蓮がトラックを急発進させた。




