4.認知し合う存在
僕は学校に到着していた。
昨日から色々な事を考えていて中々寝れなくて正直寝不足だ。ぼーっとしながら、歩いていると校庭で朝練をしている男子生徒の声が聞こえて来た。
「危ないぞ!」
「ん?」
「ボールが当たるぞ!」
「ボール?」
ふと後ろを振り向いた時、野球ボールは目の前に迫っており、さっきの声はどうやら僕に言っていたようだ。だが、僕はそのボールを寸前で掴み止めた。
自分でもびっくりな程、完璧に受け止めれた、というよりも飛んで来たボールがスローモーションに見えて、簡単にキャッチ出来た。
「ボール……」
「だ、大丈夫か!」
「……大丈夫です!」
野球部の生徒達が驚いた様子で見ているが、僕自身も驚いていた。またぼーっとしていると、野球部が声を上げた。
「投げ返してくれるか!」
「は、はい!」
僕は慣れない手つきで、手を挙げている野球部目掛けて、自分なりのフォームで思いっきり投げた。
「えぇぇぇい!」
投げたボールは目にも止まらないスピードで飛んでいき、ボールはグローブとは全然違う場所へと飛んでいき、校庭の地面に突き刺さった。そして猛回転し、砂煙を上げて何十秒も回転し続けてゆっくりと止まった。
ボールは地面深くに埋まり、野球部生徒達は唖然としていた。
「あ、嘘だろ……」
こんなにまだパワーがあるなんて。車に轢かれた時、変な感覚があったが、そこでこんなパワーを? んなわけないよね。漫画のような事が起き訳ないよね。
でも、これはちょっとまずいかもしれない。
「す、すいません!!」
僕は頭を何度も下げながらそそくさと学校へと逃げた。
「ったく何だよ一体……」
学校の入り口のドアノブを引っ張った。だが、ドアは開かずドアノブが何故か根っこから外れてしまった。
「な、何故……」
力を込めた事はなかったが、何故か取れてしまい僕は自分が怖くなり、教室へと逃げて真っ直ぐと自分の席へと向かい椅子に座った。
「やっぱりなんか変だ。何かが……」
そんなことを考えていると、そこに元気の良い、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「おはよう、鷹斗」
「お、おはよう真紀」
僕の席の前にやって来たのは、ポニーテールの女の子真紀であった。真紀は、昔からの仲で家が近く、家族絡みで定期的に交流があった。
僕自身、あまり女子との会話は得意ではないが、真紀とは長年の付き合いなので遠慮なく話せる。
真紀は来るなり、僕の顔をマジマジと見て言う。
「どうしたの? 何か悩んでそうな顔だけど」
「いや……何でもないよ。少し昨日疲れただけだよ」
「ふ〜ん。なら、いいけど。それより、朝のホームルームまでにみんなのアンケートを集めて先生の机に出せって言われてたよね」
「そ、そうだったな」
すっかり忘れてた。僕はクラスの委員長を勤めていて、昨日のことで頭がいっぱいになっていたから、完全に忘れていた。
僕はそそくさと自分のアンケートを取り出し、名前を書くのを忘れていて名前を書こうとシャーペンを取り出した。名前を書こうとシャーペンを握りしめると何故かフニャッとへし折れてしまった。
「あっ!」
「どしたの?」
「い、いや何でも」
僕は別のシャーペンを取り出して優しく取り扱いながら名前をゆっくりと書いた。ちょっと汚いが取り敢えず書けた。やはり何故かパワーが尋常じゃない事が分かるが、まさか昨日の事が関連してるんじゃないだろうか。僕は不安になるが教卓の前に積まれたアンケートを取り、さっさと職員室へと向かった。
「私もちょっと用事があるから行くわ」
真紀も共に来てくれて、僕は職員室へと行き担任の広坂先生にアンケートを渡した。
先生は学年の中では若い方の先生であるが、机がやたらプリントや教科書で散らかっていた。先生は恥ずかしそうにアンケートを受け取った。
「ご苦労様。いつもすまんな」
「いいですよ。これくらい」
僕らは職員室を出ようとすると、ドアの前で一人の生徒と先生が道を塞ぐように立っていた。
それは別のクラスにいる翔吾君と体育教師の近藤先生であり、近藤先生は立ち尽くし、両手を後ろに組んでいる翔吾君に優しく話しかけた。
「翔吾君? どうしたんだい?」
「……」
近藤先生が翔吾君に問うも、翔吾君は何も答えず、ずっと俯いていた。何かぶつぶつと聞こえない声で言っており、明らかに様子がおかしい。
すると、翔吾君の背後に何か光る物が見えた。それは包丁であった。
「近藤先生、危ない!」
僕は咄嗟に危険を察知して叫んだ。
近藤先生は僕の声に反応して、こちらを向いてしまった。だが、その一瞬の隙で翔吾君は背後から包丁を持って、近藤先生の腹へと躊躇なく一直線に突き刺した。
僕の身体は一気に膠着して、職員室全体に悲鳴が上がった。
包丁は簡単に先生の腹深くに刺さり、白いシャツは刺さった部分から赤黒く染まっていき、近藤先生は何が起きたか分からず、染まっていく腹部を見つめて何歩も後退りをした。
「先生……すいません、すいません」
「お、お前──」
翔吾君は泣きながら謝り、腹に刺さった包丁を震えながら抜いた、先生は目を真っ白にして仰向けに倒れ、シャツはどんどん赤く染まり始めた。先生の息は蚊細くなっていき、ひゅーひゅーと喉から声が漏れ始めた。今ならまだ助かるかもしれないが、身体が目の前の光景を焼きついてしまい、動きたくても身体が動こうとしなかった。
だが、翔吾君は倒れた先生を再び刺そうと、包丁を両手で高く持って一気に振り下ろそうした。
「くそ!」
もう一度刺されたら、先生の命が危ない。僕は自分の震える手を叩いて、身体を無理やり動かし、先生の机に置いてあったシャーペンを取り、ペン先を出して、翔吾君の手元に投げ飛ばした。
「いっ!」
ペン先は翔吾君の手に刺さって、包丁を落とした。僕はすぐに翔吾君の元へと駆け寄り、包丁を遠くへと蹴り飛ばして唖然とする翔吾君の両手を掴み上げて捕獲した。
状況を理解し、我に戻った先生らも後は続くように駆け寄り、すぐに近藤先生は保健室へと連れて行かれ、翔吾君を保護した。
翔吾君の顔を見るも、我を忘れ目の焦点が合っていない。それにニヤリと不敵に笑っていた。まさに狂っている顔であった。
「おい! 聞こえてるのか!翔吾君!!」
何故、彼が刺したか聞こうにも、何かぶつぶつと呟いているだけで、答えを聞き出せそうになかった。
「……どうなっているんだ?」
先生らはすぐに職員室付近の生徒らを教室へと返し、将吾君もその場に力なく倒れて、先生に抱えられて別の部屋へと連れて行かれた。
僕達がまだ心の整理が出来ずに右往左往していると、広坂先生が血相を変えて僕達の元に駆け寄って来た。
「お前ら、大丈夫か!」
「僕は大丈夫です。だけど、近藤先生が……」
「近藤先生なら、大丈夫だ。それな救急車も警察ももう呼んだ。整理が追いつかないしれないが、一応お前達もここに残ってくれるか? 警察に話を聞かれるだろう。警察が来るまで別に部屋に待機しててくれるか」
「……はい」
そう言って、すぐに広坂先生は放送室へと向かい、全校生徒に呼びかけの放送を行った。
『今日午前中の授業は諸事情により全学年実習とします。教室から出ず、担任の教師に従って各自自習をして下さい』
この状況を見た僕は恐怖で足が震え上がり動けなくなった真紀に手を貸してあげ、一旦職員室の隅へと移動して先生の椅子に座らせて落ち着かせた。
「大丈夫か真紀」
「う、うん……」
真紀はまだ落ち着いておらず、凄惨な光景が未だに頭に浮かび続けていたのだろう。
「翔吾君……一体何が」
「僕にもまったくだ。いきなり、いきなり刺したんだ。先生を……」
僕は必死に真紀に優しく話しかけて落ち着かせた。真紀も徐々に落ち着いて来て、少し歩ける様になった。
「落ち着いた?」
「うん」
「なら、別の教室へ行こう。ここにいても、気分が悪くなるだけだ」
「……うん」
真紀は中身のない返事と共に軽く頭を下げた。
僕はすぐに適当な空き教室の鍵を貸して貰い、移動しようとした。
「真紀、鍵貰ったから行こう」
真紀の元へと寄ろうとすると、真紀は手を突き出して拒否した。
「私は大丈夫。落ち着いたから大丈夫。手助けは無用よ」
まだ元気じゃ無さそうだが、元気な顔を無理やり作った真紀はゆっくりとこちらへと歩いてきた。
僕の元へと到着しようとした瞬間、真紀の背後から包丁が独りでに宙へと浮いていた。僕はその包丁に目が行き、包丁を思わず凝視していた。
「鷹斗?」
僕が後ろの包丁を震えながら指さそうとした瞬間、真紀へと猛スピードで飛んで来たのだ。
「真紀!」
「え?」
僕は咄嗟に走って真紀へと飛びかかった。その瞬間、僕の手の甲が赤く輝き始めると共に、身体の周りが真っ赤に燃え始めた。真紀を手で押し飛ばして、飛んで来た包丁を無意識に手で握りしめて包丁をへし折っていた。
「……はっ!」
気づいた時には、燃えていた身体は元に戻っており、目の前には刃元がへし折られた包丁と驚きの表情で固まっている真紀の姿があった。
今、自分が何をしたのか曖昧だった。とにかく真紀を守ることだけに捉われていて、一瞬の記憶が飛んでしまっていたのか? だが、炎を纏う瞬間、事故現場で起きたような体内より熱くなる感じがした。
「ま、真紀!」
我に帰った僕はすぐに真紀へと駆け寄った。
だが、真紀の表情は変わらずビクビクと震えていた。そして何より、僕がさっき真紀を押し倒した時に触れた制服の腹部分が少しばかり焦げていた。
「た、鷹斗……今のって」
「……今のは、何だ」
「魔法使い……?」
まさかみんなに見られた? すぐに周りを見渡すも、真紀以外誰も目撃しておらず、先生達はてんやわんや状態で色んな対応を各所に行って誰もいなかった。
僕自身もよく分かってなかった。だが、僕も真紀も怪我なく済んでよかったと心から思った。
*
屋上──俺は衝撃を受けた。真紀って奴を刺そうとした時、鷹斗って奴は一瞬だけ炎を纏って包丁の掴み、ねじ曲げた。
そしてなりより、あの一瞬で俺は見た。炎を纏った時、奴の手の甲に炎の文字が見えた。
「あいつ、まさか俺と似た能力を……」
俺と同じく、手の甲に文字が書いてある人間がいた。この超能力は俺一人のものだと思っていた。正直びっくりしていた。
この世界にはまだ謎な事が多いとは言われているが、こんなにも世界は広く、狭いなんて、逆に面白いじゃないかと、俺は思った。
そんな事を考えていると頭がズキズキと頭が走ってきた。
「うっ……頭が……」
昨日、練習していた時も、長時間頭を酷使して頭痛がした。まだ、慣れていないのだろうか? 不慣れうちは多様するのは出来ないと判断した。
一応、翔吾の奴を戻すか。また、頭痛がする中、力を使って目の前にテレポートさせた。
「うわっ!」
いきなり屋上に戻された翔吾は自分の手を見て、パニックになって俺の元へと駆け寄って来た。
「ぼ、僕、先生刺しちゃった……ど、ど、ど、どうしよう」
「お前、度胸あるじゃねぇか。まっ、俺を突き落とせる度胸があるから、出来るよなぁ。はっはっは」
「僕、警察に捕まるのかな? どうなるんだ? 牢屋に入れられるの? 死刑されるの? どうなるの?」
「落ち着けや一度。ただでさえ頭が痛いのに、お前の声がより頭に響いて、余計に痛えんだよ」
学校が慌てふためく中、俺は体力を回復させて、翔吾を落ち着かせた。
未だに青ざめた顔をして、体育座りをしている翔吾へと言う。
「お前の記憶を見たが、お前も近藤を結構恨んでいるようだな。体育の時、自分だけ走るのが遅かったからって、もう二周追加されてみんなの見せ物になった事や、逆上がり出来ないからって昼休みもやらせた事とかな」
「な、何でそんな事まで……」
「言っただろ。俺の力で記憶をお前の目線となって覗き込んだからだ」
だが、翔吾は顔を下げたまま言う。
「もうどうでもいいよ。やっちゃったんだから。どうする事も出来ないだよ。もう家にだって帰れないかもしれないし……人生めちゃくちゃだ……」
「なら家には帰るなよ。もう家には連絡が入ってる頃だろう。だから、俺と共に行動してもらう」
「え!?」
「俺の家に来い。親父がいるけどな」
「勝手にそんな事……それに──」
「俺の力でねじ伏せればいい話だ。勝手に逃げようと思うなよ」
「う、うん……」
翔吾は俺を顔を見て、戸惑いながらも頷いた。
今回の騒ぎで学校は授業中止となり、生徒達は帰宅を始めていた。鷹斗らの姿は見当たらず、これ以上の追撃はやめる。
俺はまた力を使い、トイレへとテレポートして、当たり前の様に帰る生徒達と溶け込み、家へと帰って行った。
翔吾はもう少し後で、俺の家へとテレポートさせる為にも、屋上に残しておく事にした。
だが、これは成功への第一歩だ。
その反面、鷹斗という敵の存在も明らかになった。
「ちっ、まだまだ使い余地はあるな」
俺は漫画を買いに本屋へと向かった。
勿論テレポートの能力を使って、本を奪ったけどな。




