【Part16】再集結
謎の部屋に連れてかれ、放置されたまま数時間が経った。誰か来る気配もなければ、何か部屋に変化が起きる訳でもない。何も起きない状態であった。
何時間も考えた末に東児はとある行動を起こした。車の時同様、ベッド側に手の甲をべったりと置き、刻印の光が見えない状態で刻印を発動した。
監視カメラがあるのは分かる。今、監視されている可能性はかなり高い。刻印の糸は人間の目視で確認するのは困難なほど薄い。刻印はバレても糸はバレない可能性が高い。だからこそ、多少無理をしてでもこの場所を知る必要がある。最悪、無理をしてでも脱出する事も出来る。少しは心の余裕が出来ている状態だ。
東児を糸を何本か指先から出して、ドアへと糸を伸ばし、小さなドアの隙間から糸を脱出させる。東児が目を瞑ると、糸の先端部分の視点へと変え、ドアの向こうの様子を確認した。そこには複数の白衣を着た男性らが、パソコンを見ながら何やら話をしている。部屋を見渡すと、10個を超える監視カメラの映像がリアルタイムで流されているが、白衣の男達はパソコンに夢中になっていた。
何をしているか気になるが、声は聞こえない。なので男達に糸を巻きつかせて話を聞く。
「少年の血を検査しましたが、一般男性の血液と同じ成分しか検出出来ず、特殊な成分などは検出されませんでした」
「そうか。とりあえず、その血液をもっと細かく調べて、観察して、実験して、何か変化が起きるまで色々とやってみよう。刻印の存在を確認出来た。なら、何か秘密があるはずだ。彼らがなぜ、あの力を発揮出来るかを」
「今、クマさんに使われた体内エネルギー増強剤では感情制御が上手くいかず、あのような事態に」
「……やはり獣用の増強剤を人間に打つのは無理があったか」
刻印のワードが気になってしょうがない。刻印とは何の意味なんだ。刻印は刻まれる事や印の意味。
その答えを知る為、糸を伸ばし、白衣の男の襟元まで伸ばし、パソコンを覗き込む。
「!?」
東児は見たものに驚いた。それはウルフが被り物を被った星夜と戦っている映像であった。気になるのが、その映像のある部分を男達は何度も止めて巻き戻して、何度も見ていた。それは星夜が刻印を発動し、その力を奮って戦っている瞬間を。初めて星夜の戦闘をしている瞬間を見た事も驚きだが、男達は星夜の手の甲を注目していた。
「機の文字。少年はその刻印を浮かび上がらせて、壊れたドローンを投げ飛ばした。少女の方は拳。そして後で助けに来たもう一人の少年は風。そして今回の少年は糸の刻印の持ち主」
映像を止め、複数の写真を映し出した。四人の手の甲から刻印が浮き出ている瞬間を撮った写真だった。
「生配信をしているのは四人。だから、今のところは刻印を所持しているのは確認できるだけで六道山の二人と、この四人」
「発見されてないだけで、まだいる可能性もあるんですね」
「そうだね。発見されているのは現在日本のみ。海外での報告は今のところは無し。と言っても、我々のように秘密裏に研究している場所があるかもしれないけどね」
話、そして映像や写真で信じられない情報が脳裏に焼きつき、焦りを隠せない東児だが、バレないように平然を装いながら身体を動かさずに、部屋の中を観察しようとした。
その時、白衣の男達がいる部屋に機嫌の悪そうな顔をしたウルフが入ってきた。入ってくるなり、メガネの男がコーヒーをウルフに渡して言う。
「機嫌が悪そうですね」
「当たり前だ。無断でチームを動かしやがって」
期限が悪そうに椅子に座り、コーヒーを飲みながら愚痴をこぼすウルフ。
「ウルフさんなら、反対するとでも思われたんでしょ。過去の経歴から見て」
「信用されてねぇようだな。俺も」
「でも、クマさんの実験は大成功でしたね」
「あの馬鹿め。薬になんぞに頼るとは」
コーヒーを飲み終えると、東児が映し出されている複数のモニターを椅子に座ったまま遠くから確認する。
東児は刻印を解かず、バレない事を祈りながら寝ているフリをした。
「このガキ、どうするつもりだ」
「さぁ分かりませんよ。刻印とやらの情報がこれ以上出ないんですから、手詰まりって奴ですよ。今現在は売るような事はしないと思いますけどね」
「……そうか。なら、別に良い。俺の嫌な予測を言うが、こいつのダチが、どうやってかここを探知して攻めて来ないと良いがな」
「まさか?そんなことが?」
「推測だ、推測。未知なる力だ。ここの場所くらい、探知できる能力があるかもしれんぞ」
「……そこは天に祈るしかないでしょう」
「ふん……」
ウルフはコーヒーカップを置くと、立ち上がって部屋のドアまで移動する。男はウルフに問う。
「何処へ?」
「トレーニングだ。大戦の予感がする」
ウルフが出ていくと東児は刻印を解いて糸を戻して考えた。どうにかしてこの場所にいる事を伝えたい。そしてこの場所を何として調べねばならない。
*
更に数日が経ち、東児の行方不明の報道が続く中、とうとう蓮が学校に来なくなった。理由は表に出るのが怖くなったからだ。それに星夜も無断で休んだり、休み時間に学校から抜ける事もあった。
秋だけは普通に学校へと行くが、秋も自然と周りの声が気になるようになった。それに東児の母や先生、警察から東児の事を聞かれる毎日。秋も精神的に参っていた。
「秋、今日ゲーセンでも行く?」
「あぁ〜。今日も良いかな。じゃあね」
そう言って秋は友達の誘いを最近ずっと断りまくってそそくさと帰って行った。
「最近の秋付き合い悪いよねぇ」
「噂だとあの港の事件星夜君達じゃないかって」
「マジ!?嘘?」
「だってさ、秋って蓮君、東児君、星夜君と一緒じゃん。あの悪巧みNovaも四人組で高校生。東児君が最近休んでいるし、蓮君も星夜君も休みがちになったし。そしてここら辺での配信が多い。ほぼ確定じゃね?」
「まさか〜。秋があんなパワフルな訳ないよ」
「だよねぇ〜」
帰って行った秋を見て言う。秋の友達。やはり疑われているのだろうか。今は疑心暗鬼な状態だが、いつ確信的な情報が出回るかは分からない。
秋自身もそれが怖くなってきた。バレたら何をされるか、周りからどう見られるか、家族に迷惑がかかるのか。考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。
「みんな、私達が悪巧みNovaだって分かり始めている……バレるのも時間の無駄……」
蓮の言う通りだった。いつかは自分が怪しまれる時が来る。というよりも確実に怪しまれている。
こんな状況のまま時間が流れれば東児がどうなるか分からない。戻ってくるかもしれないし、考えたくはないが死の文字が浮かびあがって来る。
それにあの時に出会った女性も言っていた。正しいと思って助けるんじゃなくて、助ける事が普通だと。後先考えずに突っ走る。
自分は自分や周りに恐怖をしている。それが今の行動に釘を刺して、抑制している。人の命より、自分の事ばかりが頭に浮かぶ。
全員がバラバラで考えも纏まらない。配信をしていた時は、バラバラな考えを楽しく話している間に、いつの間にか纏まっていた。でも、今は本当にバラバラで纏まる事なんて不可能だ。
「……このままじゃ、みんな揃ってワイワイする事が出来なくなっちゃう。皆んなの為にも動かなくちゃ」
秋の心の扉がゆっくりと開き始めた。覚悟を決めた。どんな事があろうとも助ける。東児も星夜も蓮も、家族も全て。守り抜くと。
「私が……みんなを集めなくちゃ。ここで友情が崩壊したら、東児を助ける手段が無くなるし、もう2度と纏まらなくなる!そんなのは嫌だ!」
すぐに秋は二人を電話で呼び寄せた。
だが、蓮は外に出る事を怖がって拒否した。星夜はそもそも電話に出なかった。
「……二人共、何で……何でよ」
秋は怒りからスマホを握りしめた。だが、一度頭を整理して呼吸を落ち着かせた。
「……!」
何か考えが浮かんだ秋はある方向に走っていく。
その方向とは?
*
暗闇の何処かの山奥──そこに星夜はいた。
山道近くの木の上に登って、一ヶ所を双眼鏡で覗いていた。
「あそこに東児がいる可能性が……」
双眼鏡で覗いているのは、クリーンフォックスの所有する山で、そこの生物研究所であった。以前東児が配信の時に監視しており、武器を積んだトラックが出て来た場所である。
星夜自身、もし連れて行かれるならここの可能性があると見て、監視している。
だが、何も発見どころか手掛かりすら掴む事が出来ず、時間だけが過ぎ去って行たのだ。
「俺が乗り込んで、東児の居場所を聞くか?でも、いなかったら──」
「星夜!」
「!?」
木の下から叫ぶ声が。慌てて下を見ると、そこには秋と蓮の姿があった。
「ど、どうしてここが……?」
「はぁ……はぁ……星夜の行く場所なんて、お見通しなんだからね。見つけるの簡単だったんだから……」
「……って言うかお前ら、めっちゃ汗かいてるじゃん」
汗ダラダラの二人。息も切れそうで、今にも倒れそうな顔をしている。中腰になって、両手を両膝に置いて、目を見開いた状態であった。
星夜は木から降りて、話を聞く。
「本当はどうなんだ。どれくらい探したんだ」
「ふぅ……はぁ……六道山とかゲーセンとか廃工場とか、思い当たる場所全部。ここが最後の場所だった……」
「はぁ、馬鹿な事をして……そこまでして俺を。それに蓮まで」
蓮は先程から何も喋らなかったが、星夜の言葉でようやく口を開いた。
「秋に無理やり連れてこられてね。窓破壊されちゃったよ」
「そこまでしてお前は何をしたいんだよ秋」
秋へと問うと秋は星夜の目の前まで迫り、目をしっかりと睨みつけて言う。
「それはこっちのセリフよ。一人で助けに行こうなんて馬鹿馬鹿しいわよ!もしもそれで東児も星夜も失ったら、私らはどうすればいいの?友達がいなくなって、誰が喜ぶのよ!」
「んだよ。どうするもこうするも、俺の勝手だ。俺にはこの力が──」
その瞬間、秋は刻印を発動して星夜の胸ぐらを掴み上げ、近くの木へと投げ飛ばした。
「痛っ!」
「こんな力があっても、誰も助けられない。現に私らは東児を見つける事も出来てない。私もこの力が世間にバレるのが怖くなって、止められる事も止められなかった」
「だからと言ってこの力があれば、東児を助ける事が!」
「なら何故、東児は捕まったの?東児も同じくこの力はあるのよ。公園には対抗した跡もあったんでしょ。負けて捕まったなら、アンタも一緒な末路を迎えるかもしれないのよ!」
「それは……」
星夜は目を背け、答えに詰まった。
そこに蓮が口を開いた。
「この力は、僕らにとんでもないアドバンテージをくれた。でも、東児が負けたとするなら、人類は簡単にこんな力をも超える力を持っている。風を操れると言っても、そんなものは高が知れている。それに風の流れを読んで人の動きを探知できるけど、最近は近くを歩く人を探知すると、自分の素性を特定しようとしている人かと勘違いしてしまうんだ。だから、外に出るのが怖いんだ。二人も同じでしょ、この力が怖くなっているでしょ?」
「怖いと言うよりも、不安なの。ずっとこの力が消えなかったら、何かあったらこの力を使うか使わないを迷って生きていかないとダメなのかと思ったわ。だからと言ってみんながバラバラになっていたら、何もかも上手く行かないわ!」
その言葉に蓮も星夜も黙り込んだ。
「星夜へ助けようとしていたんでしょ。学校を休んでまで東児を探そうと」
「……そうだ。俺が無謀な事ばかり考えて、他の奴らとは違う過激な企画を考えた結果がこれだ。だから、俺は自分の罪だと思って、一人でクリーンフォックスに乗り込もうしていたんだよ」
「……」
「でも、一人では限界だ。結局捜索に行き詰まって……」
「だからこその私達でしょ」
秋の静かな言葉に蓮も星夜も驚いた顔をして秋へと向いた。
「俺達……」
「企画を考えていた時のように皆んなそれぞれの意見を言い合って、それを混ぜた最高の企画。あの時はみんな馬鹿みたいにバラバラな意見を言って、でも何とか意見が固まって楽しく決めていた。今こそ、あの時を思い出して救出作戦を考えるのよ」
星夜の頭によぎった。企画を始めて考えていた時の事を、自分の企画をみんなに言って、それをみんなが提案しながら最高の案を出していた事を。あの瞬間がどんな時よりも楽しかった。
だが、この力を手に入れてからは目先の人気に縋るようにこの力を多用して企画もいい加減になって来た。だからこそ、東児は危険だと警告してくれたが、それを聞く耳持たずにこんな事に。
「今こそ、始めるべきなんだ。あの時のように皆んなで考えるんだ。作戦を」
「東児を助ける為なら、私はこの力を存分に振るうつもりよ。みんなであれば、怖くないんだから」
「あぁ、怖くないさ。皆んなでやろう」
星夜は拳を握りしめて、拳を秋の目前に突きつけた。それは決意の表れであり、秋もその決意を受け取って無言で己の拳を星夜の拳にぶつけた。
その瞬間から二人の顔からは笑顔が戻ってきた。
それに対して蓮だけは大慌てな様子で反論した。
「ほ、本当にやる気なの!?二人共?」
「東児を助ける。それに悪事を働いているクリーンフォックスも暴く。一石二鳥な完璧な最後の配信だ」
「配信するの!?」
「仲間は多い方がいいからな。視聴者は最高のマスコミだ。暴けばネットの隅々まで、多くの情報網が敷かれる。現代の敷かれた情報は絶対に消えない。誘拐した真実も暴ける、そして武器密造の真実も全てを曝け出すぞ!だからこそ、蓮の力を貸してほしい」
「ぼ、僕の?」
「良い案が浮かんだ。その為にお前の知恵を貸して欲しい。力を使うのが怖いのは分かる。だが、一人でも二人でない。今は俺達三人が揃ってやるんだ。お前は外野でサポートしてくれれば良い。メインは俺と秋でやる」
「……」
「頼む、サポートにはお前が必要だ」
珍しく優しく言い、肩をトンと叩く星夜に何秒か黙り込むも、蓮は星夜の手を握りしめて言う。
「……なら、良いかも。少しは僕だって役に立つかも。サポートなら……任せて」
「さぁ、取り掛かるぞ。最後の大花火を」
「その前に東児の場所を見つけよう。良い案があるよ」
「ほ、本当か?」




