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刻印戦記-Crimsonuniverse  作者: ワサオ
1-②悪だくみNova-
35/77

【Part13】動画配信無期限休止中に問題発生

 

 夕方──火が沈み始めた頃、公園で一人ぶらんこを漕いでいる東児がいた。だが、その顔は何処か浮かない表情であった。


「……はぁ」


 ため息を吐く東児。

 東児は悩んでいた。


 昔と重なる。昔のあの光景と重なる──

 父は生まれた時には死んでいて、母が一人で東児を育てていた。

 でも母は重度のパチンコ狂いだった。パチンコを打てばストレスを発散出来ると言っているが、勝つと元気の良い好きな母だが、負けると機嫌が悪い母だった。

 子供の頃だから詳しくは知らないが、母は色んなママ友から金を借りていたと言う話を噂程度で聞いた事がある。どうりで、東児の周りから友達が減っていく訳だ。

 それでも母はパチンコへと行こうとした。東児は必死に止めるも母は静止を聞かずに出かける。


「お母さん!」

「貴方は家で待ってなさい……今日こそ、今日こそ絶対に勝つから」

「……」


 その顔からは優しさなんて微塵も感じる事は出来なかった。それでも東児は母という唯一の親に甘えたかった。


「か、母さ──」

「五月蝿いから貴方は黙って家に待ってなさい!!」


 東児は見たことも無い程険しい顔をした母に恐怖して、泣きながら押し入れへと逃げた。

 その時になって母は我に返って涙を流した。自分がした事で子供が涙を流している。母も治したいが治せない。癖のようなものだろう。

 タバコをやめれないのと同じなんだろう。東児は歳をとりながらそう思った。


「よう東児、遊ぼうぜ」

「……うん」


 星夜だけは遊んでくれた。星夜は悪い噂が流れている東児と顔色一つ変えずに遊んでいた。星夜は派手な事が好きな性格もありクラスの中でも皆の注目を集める事が多かった。

 そのお陰もあってかいつの間にか東児の周りには友達が戻って来た。

 でも未だにあの時の自分と普通に遊んでくれた理由は聞いてはいない。何故だかは東児自身にも分からない。聞きづらいのか、聞かなくていいと思っているのか、それすらも分からない。

 そんなしこりが残っていても、小学生から高校生になった今現在でも親友として仲良くしている。

 明るい性格で人を喜ばせるのが好きな星夜は人気者だ。周りには人が増えていく。それでも東児には今まで同じように接して、一緒に帰り、喋り、遊んだ。申し訳ない気持ちもあるのに、星夜はいつも笑顔だった。

 いつしか蓮や秋も集まって、動画配信の話を持ちかけて来た。


「今度、面白い事やるつもりだけど、お前も来るか?」

「勿論だ。お前がやる事は面白い。ついていくよ」

「よし!蓮と秋も含めたメンバー四人でやるぞ!!いいな!」


 東児が星夜の配信者として積極的に参加したのも家を支える為でもあった。星夜が企画して、蓮が映像の編集などをして、秋が若者ウケが良い編集や企画のアドバイスをして、東児が配信や動画撮影の流れを考えた。みんなで意見を出し合って配信したりするのが、とても楽しく人生で一番楽しいとまで思った。

 東児にとって星夜らは掛け替えのない存在。一生守って行きたい宝物。だからこそ、母親のように欲望のままに進んで堕落するのを辞めて欲しかった。

 この力がいつ消えるのか。また一生残るのかは分からない。先の事を考えるのも良いが、目の前の事を片付けなくてはいけない。そう東児は思い、ブランコから降りた。


「自分ばかりキレ散らかしていたら、母さんと変わらないし、友情も戻らない。だから、俺からも歩み寄らないとな。話の機会を作る為にも。そして星夜と話そう、お互いを見つめ直そうと。言うんだ、明日にでも言おう。再出発を──!?」


 何か気配を感じた東児が背後を振り向くと、目の前に大男が手を突き出して、抱きつこうと飛び交って来た。


「うわっ!」


 東児は咄嗟にぶらんこ場からジャンプしてから刻印を発動した。ジャングルジムへと無数の糸を指から放ち、硬く巻きつけた。

 そしてジャングルジムへと糸を指の中に戻す力を利用して身体を引っ張り、高速移動してジャングルジムの一番上に飛び乗った。

 男はスピードを制御出来なかったのか、ブランコを支える柱を体当たりして最も簡単にへし折った。


「あれは一体……」

「ふしゅうぅぅぅ!!」


 それは秋にやられたクマだった。あの時よりも大きなっており、熊の被り物越しながら、被り物の中からヨダレのような液体が垂れ落ちていた。

 明らかに様子がおかしいのだが、東児はクマの事は知らず、誰に襲撃されているのか理解出来ていなかった。


「誰だ!!」

「今度こそ……勝つ!!」

「な、何なんだ!?」


 クマは叫び続けて、電灯を地面から最も簡単に抜き取り、東児へと槍投げのようにフルスイングで投げ飛ばして来た。


「くっ!!」


 咄嗟に刻印を再び発動し、直線に飛んで来た電灯を顔を傾けて避けながら糸を電灯へと放ち、巻き付けて動きを止めた。

 そして大きく腕を振りかぶりクマの方角へも躊躇なく投げ返した。


「お返しだ!!」


 クマに負けないほどの速度で飛ばし、クマの足の一歩先に深く地面に突き刺さった。


「嫌な感じはしていた。こうなる事も、あらかた予想がついていた」

「ふしゅぅぅぅ……」

「これは警告だ。これ以上の行動を起こしたら、俺はあんたに攻撃をする事になる。正当防衛として」


 東児は脅しの為に電灯を地面に投げた。そんな脅しで敵が引くかどうかなんて分からない。

 クリーンフォックスの刺客だと言うのは分かっている。自分を殺しに来たのか、捕まえに来たのかも分からない。それに他にも味方がいるのかも分からない。ただ、目の前にいる大男が常人ではない事だけは分かる。冷静ながらも東児は周りの状況や目の前の状況を確認して、落ち着いて分析した。

 東児はジャングルジムから飛び降りて、糸を両手から何センチが出していつでも戦える状態で構えた。


「さぁ、帰れ!俺はお前に勝つ自信がある!!余計な怪我で傷つくのが嫌なら引け!」

「ふしゅうぅぅぅ!!」

「聞く耳がなさそうだ……」


 逃げようと思えば逃れるだろう。でも、公園から出れば、周りは住宅街。逃げれば奴が追ってくる可能性が高い。そうすれば一般人にも被害を負う可能性がある。それだけへ何としても防ぎたい。

 幸いにも夕方でもある為、公園内には子供はいない。下手に大事にするのは危険でもある。これ以上刻印の力が表に出るのは何としても防ぎたい。

 最小限の被害でこの場を切り抜ける。東児は決断して、戦うことを覚悟した。


「貴様をここで倒させてもらう!!死んだら困るが、死んでも文句は言うなよ!!来い!!」


 その声に反応する様にクマはゴリラの如く胸を激しく拳で叩き、雄叫びを上げて突っ込んで来た。その姿はまるでトラックの様だった。


「うがぁぁぁ!!」

「そら!!」


 向かってくるクマに対して右手を突き出して五本指から糸を吐く。

 飛んでくる無数の糸にクマは足を止めてしゃがみ、糸はクマの真上を通過した。


「うおぉぉぉ!!」


 クマは再び走り出し、一気に東児の眼前に迫り拳を振り上げた。

 その時、東児はニヤリと笑い、ク突き出した手を勢いよく引き戻した。


「俺の狙いはお前じゃない!」

「!?」


 何か感じたクマは咄嗟に拳を振り下ろそうとしたが、東児が左手を突き出して糸を吐き、クマの腕に糸を巻き付けて動きを止めた。

 そしてクマの背後から糸が巻き付いた電灯が飛んできて、クマの頭に直撃して地面に倒れた。


「グガッ!!」

「この力の前には普通の人間な気絶もんだぜ。これで生きてたら──」


 東児は目を疑った。

 クマは普通に立ち上がった。電灯はクマの頭に直撃して、クマの頭の形が電灯にくっきりと凹みがあるほど、衝撃が掛かったはず。

 でも、目の前にいるクマは多少ダメージを受けたかと思うほどピンピンとしており、電灯が当たった場所を撫でているぐらいだった。


「……やばいな。これ」


 焦りから汗が流れる東児。こちらに再び注意が向く前に、もう一度電灯で気絶させようと、クマの足元に落ちている電灯へと手を突き出して糸を吐いた。

 だが、その時クマが糸に気づき、糸が電灯に届く前に糸を掴み取った。


「しまっ──」


 クマは力強く引っ張り、東児は油断から足を取られて宙に浮き、一気に身体をクマの目の前まで引き寄せられた。

 眼前に寄せられた瞬間、クマの拳が放たれ、避けられないと思った東児は自由の効く片腕で攻撃を防いだ。それでもクマの攻撃力は凄まじく、身体全体に激しい衝撃が掛かり、勢いよく後ろへと飛んでいき、ジャングルジムに叩きつけられて地面に倒れ落ちた。


「ぐっ!!」

「うがぁぁぁ!!」

「ちっ、侮っていた……うっ」


 腕に痺れる様な痛みが走った。赤く腫れて、手が震えていた。

 こんなのフィクションの世界だけだと思っていた。そんな東児だったが、目の前にいる大男。そしてこの手の痛み。

 この時、東児は心の底から命の危険を感じた。星夜らも港でこの状況を味わっていたのかと。これは軽々しく事を思っている場合じゃない。死を覚悟して挑まないといけない。


「命を軽視していると、俺が殺される。命は奪わないが、長い眠りに着いてもらうぞ!」

「うがぁぁぁ!!」

「はぁ!!」


 挑発に乗ったクマは再び真っ直ぐと突進してきた。

 東児は片膝をつき、地面に片手を付けた。すると走ってくるクマの周りの地面から無数の糸が飛び出し、クマの足にキツく縛り付けた。


「ぐぅぅぅ!!」

「もういっちょ!!」


 もう片方の手を突き出して、糸を引き剥がそうとする両腕に糸をキツく巻き付けて更に身動きを封じ込めた。

 そして足を縛っていた糸を一度戻して、再び糸を放ってクマの胴体に糸を巻き、足元まで糸を巻きつけた。腕を封じ、胴体を巻き付けて動きを封じ込められて、クマはバランスを崩して地面に倒れた。


「これじゃあ、終わらんぞ!ふん!!」


 そして両腕を空高く振り上げると糸がついていく様に空へと上がり、それと同時に縛られたクマも空高く持ち上げられた。


「頭冷やして眠ってろぉぉぉ!!」


 風船のように浮いているクマを見て、東児はニヤリと不敵な笑みを浮かべて両腕を勢いよく振り下ろした。


「くたばれ!!」

「うおぁぁぁぁ!!」


 空高く上げられたクマは地面へと真っ逆さまに、隕石の如く堕ち、猛スピードで地面に激突した。その瞬間に辺り一帯に被曝は永遠、大きな地響きと揺れが起きた。

 その場にひび割れも起き、周りにいたカラスらも何処かへと逃げ飛んで行った。

 予想以上に力を込めたせいか、身体に大きな負担が掛かり息が荒くなる東児。


「はぁ……はぁ……今度こそ倒したか」


 地面に埋まったまま動かないクマにゆっくりと近づこうとした時──


「うっ……痛い、痛いぞぉぉぉ!!」


 地面から顔を抜き取り声を荒げた。

 そして地面を何度も何度も殴り、すぐ横にあるブランコの鉄柱を殴り、簡単にへし折れた。


「何だあの男……やはり普通の人間ではない。俺達のように特殊な力が──」


 その時、突如としてクマの首に何かが刺さった。

 クマは再び雄叫びを上げて東児へと走ろうとしたが、崩れる様に倒れて動きが止まった。


「な、なに──!?」


 と驚いている時、突然首に痛みと共に何かが刺さり、それを抜き取ると小型の注射針だった。

 危険を察知した東児は注射針を投げ捨てて逃げようとしたが、その時にスマホが鳴った。スマホを取り出して星夜らに連絡を入れようと思ったが、意識が遠のき、身体の自由が効かなくなり始めて木の上から落下した。


「うっ……」


 落ちて倒れた東児。身体の言うことが効かず、顔を動かすのがやっとであり、刻印の力すら発動出来ない状態になっていた。

 そこに公園の茂みから無数の筋骨隆々な傭兵達が現れ、クマを四人がかりで持ち上げていた。

 傭兵の一人が東児の前に立つと、無線機で何処かへと連絡を始めた。


「刻印を所持している少年を捕獲しました。クマさんも無事に麻酔銃にて眠りました。両方とも連れて帰ります。……はい、効果は凄まじいものです。刻印所持している者相手にも善戦出来るパワーです」


 東児は意識が朦朧としている中で、聞こえてきた刻印の言葉を最後に意識が途絶えた。




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