3.完全犯罪の実験
家に帰り、そそくさと洗面所へと行き、血のついた服を必死に洗って血を少しでも流し落として洗濯機に投げ込んだ。そして服を着替え、何気ない顔をしてリビングに入った。リビングには眼鏡をかけた大学生の健人兄さんが呑気にテレビを見ていた。
僕が小学生の頃、両親は事故で亡くなった。でも、僕は今でも二人が大好きだ。優しくて勉強を教えてくれた母さん。面白くて、スポーツや釣りなどを教えてくれた父さん。
寂しいけど、今は兄さんと二人暮らしだけど全然大丈夫。両親が残した遺産や、親戚からの援助もあり、楽しく生活出来ている。
兄さんが僕に気づいた。
「おっ、おかえり鷹斗」
「う、うん」
「聞いたか? 近くの駅で人身事故が起きたって。それもお前の高校の生徒らしいぞ?」
「え?」
テレビを見ると、そこには僕の高校近くある駅であった。大勢の生徒が利用しているとは聞いた事があるが、そこで人身事故が起きたなんて。
「人身事故だけならまだいいが、不可解な事があったみたいだぞ。何でも、事故に遭った生徒は当たる直前に姿を消したって話だ」
「え?」
「漫画みたいな話だが、大勢の目撃者もいて、血なども飛び散っていないらしい。変な話だよな」
ニュースを見ていると事故が起きたのは僕が事故にあった時間帯とほぼ一緒であり、消えた生徒の行方は不明である。
偶然の一致かもしれないけど、何か不思議な感じがする。
「どうした? 疲れた顔をしているけど?」
「いや、何でもないよ」
兄さんは僕の顔をマジマジと見て一言。
「一つ、いいか?」
「え?」
「お前が買った雑誌、先に読んでいいか?」
「べ、別にいいけど。読んだら僕にすぐ渡してね」
「もちろんだ」
一瞬、異変にバレたかと思って目を逸らしてしまったが、バレてなくて助かった。
兄に雑誌を渡すと、僕はそそくさと自分の部屋へと戻って、ベッドに飛び込み、今日の事を頭の中で整理した。
自分が車に轢かれたのは事実。制服を見ればすぐに分かる。でも、それで生きていた事が理解出来ない。速度の遅い軽自動車とかにぶつかったなら生きている可能性は高い。でも、ぶつかったのが時速60キロは出していたであろうダンプカーだ。生きているなんて絶対にありえない。
やっぱり奇跡……何だろうか。
そんな事を考えると眠気が襲ってきて、僕はぐっすりと寝てしまった。
*
次の日、俺は普通に学校へと行った。
昨日は徹夜でこの力を使いこなす練習をし、初めは不慣れだったが、徐々に使いこなしていき、様々な事を出来るようになった。
昨日の事故で俺が被害者だとバレてないからか、俺が普通に学校に来ても、誰も何も思っていない。ただ、一人を除いてな──
俺は教室に着くと、肩を常に震わせて目を右往左往している翔吾の元へとゆっくりと忍び寄り、背後から肩を叩いた。
「よう、翔吾君よ。おはよう」
「えっ!?」
「どうした驚いた顔をしてぇ?」
「い、いや。なんでもない……よ
明らかに動揺して顔に、息が荒くなっている。そりゃあそうだ。お前は俺を殺そうとした。だが、その相手が死んでおらず、目の前にいるんだからなぁ。
「ちょっと来てくれるか?」
「う、うん」
俺は教室から無理やり怯える翔吾を連れ出した。周りの生徒も、見慣れた光景であり、関わりたくないと思うからか、見ているだけで誰も翔吾に手を差し伸ばす事はなかった。
人気のない学校の屋上に連れて行き、フェンスへと追いやり俺はわざと作った笑顔で接した。
「どうしたぁ〜? そんな驚いた顔をして? 昨日、良い事あったか?」
「い、いや何でも……」
俺は表情を無に戻して一気に近づけて、威圧しながら翔吾の目を見つめた。
「お前、俺を突き落としただろ?」
「えっ?」
「帰りの駅でお前は俺を突き落とした、だろ?」
「そ、そんな事ないよ! 僕がそんな勇気……」
明らかに動揺している様子。目が泳いでいて、俺に目を合わせようとしない。ムカつくが何より、認めようとしない心構えが一番腹が立った。
「これをやられても思いださねぇか?」
俺は手に力を込めて、翔吾の首目掛けて拳を握りしめた。翔吾は首を押さえて苦しみ、膝をついた。
「うっ……何これ……」
「駅前で体験したよな。これを。お前に殺された時に目覚めちまったようだ。超能力とやらに」
「え……」
俺は拳を離した。翔吾は息荒くその場に倒れ込んだ。
「本当は殺してやりたいが、この能力を手に入れたのは俺を殺そうとしたお前のおかげだ。だから、今は生かしてやる。この能力があれば、お前を洗脳する事だって出来る。だけど、洗脳せずに意のままに操って、リアルな苦しみを何重にも与える方が苦痛だろ?」
翔吾は身体を震わせながら、首を振った。
「……あ、やめて」
「お前、家族四人だよな。父に母に、弟」
「なんで、それを!?」
「言ったろ。俺は力を手に入れた。そんくらい簡単に調べられるもんだ。もしも、逆らったら、この力でお前の家族を──」
「や、やめてくれ! 僕の家族だけは!」
必死に俺の裾を掴み、止めようとする翔吾。俺が見たかった苦しみの表情はこれだ。
俺はにやけ顔が止まらなくなり、一度翔吾を蹴り飛ばして、肩を叩き、耳元で囁いた。
「体育教師の近藤を刺せ」
「え?」
「あいつはよく俺の事を馬鹿にしていた。だから、制裁として奴を刺して、殺すんだよぉ」
「そんな事をできない……よ」
「やるんだよ。見ろ」
そう言って俺は目を閉じて、頭の中で力を込めて念じた。家庭科室の包丁が手元に来るように。
何か手に乗る感覚と共に、目を開けると手には一本の包丁が来た。
「これで分かったろ?」
「あ、あぁ……なんなの、それは」
「俺には分かんねえけど、分かる事は一つ。人間を超えただけだ」
「う、うわぁぁぁ!」
翔吾は驚いて両手両足を地面についたまま無様に逃げた。だが、俺は逃げる翔吾へと手を翳して力を込めた。翔吾の姿は消えて俺の目の前に現れた。
「テレポート出来るのは物だけじゃないんだぜ」
「ひっ!」
「もし、ちくったら先公もろともお前を殺すだけだ。ゆっくりと包丁をお前の喉に刺して、じわじわと殺してやる。分かったな」
俺は包丁を首元に突きつけると、翔吾は力が抜けたように倒れて、逃げる気力も完全に失い、包丁を渡した。
「安心しろ。刺しても俺がすぐに助けてやるからよ」
「え、どうやって……」
「今の力があれば簡単な話だ。頼むぜ将吾君よ」
「でも、何で僕が……君がやれば──」
「俺は傍観者として、人が人同士で傷つけ合うのが見たいんだよ。どうせ、俺がやっても簡単に殺せてしまうからよ」
「……う、うん」
翔吾は口を無様に開けながら頷いた。
俺は翔吾の肩を叩き、翔吾を職員室へと向かわせた。だが、翔吾が足を止めた。
「ほ、本当に助けてくれるの」
「当たり前だ。俺を信じろよ。さっさと行け」
「うん……」
これが上手くいけば、俺は天下を取れるかもしれないぞ。
安易な事言っているかもしれないが、漫画のような最強の王になれるかもしれん。
「ふ、ふふ……ははは!」
笑いが止まらないぜ。
さぁ、将吾。やって見せてくれよ。完全犯罪の実験だ。




