20.刻印決戦(3)
くっ……俺のミスだったか。傷が全く癒えない。鷹斗の攻撃で腹が、心臓がビリビリと痛んで、まともに声も出せねえし、立つのがやっとな状態だ。
だけどまだ、負けたわけじゃない。まだ、逆転のチャンスはある!
「君にはこれ以上、悪の道を歩んでほしくない。だから、最後くらいは自分のして来た事を懺悔して欲しい」
「懺悔だと!?んな事──」
俺は神であり、絶対だ。こんなところで死ぬなんてありえない。父も母も殺した。もう戻る事なんて出来ない。
その時、目の前にあの男が鷹斗の隣に現れた。
「お前は……」
「もう諦めろ。闇の刻印。お前にもう力は残っていないんだ。その命ごと封印させてもらう」
「どうゆう事だ」
「そのままだ」
年貢の納め時か、男は俺に手をかざし始めた。終わりと思った時、鷹斗が男の手を受け止めた。
「ダメですよ!彼にはまだ償ってもらう事が」
「……どう償うんだ。こいつはまた何かやらかす前に消すんだ。魂ごと浄化させて、闇の刻印を封印するのが一番の得策だ」
「でも……それじゃあ」
「甘い考えじゃダメだ。再び起こさない為にも、無情になるんだ」
「くっ……」
二人が言い合っている間に少しばかりだが、体力が回復して来た。まだチャンスが残っている。
「そうだ、俺は……まだ」
少ない体力でテレパシーを惠美子の元に移動しようとした。だが、頭の痛みが限界を突破して、一瞬程度しかテレパシーを送れず、移動できなかった。
男は手を引くと後ろへと下がって行く。
「どのみち、お前は死ぬ。人は神にはなれないんだよ」
「劉生……君。君の選択に僕は任せる。君が懺悔をする気があるなら、謝るんだ。今までの行いを」
鷹斗は俺を憐れむ目で見つめて、背中を向けて歩き始めた。俺が学校で問題を起こす度に全員があんな目で見てきた。だけど、心には突き刺さらなかった。でも、今はなぜかグサっと刺さる。
だが、そんな事で引き下がるワケはない。馬鹿め、心底甘い奴だ。
足が痛みで震えている中立ち上がり、折れて鋭利に尖っている木の枝を取った。奴は刻印を解いている。背後から殺れる。
最後だ。最後だ。最後だ。最後だ。最後だ。
勝つのは俺だ。俺なんだ。神になる俺でなきゃダメなんだ。神が選ぶのはこんな正義面する奴じゃない!
俺は勝利への一歩を踏み出して、枝を突いた。
「俺は俺だ。死ねぇぇぇ!」
「……君は神ではく悪役の資格は……あるみたいだね」
「え?」
その言葉に動きが止まった。
あれ、地面が熱い。ふと地面を見ると、真っ赤に燃えながら風船のように膨れ上がる地面が見えた。
その瞬間はまさにスローモーションだった。ゆっくりと焼けていく、自分の身体。熱い、その言葉が浮かんだ頃にはもう遅く、身体全体が爆炎に包まれていた。
体力が全く自分には回復する力もなく、ただ痛みも感じずに燃え消えていく自分の身体を見ていくだけだった。
目の前で鷹斗が俺を哀れむ顔をした後に、俺に背を向けて歩き去って行く。
「悪役は最後まで悪役なんだ。現実でも、漫画でもね」
俺は、悪役だったのか。神に認められたはずじゃあ、ないのか。俺は何なんだ。この力は何なんだ。
母さんも、俺を悪役だと思うのか? こんなダメな奴を。
あ、これが悪役の最後だ。俺も、あいつと同じ地獄に──
僕の目の前で、劉生は消し炭になり、全てが消え去り、事が終わった。
闇の刻印は多分消えただろう。そう願いたい、そう思いたい。
山を囲んでいた嫌な空気はなくなり、いつもの葉が風に揺らされる音が聞こえる。
「結局こうなってしまった。やはり助ける事は出来なかった」
「その選択に悔いはない。いづれそう思う時が来るはずだ。良くやった」
そう言って男は高く旅立ち、その場から去っていった。
隠れていた真紀は僕のそばに来る何も言わずに、頷いた。
空を見上げた。今日は星がよく見えて、とてもいい夜だ。こんなことが起きなければ。
「真紀……」
「鷹斗。終わった……よね」
「あぁ、終わったさ。それに麓の方は静かだ。どうなったんだ?」
「どうやら、機動隊とか来て、制圧したみたい。だけど、リーダー格の人は逃げたみたい」
「そうか。収まってよかった」
「でも劉生君は……」
「本当は殺したくなかった。でも、彼は人を辞めたんだから、決意出来た。そして彼が選んだ道を自分で歩んだ結果があれだ」
「……劉生君は、本当に神になりたかったのかしら? それとも──」
「あいつが本当に神ならば、自分に頼ることはしないさ。だけど、失った人々は戻らない。翔吾君も劉生君を捕獲しようとした部隊の方々も。だから、彼らの為にも僕らはこの力を研究しなくてはならない……」
僕は真紀の肩を借りて、山を降りた。
その後に警察に身柄を拘束されたが、病院に送られて一週間ほど入院した。その間に色々と聞かれて、全てを答えた。信じてはもらえないと思ったが、今回の出来事を目の前にした警察の人々は刻印の事を半信半疑で信じてくれた。
因みに兄さんは一度警察に捕まったものの、何とか説明して釈放されたようだ。
退院すると警察へと連れて行かれて、僕は取り調べを受けた。病院の時よりも詳しく教えて刻印を手に入れた経緯、劉生とのやりとり、宗教団体との関係などを話した。
そして警察は刻印の事を調べるだけ調べると言ってくれて、僕はいつも通りに生活出来るけど、一応規則として少しの間、警察からの要請で常に監視員が近くにいる生活になるみたいだ。
普通の生活に戻るのはまだ時間がかかりそうだ。




