19.刻印決戦(2)
足はまだ痛いが、何とか持ち堪えてくれよ。
「まだ行ける、まだ!」
「ってえなぁ!」
劉生は手に刺さった矢を無理やり抜いた。貫かれた部分からは湯気が上がり、徐々に回復している。
一つ気がかりだ。何故か劉生の貫かれたの手の回復が異様に遅い。皮膚などの外傷はすぐに治っていたが、体内の怪我は治癒に時間が掛かると言うわけなのか? それとも、体力が減少して回復速度が落ち始めているとでもいうのか?
劉生の右手は本人の意思とも無関係に震えている。劉生自身ももう片方の手で押さえつけて震えを無理やり止めた。
すると先程操られていた自衛隊のヘリ達が突如して僕と劉生に機関銃の銃口を向けて来た。
『そこ二人に告ぐ! 今すぐ戦闘を辞めるんだ!』
「早くヘリを遠くに退かすんだ! また操られるぞ!」
忠告をするも、声が届くはずもなくヘリは完全に撃つ態勢を取り、距離を取り始めた。
「ちっ、眩しいな!」
劉生が手をヘリに突きつけると、ヘリは危険を察知して僕らへと機関銃を撃ち放った。
「くっ!」
僕は咄嗟に森の方へと飛び込み、銃撃を回避した。
だが、劉生はそのまま空を飛びながら銃撃を避け、ヘリの背後を取った。そして力を使って銃撃して来たヘリを含めた周りのヘリのプロペラを無理やり止めた。
そのまま大きく手を振り払い、ヘリを森の中にいる僕へと投げ飛ばして来た。
「今度こそ受け止めみろよろ!!」
「なっ!」
三台ものヘリが操作不能となり、一斉にこちらへと飛んで来た。全員助けたい。これ以上の被害は出したくない。
でも、どう考えても三台は無理だ。一台だけでも助けてみせる。
僕は地面に落ちかけたヘリの一台を食い止めた。強い衝撃が襲いかかるも、足を強く踏み込んで地面を削りながら速度を下げて無理やり止めた。
すぐにドアを引き剥がせて乗っていた人達を降ろした。幸いにも怪我はしていなかった。
「早くここから逃げて下さい!」
「き、君は一体……」
「そんな事より、早く!ここにいたら死にます!!」
自衛隊達は僕に一度頭を下げた後、すぐに山を降って行った。
安心したその時、劉生が落として来た二台のヘリが墜落した。また、落ちる寸前に目が合った。助ける事も出来ないままヘリは爆発して、乗っていた人達は火に呑まれて行った。
「はっはっは! また助けられなかったなぁ! 俺に反抗したんだ。神の裁きを受けたんだよ!!」
高笑いしながら着地する劉生。
僕は決意した。奴は神なんかじゃない。ただの破壊を楽しむクソ野郎だ。
ゆっくりと劉生の前まで歩き、自分の胸に拳を当て、手の甲の炎の文字が大きくなった。
「ようやく決意出来た……君を倒す決意が!」
「遅い遅い遅い!ようやくか?やっとか?遅すぎるんだよ!」
「はぁ!!ね
拳を握りしめて攻撃を仕掛けた瞬間、劉生は反撃に出よう手を突き出した。身体が固まった。だが、僕が力を一気に放出し、動きを止める呪縛から無理やり解き、劉生へと攻撃を確実に決めた。
ここが一番、奴の体を明確に捉えられた瞬間だ。
「何!?」
「そこだぁぁぁ!」
劉生の腹を抉り込むように殴った。痛みに声も上げず、この状態で固まった劉生に、身体全体の炎を拳に一点集中させ、腹へと一気に力を放出して大爆発を起こした。
「ぐあっ!」
劉生は腹から煙を放ち、焼けた状態で吹き飛んだ。そして力無く地面に倒れ込んだ。
痛みで腹を押さえながら、痛み苦しみ、地面の草を必死に握りしめていた。
「うっ……ぐが……あぁ」
僕は劉生へと近づき、前回とは逆に劉生を見下ろしながら言う。
「君は今までに僕を殺せるタイミングはあった。街中でも、それにあの男との戦いでも」
「そ、それが何だってんだ!」
「君の能力はシンプルでとてつもなく強力であり、危険な力だ。僕でも叶わないかもしれない。でも、そんな君の刻印にもある弱点。それはエネルギー切れだ」
「な……」
「一見すると弱点のない刻印だ。だが、多用しているとあっという間にたい体力が底を尽きてしまう。だから僕自身体力をそこまで使わない火球を作り出して、煙に隠れながら戦闘を行った。そして君の隙を見つけて攻撃をした」
「そう言う事かよ……」
「君の負けだ。諦めるんだ」
劉生は腹を押さえ、木に寄りかかりながら立ち上がると不敵に笑い始めた。
「へ、へへ。頭の硬い奴は勝利が確信した途端、ベラベラと喋り始めるから嬉しいぜ」
「?」
「……俺の最後の秘策を見せてやるさ」
手を目の前に突き出すと、突如劉生の前に山を降ったはずの真紀が現れた。
「え?」
「真紀!?」
何が起きたか分からずにオドオドとしている真紀を背後から、腕で首を絞めた。そしてもう片方の手にナイフを取り出して、そのナイフを心臓に向けて突き立てた。
「神は俺の味方をしてくれたようだな! お前はこいつを助ける事が出来るか? 目の前にいるぞ、俺もこいつも!」
「くっ、卑怯な手を!」
「卑怯で結構!」
とうとう真紀を人質に取られてしまった。どうすればいいのか。
そんな精神が掻き乱された僕を目の前に、劉生は高笑いを決め込んでいた。
「はっはっはっは! 神は俺を見捨ててはいなかった! どう足掻いても運命には逆らえんのだ!」
「鷹斗! 私を構わず、こいつを倒して!」
真紀を犠牲に倒すだと? 僕には出来ない。そんな事、余計に迷うじゃないか。そんなこと言われたら。
「愛しい人間が、見せてくれるシーン。やはり、感動するねぇ」
「愛しい人……はっ」
僕は何かを感じた。これは、一つの賭けに出るしかない。たった一つの賭けに。
目で真紀に合図を送った。
その合図に真紀は劉生の手を噛み付いた。その時、一瞬の膠着が生まれた。真紀が咄嗟に伏せる中、僕は地面に落ちていた先程射た矢を蹴り、その矢は劉生の眼に突き刺さった。
「ぐわぁぁぁ! くっそぉぉぉ!」
劉生は苦しみ悶えるも、逃げて僕の元に走って来る真紀にナイフを振りかざした。
真紀を抱きしめて僕は自分から背を向けて、ナイフで背中を切られた。
「ぐわっ!」
「鷹斗!?」
僕はそのまま真紀を押して距離を離した。そして劉生へと向き、再びナイフを振りかざそうとする手を払い除けて、両手に火球を作り出した。そして手を合わせて一つの巨大な火球へと変えて、全力で劉生の身体にぶつけて、全て身体に叩きつけた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
山頂にてこれまで以上の爆発を起こして、劉生をぶっ飛ばした。
「ぐわぁぁぁ!」
激しい衝撃波が放たれ、周りの木は吹き飛び、電波塔はへし折れた。
「大丈夫か、真紀!」
「私は大丈夫だから、劉生君の方を!」
煙が収まると劉生はその場に立っていた。真っ黒に焦げて、全身から血が流れ落ちて、回復はまともに出来ていない状態で立っているのでもやっとのようだ。
「本当にしつこい奴だ。何度でも立ち上がって、厄介すぎるぜ」
「へ、へへ……」
劉生は一度不敵に笑うと、力無く両足を地面に付けて倒れた。
「くっ……クソ。もう力が……」
「ようやく倒れたか」
「ちっ。体力がもう……」
劉生にゆっくりと近づいた。劉生は悔しそうに何度も地面を握りしめて、何か小声で呟いている。
「……は神だ……ない。絶対に!」
その時、劉生は地面の砂を握りしめて、僕の目に向けて投げ飛ばして来た。
「そうだ。俺は神だ! 絶対神なんだ、負けなんてありえない! どんな手でも勝たなければならん!」
「くっ!」
砂は僕の目に入り、視界が見えなくなった。劉生はその隙を逃さず、再びナイフを手元にテレポートさせて、僕の心臓に突いて来た。
「俺は神だぁぁぁ!」
「貴様には神の名を語る資格なんぞない!」
僕は冷静になり、全ての力を右拳に集中させて、見えない敵を相手に感覚を研ぎ澄ませて拳を真っ直ぐに突いた。
父さん、母さん、兄さん、真紀。みんな、僕に力を貸してくれ。あいつを倒す為に。
ナイフは胸に刺さった。だが、僕は拳の速度を緩めることなく、劉生の腹を抉りこむように殴った。
「がはっ!」
「ぐっ……うおぉぉぉ!」
更に力を振り絞り、拳を押し込んだ。拳は劉生の腹を貫き、肉が焼ける音が聞こえる中、腹から煙が立ち込めた。
お互いに動きが止まり、森の中が一瞬だけ静かになった。
拳を腹から抜き取ると、腹から血が少しだけ流れ落ちた。
「な、何故……分かった」
「僕も君と同じ漫画が大好きだからだ」
僕は身体に刺さったナイフを抜き、懐から雑誌を取り出した。
「まさか、それで……」
「そうだよ。刻印で身体が丈夫になっても、心臓を一突きされたら終わると思って入れといて正解だった。今回の話に感謝するよ」
雑誌を地面に落とすと、とある作品のページが開いた。そのページでは主人公が心臓に攻撃を喰らうも、ヒロインから預かってある御守りが胸ポケットに入っていて、致命傷を避けて敵を倒した場面で有った。
家を出る時、嫌な予感がして懐に入れといた。幸いにもナイフは浅く刺さっていて、殆ど怪我は無かったが、雑誌には血が付着していた。
「まだ読んでる途中だったんだけどね」
劉生は腹を押さえながら何度も血を吐き、後退りして木に寄りかかって、その場に膝をついた。劉生の腹には大きく穴が空き、致命傷になっており、まともに立つことが出来ない状態になったみたいだ。




