15.優しき正義の葛藤
あれから数日間の間、ずっと訓練を続けた。真紀の訓練はやっぱり厳しく、運動部らしいハードワークな訓練だった。
だけど今日、真紀は部活であり訓練には来れなかった。だから簡単にこなして、買ってきた雑誌を読んでいた。だが、漫画の内容はここ最近入っておらず、面白い漫画なのに今はそこまで楽しめなかった。
劉生君の場所が分からず、行動もいつ起こすか分からない。いつ何が起きるか、いつ狙われるか分からない状態に不安を覚えているのだろう。
漫画も読み終えて、ベッドに寝転んだ時に電話が掛かって来た。
「はい、もしもし?」
『鷹斗! テレビ見てる!?』
その声は何やら慌てている様子の真紀だった。
「何だ、そんな慌てて?」
『学校近くの六道山公園が大変なの! 変な宗教団体が山を囲んでいるみたいなの! それに劉生君まで』
僕は電話を繋いだ状態のまま、急いでリビングへと走り、兄さんが見ていた番組を変えて、ニュース番組へと変えた。
もちろん兄さんは怒るも、それどころではなく僕は無視して番組を注目した。
「鷹斗何するんだ!」
「大変な事が起きた……」
「はぁ?」
ヘリから映し出されて、山を黒い鉢巻を巻いた人々が、神降臨と書かれたプラカードを掲げている映像であり、大勢のパトカーと警察官が集まっている。
レポーターも麓から必死に状況を説明していた。
『これは何でしょうか? 謎の団体が、六道山公園を囲んで何かを訴えているようです。現在、警察が対応をしているようですが──あっ、電波塔に一人の少年が!』
山頂の電波塔の上に一人の制服を着た少年が立っていた。僕は誰かすぐに分かった。
「あれは……劉生君」
僕はすぐに電話の向こうの真紀に言う。
「やはり、劉生君だ。真紀は何処に居るんだ?」
『今、学校。部活中だったけど、今の事で強制的に帰宅するように言われたの。危ないからって』
「劉生君……今度は何を」
『あの様子だと、かなり危ないようね。警察からもピリピリ雰囲気が明らかに感じるわ。団体がいきなり山を囲み出して、劉生君を崇めるような言葉を叫び出したの。今は衝突とかは起きてないけど、多分山の中にいるわ。劉生君』
すぐに行かないと。また人が傷つく。そんな事はさせない。
「真紀はその場から離れて。僕がすぐに行って止めて見せる」
『止めるってどうやって?』
「この力で、何としても!」
電話を切り、リビングでニュースをずっと見ている兄さんの前に立ち、真実を話す事にした。
「兄さん、車で六道山に僕を連れてってくれないか」
「はぁ?」
「彼を止めなくては。彼がまた暴走する前に、何としても倒す」
いきなり言う僕の言葉に兄さんは、困惑した顔をして僕を見つめた。
そして僕のデコを触って、自分のデコも触った。
「熱は無さそうだ。本気で言ってる?」
「僕は本気だ。兄さん、これを見てほしい」
僕は手の甲を兄に向けて炎の刻印を見せつけた。
兄さんは開いた口が塞がらず、椅子から転げ落ちた。
「な、何だそれ? 新しいおもちゃか? それとも手品か?」
「手品でもおもちゃでもないよ。これは、刻印と呼ばれる力だよ」
「え……まじで意味不明だぜ」
「説明すると長いんだけど──」
僕は一から最近のことまで単純明快に事情を説明した。
話をすると、兄さんは腕を組み納得したように何度も頷いた。そして僕の顔をじっくりと見て言った。
「やっぱり変だと思ったぜ」
「え?」
それは予想外の答えだった。
「お前は昔っから、嘘をついている時は目を逸らしている。嘘をつくのが苦手な性格だからな。変な電車事故の時から、ちょっと怪しいと思ってた。あの顔は不器用なところがよく分かるよ」
「……そ、そうかな」
「それに、最近起きた火事で高校生が火に飛び込んで女の子を助けた話もあったし、父さんみたいな無鉄砲な事をする奴がいるなんてと思ったら、お前だったんだろ」
「……うん。どれもちょっと言いづらくて……」
「別にいいさ、それくらい。それよりも、さっさと行こう。その力でその劉生って子を止められるなら、被害が多く発生する前に止めよう」
「でも、劉生君を止められるかまでは分からない」
「俺はそんな力を持ったことが分からない。でも、漫画でもよく言うだろ。正義は勝つ。そう信じている人が多くいればいるほど、その思いが力になる。お前の力が勝利を導くはずだ。信じるだ、自分が行う行動に間違いがないはずだ」
「ありがとう、兄さん」
「善は急げだ! 行くぞ、さっさと世界を救うぞ!主人公さん!」
まるで、昔のような気分だ。兄の背中は昔と変わらず、広いままだ。言って良かった、本当にありがとう兄さん。
僕ら兄弟はすぐに支度をして車に乗り込み、車を発進する事にした。だが、一つだけ心配がある。
「えぇっと、どれがエンジンだっけな」
「え?」
兄さんはペーパードライバーであり、免許取ってから殆ど乗っていないのだ。それがとても心配である。
「大丈夫なの兄さん?」
「大丈夫、大丈夫! 心配ご無用だ」
「……心配だよ」
「急がないとより大変な事になるんだろ!行くぞ!」
急いでいる中、僕はとある物を家から持ち出して車に乗り込み、なんとか車を発進させた。
多少ノロノロしているが、山へと向かっている。劉生君が何か起こす前に止めないと。あの力は危険すぎる。あの時の僕ですら、止まらなかった。今度こそ、殺されるかもしれない。だけど、真紀や兄さん、父さん母さんの支えがあったから行ける。絶対に!
「お前は山に着くまで、休んでいろ。リラックスしてろ」
兄さんの言う通り、僕は休もうとした。
「ん? あれって?」
道路脇から真紀が手を振っていた。弓道の道具などを担いでおり、部活帰りのようだ。
「兄さん、ちょっと止めてくれる?」
「真紀ちゃん?」
車を止めると、真紀はすぐに車の中はと乗り込んできた。
「一体どうした真紀?」
「私も行くわ!」
いきなり言い出した真紀に僕は驚いた。
「山は今、危険だぞ! 今の僕でも勝てるか分からないだ」
「だから私も、手伝うのよ。この弓で」
「ありがたいけど、もう次元が違う。弓なんかで勝てる訳が……」
「でも、役に立ちたいの。少しでも、支えになればと」
「……だけど」
あの時といい、僕と共にいて真紀は何度も危険な目に遭っている。だからこそ、君にはいて欲しくない。傷ついて、誰かが悲しむなんて、誰も見たくないし、誰も望んでないんだ。
ありがたいよ。でも、次は生きて帰れるかすら分からないから、安全な所で僕を祈って欲しい。
すると、兄さんが僕の服を掴み、兄さんの顔の前まで引っ張って来た。
「に、兄さん!?」
「鷹斗、行かようぜ。彼女ほどのタフな子なら、そう簡単には危険な目には合わないよ」
「そうかもしれないけど……」
「お前は心配のし過ぎだ。昔っからな。だから、リラックスしろ。俺も真紀ちゃんも大丈夫だから」
昔からタフな子だったが、そうゆう次元じゃない。
これ以上危険な目に遭わせたくない。でも、真紀の優しさを受け止めたあげたい。本音を言うと助けは欲しい。正直、一人で勝てる相手ではない。真紀の弓の腕は僕もよく知っている。
僕は色々と考えた末に、静かに頷いた。
「分かった。真紀、来ていいよ。その代わり、遠くから援護してくれるか?」
「やった! 絶対に役に立って見せる!」
「無理だけはよしてくれよ。危ないと思ったら、すぐに逃げてくれ。僕がピンチな時でも」
「うん」
兄さんはその様子を見て、ハンドルをしっかりと握りしめて、エンジンを入れた。
「よし、そうと決まればアクセル全開! しっかりと捕まっていろ! 戦う前に怪我するぞ!」
兄さんは目つきが変わり、テンションも上げてアクセルを思いっきり踏み込んで、猛スピードで車を発進させた。
いきなりすぎて、シートに頭をぶつけてしまった。
「痛っ! 鷹斗の兄さん!? 運転荒過ぎませんか!?」
「大丈夫だ! 何年も運転してないけど、ゲームやアニメで運転技術は鍛えてきた!」
「ペーパードライバーより心配よ。それ……」
真紀も少々不安な表情で僕を見た。
「戦う前に死ぬのは嫌よ……」
「僕もだよ……」
そのまま何十分か掛けて、高校の近くまで車を止めずに走り続けた。山に近づくにつれて
山の周りは警察や特殊部隊などの車が止まっており、大量の警察が立っていた。更に出入りを封じるために、至る所に立ち入り禁止のテープが貼られていた。
更には野次馬、報道陣、そしてあの宗教団体までもが警察官と衝突していて、その様子がテレビに映し出されていた。
「貴方達は、神を信じないのですか! 貴方達は!」
「そうだ! 新人類の神を冒涜する気か!」
中には警察官に暴力を加えて逮捕される者いて、まさに無法地帯のようであった。
「やっぱり、劉生君と変な関わりがあるって本当だったんだなな」
「奴は自分自身を神と言っていた。でも、こんなにまで信者がいるなんて……」
「何かやばいことが起きる前に止めないと」
「もちろんだ。絶対に彼を止めてみせる。助ける」
僕の心にはまだ、劉生君を助けれると思っている。でも、どうやってあの力に対抗するかまだ策はなかった。もしもの場合は、お互いに自害する形で死ぬしかない。
それが、最後の作戦だ。
そう考えていると車は速度を落とす事なく、野次馬達がいる方向へと直進した。
「まだ捕まってろよぉ! 突っ込むぞ!」
「え!?」
兄さんは人混みがいる方へとパッシングをし、クラクションを激しく鳴らしながら、突っ込んだ。
もちろん、みんな恐れ慄いて道を開けて、警察の静止を振り切って、車は山の中へと突入した。でこぼこな道をひたすらに走って、頂上近くに向かった。無理やり道ではない道を通り、車はどんどん傷ついて行くが兄さんは気にする様子を見せずに走って行った。
「兄さん、良くやった!」
「どうよ、兄貴のペーパーの運テクは!」
「よし、このままもっと上に──」
車は木にぶつかり、僕と真紀は天井に頭をぶつけた。
「痛っ!」
「きゃっ!」
車から煙を上がり、急いで車から出ると、下から大量の警察官が慌ただしくこちらに走って来た。
すると兄さんが僕の背中を強めに押し飛ばした。
「警察が来た! 俺が警察の気を引くから、鷹斗らは行け!」
「兄さん!」
「兄弟なんだからお互いに苦労を知るもんだろ。こんな情けない兄だが、やるときはやるさ。父さんや母さんのような優しくて、広い背中じゃないけどな!」
そう言って兄さんは大声を上げて、警察の元へと走って行った。兄さんが走って行くと、警察は兄さんを変人だと思い込んだのか、僕達の存在に気づかないまま兄さんを追いかけて行った。
その隙に車を降りた。真紀は弓矢を担いで、何度も自分の手を見つめていた。
「今のうちに行こう」
「……えぇ」
僕と真紀は、すぐに山の頂上へと向かった。
だが、僕らの前に彼が立ち塞がった。
「貴方は……」
「お前は本当に戦うつもりのようだな。俺が奴を殺して全ての事を片付ける。それが闇の刻印を封印する俺の使命だ」
あの謎の男だった。
「……貴方の使命だとしても、僕自身が彼を止めたい。彼のせいで街も人も傷ついた。だけど、僕は彼を殺すんじゃない、止めるんだ。彼を説得して、罪を償わせる」
「二つの善悪の共存は不可能に等しい。善は悪を許さない。その反対で悪は善を許さない。二つの異なる正義同士、絶対に意見が交わる事は出来ない。それでも説得を試みるのか」
「もしもの時は、最後の選択を彼にさせる」
彼が言ってる事は正しいかもしれない。でも、僕自身の考えで彼を止める。その信念を男にぶつけた。
すると男は道を開けて、呆れた顔をした。
「なら、やってみろ。最悪の時は俺が奴を問答無用で殺す」
「分かったよ。その時は頼みます」
僕はそのまま男の真横を通り、頂上へと向かった。




