14.覚悟
あれから何日か経ち、僕は自分一人でも訓練して炎の刻印を更に使いこなす事に必死になった。人気がない場所で、毎日扱える様に必死になり、いつ何時にまた同じような事が起きる事を警戒しながら訓練した。
毎日ネットなどでも少ない時間だが必死に調べるが宗教団体の事も、劉生君の事も全く出てこない。出てくるのは、学校での事件ばかりだ。
火力の大小出せるようになり、少しだけ自信がついて来た。
「少しでも……強くなるんだ。誰も被害を受けさせない。真紀のように、翔吾くんのように誰にも苦しませない!」
更に数日が経ち、真紀は退院した。僕も真紀の家族も大喜びし、退院を祝った。退院を喜んだのも束の間、すぐに真紀は僕の訓練に手伝いに来た。
「真紀!? 動いて大丈夫なの?」
「退院したんだから、動いても大丈夫ってことよ。だから、早く始めましょうよ!」
「分かった……助かるよ」
「それよりも良い情報を見つけたわ。劉生君が出入りしている宗教団体の事が分かったわ」
「え?僕でも見つけられなかったのに?」
「学校や宿題や訓練しているあんたよりは時間はたっぷりあったからよ」
「ふっ、それもそうだね。で、情報って?」
真紀はスマホのSNSでとある画像を見せて来た。
それは絵であり、大きな木とその根っこが同一の大きさで描かれていた。不気味なのはその木に生えている枝の先に謎の球体が九個も描かれている事だった。
「こ、これって……」
「この街にある宗教団体。このマークが描かれているプレハブがあるみたい。でも、何処かで見た気がするのよね。この絵」
「……とにかく、宗教団体の事が分かったのは大きいな」
「えぇ、組織の名前も"黒神樹会"。何しているかまでは分からないわね。あんまり良い情報はないけどね。思念パワーで力を与えたり、怪我や病気を治したりするみたい。垂れ幕みたいのには"闇は光の正義となり、正義は信じる者の心に宿り、来たるべく聖戦に勝利する"。変なの」
「怪しい宗教団体は大体そうゆうもんさ」
「でも、調べたのは良いけど、劉生君の情報は皆無なのよね」
「極秘情報って訳か。表沙汰には出来ないんだろうな」
「そのようね……」
これ以上の詮索はせずに、僕らは訓練を続けた。
訓練を終えた夕方五時頃、僕は真紀と共に家に帰った。まだ兄さんは帰っていないみたいだ。
今日は僕が晩飯を作る番だ。僕と兄さんはここ最近、交代交代で晩飯を作るようにした。
少し前まではコンビニやら外食ばっかりであまり良くないと真紀にこっぴどく言われてから、今の制度を作る事になった。
特に土日はお互い適当に決めるのだが、偶に真紀が手伝ってくれるのだ。
「鷹斗、家に何か食べ物ある?」
「カップ麺とかなら──」
カップ麺と聞き、真紀が目ん玉びっくりさせて、僕を睨みつけて来た。
「カップ麺!? せっかくの土日にカップ麺はダメでしょ!」
「そ、そう?」
「そうなの。土日は家族全員揃って、美味しいご飯を食べるのが普通なの! 二人でカップ麺ずずって、何が楽しいのよ」
「家族か……そんなのあんまり考えた事なかったなぁ」
「だから、いつも大学頑張っているお兄さんに何か振る舞うのよ。そして二人で楽しく食事をするのよ」
「まぁ、それも良いかもしれないね」
と、いうわけで僕と真紀で料理を作る事となった。
冷蔵庫には余った野菜やら、調味料が転がっていた。
真紀は冷蔵庫の中を調べながら、何を作るか考えていた。
「鷹斗、冷蔵庫適当に詰め込みすぎじゃない? 賞味期限切れの物も何個もあるし」
「それは兄さんが──」
真紀は冷蔵庫の中の賞味期限切れの食べ物や調味料などをどんどん捨てて行き、何かを見つけた。
「良い物ないかなぁ。う〜ん。お?」
「何かいいのあった?」
「これよ、これ!」
それは未開封のカレーのルーだった。
そういえばこの前、兄さんが作るって言って買って来たけど、直前でめんどくなって放置した物だった。
「カレー?」
「カレー作るわよ。カレーを」
「え?材料ないよ?」
「そうよ。肉ないわね。適当に肉買って来て。後、ブーケガルニかローリエ売ってたら買ってきて」
「僕が!?」
「そうよ。疲れてると思うけど、カレー食べればその疲れも簡単に吹き飛ぶわよ。私が野菜の下拵えしておくから」
「ローリエ? ブーケガルニ? なにそれ?」
「肉の臭みを消すのよ。生臭さをね。それと、ブイヨンもね」
強引にカレーを作る事となり、真紀は手慣れたようにジャガイモやニンジン、玉ねぎの下拵えを丁寧に始めた。
「早くね〜」
「はい」
僕は渋々従い、近くのスーパーへと買い物に出掛けて、適当に牛肉を買って来た。それとローリエとブーケガルニ。葉っぱなのか。それにブイヨンも買って来た。
「買って来たよ」
「ありがとう。丁度欲しかったところ」
具材や調味料を渡すと、真紀はすぐに肉と野菜を焼き始めた。
ものの数分で家の中はいい匂いに包まれて、変な表現だけど、何処か心の奥から嬉しい気分になってきた。
そして焼いた具材を鍋に入れて、買って来た葉っぱ達やブイヨンも入れて、煮込み始めた。
「よし、少し煮込んでからルーを入れるわよ」
真紀の後ろ姿が、何故だか亡き母の姿に見えてきた。
母さんがいれば、こんなにもいい匂いが常に包まれる毎日あったのかな、と思ってしまった。家族で食卓を包むか……いいな。
「真紀、一つ聞いていいか?」
「何?」
「家族って、やっぱりいいものなのか?」
「え?」
何気ない質問に真紀の手が止まった。
真紀は顔を赤く染めて僕に聞き返して来た。
「いきなり、何?」
「いや、家族と一緒に食事って、楽しいのかなって?」
「お兄さんとの食事、いつも何話しているの?」
「話か……兄さんは大学の事や就職の事。僕は学校の事ばっかりかな」
「うーん。もっと話す事ないの?」
「テレビとか漫画かな」
その答えに真紀は頭を悩ませた。
家族がいるとどんな食卓になるんだろう。どんな話題が生まれるんだろう。全く想像もつかない。
でも、真紀の家族は昔から僕ら兄弟に優しくしてくれた。真紀と共に遊園地や水族館と色んな所に連れて行ってくれたり、一緒に食事へと連れて行ってくれたりと優しくしてくれた。
真紀の両親は君達は家族同然だと言ってくれているが、所詮血がつながらない他人だ。だから、本当の両親との会話がまたしたいな。
「鷹斗、今日私も一緒にご飯食べて良い? 二人でまた学校の話するより、少しは盛り上がるでしょ」
「僕は構わないよ。偶には一緒に食うのも良いしね」
そう言うと真紀は嬉しそうに鼻歌を歌いながら調理を続けた。
「なら、もうちょっと頑張るわ。鷹斗は休んでいていいよ。疲れてるでしょ。寝てていいわよ」
「すまない。少しだけ休むよ」
僕はリビングのソファーに横たわると、急に眠気が襲ってきて、ものの数秒で眠りについてしまった。
夢を見た。そこには保育園の頃の自分がいた。
一人寂しく、ブラックを積み上げて保育園に残っていた。
両親がいない僕は小学校が終わる兄さんを一人で待っていた。先生達もそれを承諾して、一緒に待ってくれていた。
兄さんは友達と遊ぶ事はせずに僕を迎えに来てくれた。その度に先生達に感謝を述べていた。友達と遊べず、辛いはずだけど、僕の前だと絶対に辛い顔を見せなかった。同じくらい辛いはずなのに。
でも、僕はそんな兄の背中は父さんと同じく勇ましかった。だから、あの頃の僕はいつも笑顔でいられたんだと今になって思う。
そして──どれくらい経ったか、眠りについている僕に呼びかかる声が聞こえて来た。
「鷹斗、鷹斗!」
「ん……」
「起きてよ。もう出来上がってるわよ!」
真紀の声に僕は目を覚ました。
目の覚ますとキッチンの椅子に兄さんが座って呑気に雑誌を読んでいた。
「よっ、鷹斗。あまりに良い眠りで起こせなかったよ」
「兄さんもう帰ってたの?」
「とっくにね。もう九時前だからな」
「え!?」
スマホを見ると、時間は九時二十一分になっていた。そ、そんなにも長く寝ていたのか。
僕はすぐに起き上がった。
「ごめん二人共、寝てしまって」
「良いんだよ。さっさと顔でも洗って食べようや。いい匂いがしまくって腹が減ったよ」
「うん」
カレーのいい匂いが部屋を包み込み、こんなにまで暖かな雰囲気に囲まれたのは久しぶりな気がする。
すぐに顔を洗って食卓に着いて、みんなで食事をした。
一口食べようと、スプーンで掬うと真紀が期待した目で僕を見つめた。
「どうした?」
「いやいや、お構いなく。さぁ一口どうぞ」
「う、うん」
兄さんもニヤニヤした目で僕が食べるのを待っていて、僕は食べた。
「どう? 美味しい?」
「……美味しい」
「本当に!?」
「あぁ、とても美味しいよ。最高のカレーだ」
感想は、本当に美味しかった。
とても美味しい。レトルトのカレーと比べるのも失礼だけど、こんなにも美味いのは初めてな気がする。
真紀は嬉しそうに喜んでくれて、兄さんもカレーを頬張った。
「あ! これ美味ぇよ、真紀ちゃん!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「本当に本当! マジで久しぶりだよ。手作りのカレーなんて。いい嫁さんに慣れるよ!」
「んな事ないですよぉ〜! お母さんの近くで見てきただけですからぁ!」
楽しそうに喋る二人に僕も自然と笑顔になっていた。
兄さんもいつもより楽しそうでなりよりだ。真紀も本当に嬉しそうに喋っている。
やっぱり大勢で食事するのって楽しいな。気分が良くなり、心も浄化されるようだ。
ありがとう真紀。
そんな事を考えているうちに一杯目のカレーを軽々と食べてしまった。
「鷹斗がっつくわね。おかわりする?」
「勿論」
「分かったわ」
真紀はすぐにご飯をよそってカレーを入れてくれた。
兄さんもすぐにおかわりして、僕達兄弟は何杯も食べた。
結局僕ら兄弟は三杯ずつ食べて、腹が膨れてしまった。兄さんはすぐにソファーで横たわってだらしなく寝てしまった。
「お兄さん寝ちゃったわね……」
「僕も腹一杯になったよ。ありがとう真紀」
真紀は皿を洗ってくれて、また鼻歌を歌っていた。
「全然良いわよ。食材さえ有れば、いつでも手伝うわよ」
「本当にありがとう」
「久しぶりに鷹斗の笑顔を見れて嬉しいわ。それだけで十分よ」
こんな日がもっと続けば良い。こんな楽しい日々が続いて欲しいと心から願う。でも彼が、闇の刻印を持った劉生君がいる限り、この平和な空間をいつ脅かされるか分からない。
父さんや母さん、兄さんと真紀が僕を育ててくれた。この街、いやこの世界が壊させない為に、僕は戦う決意がするしかない。
この幸せな日々を続かせる為にも。絶対に止めてやる。
*
それから数日後──風が激しく靡くビルの上で、僧侶のような服装で空高く手を広げて何やら唱えている惠美子。額には鷹斗らが調べたのあの巨大な木が鉢巻をしていた。
身体に黒いオーラが纏い、不気味にもオーラは煙のように空高く舞い上がって行く。
「劉生様のパワーは高まり、今が好機。我々を追い込んだ世界に罰を!」
その空には月夜に照らされる劉生がいた。劉生は空に浮きながら、目を瞑って力を蓄えていた。
惠美子のオーラは劉生を囲むように集約して行き、身体の中へと入って行く。
「行きましょう劉生様!」
「分かった。俺は俺を救わなかった世界に叛逆してやる」




