10.神への道
駅の事件から三日が経った。俺は惠美子によって町外れの田んぼ付近にある汚らしいプレハブに招かれた。
「こんな所に招いてどうする気だ?」
「ふふふ。貴方様に良き力を齎らす儀式ですよ」
「儀式?」
「ここには私を崇拝する信者達が集まっております。貴方様にも一度会わせてあげようと思いまして」
言われるがままにプレハブへと入ると、そこは畳が敷かれておりそこに信者達数十名が正座していた。正直それだけでも不気味だが、部屋の奥にある惠美子の自画像が目に入ってより不気味な雰囲気に包まれた。
「……」
「さぁ、劉生さん。こちらに」
「気味の悪い場所だな」
信者らの前に豪華な花柄の座布団が敷かれており、その上に座らされた。そして惠美子が目の前に座り、何十人もの信者が惠美子と共に手を繋ぎ、俺の手を触れた。
「はっ……!!」
すると、不思議な事ばかりが起きた。体から力が湧き上がり、力を与えてくれた者の視界に干渉出来るようになった。買い物をしている光景、本を読む光景、喧嘩する光景、女に暴力を振っている光景、暗い部屋で一人立ち尽くす光景、様々な人間の目となり、そこにいる感覚になる事が出来た。
「凄い……力が……」
「貴方の身体に潜む潜在能力が少しずつ解放されます」
力は増し、俺はその力を見せた。宙を浮き、物をテレポートし、透視化を出来る様になり、その力を見せると人間は俺を崇め始めた。それに加えて惠美子の信者は少しずつ増やしていき、それの力は更に増して行った。
プレハブから信者の一人に大きめの倉庫を持つ奴がいて、そこを新たな拠点へと移す事にしたらしい。
神だの救世主だのと俺の前に平伏し、悪くない気分だ。上から見る人間は頭はどこかちっぽけな感じであった。
徐々に神に近づいていく自分が実感していく。もし、更に多くの人間の力を貰ったら自分はどうなる? 進化する? 羽でも生えるのか? 腕が増えるのか? 顔が増えるのか? そもそも人間の形を保っているのか? 真理に辿り着いた姿に変わり果てるのか?
溢れんばかりの力を手に入れ、俺は翔吾も共に惠美子の元へと呼び寄せた。そして惠美子の力と俺自身の力を翔吾に分けた。翔吾も俺と同じく力が湧き上がるのが感じたのが驚きを隠さなかった。
「はっ!?なにこれ?何なの!?」
「ふん、俺からのプレゼントだ。近藤を刺した報酬だ」
「何か未だにない感覚が……」
俺は惠美子にとある事を頼み込んだ。
「こいつを心底お前の力で俺を崇めされるようにしろ。どんな方法でも構わん」
「分かりました」
俺は翔吾を渡して空を飛び、町一番の山へと飛び電波塔の上へと立った。
そして俺は町を見渡しながら思った。自分で神の領域に辿り着く事を願っている。なら、神になる為に、奴を生贄にするしかない。
*
入院して更に一週間が経ち、僕は退院が許可された。
退院の日、兄さんは用事で来れなかったが代わりに真紀が久しぶりに来てくれた。
僕が帰る支度をしていると、真紀が慌ただしく入って来た。
「ごめん鷹斗!!色々と調べていたら、中々来れなくて」
「いいんだよ別に、それよりも情報は何か手に入れたか?」
「少しだけならね。劉生君って子知ってる? 私らと同じ学年の」
劉生……名前が聞いた事はあるが、不良って事しか分からない。僕は苦手とするタイプの人間だ。
「いい評判を聞かないって事だけは分かるけど」
「その劉生君って子は翔吾君を陰で虐めていたのよ。かなり前から」
「でもそれだけじゃあ、彼を犯人だとは……」
「証拠はあるわ。翔吾君が近藤先生を刺した事件から劉生君は休む事が多くなって、更には当日劉生君を見た人は誰もいなかったわ。それに、別の生徒からは変な宗教団体との接触もあったと言われているわ」
「宗教か、やっかいだな」
「えぇ。翔吾君関連では彼が一番怪しいと思うわ。元々、翔吾君は他人を拒む性格らしいから、あまり翔吾君の事を知っている人は少ないの」
「そういえば翔吾君は発見されたのか?」
「……いや、あれ以降全く姿を見せてないの。翔吾君の親も捜索願を出したし、あんな事件を起こした事もあって警察も必死に探してるみたい」
「危険が危険を呼び寄せたか……」
その後、僕は医師の方々に礼を言って退院をした。
帰り道、僕は真紀に礼を言った。
「無理させてしまって済まないな。ありがとう」
「良いのよ。これくらいなら、もっと頼ってくれていいからね」
「うん……感謝するよ」
「そう硬くならないでよ!退院祝いにこれあげるから」
そう言って渡して来たのは見たかった漫画雑誌の今週号であった。
「……いい退院祝いだな。ありがたく受け取るよ」
*
俺は学校の屋上でお気に入りの雑誌を読んでいた。最終回前で、主人公にやられて命乞いした敵が、隙を見てヒロインを人質に取り、抵抗できない攻撃を仕掛けるシーンで話が終わっていた。
「ふっ、悪が悪に徹して、命乞いまでして卑劣な方法で殺しに掛かるか。いいじゃんか」
俺は本を閉じて、校庭を覗いた。
学校はあの事件から少し経ったとはいえ、もういつも通りの日常に戻って嫌がる。大勢の生徒らが、授業でサッカーをしており、その中には怪我が治った鷹斗の姿もあった。
「あいつ、やっぱり生きていたか。あの時に邪魔が入らなければ……」
「劉生君……今度は何を……」
俺の隣には身体を震わせている翔吾がいた。
惠美子に回復してもらった後、鷹斗を仕留めようとしたが、もう現場にはいなかった。
翔吾はあれから、家に帰る事なく、俺と共に行動を続けている。最初は何度か逃げようとしていたが、次第に諦めたのか俺から逃げる事なく従っている。
「僕は次、なにをすれば……」
「ふっ、そうだなぁ。最高のゲームを浮かんだ。神の遊びだ」
「神の遊び……」
「お前も喜べ。神の従者として、今回は特別にお前も主役だ」
「僕が?」
「あぁ、授けたを存分に使ってくれよ」
「ま、また危ない事を!?」
「頼むぜぇ」
そう言って俺は翔吾の額に手を当てた。そして力を込めた。
「え……」
翔吾の声が弱々しくなり、目がゆっくりと閉じていった。そして目を開けると眼球が赤く染まっていた。
「やってくれるのなぁ翔吾」
「うん」
翔吾は生気のない目つきになり、ニヤリと笑って感情を感じない声で言ってきた。
そうだ、普通の人間は俺に従えばいいんだ。神になろうとする俺の力を示してやる。この手で直接な。




