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公爵様は見る目がない!  作者: 猫森まりも
第一部 雇用契約?公爵夫人、始めます
7/44

気を取り直して、作戦を立てます

そろそろサブタイトルに統一感を持たせるのが難しくなってきました。

朝食はとても美味しかった。昨夜のディナーも勿論美味しかったけど。カトラリーだって公爵家でなければ普段使いなんてしないだろう、美術品と言って良いくらいの意匠のものばかり。



なのに、何故だか感動が残っていない。余韻がない。


確かに美味しかったことを覚えているのにメニューが何だったか思い出せない。


カトラリーの何が素晴らしかったのか具体的なことが言えない。



そして今いる私専用だという執務室にも、どうやって辿り着いたのか覚えていない。道順が分からないので部屋に戻る時にまた先導してもらわないといけない。



執務室は私室の応接室より少し狭い。その分、本棚やチェストが充実していて無駄が無い。執務机の正面に扉があって、その間に簡素な応接用のテーブルが一つと二人がけ程のソファが向かい合うように二つ。サービングカートは余裕をもって通れるし、窮屈な印象はない。


後ろに窓があって庭園が見えるので、ここは中央館の北側、地面が近いので1階だ。



1階からでは庭園の奥は見えないが、手前の花々の瑞々しさまでよく分かるのでこれはこれで素敵ではあるが、如何せん窓が小さめなのでそこは不満だ。


照明があるから良いが、日が暮れたら暗いだろうな。




「奥様、どうかなされましたか?ぼんやりとされているようですが…」




扉脇の壁際に立って控えていたテリアが、心配そうに眉を寄せて声をかけてくれた。




「大丈夫、何でもないの。…何でもないから、ちょっと不思議で。どうしちゃったのかしら…、しっかりしなきゃね」




これでも公爵夫人なんだし、とにっこり笑って返事をすると、テリアは首を傾げながらもホッとしたように表情を緩めた。



テリアと言いシュリーと言い、本当に優しくて人が好い侍女だ。公爵様がどこまで考えて二人を私に付けてくれたのかは分からないが、有難いことである。



ふと、ノックの音が響く。




「はい」



「奥様、執事長が参りました」



「どうぞ、入ってちょうだい」




失礼します、と言って扉を開けたのはシュリーで、その後ろから執事長のアジルがすっと進み出て頭を下げた。




「おはようございます、奥様。朝食の席ではご挨拶できずに申し訳ありません」



「気にしないで。私がいきなり押しかけたのだし、公爵様のお支度を手伝う方が大事だもの」




返事を返すとアジルは人好きの良い笑みを浮かべて頭を上げた。




「貴方も忙しいでしょうに、呼び出してごめんなさい。公爵様とのことでいくつか聞きたい事があって、貴方にしか聞けないんじゃないかと思って」




少しわざとらしく思案するような仕草をして見せ、チラリと視線で訴えかけてみる。


公爵様との契約はどの程度まで知れているのか。二人の侍女に話しても良い事なのか。


それが分からなければ話が始まらない。




「かしこまりました。テリア、シュリー、廊下へ出ていて貰えますか?扉は開けておくように」




アジルはこちらの意図を汲み取ってくれたようで胸元へ手を添えて返事をすると、傍に控えていた侍女達へ指示を出した。


話を聞かれては困るけど、部屋に二人きりになっては困る、配慮まで完璧だが、そこまで気にしなくても良いのに、とも思った。



侍女二人は特に怪しむこともなく、静かに礼をすると廊下へ出て行き、扉は拳程度の隙間を残して閉められた。




「…良かった、二人に話してしまわなくて。あの二人の様子を見ると、どうにも私を歓迎してくれてるようにしか見えなくって」


「申し訳ありません、先にお伝えすべきでしたね。ですが、まさか本当に話していないとは…」




ふぅ、と息を吐いて安堵した様子を見せて話してないことをアピールしたが、アジルはそれを理解した上で、薄く苦笑のような表情を浮かべて応えた。




「どういうこと?」


「いえ、奥様が不満を持たれても仕方のない状況でしたので、侍女に対して何かしら話すのではないかと思っておりまして。今回の件は私と公爵様付きの執事数名しか知りませんが、奥様が話してしまわれたらその時はその時かと」




はは、と乾いた笑いを零しながら言葉を続ける。




「しかし、奥様はとても良い意味で、我々にとって想定外のお方でした。嫁いでこられたのが貴女で、本当に良かった」




言い切ると、最後ににっこりと微笑まれた。


大人びた青年を少年と錯覚させるようなそれは、今までの人の良さそうな笑みは作り物だったことがハッキリと分からせるものだった。




「…正直、あまり歓迎されるとは思ってなくて。ちょっと照れくさいわね」


「はは、この調子で、奥様には公爵様を陥落させて頂きたいというのが我々使用人一同の本音ですよ」




他人行儀な仮面を取り払ったのが、アジルはニコニコと機嫌良さそうに話している。


公爵様より先に、貴方が陥落したというわけね。




「まぁ、公爵様についてはそのうちね。取り敢えず、私がこれから、このローゼンベルク公爵家の夫人として、どう振舞っていくのか。それを貴方と打ち合わせておきたいのよ」




気を取り直して息を吐き、執務机の椅子に座り口許にニヤリとした笑みを小さく浮かべると、アジルは待っていましたと言わんばかりにニコニコ顔を少し引き締め、頭を下げた。



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