お屋敷の外観は良い仕事してますね
「うわぁ……、私来る所間違えた?想像を越えた所の話ではないわね…」
エスコートされることもなく馬車を降り、目の前の豪邸を眺めて冷や汗が流れる。
馬車に揺られること3時間。遥々田舎から王都までやって来たのには理由がある。
私はこの屋敷の主に買われたのだ。
後ろで御者が荷物を下ろしている中、長い溜息を吐いて屋敷を眺めながら立ち尽くしていると、屋敷の扉か開き、執事と数名のメイド達が現れ、恭しく礼をした。
「お待ちしておりました、お嬢様。私は執事のアジルと申します。ご案内させていただきますので、どうぞこちらへ」
褐色の肌にライトグレーの髪を短くまとめた、琥珀色の瞳が印象的な、アジルと名乗る執事に促されるまま屋敷へ足を踏み入れる。広々としたエントランスは、荘厳でありながら品格を感じさせる外観に相応しく、上品さを損なわない豪華さがある。絵画や壺などの調度品もその価値を思うと背筋がゾクリとした。…が、同時に違和感も覚えた。
「遠路遥々、お疲れ様でした。ゆっくりとお休み頂きたいところではありますが、まずはご主人様にお会いになってください」
「あ、はい。大丈夫です、お気遣いありがとうございます」
1枚の絵画に目を奪われている時に声をかけられ、うっかりしてしまった。アジルは少し目を見開いている。驚いたようだ。
だが彼も一流の執事なのだろう、すぐに愛想の良い表情を浮かべて先導するように歩き出した。
鳥のヒナのように数歩先を歩く彼を追従すること数分、応接室と思われる部屋の前で彼は立ち止まり扉をノックをした。
「ご主人様、アジルです。お客様をお連れしました」
「入れ」
中から響いた声はあまり抑揚がなく、何の感情も読み取れなかった。
アジルは静かに扉を開き、私は彼に促されるままに室内へと歩を進める。
応接室内の一際豪華な1人がけソファには、屋敷の主と思われる男性が書類を眺めながら鎮座していた。
背後で静かな音を立てて扉が閉まると、目の前の男性はゆっくりと視線をこちらに移した。
__ああ、私はこの人を知っている。
まさかとは思っていた。思っていたが、あんな非常識な条件を提示してくる人物だとは思えず、困惑が顔に出ないよう気付かれないように息を飲み、淑女らしく礼をし、声がかかるのを待つ。
「…ようこそ、よく来てくれたな、花嫁殿」