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冷蔵庫

作者: 葉月 雨緒

 冷蔵庫を開けると、中に若い女が座っていた。

 冷蔵庫は扉が二枚あるやつで、上が冷凍庫で下が冷蔵庫。

 女は、ご丁寧に冷蔵庫の中身を取り出して、棚網も取り出して、代わりに自分がその中に納まって、行儀よく正座して中から扉を閉めて僕を待ち伏せしていた。

 女は、花柄のワンピース一枚で、扉を開けた僕が悲鳴を上げるのを冷蔵庫の中から見上げて、紫に変色した唇を釣り上げてにっこりと笑った。

「驚いた?」

 そう訊ねる女に僕は言葉なく頷いた。

「あんたを驚かすために、ずっと入っていたんだ。ああ寒い」

「なんで、こんな馬鹿なことするの?」

 と、僕が訊ねても女名はへらへら笑いながら「あんた驚いたね。ああ可笑しい」と言っている。

 僕は腹が立ったので、冷蔵庫の中にあったはずの牛乳はどこだと訊ねた。

「飲んじゃった」

「全部?」

「そう。おかげでお腹がぎゅるぎゅるいってる」

 僕は呆れてもう一つ訊ねた。

「卵とチーズがあったはずだけど」

「チーズは食べた。卵はちょっと古かったから窓から捨てた」

 女はそう言って、にっと歯を剥いて笑った。

 その顔が薄気味悪くて、その時になって僕ははじめて、この女は誰だと思った。

「あんた誰だ?」

 おそるおそる訊ねると、女は嬉しそうににっこりして

「それそれ」

 と言って、僕を指さした。

「あんたを驚かしたくて、いろいろ仕掛けたんだ。もっと驚かせてあげようか」

 僕が黙っていると、女は急に不機嫌な顔になって、顎をしゃくり上げて頭の上を指して言った。

「上も見てみなよ」

 僕は、こんな女の言うことに従うのは癪に障ると思たけど、なんとなく気になって冷凍庫の扉を開けた。

 中には凍り付いた赤ん坊が横たわっていた。


 おわり


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