祝福《ブレス》スキル持ちのオムレツ専門店【後編】
こちら同日公開の前後編の後編になります。
前篇からご覧下さい。
「私はA級冒険者の魔法剣士ドーラ・アルザナだ。クレスト嬢の知人でこの店をよく利用させてもらっている。朝からいきなり大勢で店に来て、クレスト嬢に向かって捲し立てるとはどう言う事だ。大勢に一度に話されても訳がわからない。誰か代表者が話してくれないか?」
ほえー、アルザナさんって上級職の魔法剣士なんだ。強いんだろうなーと思ってたら思ってたより強かった。
冒険者さん達は顔を見合わせてから、一人が椅子から立ち上がった。
「俺はB級冒険者、シュワルト・ラグレスだ。リアンは1年半ほど前に、俺たちが拠点にしている街から突然出て行ったんだ。リアンはレアスキルの祝福を持っているから、毎日町外れのB級ダンジョンにアタックするパーティーの一つについて潜ってたんだ。祝福は無くても問題はないが、あればとても便利だろ。経験値向上やレアドロップや能力強化とか、色々とあった特典が無くなってみんな困ってるんだ。だから俺たちが連れ戻しに来たんだよ。乗合馬車の御者に聞き込みしてまで来てやったんだからありがたく思え」
「へ?私帰りませんよ?と言うか、行きませんよ?私の家はここなので」
「あ?何言ってんだよ!」
一瞬でみんなが立ち上がる。
「座れ!」
アルザナさんの一喝で、すとんとみんな椅子に座る。ちょっと怖かったけど、ちょっと面白い。
「クレスト嬢、大きな声を出してすまなかった」
「びっくりしましたけど大丈夫ですよ?アルザスさんは私に向かって声を出した訳ではありませんし」
わざわざ斜め後ろにいる私を振り向いて謝ってくれる。
それを見た街のみんなの表情はキツい。でも、B級冒険者のシュワルトさんが一番高レベルで、アルザスさんはA級だから一喝されたら文句言いにくいよね。
「クレスト嬢はここで兄と二人で店をやっている。安定して営業しているから、冒険者に戻る必要も、ましてや兄と離れて街に戻る必要も無い」
アルザナさんの後ろにいるから怖くないけど、シュワルトさんがすっごい目で私を睨んでいるのが嫌な感じ。他のみんなも怒ってるし。
「アルザナさん、だっけ?リアンは何年も街でパーティーに入ってたんだ。いきなりいなくなったから街の冒険者のみんなが困ってるんだぜ?おかしいだろ、ずっと祝福しか出来ないお荷物とパーティー組んでやってたのに、俺たちを裏切ったんだ」
はあっとアルザナさんが大きくため息をついた。くるっと振り向いてくる。
「何か街の連中にいう事はあるか?」
「んー、今色々満足してるんで帰りません、位ですかねえ」
「じゃあ、俺が言いたい事を言わせてもらって良いかな?」
「ん?アルザナさんが言いたい事はアルザナさんが言って良いに決まってるじゃないですか」
榛色の目をキュッと細めて、いつもの爽やか笑顔をしてから前を向く。
「お前ら、クレスト嬢を便利に使いたいっていうふざけた事をする為だけに、わざわざ追っかけて来たんだな」
「違う!俺たちはまともに戦えないリアンを仲間に入れてやってたんだぜ!」
「だったらクレスト嬢がどこに行っても構わないだろ。まともに戦えないお荷物呼ばわりしてんのに、裏切ったの何だの言って無理やり戻れとか、頭大丈夫か?レベルだってクレスト嬢より遥かに高い連中で大声出して脅して、これで連れてったら誘拐だな!」
アルザナさんの言葉に、街のみんながヒートアップしててんでに怒鳴り出した。
どうしよう。私が原因だし。立ち上がって何か言わないと、でも何を?戻らないはもう言ったし。
その時、アルザナさんが私を腕の中にぎゅっと匿ってくれた。
「お前らが何を言おうが、リアンは街に行かせない」
ぎゅっとなっているので、状況がわからない。
「ドーラ、朝から何やってんだよ!って、リアンちゃん抱きしめてんじゃねーよ!」
「お?何か知らん顔がいっぱいだな」
「皆さんもS級ダンジョンにアタックされるんですか?」
「セレン、ジェイド、エルレーン、こいつらクレスト嬢を脅して連れ去ろうとしてるんだよ!」
「はあ?お前らふざけんなよ!リアンちゃんは店の経営者兼看板娘だぞ!」
「野郎どもがレディを脅すとか許せないな。俺たちが相手するぜ」
「あらあら、鑑定スキルによれば、皆さんB級とC級ばかり。私達S級とA級ですけど、リアンさんを連れて行くなら邪魔させていただきますし、ギルドに連れ去りをする冒険者がいるって報告してギルド登録を取り消ししてもらいますわよ」
見えない、見えないが、アルザナさんと良くパーティー組む戦士さんとモンクさんと魔法使いさんの声がする。
話が大ごとになってそうで怖い。
ぱたぱたと蠢いてみたが、苦しくは無いものの、アルザナさんの拘束は解けない。
「ん?」
急に音が何も聞こえなくなった。
うごうごうご。
うごうごうご。
うごうごうご。
「もう大丈夫よ。消音の魔法を急にかけちゃってごめんなさいね。何かうるさいのいっぱいいたから」
「うるせえ連中は帰ったぞ」
きょろきょろと辺りを見回すと、街の人達が消えていた。
フライパンを持った兄さんがぷるぷると震えている。
私が原因だったのに、私がわからないままに終わってしまった。
「ええと、どういう事になったのかわかりませんが、ありがとうございます?」
アルザナさんが爽やか笑顔になって、戦士のセレンさんが頭をぽんぽんしてくれて、モンクのジェイドさんが腕を組んでウンウンと頷いて、魔法使いのエルレーンさんがかわいいーと言いながらぎゅっとしてくれた。
子供扱い?
その後、またうるさい街の人達が来ても追い返せる様にという事で、アルザナさんが空き部屋に下宿しだした。
兄さんは友達とはいえ、年頃の女子のいる家に男の下宿人はな、とちょっと文句を言っていたが、下宿代を貰えると聞いた私がオッケーした。
だって、お店の改装手伝ってもらってそのままなんだよ。下宿代を冒険者の宿より安くして、ご飯付きにしたら、ちょっとずつ恩返し出来るかなって思ったし。
ーーーーーー
お風呂レンガが八割積み上がった日、夕食の営業が終わって、店じまいの用意をしていると、見た事のない男性が店に入って来た。
「すみません、本日の営業は終了しました。この先のレストランはまだやってますー」
「遅くにすまない。食事じゃ無くて、お願いがあって来たんだ。ちょっと時間をもらえるかな?」
男性はしっかりとした布の服の上に胸当てとガントレットをしている。足元はブーツ。
真っ赤なショートカットに榛色の瞳。中性的な美形さんで、背はそんなに高くないけれど、腕も太くて体がガッチリとしている。
「大丈夫ですよ。良かったら紅茶どうぞ」
「ありがとう。私はレイ、S級の武闘家だ。王都の冒険者ギルドからS級ダンジョンの最深部にアタックする為に来たんだ」
「うわー、強いんですね」
「君も聞いた事があると思うんだけど、この村のS級ダンジョンの最深部に高レベルのジャイアントスパイダークイーンが出現してしまって、ジャイアントスパイダーが増殖してしまっているんだ。このままだとダンジョンの外に上がって来てしまうから、S級冒険者でパーティーを組んで討伐する事になったんだよ。それにね、君にも協力して一緒にアタックして欲しいんだ、E級冒険者のリアン・クレスト君」
「へ?私ですか?ええとレイさん、S級でパーティー組んでアタックするって言いましたよね」
「お前、何やってんだよ!」
レイさんの真後ろに、アルザナさんが現れたと思ったら、レイさんの頭をガッツリと掴んだ。
痛そうと思ったけど、レイさんはけろっとしている。お前って言われてるし知り合いかな?
「ああ、久しぶりだね、不肖の弟よ」
「不肖っていうんならお前の方が「クレスト君、私はレイ・アルザナ。ドーラの双子の兄だよ」
「いやお前何を「ちょっと似てるだろう?目の色とか目の色とか目の色とか」
確かに目の色しか似ていない。あ、でも体がガッチリしているのは似ている。兄のレイさんの方がアルザナさんより一回り小さい感じだけど。
「第一お前兄「いやあ、兄なのに僕の方が大きくならなくってね、ちょっと悔しいよね」
アルザナさんがはあっとため息をついた。
「クレスト嬢に何無茶言ってんだよ」
「ああ、どっから聞いてたのかな?盗み聞きは良くないぞ」
「盗み聞き何かしていない!入り口が開いてただろうが!」
「レディの前で大きな声は良くないよ、不肖の弟よ」
レイさんの言葉に、アルザナさんがぐっと詰まった。
「真面目な話だから邪魔しないで一通り話させて欲しいな。ドーラにもギルドから今回の件で手紙が届いて、この村のギルドでも詳しく聞いてるだろ。ちゃんと全部説明して、クレスト君にちゃんと判断してもらおうよ」
「わかった。クレスト嬢のお兄さんにも話を聞いてもらおう」
四人でテーブルを囲んで改めて仕切り直し。
蜂蜜ミルクが美味しい。
アルザナさんは私が一緒にアタックするというレイさんの話がとにかく気に入らないから、話すら聞かなくても良いって言うんだけど、この村のS級ダンジョンからモンスターが上がって来ちゃったらみんなが困る。
「ドーラも説明が終わるまで邪魔しないって約束したし、安心して話せるね」
爽やかに笑いながら話し始めるレイさんをアルザナさんが睨む。
アルザナさんもいつもの爽やか笑顔だったら兄弟揃って凄い効果がありそうだ。女性のお客さんに。
「この村のダンジョンにS級モンスターが繁殖してしまって、外まで出て来そうなんだ。王都のギルドに不肖の弟から報告があってね、正式にギルドから討伐の依頼が出たんだ。それで私を含めてS級冒険者6人でアタックするんだけど、クレスト君にパーティー参加して貰って、祝福スキルを使い続けて欲しいんだ。冒険者としてはE級だけど、ギルドのスキル精査記録によるとクレスト君の祝福スキルレベルはS級だ。しかも、冒険前にかけたスキルは意識して解除するまで効果があるんだって聞いたよ。クレスト君の加入で、パーティーの安全とクエスト達成がぐっと楽になるんだ。どうだろう、クレスト君の安全は私が守るから、協力してくれないかな?」
「俺が報告したのは村が危険だからであって、クレスト嬢を巻き込むなんて考えて無かった!」
「巻き込むなんて人聞きが悪いな。私達パーティーからのお願いだよ」
「私、冒険中の位置取りが下手なんですけど」
「知ってるよ。体がついていかないんだよね。だから、私が最初から最後まで、背負っていくよ」
物凄い良い笑顔でレイさんが断言した。
そんなレイさんにドーラさんが渾身の右ストレートを放ったけど、レイさんはあっさり止めた。
ーーーーーー
「じゃあ兄さん、行ってきます!」
「兄アルザナさん、可愛いリアンをよろしくお願いします!」
村のみんなも私を心配してぽんぽんと背中や頭を叩いて応援してくれている。
そんな私はレイさんにおんぶ用の背負子を装備してもらって、そこに革ベルトでグルグル巻き状態で座っている。
お尻と背中にはふわっふわのクッション。後ろ向きなので、腰に装備したポーチが膝の上にのった状態になっている。中身は水筒とサンドイッチ。
休憩の時は降ろしてもらうけれど、基本は乗っかったまま大きく動かなければ、歌おうが食事しようが構わないという王侯貴族のような扱い。
あ、王侯貴族は背負子に乗らないか。
でも私がいれば村の為になるって言われてるんだから、どういう参加状態でも頑張って祝福したい!
「不肖の弟よ、私はクレスト君を守る仕事なので、モンスターは責任を持って狩るように!」
「私を背負うより普通に戦った方が良いんじゃないですか?」
「いやいや、本気のS級祝福は一人の力を何倍にもするからね。一番効率がいいんだよ。下手に大勢で挑むとお互いの武器が当たったり、動線に味方がいて攻撃出来ないとかね。私は武闘家だから、武器を持たず格闘で戦うだろ。後ろに君がいても、武器を振り抜く事が無いから一番の適任なんだ。一応気配はずっと気にしているから無いと思うけど、真後ろから攻撃を受けそうになったら言ってくれ。すぐに真後ろを向いて迎撃するから」
「レイさん見えないけどセリフがかっこいいです!」
「僕がカッコいいのは当然です!」
ふふっ。アルザナさんは真面目で優しいけど、レイさんは優しくて面白い。私が怖がらないようにしてくれてるんだな。
素敵な兄弟っていいな。私も兄さんと素敵な兄妹と思われる様になれるといいな。
「リオン、俺が必ずクレスト嬢を守るから」
「あれ?アルザナさんって、A級冒険者じゃなかったんですか?」
「ああ、不肖の弟はS級に上がりたく無いからって、S級の実力があるのに昇級試験を受けないんだ。S級になるとギルド経由で王宮や正規軍の依頼が来るからね。よほどの事がないと断れないんで嫌がってる。今回は自分がアタック中のダンジョンだから、参加を決めたんだよね。クレスト君を自分で守りたいのが一番の動機だろうけど」
「あー、街の人が来てから用心棒さんしてくださってますもんねー」
「ははは。そうだね。さ、行こうか」
魔法剣士のアルザナさん、モンクのジェイドさん、魔法使いのエルレーンさん、重騎士のバルドさん、盗賊のアリステラさん、武闘家のレイさんとその装備の私。
エルレーンさんとアリステラさんは「お腹空いたら祝福しにくいよねー」と言って二人がかりでポーチにおやつを次々詰め込んでくれる。
ジェイドさんとバルドさんは「リアンちゃんを俺たちが庇うんじゃなくて、俺たちの力をリアンちゃんが何倍にもしてくれるんだからな!」「自信持って安全でいられるようにしてくれよ!」「俺たち、S級の祝福をフルで受けて戦うなんて初めてだから、自分がどれくらい強くなるのか楽しみなんだ!」と代わる代わる優しく、それでも真剣な顔で声をかけてくれた。
S級ダンジョンと言っても、表層の敵は弱い。あっという間に25層について休憩をとる。
「S級祝福すげえな!体軽すぎ!」
「一本のナイフが三匹のゴブリンを軽く貫通するのよ!」
「マジックアローの矢の数が倍増してたわ!」
「モンスターの気配とかすごく楽に感じ取れるな」
「グレイトランスが重さは軽くなっているのに、ちゃんと手応えがあるんだ!」
「ずっと座っていると意外と疲れるから、体をよーくほぐしておいてね」
レイさんがニコニコと声をかけてくれる。
パーティーのみんなが優しい。邪魔するなとか要らないとか連れてきてやってるとか、悲しくなる言葉を言わない。
ぽた。ぽたたっ。
私の目から涙がこぼれ落ちた。
「クレスト嬢!具合でも悪いのか?」
いつもは爽やかな笑顔を向けてくれるアルザナさんの榛色の瞳が、とても心配そうに私を伺っている。
みんなが近寄ってきたが、レイさんとエルレーンさんとアリステラさんは微笑んでいた。
「大丈夫です。パーティー組んでてこんなに認められたのって初めてだったから嬉しくって」
女子二人になでなでされまくる私。
バルドさんとアリステラさんもあの状態で平気だなんて凄いぞとさらに褒めてくれる。
すっごく嬉しい!
レイさんが小さな声で「前話してたあの街のB級ダンジョンにA級のモンスター20匹位ぶっ込んでくるか?」とアルザナさんに言って頭を叩かれていた。全く痛そうじゃなかったけど。
最下層。
基本的にパーティーの真ん中で進行方向の真後ろを向いているので、怖いとか感じる前に到着しちゃった感じだ。
後衛のエルレーンさんが魔法を発動させるのと、アリステラさんが矢を凄い速さで放つのがめちゃくちゃかっこいい!
時々二人と目が合うと、ニコッと笑ってくれるから、安心感が半端無い。
「ここまで、私の活躍が全く無いね」
レイさんが明るい声で言った。
「お前が活躍するって事は、リアンちゃんが危ないって事だ。絶対守るって約束しているからな」
バルドさんががちゃん、と重鎧を鳴らして答える。
「けど、そろそろ危ないかもよ。もうそこまで来てる!」
アリステラさんの言葉にみんなの表情が一気に引き締まった。
『きしゃあああああああああ!』
耳をつん裂くような鳴き声に、体がびくっと震えた。
「大丈夫だよ、私がついてる!物理的にも!」
「私の魔法の強さをもっと見せてあげるわ!」
「俺の槍と鎧があれば、どんなモンスターも後ろに抜かせないからな!」
「ちっさい蜘蛛はお任せだよー!全部翻弄しちゃうからねー!」
「神から与えられた拳に貫けぬものは無い!」
自信たっぷりのみんなの言葉に、私の震えは止まった。
ゆっくり目を閉じる。
掌を胸の上に重ねる。
大丈夫、私はみんなを信じて祝福するだけ。
ーーーーーー
「まっぶしー!」
ダンジョンの出口が直ぐそこになった瞬間、ひゃっほーと言いながら飛び出していったアリステラさんがケラケラと笑った。
第一層に着いたときに、背負子から降ろしてもらった私も、出口から差し込む光に目を細める。
「おかえり!エルレーンさんの使い鳥が討伐の成功と、帰還を教えてくれたぞ!」
ダンジョンから出た瞬間、兄さんが私をひょいっと持ち上げてくるくるする。
やめてー。ちびっこじゃ無いからー。
「皆さん、村を守ってくれて、俺の妹を守ってくれてありがとうございます」
「依頼されたクエストをクリアしただけだし、こっちがお願いして連れ出したんだから、お礼を言うのはこっちですよ」
ネクタル酒場のおっちゃんがS級ダンジョンクエストクリアで村が助かったお祝いパーティーだ!今日は料理も酒も酒場からの奢りだー!と叫んで、冒険者のみんなも、村の人も酒場に向かってダッシュする。
「俺も店の卵ぜーんぶ使ってオムレツ作るぞー!」
兄さんも走っていく。
ダンジョンの前に、私とアルザナさんとレイさんが残った。
みんなが楽しそうで良かったな、ダンジョン怖かったけど楽しかったな、ダンジョンが楽しいなんて初めてだな。
くるっと振り向いて、今まで潜っていたダンジョンに向かって手を振る。
バイバイ、だ。
明日からまたオムレツ屋さん。でもダンジョンにアタックする事が楽しい冒険者さん達の気持ちがわかるオムレツ屋さん、だ。
「クレスト君、今回は本当にありがとう。君には無理なお願いをしたけど、ギルドとパーティーを代表して君に感謝を伝えたい」
レイさんが私の前にすっと片膝をついて、左手を胸に当て、右手で私の左手を取って口付ける。
「うきょっ!」
思わず口から出た奇声に、レイさんがあははっと笑って立ち上がった。
「ちゃんとクエスト達成の報酬があるから後でお店に持ってくね」
そのまますたすたと酒場に早足で去っていく。
「うきょきょきょ!」
「クレスト嬢、大丈夫か?」
「あ、あ、あ、手に!手に!男の人がっ!ちゅって!ちゅって!」
「大丈夫!大丈夫だから!」
「あああああああああ!ちゅって!」
「クレスト嬢!あれ、兄じゃ無くて姉だから!」
……?……
へ?
「レイは略称で、本名はレイナ・アルザナだ。S級の武闘家だし、幼い頃から修行で鍛えているからいつも男性と間違えられるが、確かに姉は女だ。クレスト嬢に姉だと伝えようとする度邪魔をするので文句を言ったんだが、レイが女だってわかったら、クレスト嬢が背負われるのを嫌がるから言うなと言われたんだ。黙っていてすまない」
な、なるほど。
「確かに女性と聞いたら背負われるのに抵抗があったと思います。ずっと背負われてたのに、全然気づきませんでした。わかってみると、あれですね」
「いや本当にすまない!」
「え?謝っていただかなくて大丈夫ですよ?黙っていていただいたおかげで、大人しく背負われていて、安全だったんですから。私が思ったのは、わかってみると、よりかっこいいなーって」
「え?」
アルザナさんがぽかんとした顔になる。珍しいな。
「だって、男性でも私を軽々と背負って、最後は蜘蛛にがんがんパンチとキック叩き込んでてかっこいいなーって思ったのが、女性ですよ!もっとかっこいいじゃないですか!」
「そ、そうなのか?」
「そうなのです」
アルザナさんは少し横を向いた。凄く難しい顔になっている。
「ごめんなさい、何か変な事言っちゃったみたいですね」
「いや、違うんだ。ちょっと悔しくて。クレスト嬢から見て、レイみたいなのがかっこいいのかと」
「ん?冒険者さんはみんなかっこいいですよ?特に今回S級冒険者さんは本当にかっこいいなと思いましたもん」
私はアルザナさんの手を取って引っ張る。
「さ、いきましょー!」
「どこに⁈」
「ネクタル酒場で無料パーティーですよ!行かなくっちゃ!」
あ、そうだ!
「少し訂正しますね。今回S級冒険者さんは本当にかっこいいと思いましたけど、A級のアルザナさんはいつも一番かっこいいですよ!」
ふわっと体が浮いた。
あれ?抱っこされてる?
上を向くと真っ赤になったアルザナさんの顔が見えた。
「歩けますし、もうモンスターはいませんが?」
「ずっとレイに背負われていたから、まだ歩くと危ないかも知れないから、酒場まで連れて行かせて欲しい」
なるほど?
ネクタル酒場からはみんなの歓声がずっと続いていた。




