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モンスターウォッ血!!  作者: うぉすれや
3/4

3滴 お嬢様

「やっと片付いた・・・。」


俺は腰をトントンと叩きながらそう呟く。

俺の目の前には大きな倉庫があり、そこには色々なものが詰め込まれている。

俺自身は片付けが苦手なので何でもここにぶち込んでいるだけだが、その後何も言わなくてもちゃんと整理してくれる者たちがいる。

俺にとってありがたい存在だ。


『ベル・・・。何なんだこの女は??』


俺の頭に響く声。シュールのようだ。


「ああ、レムだろ??師匠はもうあったんだな。で、どうだった??」


『声に出すな!!あと、師匠って呼ぶな!!シュールって名前があるんだからな!!』


『へいへい。で、シュール・・・何かあった??』


『何かあったも何も・・・この女・・・ここを乗っ取るつもりだぞ??』


『まぁそうだろうな。付いて来るくらいだから。』


俺の返事に驚いたような声を上げるシュール。


『ベルはわかっていて連れてきたのか??』


『いや、別に。俺についてくる理由は知らないけどな。困っているんだろう??聖教騎士団に追われていたくらいだから。』


『おいおい、ちょっと!!そんな危険人物を家に招くなよ・・・。何なら滅しておこうか??』


いきなり物騒なことを言い出すシュール。


『そういうのはいいわ。今から俺は採取したものを届けてくるから適当に接しておいてくれ。間違っても殺さないでくれよ。』


『ベル・・・まさか・・・研究対象にするつもりか??』


『ははは。研究対象か。それもいいかもな。話のわかるヴァンパイアなんて中々居ないからな〜。』


ヴァンパイアは賢い。

人を操る上に、人より賢いと思っているのか、聞く耳を持っていない。

一方的で会話が成り立たないのだ。


『まぁそれは後で考えておくよ。依頼主に会うのに小奇麗にしてから向うつもりだから。時間を食いそうだ。だから彼女に部屋を用意してやってくれるか??』


『チッ!僕は反対なんだけどね!!まぁ最悪僕が殺すからいいけか・・・。』


『まぁ、最悪の状態になった時はそうしてくれ。』


『最悪っていうのは君が殺されたことかな??』


俺は少し考えて呟く。


『最悪っていうのはそんな生易しいもんじゃないな。』


『自分の死が最悪ではないっていう時点でイカれているよ・・・。』


そう言ってため息を吐くシュール。









俺は街を歩く。まず一番最初に行く所は銭湯だ。

魔物を追って潜伏していたので正直臭う・・・。まさに獣のニオイだ。

あまりに清潔なニオイをさせたまま魔物の観察は出来ない。

だから予め泥などで体を汚してから息を殺して潜み続ける。

気配を絶つ方法の一つだが、それに輪をかけて隠遁魔法や幻術をかけていく。

そうしないと目だけに頼っていない魔物に見つかって襲われるからだ。


俺を見て街ですれ違う者は鼻を摘んで怪訝そうな顔をして俺を見る。

まぁ・・・人にとっては臭いだろうな・・・。


俺は銭湯の前に立つ。そうすると何故か店主が血相を変えて飛んでくる。


「おい!!ベル!!てめぇ!!もしかしてそのまま入るつもりじゃねぇだろうな??」


「ん??あぁ・・・そういうつもりはない。怒るだろ??」


「あったりめぇだろ???そんなきったねぇナリで敷居すら跨いでほしくな!!裏で水浴びてから店に入りやがれ!!」


店主であるジャッシュが顔を真っ赤にして怒っている。


「へいへい。」


ジャッシュに言われるままに店の裏に回る俺。

この街に住み始めてかれこれ6年くらい経つだろうか??

外で観察期間を終えるたびにここに世話になっている。

毎回思うのだが、なぜこいつは俺の来店を察知するのか・・・。

気配察知系のスキルでも持っているのか??


じゃぁぁぁぁ・・・


俺は鼻を摘んだジャッシュの奥さんであるメルサにホースを使って水をかけられる。


「ベル・・・そんなんじゃ女にモテないわよ・・・。女にとって不潔だけは許せないわ・・・。あなたの家にも風呂があるでしょ?入ってきてから来なさいよ・・・。」


眉間にシワを寄せて俺をみつめるメルサ。


「ん〜〜〜。あ〜〜〜。そうだな。まぁ汚いまま風呂に入ると怒るんだよな。」


「じゃぁジャッシュが怒るのもわかるわよね??」


ホースの先を潰していきよい良く水を当てるメルサ。ちょっと痛いんだけど・・・。


「悪かった悪かったって・・・。メイド達が笑顔のまま怒るんだよ。顔を引き攣らせてな。だから入りにくくて・・・。」


石鹸で全身を洗いながら笑う俺。


「メイドに気を使わずうちの店に気を使えって!!」


バケツで思いっきり水を掛けるメルサ。

耳と鼻に水が入って気持ち悪い・・・。


俺はひと通り体を洗った後に銭湯の方に通される。

俺専用の裏庭から男湯に向う通路だ。

真っ裸のままメルサの後を歩く俺。


男湯の勝手口前に到着したら俺に向かって手を出すメルサ。

俺が握手しようとすると


「あなたは毎度同じボケをかますわね。それとも馬鹿なの??服代よ!!」


汚れた服のまま来たので替えがない。だから毎回新品の服を用意してもらっているのだが、メルサの怪訝そうな顔を何とか崩したくて同じボケを続けている。

最初は笑っていたが今ではもっと怪訝そうな顔をされるようになってしまった。


「あなた見ているとあなたのところのメイドさんたちの苦労が見えてしまうわ。私だったら・・・勘弁してほしいわね・・・。」


その言葉に少し涙がちょちょぎれる・・・。




ざざ〜〜〜〜〜〜ん


俺が湯船に入るとお湯が勢い良く溢れる。


「ふへぇぇ〜〜〜。久しぶりの風呂は最高だな〜。」


時間が早すぎたのか、俺の入っている男湯には入っている者は誰もいない。

いるのはデッキブラシで風呂の床をこすって洗うジャッシュだけだ。


「時間外に来て入ってるんだからもう少し遠慮したらどうだ??」


デッキブラシを肩に担いで俺の入っている湯船のヘリに腰を掛けるジャッシュ。


「ん?ありがとね。マジで感謝するわ!」


俺の顔を見て吹き出すジャッシュ。


「で、今回の観察はどうだったんだ??なんかいい物見つかったか??似非学者様!!」


「似非じゃねぇよ!」


「じゃぁお笑い学者様。」


「チッ。」


大声で笑いながら仕事に戻るジャッシュ。

ジャッシュの野郎・・・、気にしていることを言いやがって・・・。


実は俺は魔物学者と名乗ってはいるが、他の魔物学者からは全く認められていない。

論文発表の場に出ても毎回失笑されたり、罵倒されたりして嫌な思いをして帰るだけだ。

まぁ俺の発表を聞いて面白がってくれるヤツもいるといえばいるのだが・・・。

俺の収入源の殆どは発表から発生した権利からではなく、魔物観察の過程で手に入るものを売って得る金銭だ。

俺にはスポンサーが全くついていない。そりゃぁそうだろう。学会から似非の烙印を押されているのだから。だが、運良く俺の発表を面白がってくれた貴族が居て、その貴族が俺に色んな物をついでに採って来てほしいと頼んでくる。それが俺の収入の殆どを占めている。今回のこの風呂もその貴族に会うためのものなのだ。本来なら数日汚い姿のまま屋敷の外で寝るなんてこともあるくらいだが、今回は採取したものを持っていくために風呂に入って体を清めているわけだ。


久しぶりの湯船に浸かるという最高の楽しみを思う存分堪能して俺は散髪屋に向う。

無論、メルサの買ってきてくれた服を来て。


床屋のオッサンの「いつものやつでいいな?」の言葉通り綺麗に散髪してもらい、俺は貴族の屋敷の前に立つ。


「フン・・・似非学者か・・・。」


門番の俺を見る目が道端の糞を見るような眼だ・・・。

なぜ依頼されたものを持ってきたのに門番の態度が悪いのかというと俺の依頼主は貴族の娘なのだ。跡取りでもないとはいえ、娘の所にやってくる小汚い平民の、しかもちゃんと職についていない男がやってきたのだ。いい顔をするわけがない。


門番は通信機器に小声で連絡して俺を嫌な目つきで睨む。


「案内するものが来る。そこで待ってろ。」


案内のものが到着するまでなんとも言えない空気を醸し出し続ける門番。


「おい、似非学者。お前の訪問をトレマーデ様はよく思っていない。サッサと用事を済ませてサッサ帰れよ。」


門番がそう呟くと大きな門が開く。

中から出てきた女を見て門番が飛び上がる。


「カレン様!!何故あなたが??ダメです!!今すぐに館にお戻りください!!!」


慌てて出てきた女の前に立ちはだかる門番達。

俺を見て顔を紅潮させていたのに、女の姿を見て顔を真っ青にしている。


「下がりなさい!!私のお客様です。私が出迎えて何がおかしいのですか?」


門番は女に触れることが出来ないためか前に進む女との距離を一定に保ち慌てふためいている。


「ベル様。お久しぶりですね。あなたが来たと聞いて飛んできてしまいました。」


門番を睨んでいた女の顔が笑顔に変わる。


「カレン様、お元気でしたか??依頼のものをお持ちしました。」


俺は頭を下げる。


「で!!今回は何を??」


カレンは眼を輝かせて俺に近づいてくる。


「あ!!カレン様・・・あ!!その・・・えっと・・・」


門番はあたふたしながらカレンの周りをウロウロする。

カレンはここの唯一の娘だ。門番ごときが触れていいものではない。

門番は制止したくても出来ないのだ。


カレンは俺の手を握って笑顔で屋敷の方に引っ張っていこうとする。


「さぁ!!行きましょう!!ふふふ・・・何が出てくるか楽しみですわ〜〜。」


俺はカレンに手を曳かれながら門番の前を通る。

すると


「チッ!」


舌打ちをする門番。

似非学者よりも身分のはっきりしている自分たちが触れることすら許されないお嬢様が自ら俺の手を握っているのが気に食わなかったのだろう。

だが、その舌打ちを聞いて形相を変えるカレン。


「誰ですか??舌打ちをしたのは??」


カレンの顔を見て身震いする門番達。カレンの顔は誰が見ても美しいと思うほどである。だが、今の顔は鬼と言っても差し支えないほど恐ろしい顔をしている。


「「「「あ・・・あ・・・」」」」


門番たちは震えながら一人の門番を見る。きっと舌打ちをしたやつなのだろう。


「お父様に報告いたします。」


「お待ちください!!カレン様!!」


舌打ちをした門番は地面に膝をついて頭を下げる。


「あぁ〜。すみません。カレン様。舌打ち俺です。」


「え??」

「え?」


カレンと頭を下げていた門番が俺の顔を見る。


「こいつが噛んできたもので・・・。」


俺は持っている袋をカレンに見せる。

モゾモゾ動く袋。


「え??あ!!そうでしたの!!あらヤダ!!ふふふ」


俺を見て笑顔を見せるカレン。


「噛むんですか??その・・・それは・・・。早く見たいですね〜〜。ふふふふふ」


スカートを持ったまま機嫌が良さそうに回転しているカレン。


「貸しイチな。」


俺がボソッと小さく門番に呟く。


「クッ・・・」


悔しそうな顔をして俯く門番。

俺はニヤニヤしながら門番の横を通り過ぎる。

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