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モンスターウォッ血!!  作者: うぉすれや
1/4

1滴 雨の中で

ザァァァァァ


「糞!本格的に降って来やがった。」


野営をしている男は舌打ちをしながらつぶやく。

テントを張って中で何かを書き留める男。


「あぁぁ!!!インクがにじみやがる!!雨のクソ野郎・・・」


少し半べそになりながら鞄に書き留めた紙を押しこむ。


「雨クソ雨クソ!!」


口汚く雨を罵りながら寝袋に入る。



ガサガサ・・・


チキ


外から聞こえる草をかき分ける音。それに気付いた男は刃物を右手に持って寝袋から出る。


パシャパシャ


「野営?」


女の声が聞こえる。男はテントから女の姿を確認してゆっくりと姿を見せる。

もちろん右手に持った刃物を背中に隠して。


「アンタ・・・こんな森の中で何をしている??」


男は体を斜めに構えて間合いを取る。

すると女は


「驚かせてごめんなさい。道に迷ったところを襲われて・・・。」


脇腹を押さえながら男のほうを見る。

女の顔も、姿もしっかりとは見えない。テントの中のランタンの光では女かどうかもわからない。

武器を携帯しているのか??装備の有無は??

男はゆっくりと予備のランタンに手を伸ばして火を付ける。


「俺はベルっていうもんだ。一応魔物学者をやっている身でね。アンタは??」


「私はレム。住んでいる所が襲われて・・・。逃げていたら迷ったの。」


脇腹を抑えたまま、レムはベルを警戒している。


「そりゃぁ災難だな。傷は深いのか??何なら傷薬を出そうか??」


ベルはゆっくりと警戒を解かずに近づく。

目の前の女に気を取られている隙に違う奴らに襲われかねないからだ。

野党や盗賊の常套手段。

女で気を緩んだところを襲いかかる。

しかも今は雨で気配が読み取りにくい。

気配検知スキルで周りを探ってもいつもの精度は出ない。だからこそ警戒しているのだ。


「あ・・・ありがとう。あなたも私を警戒しているでしょうに・・・。」


「ま・・・まぁお互い様だな。その辺りは。誰だって見た者をいきなり信じる奴なんて居ない。まずは警戒が大事だ。」


「ふふふ・・・そうね。」


ベルは傷薬をレムに投げ渡す。

レムは脇腹に傷薬を振りかけてその場に座り込む。


「お・・・おい!!大丈夫か??」


ベルは不用意に駆け寄ってしまう。

レムは驚いて後ろに逃げようとするが、どうやら傷が深いようでうまく動けないでいる。


「ケガっていうのは本当のようだな。テントには入れ。何もしないから。」


「そう言って何かするのが男でしょ??ふふふ・・・ツッ!!」


ベルはレムを抱きかかえてテントに入れる。


「軽い回復魔法ヒールしか使えないからな。・・・何に襲われたんだ??」


ベルは回復魔法を唱えながらレムに聞く。


「たちの悪い奴らに追われているから・・・。」


「俺は外にいるからここで寝てろ。変な奴が来てもとぼけておくから。」


「あ・・・ありがとう。」


ゆっくりと目をつぶってレムは震えている。














レムが現れてからどれくらいの時間が経ったのだろうか?

雨は止み、少し明るくなってくる。


ガサガサ・・・


ベルは刃物を持って揺れるヤブに注意を払う。



ガサ!!


現れる黄金の鎧を着た男たち。その男たちはベルを見て剣を抜いて構える。


「お前はここで何をしている??」


鎧の男たちはジリジリと間合いを詰めてベルに問う。


「俺は魔物学者をしているベルだ。アンタたちは??」


後ろのテントにはレムが寝ている。守る義理はないが、女が弱っているのに放置して逃げることも出来ない。


「お前たちやめなさい。旅の方に無礼ですよ。剣を納めなさい。」


大きな黒い騎馬に乘った一際派手な鎧のものが現れる。篭ってはいるが声は女のようだ。


「は!!メルベール様!!」


鎧の男たちは一斉に剣を鞘に収めて頭を下げる。

だが、ベルは警戒を解かずに刃物を少し下に向けるだけにとどまる。


「騒がせてすまん。今、強力な魔物を追っている。深手を追って逃げているのだが、雨のせいで見失ったのだ。」


「ほう・・・。魔物??強力な魔物??」


魔物学者であるベルはそこに引っかかってしまったようで少し前のめりになって話を聞き入る。


「そうだ。ここから少し離れた場所にかなり前から強力なヴァンパイアの根城があってね。人すらも囲っていたようでなかなか尻尾を出さない賢いやつだ。それを追って我々はここに来たわけだ。なにかそれらしい物はこなかったかね??」


馬から降りずにベルを見下ろす騎士。


「ヴァンパイアねぇ。俺はそれ自体を見たこと無いからな。」


「そうか・・・。ヴァンパイアは見た目は人と変わらない。下級のヴァンパイアであれば眼の色がおかしいとか、日に弱いとかあるわけだが、我々の追っているものはそういう特徴もない女なのだ。傷を負っているはずだから、そういうものが来たなら気をつけてくれ。くれぐれも餌になってしまわないようにな。」


ベルを見下ろしていた騎士はゆっくりと方向を変えて、部下たちに指差す。


「あぁ、それと・・・テントの中の者はあなたとどういう関係ですか??」


テントの中には傷ついた女が眠っている。


「あぁ、テントの中か。私の妻兼助手だ。今は俺が見張りについて、彼女は眠っているところだ。」


「そうですか。夫婦ともども餌にならないように気をつけてくれ。やっと弱らせたのに栄養を取られて回復されては敵わない。我々にもかなりの犠牲を出しているのでね。」


騎士の剣から青白い光が漏れ始める。


「ほぉ〜。聖孔気か・・・。中々のものだな。」


ベルは小声でつぶやく。


「中々のもの??」


小声を聞き取った騎士が歩みを止めてベルの方を見る。


「ん??なんか気に触ったか??」


「いえ。この技術を知っているものがこんな田舎にいるとは?と思いまして。」


「あぁ。俺の師匠も使うからな。」


「師匠??それは我々と同じ信者ということですか??」


「いや、聖教騎士団とは違うな。違う流派じゃないかな??」


ベルは手を前に突き出して黄金に光らせる。


「せ・・・聖孔気・・・?門外不出のはずなのに。」


鎧を着た一団はヒソヒソと何か話をし始める。


「聖教騎士団にも属さずにその奥義を体得するとは・・・。それならヴァンパイアの餌にはならないでしょう。それであなたの師匠とは??どのような方ですか??」


「シュールという名のモサモサの毛深い男だ。」


ベルは師匠の名を出す。


「シュール・・・聞き覚えがない。・・・それでは皆さん行きますよ。」


剣を鞘に収めて馬を前に進める。それに騎士たちが追随する。









聖孔気とは一部の宗教団体が得意とする闘気で、主にアンデッドに有効と謳われている。

体得にはかなりの苦痛と訓練と時間が必要らしく、身につけたものはその団体の騎士として尊敬されるのだ。

一部のというのはこの世界にはかなりの数の宗教団体が存在し、それぞれが得意とする武器に聖孔気を纏って戦うのだ。


「聖教騎士団が彷徨いているとは・・・。嫌なもんだな。」


岩の上に座ってベルは薪に火を付ける。

そして朝の食事の準備にとりかかる。



「おはよう。」


レムはゆっくりとテントから出てきてベルに挨拶をする。


「あ、おはよう。傷はどうだ??」


「え?・・・ええ。おかげさまで。」


慌てて脇腹を押さえるレム。


「そうか・・・。ヴァンパイアか・・・。」


「え・・・ええ。」


女の脇腹には血液のシミすらなくなっている。

あるのは切れ目の入ったローブのみ。


「聖教騎士団の狩っているのはアンタなんだな??」


「・・・。」


「で、俺を食うのか??」


「・・・」


「沈黙はそうだということでいいか?」


「あ・・・いや・・・。その・・・。」


朝飯これ食うか??」


ベルは焼いた卵を皿に置いて小さなテーブルの上に置く。


「あなたは私が怖くないの??」


「ん〜〜〜。まぁ怖いことは怖いな。といってもこれがあるから一方的にやられるってこともないと思うんだが・・・。」


アンデッド相手に普通の武器は通用しない。

効果があるのは聖なる武器や聖水、そして聖孔気。

ベルは手に聖孔気をまとってレムに見せる。


「あなた・・・どこかに属しているの??」


顔色を変えて身構えるレム。


「いや。無宗教だな。あんなもんに属してもいいことがない。故郷はビスコマール教が主だったが、俺はそれにすら属していなかったからな。礼拝とか面倒だろう??」


「じゃぁ・・・なんで??」


レムは身構えたまま動かない。


「これは俺の師匠に教わったものだ。魔物を研究する上で必要なものは身につけているつもりだからな。」


「それで・・・回復魔法ヒールも・・・。」


「そういうことだ。状態異常回復魔法も使えるぞ。火をおこすこともできるし、水を出すこともできる。野営に必要なものもしっかり習得している。じゃないと死ぬからな。」


モゴモゴと話をしながら朝食を口にし続けるベル。


「で、アンタはこれからどうするんだ??」


「わ・・・私は・・・」


「助けてから言うのも何だけど、人を食って力を取り戻すって言うなら俺は見逃せないぞ。俺のせいで全く知らない善人を殺されるわけにいかないからな。」


「じゃぁどうするの??聖()騎士団につき出す??それともそれで焼き殺す??」


「ん〜〜〜。約束してくれうrならそこまではしないかな??」


「いやよ。私は自由に生きるの。食いたい時に食って、やりたいようにやる。だから・・・。」


ゆっくりと後ろに下がろうとするレム。


「おっと。動かない。約束せずにこの場から離れることはさせないからな。」


ベルは聖孔気をまとわせた刃物を女の逃げようとした方に投げる。その刃物は女のすぐ後ろの木に突き刺さる。


「く・・・」


レムが木に刺さった刃物に気を取られている隙にベルは間合いを詰めてレムの首をつかむ。

そして掴んでいる首に聖孔気を充てがう。


「う・・・」


レムは苦痛に歪んだ顔をする。


「もう一度言う。約束しろ。人を襲わないと。」


「む・・・無理でしょ?あなただって・・・食事を取らずに生きるなんて・・・。」


「文献では人を食わなくても生きていけるとあった。」


「それじゃ、力を失うわ・・・。そんなことになったらいつか誰かに殺されて・・・。」


「これが最後だ。それでも約束しろ!!食わないと。約束できないならこのまま聖孔気で焼き殺す。」


短い時間静寂が走る。


「じゃぁ・・・じゃぁ何で助けたの??騎士が来た時、あなたはその話の魔物が私と気づいたはずよ?なんで??」


「そ・・・それは・・・」


ベルの頭の中に過去の記憶が蘇る。


最愛の妻と過ごした日々。そしてそれを失ってしまったあの日のことを。


「あなた・・・ごめんなさい・・・ごめんな・・・」


胸の中で涙を流しながら死んだ妻とヴァンパイアであるレムの顔が重なる。





「それなら俺の従魔になれ。そうすれば血液は俺のものを分けてやる。ランクの高い陽の光にも動じないアンタなら要求される血液も少ないんだろ??」


ヴァンパイアにはランクがあるらしい。

成りたてや発生したてのランクの低いヴァンパイアから称号を持ったヴァンパイア。

そして陽の光を受けても消滅しない高ランクのヴァンパイア。

ランクが低ければ低いほど同じ姿の種族の血を多く必要とするらしい。

ただ、文献の内容だけの話だから真意はわかっていない。


「た・・・たしかに・・・私は月に数滴の血液で十分だけど・・・従魔なんかになったら・・・縛られるじゃない・・・。そんなの嫌よ!!」


美しい顔を歪ませて提案を拒否するレム。


「じゃぁ仕方ない・・・。」


右手で首を掴み、左手にも聖孔気を纏ってレムの心臓を突く構えを取る。


「クッ・・・」


目を瞑って観念したように右手を掴んでいた両手を離して力を抜くレム。


ドサ!!


ゲハゲハ!!


レムの首から手を放して、拳を強く握るベル。

地面に尻餅をついて咳き込むレム。


「俺の目の付かないところにさっさと行ってくれ!!クソ!!」


ベルは悔しそうな顔をしてレムから離れてテントをたたみ始める。

ベルを見つめながらレムは焼け焦げたようにただれた首に回復魔法を掛ける。


「自力で魔法を使えるんだな。」


「・・・あの時はもうすっからかんだったから。寝て少し(MPが)戻ったからね・・・。」


テントを綺麗にたたみ、野営の痕跡を片付けるベル。

それを一部始終見つめるレム。


「なにやっている?さっさとどこか行ってくれ。できればこの辺の街で騒動は止めてくれよな。」


ベルは荷物を抱えて獣道を進む。

その後ろを少し離れてレムはベルについて歩く。








森を抜けて少し歩くと大きな街が見えてくる。

街に向かい、街の中に入るための門に向かうと思われたが、街を囲む高い外壁に沿って歩くベル。


「ちょっと・・・どこいくのよ??」


後ろからベルに声を掛けるレム。


「あぁ??家に帰るんだよ。」


「家って・・・そっちは街に入るところがないでしょ??」


「俺の家は街の中にないんだよ!色々置いているから街には属せないんだよ。」


「色々おいている??属せない??」


「街とは行き来できるんだけどな。俺は魔物学者だからそういうものを色々飼ったりしている。だから街では中々そういうモノを保管できないわけだ。だから少し離れた場所にある屋敷を根城にしているんだよ。」


「ふ〜〜〜ん。」


ベルの後を歩くレム。


「何でついてくるんだ??」


「別に・・・。向う先が一緒なだけだけど??」


「そうか、なら先を歩いてくれ。」


立ち止まってレムが抜くのを待つベル。


「ごめんなさい。あなたについて歩いています。」


「なんのために?」


「行き場所がないのよね。だから。」


「もしかして俺の屋敷に住むつもりなのか??」


「助けたんだから責任持たないと。」


「はぁ??」


「人襲っちゃダメなんでしょ??監視しなくていいの?」


「どこにでも行けばいいだろう??遠くでなら人を襲おうと食おうと知ったことじゃない。後は聖教騎士団に任せるだけだからな。」


「助けておいてひどい男。ちゃんと面倒見なさいよ。」


ベルの後を歩きながら少しずつ距離をつめる。


「あぁ!!あれね??大きな屋敷ね!!」


見えてきた屋敷に向かって走りだすレム。


「あ!!待て!!!」


レムの後を追うベル。だが、荷物も持っているベルはレムに追い付くことが出来ない。



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