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第21話-1 本当に濃厚な接触

直接的には、第4話「咀嚼するソーシャル」と第14話「私たちの3密」の続きになります。

 そこは体育館であって体育館でない場所。

 誰もがいて、誰もいない場所。

 吹奏楽部の奏でるG線上のアリアが荘厳な雰囲気をつくり出していた。



「私たちの文化祭が、いよいよ始まったね」

 生徒会長の宮川朋夏(みやかわともか)が副会長の国仲亜理紗(くになかありさ)に声を掛ける。

「そうだね。大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。できることはちゃんと全部やったし、あとは大井(おおい)くんと中川(なかがわ)くんが何とかしてくれるでしょ」

「会長がそんな人任せでいいの?」

「いいの、いいの。自分で何でもできるなんて思うのは、おごりだよ」

「それはそうかもしれないけど……」

「いいんだよ」

 なおも不安そうな亜理紗に朋夏は言葉を重ねる。

「休校中にみんなと会えない期間が続いて、余計にそう思うようになったんだよね」

「そっか、なら私も朋夏の言うことを信じるよ」

 亜理紗はヘッドセット越しにそう返すと、ノートパソコンの画面に目を落とした。



 文化祭は5月半ばに開かれていた。

 学校再開の2日前だから、当然学校には集まれない。

 それでも何とか文化祭をしたいと願った朋夏たちはネット上に仮想空間を作った。

 その空間では、生徒たちはアバターを動かすことで現実の文化祭と同じように出し物を楽しむことができる。

 出し物を提供する側もそれぞれの自宅から参加していた。

 追悼の意を込めてG線上のアリアを演奏する吹奏楽部の部員たちも例外ではない。

「これは絶対にやりたい」と主張する朋夏に、文化祭の技術的な部分を統括する中川岳(なかがわがく)は「リアルタイムで音をつなぐなんて絶対に無理」と反論した。

 けれど、最終的には「大丈夫だって」と朋夏がごり押しし、岳は本番前の2日続けて徹夜するはめになった。

 結果、見事な演奏が実現した。

 朋夏はヘッドセットを耳に押し当て、「やっぱりこれは必要だった」とつぶやく。

 その声に亜理紗が反応する。

「朋夏、そろそろ出番だよ。準備できてる?」

「もちろん大丈夫だよ。私はいつでも準備できてるよ」



 吹奏楽部の演奏が終わると、拍手が鳴り響いた。

 もちろんその音も仮想のサウンドエフェクトに過ぎないのだけれど、朋夏の胸には熱い思いがこみ上げてくる。

 こうして全校生徒が集まることは2カ月以上なかった。

 アバターの顔は本物ではないけれど、拍手に込められたみんなの気持ちは伝わってくる。

 心がつながっていることを感じられる。

 あぁ、やっぱり私は寂しかったんだと、朋夏は深く実感する。

 目頭が熱くなってきたことに気付いて、両手でパチンと頬を叩いて気持ちを切り替える。

「変な音がしたけど、どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

「そう? じゃあ挨拶に移るよ?」

「うん、お願い」


 参加者に届くマイクの音声が朋夏と亜理紗のものに切り替えられた。


「オープニングの演奏に続いて生徒会長の宮川朋夏があいさつします」

 亜理紗の声に続き、壇上に朋夏のアバターが登場し、頭を下げた。

 朋夏はマイクを手で押さえ「大丈夫」と漏らしてから小さく息を吸う。

 湿っぽい空気なんて誰も望んでいない。

 だから、底抜けに明るい声を出す。

「みんな、久しぶりーっ。元気だったー?」

 拍手に混ざって誰かがクラッカーを鳴らすと、笑い声が沸き上がる。

 これでいい、間違ってないと、朋夏は頷(うなず)く。

 だって、後悔したってしょうがないから。

 きれいごとなのかもしれない。

 無理やりに自分を納得させようとしているのかもしれない。

 けど、それでも、前に進むためには笑っていなくちゃならない。

 そのために、みんなに無理を言ってこの文化祭を実現した。

 だから、次に言うべきことは決まっている。

「今日はみんなで精いっぱい楽しもうねー」

 再び拍手が響くと、朋夏はマイクをプライベートチャットモードに戻した。



「亜理紗、私、大丈夫だったかな? 変じゃなかったかな?」

「変なところなんて全然なかったよ」

「みんなちゃんと楽しんでくれるかな?」

 亜理紗は、朋夏の声がかすれているのに気付く。

 普段能天気そうに振る舞ってみせるこの子も、やっぱりつらかったんだろうなと、思いを巡らせる。

 こんなに長い間孤独を感じる体験をするなんて誰もしたことがないのだから、無理もない話だ。

 けれど、この生徒会長はすごいことをやってのけた。

 学校が再開する直前に開かれたこの文化祭はきっと、これから大きな意味を持つ。

 休校でぽっかり空いた心の穴を埋めることまではできないけれど、新しい学校生活を始めるみんなの心を一つにするきっかけにはなるはずだ。

 そんなことを実現した朋夏には笑っていてほしいと、亜理紗は願う。

 だから、朋夏の口癖を真似することにした。


「大丈夫よ」


 一瞬の逡巡の後、朋夏は応える。

「……そっか。良かった」

「だから、私たちも文化祭を楽しもうよ? 回れるだけブースを回るよ?」

「うんっ」

 亜理紗の脳裏には、モニターの向こう側で笑っている朋夏の姿が浮かんだ。

ここから完結に向けて話が収束していきます。

1点でも2点でもポイントを入れてもらえたら、嬉しいです。

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