月初の会議
衝撃的な目覚めから1日が始まった。
洗面所で顔を洗い、キッチンの棚にあるパンをだしトースターで焼く。
焼き上がるまでテレビを見る。
最近はずっと魔獣のことばかりでつまらない。もっと、エンタメとか、国際情勢とかをやってほしい。
そんなことを思いながら見ているとパンが焼ける。
それを取り出し、急いで食べる。サクサクしていてポロポロと落としてしまうが、構わず食べる。
食べ終わって、自分の部屋に入り制服に着替える。寝巻きをハンガーに掛けて家を出る。しっかりと鍵を締めて。
車で、署に向かう。
署の駐車場へ着くと早速会議室に向かう。
会議室に入ると萩原時雨が先に座っていた。
「A班はこっち」
手で仰ぎ促す。
「ありがとうございます」
光希は時雨の横に座った。
会議室の机は通路を開けて6列あり一列10台で、一台につき5人座れる。
A班は入り口から6列目の前から2台使える。
隊員が次々と会議室に入ってくる。その中に沢村大樹がいて、目配せをする。
各隊長は出席隊員が揃ったら前にいる議長に知らせにいく。
「出席隊員が全員揃ったため、少し早いですが、議会を開始したいと思います。まずA班、今月の活動内容を報告してください」
時雨が、資料を読む。
「A班では、新人を3人加え、小型動物型魔獣を256件、大型動物型魔獣を52件、人型魔獣を2件討伐しました。人型魔獣は1件、由月と名乗る者は逃してしまいました。班員の一人が被害を受けて、昏睡状態にあります。大きな人型とも言い切れない魔獣とも遭遇しましたが、遭遇した光希によると、人語をしゃべれていたらしいので、人型だと思います。タコと人間が合体したような姿の魔獣とも遭遇しました。そいつらは無事討伐できました」
時雨は資料を読み終わると、A班の内容が書いている資料を下にして、B班の情報の書いてある資料を上にする。
「ありがとうございます。次にB班お願いします」
「はい、B班は新人を1人加え、小型動物型魔獣を105件、大型動物型魔獣を15件、討伐しました。人型魔獣はA班の由月の件と同じです」
「ありがとうございます。次にC班お願いします」
「C班は小型動物型魔獣を115件、大型動物型魔獣を36件、討伐しました。人型魔獣はA班の由月の件と同じです」
「ありがとうございます。次にD班お願いします」
「D班は小型動物型魔獣を56件、大型動物型魔獣を85件、討伐しました。人型魔獣には関与していませんが、一体も逃がしてはいません」
「あ?」
D班の報告に最後に余計な一言を加え、班員で嘲笑した。それに大樹が反応する。「くそどうせあの場に居てもなにもできなかったくせに」と小さく呟く。
最後のG班まで終わると、議長がまとめる。
「小型動物、計1129件、大型動物、計513件、人型魔獣は計6件でした。」
「ん?、待て。A班とC班の隊員が遭遇しました魔獣って確か病院だったなぁ?なぜ、病院に入ってこれたんだ?」
「確かに。あそこには膜が張っているはず」
各班の班長が報告を終え議長がまとめようとした瞬間、他の班員に質問が投げつけられる。
隊員には膜と呼ばれている電動バリアで、正式名称対魔獣不可視隔離壁だ。それが重要な建造物の周りには設置されている。
設置されているのにも関わらず、大型魔獣が病院内に居たのか。
「膜ってなんだ?」
「膜というのは、人には害がないのですが魔獣が触れると消滅してしまうという結界みたいなものです」
隊員の質問に副会議長が答える。
「てか、それを日本の周りに張ればいいのでは?」
「いえ、隔離するだけなので閉じ込める、又は侵入を妨害する役目しかないんですよ」
「じゃあ、病院に現れるのは当然なのでは?」
「いや、病院は普通の建物より格段に多い量を使っていて安全地帯は各1c㎡しかないから入った瞬間に消滅しちゃうよ」
はじめに質問をした隊員が否定する。
「じゃあ、なぜ光希はあそこで魔獣と?」
「膜が一時的に作動していなかったか」
「───若しくは誰かが意図的に切ったか」
副会議長が言った言葉を、光希の隣の時雨が受け継ぐ。
光希は時雨を見る。大樹は座ったまま足を伸ばし、ポケットに手を入れつまらなそうにあくびをした。俯く隊員もいる。
「では、先月の報告を終え、次に今月の方針に移りたいと思います」
少しの沈黙を挟み会議長が進行をする。
「討伐部は被害者を減らすが、隊員も安全性第一に考えること、研究部はゲート、魔獣の詳細解明を目標に活動をしていきたいと思いますが、何か他に提案はありますか?」
隊員に投げ掛けるが、反応はない。
「ということで、今月の月初の会議を終わります。各自活動に移ってください」
パラパラと会議室を出ていく。
次々に出ていく中、こちらを覗く人物が居る。───副署長の『岩本峻曁』だ。
光希と目が合い会議室を出る。
「お久しぶりです」
岩本に会釈をし、挨拶をする。
「久しぶり、光希くん。署長が、呼んでいるから来て」
「あ、はい」
眉間に皺を寄せ、渋々ついていく。
署長室の前に着いた。岩本の後ろに着いて署長室に入る。
「失礼します」
「───」
岩本は敬礼をして、光希は何も言わず入っていく。岩本は右側に寄り、扉を閉め光希と横隊に並ぶ。
署長は窓の外を見て、こっちに顔を見せない。逆光で暗く影になっている。
「久しぶりですね、俺が隊に入ってから一度も顔を見せてくれなかったじゃないですか。やっぱり、母さんのことですか?」
「悪いと思ってるよ。実の息子に顔を見せたくなかったのは、光希の言った通りだが、それだけではなく焼けて醜い顔を見せたくなかったからだ」
署長はブラインドを閉め、光希と向き合う。その顔の左目の周りがやけどで爛れ、隻眼となっていた。
「で、用とはなんですか」
光希はその事には触れず、本題に入る。
「それは、光希には私の様になってほしくない、だから隊を辞めて欲しい」
何を言い出すのかと思えばあり得ない言葉が目の前の人口から出た。
一瞬、光希は目を見開く。そのまま踵を返して扉の方へ向かう。それを岩本が腕を掴み止める。光希はその方を睨み付ける。岩本は首を振り、顎と視線で前を指す。
「彼女の仇を討ちたいのはわかる。だが、それは自分の命にも危害が及ぶ。もう身内を失いたくない。彼女も目が覚めて光希がいなかったら悲しむと思う」
「辞めねぇよ。俺は唯愛の仇を討つ。泰羅さんと約束したから。あんたみたいに逃げたくはない」
「そうか」
署長は天井を見上げ、光希は部屋を早々と出ていく。
「龍毅さん、いいんですか?」
「あいつが決めたことだ、もう口出しはしない。あと、署内では署長と呼んでくれ」
署長室から出て歩く光希。やはり鼻につくのは周りの目だ。署長の息子だから「驕ってる」だの「いいところに配属された」だのと陰で言われている。気づいてるのだから、陰ではないのかもしれないが。だが、実際はそうではなく実力で勝ち取った居場所なのだ。
3階に下り食堂でアイスコーヒーを飲む。
「やっぱりアイスコーヒーっすか、先輩」
「なんか背中が寂しそうでしたよ」
話しかけてきたのは1期後輩の301期の宮村と中崎だ。二人とも男で、この二人は光希を完全に舐めている。
「いつも二人でいるのな」
「えへへ」と笑い、図々しく二人は向かいに、中崎は隣にすわる。
「あぁ、大丈夫です、すぐに立つんで」
「そうそう。で、本題に入るんですけど」
先に話した宮村に続き中崎が話す。
「本題?」
露がコップ伝い、中の氷がカランとなる。
「そうそう」
「あの、膜の機能、オフったの先輩でしょ」
「は?違うよ?なんで?」
「ま、違うならいいんですけど」
宮村は机に手をつき立ち上がる。中崎は体をひねり、足を机から出し立ち上がる。
「ま、気の毒ですけど、頑張ってくださいね」
そう、中崎が言った。そのまま宮村のあとについて、去っていった。
「生意気な後輩だね」
「うぉっ!」
立ち去る宮村達の背中を見ていた光希を不意の声が驚かせた。
左胸を触りながら、声のしたほうを向く。声の主は、沢村大樹だった。
「そんな驚くことないじゃん」
「音なく寄られたらビックリするよ」
肩で息を切らせながら答える。
「てか、何か用がありげだけど?」
「お!さすが!久しぶりにゲーセン行こうよ」
「気晴らしにってこと?」
「うん」
「えー、いいよ!」
「おっしゃ!」