信頼関係
署に戻ってきた光希はすぐに会議室に向かう。会議室は実験室の向かえにある。駐車場の近くのエレベーターにのり、3階のボタンを押す。ベルがなり、「3階です」と機械音声が階を知らせる。開くとそこは実験室で円筒の中に弱った人形の魔獣がいる。拘束する鎖を操作する台を叩き、怒鳴りつける研究員の声に驚きながら、向かいの会議室に入る。会議室の扉は講演室と同じ扉で、中に入ると大学の教室のような、長机に椅子が並べられて、横5列、縦25列の広い空間だ。前にはホワイトボードと3Dプロジェクターが置いてある。
部屋には大樹とあと数人隊員がいる。
「お、光希、来たか。これ時雨さんから、光希に渡しとけって」
萩原時雨から大樹を経て受け取ったのは二つ折にされた1枚の紙だった。そこには『至急大浜に来い。大きめのゲートが開かれた』と、記されていた。
大きめのゲートならきっと由月の情報を持った魔獣が現れると思い、光希の気持ちが逸る。
手紙を読んだあとすぐに出動しようと後ろを振り返る。が、大樹に腕を掴まれる。
「おい!待てよ。その体で行くのかよ。自分の攻撃でできた傷もまだ癒えてねぇじゃん。っていうかさっきできた傷だから癒えるわけねぇけどよ。少し休養を取ったらどうだ?隊員だってたくさんいるから……支障を来さねぇと思うぜ」
大樹は光希を巻かれた包帯が見える胸元を指差し諭す。が、光希は一ミリも表情を変えず大樹の腕を振りほどく。
「俺さ泰羅さんと約束したんだ」
下を向きながら話し出す。
「いずれきっと、いや絶対、唯愛をあんなんにした魔獣を倒すって。泰羅さんの娘さんもあいつにやられてまだ眠ってるみたい。唯愛の病室のとなりだってさ。絶対敵をとらなければならない。そう二人で胸に誓ったんだ。だからこの戦いにもいかなければならない」
「それは───」
「それにさ、もう、討伐隊は、信じられないんだ」
途切れ途切れに口に出す。
「病院でも遅かったし、この職は一秒の遅刻が一つの命を奪ってしまうかもしれないだろ?きっと、今居る隊員は安定した給料目当てなんだなって、偽善で人の命を守ってるんだなって、そう思うことしかできなくなっちゃって。もう信用できない」
自分の発言を遮られた大樹は「それは!」と怒鳴り続ける
「お前が敵討ちにいかなければならないのか?他にもいるだろ?お前が無理して、そして唯愛さんみたいに……なったら……」
「俺しかいねぇだろ!他の隊員は信じられないんだって。それに唯愛みたいになって唯愛の隣で眠れるならある意味本望なのかな」
後半は微笑んでいった。
「お前……」
光希は行く寸前で話しかけられ「ん?」と
「どうしちゃったんだよ。お前、変だぞ?唯愛さんが寝ちゃってから人変わってるぞ?唯愛さんと寝ることが出来れば本望だとかいってたけど唯愛さんそんな事望んでないと思う。何のためにお前を守ったんだ?強がって、それで眠りに就くだけで済むのか?」
「ごめん。でも、俺は行く。情報が必要なんだ」
光希は大樹を背にして部屋を出る。大樹はもう止めない。きっと諦めたのだ。行くと言って止まない光希を好きにさせようとしたのだ。
光希は走って更衣室に向かう。
会議室を出て廊下を左に曲がり。講義室の前を通り、食堂を左に曲がる。突き当たりを右に曲がると右手にある扉が更衣室だ。中に入り穴の空いた服を脱ぎ隊服に替える。
着替えたあとすぐに駐車場に行き自分の車に乗り大浜へ向かう。