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別世界魔獣討伐部隊  作者: のり(バリトン吹きの少年)
2/10

強敵

 説明会が終わり、本部の食堂で唯愛(ゆあ)と一緒に休憩をしていた。


「疲れたぁ、何で俺なんだよ」


「光希を信頼してるからよ」


「ほんとかなぁ、便利屋として使われてるだけのような気が…」


「使われるだけましよ。使われなくなったらもう終わりじゃない?」


 二人同時にコーラをストロー越しに飲む。目が合い「ふふっ」と笑う。

 置くのも同時だった。置いた瞬間───


「よっ、イチャイチャ中すまんなぁ。暇だから話でも聞かせて。あぁ、聞くだけだから」


 何食わぬ顔で座ってきたのは、光希の幼なじみで、無理やり討伐体に入れた、沢村(さわむら)大樹(だいき)だ。無神経な性格で、たまに腹立つことがある。でも、信頼できる数とも友達の少ない一人だ。


「は?なんで?むり」


「いいじゃぁん」


「沢村くんはさっきまで何してたの?」


「いいよ、こんなやつ相手にしなくて」


「は?最近、俺に対する当たり強くね」


「そらなぁ、あんなことがあればお前に対する当たりも強くなるよ?」


「あんなことで?!待ってどんぐらい嫌い?」


「んー雌のカブトムシぐらい?」


「ビミョーだなぁ。それって(むし)ろす───」


『緊急出動命令、緊急出動命令。東区Aの2、dの2の位置にゲート出現。A班、B班、C班、L班、M班、の五班は直ちに向かいなさい、繰り返す──』


「は?いきなり過ぎんだろ」


 繰り返される放送を聞きながら、話を遮られた大樹が言う。光希と唯愛はB班、大樹はC班。ここにいる三人は出動しなければならない。

 

「まぁ、こっちの様子を伺ってくれるなら苦労はしないよ」


 光希と唯愛は落ち着いた様子で立ち上がりロッカーのある更衣室に向かって走る。


「なんで、落ち着いていれんだよ…」


 それに続いて大樹も立ち上がる。


 着替え終えた隊員達が駐車場へ走っていく。

 その人の波に逆らって行く。

 更衣室に入ると、もう数人しかいない。そのなかにA班班長の萩原(はぎわら)時雨(しぐれ)が居た。


「おぉ、熱々カップルとプラスアルファやっときたか」


「なんすか、そのついでみたいな言い方」


「そんなことどうでもいいんだ」


 時雨の雑な扱いに大樹は「なっ」と声がでる。

 三人ともロッカーの前に立ち、着替えながら話を聞く。


「今回は自我がある厄介なやつだ。一気に攻めるため、下層は付けない。あと、大型車両で行くから」


 下層とは隊の位のことで、『(たみ)』の位出動することができないということだ。


「了解」


 三人同時に返事をする。

 肩に付けられた無線からは「A班は市民の避難誘導に当たってくれ」との指示が。

 着替え終えた四人はすぐに駐車場へ向かう。

 班別に車両に乗り込む。なので大樹とはここで一度別れる。


「遅れてすみません」


 入り口の方に三人座る。

 揃ったところから行くので、L班から出動したらしくもう車がない。その次はA班、B班、M班、C班の順で出動した。

 ここまでの時間、通報があってから2分。

 通報のあった東区は署から1分ほど飛んだところにある。東区の公園の前の広い道路だ。上空に行くともうL班が討伐を開始している。今回討伐する『魔獣』は人形(ひとがた)らしい。


「唯愛、飛び降りよう。失礼します」


 扉を開けた光希はそのまま飛び降りる。


「うん。地面に開いてくれるなんッて」


 唯愛はそういうと、光希に続いて飛び降りる


「ありがてぇなぁ」


「大樹?!」「大樹くん?!」


 大樹も一緒に落ちていた。

 大樹の武器は木の杖。その杖からいろんなものを出す。

 唯愛の武器は銃。銃のマガジンを変えることによって、放射できるものが変わる。

 光希の武器は刀。刀身に自分の属性を纏ったり、相手の属性を纏うことができる。


「唯愛!拡声器!」


「はいよ!」


 ポケットの中からマガジンを赤色を出し変える。


退()いてくださーい」


 ハンマーから声を入れると声が大きくなる。

 人の形をした『魔獣』は上を向き、隊員は後ろに飛ぶ。


「『瞬間成長 樹木』」


 大樹は叫ぶと杖から小さな種が出る。すると杖から出て3秒ほど経ってから、パキパキと音をたてながら上下に幹が伸びる。


「『火ノ(まと)い』」


 光希がそういうと火が刀身に纏う。その刀で幹に触る。幹に火が着く。幹は破裂音を出しながら瞬く間に灰になっていく。木が導火線となりその火が『魔獣』に飛び、火達磨になる。魔獣はホログラムになり消失した。

 三人は両足で軽やかに着地した。他の隊員は、車が降りてくるまで、乗車したままだ。


「おい!遅いぞ、一秒の遅れで死者が出てしまうかもしれないんだぞ!」


 L班の班長、谷合(たにあい)隼汰(はやた)が怒鳴りつけてくる。


「もう死者が!」


 その発言に唯愛が驚嘆する。


「何人出ましたか?」


「まだ出とらんが、出てしまうかもしれないということだ!」


「っるせーな」


 大樹は小声で、文句を言う。

 ゲートの中から人影が見える。


「いやぁ、さすがだねぇ。こんな町中に開いても、容赦なく消し飛ばしちゃうなんてねぇ。たくさん用意したのに、もうなくなっちゃったぁ」


「人語をしゃべれるだと」


「最悪だな」


 他の隊員が言う。ゲートから出てきたのは、自我をもった、人語を話せる『魔獣』だ


「最悪か?そうか、でも、僕はなにもしていない。仲間になろう。友達になってはくれないか?」


「なにもしないと約束するか?」


 光希がいう。


「それが無理なんだ。自分でも力を制御できないんだ」


「それでは、友達になることはできないよ」


 唯愛が答える。


「そうか、残念だ」


 手を空に掲げる。そのまま隊員の方に向ける。その手から一本の光が放たれる。直感で三人は避けた。だが、隊員の一人が遅れ、顔面で受けてしまう。光の放射が終わる。受けた隊員の首が蒸発してなくなっていた。受けた隊員は前に倒れた。そしてホログラムとなって消えてしまった。

 受けてはいけないと、瞬間的に理解した。


「くっ、光に当たらずに攻撃できるのか?」


「やるっきゃねぇだろうよ!『(ほむら)の壁』!」


 杖から、火が出る。動かして炎の壁を作る。


「大樹の属性は火だっけ!?」


「お前のその燃え盛ってる、刀からもらったんだよ」


「あぁ」


「見えないじゃないか」


 そういうと『魔獣』はてから光を出す。すると火が固まりホログラムとなって消える。


「あぇ?」


 光希が、あとも、えともつかない間抜けな声を出す。


「来いよ、偽善者ども」


 そう啖呵を切った。


「望むところよ」


 唯愛が銃を向ける。トリガーを引くと、弾丸が放出される。弾丸は『魔獣』の目に向かって飛んでいき、目の前で破裂した。

 それに驚き『魔獣』は腕で顔を覆う。弾丸から出てきたものは、小麦粉だ。そこに、光希は火の纏った刀を振るい、着火する。粉塵爆発だ。そこへ唯愛は本物の弾丸を打つ。弾丸は脳天目掛けて飛んでいく。額に風穴開けられた『魔獣』は脳を猛回転させ状況を読み取る。


「ゴホッゴホッ、目眩ましかと思ったが、急に爆発して、火炎の中を弾丸を額を狙って当てる。すごすぎる。人を守るって大変だもんね」


 『魔獣』は手で煙を払う。そして頭だけホログラムにして再生する。当たり判定がなくなった頭のなかに入ってた弾丸が落ちる。『魔獣』は弾丸を踏みつける。


「ったく、なにもしねぇのに、敵扱い。まったく、先入観に囚われすぎじゃね、なぁ!腹が立ったわ。とことん敵になってやんよ」


 後ろにある芝生に手をかざし光を放つ。するとそこに居た虫たちは巨大化した。


「この能力、すげぇだろ、なんでもできるんだ」


 『魔獣』は自分の能力を自慢し、笑みを浮かべる。

 巨大化した、蟻が唯愛に噛みつき投げ飛ばす。


「唯愛!」


「『火の玉』!」


 光希が結愛の名前を叫ぶと同時に、唯愛がマガジンを変え、弾を打つ。

 発砲音がしてから一秒後弾丸に火が纏い、球体になる。その火の玉は蟻に当たり、蟻は焼け死んだ。


「ごめんね、蟻さん」


 唯愛は着地しすぐに蟻に謝罪した。蟻はホログラムとなって消えていった。

 次は巨大化した蜈蜙(むかで)が倒れてくる。


「唯愛!危ない!」


 唯愛を横から抱き、一緒に避ける。


「ありがと…」


「ごめん!タイミングと方向ミスったぁ」


 照れながら言う唯愛の次に大樹が駆けつけ、謝る。蜈蜙はホログラムとなって消えていった。

 唯愛を下ろし、『魔獣』と対峙する。


「遅れてきたわりにやるなぁお前ら」


「早く来たわりになにもしてないっすね、あんたら」


 隼汰の煽り口調に光希が反論する。こいつらは巨大化した蝶や天道虫を倒しただけだ。

 大樹が『魔獣』の方へ突進する。


「大樹くん!」


「無闇矢鱈に突っ込んで来るとは、馬鹿だなぁ本当」


 『魔獣』は大樹目掛けて光を出した。光が大樹に当たる。すると当たった所から二つに別れる。

 杖の先に細い盾を付け二つに割って居た。


「おぉ、少しできるか不安で怖かったけど、よかったぁ」


 近づくことができた大樹は顔を横から拳で殴打した。


「じゃあな」


 横に倒れた『魔獣』に向けて杖の先から岩を生成する。その岩で下敷きにした。が、岩を砕き砂塵にしてしまった。


「大樹!退いて!『火ノ道』!」


 大樹が横に避けると、光希が刀を振り下ろす。すると一直線に火柱が立つ。すぐに大樹が消火する。火は『魔獣』に引火するがすぐにホログラムになり、消えてしまう。


「被害状況は?」


 するとM班が到着した。声をかけたのは上層『王』の森河(もりかわ)旺花(おうか)だ。女性だが、男のような容姿、性格をしている。旺花の後ろにはM班がついている。


「おお?よくもまぁぞろぞろと」


 『魔獣』は掌を旺花に向ける。


「レディーに容赦なく牙を剝くとは、下劣ね」


「レディ?」


「あぁ?」


 ジェントルマンだろとでも言いたげな大樹を睨み付ける。

 そんなやり取りをしていた旺花は、『魔獣』と改めて対峙する。


「あたしねぇ、四属性使えんのよ」


 そういうと脚に力をいれ飛躍し、一気に近づく


「『ナイアガラ』」


 唱えた瞬間、頭上に一本の糸が現れる。そこから、火が落ちる。仕掛け花火のナイアガラだ。そしてその後に、水が落ちてくる。ナイアガラの滝だ。

 

「放て!」


 旺花は後ろへ飛び、命じる。軋む音を立て一斉に弓が引かれる。M隊は、弓を使う者たちが集められている。

 引いた弓はもとに戻り、矢を放つ。

 一斉に放たれた矢は総勢五十本。その中の半分ほどが『魔獣』に当たった。

 矢の後ろが開き、地面に落ちた矢は風を、『魔獣』に刺さった矢は火を放出した。地面に落ちた矢からでた風に煽られ燃え上がる。瞬く間に火柱となった。


「あがぁぁぁぁ!」


 燃え上がる炎に『魔獣』は、のたうちまわる。

 だが『魔獣』は手を使わずに矢を押し出してしまう。

 その隙に、旺花が再び間合いを詰める。


「天ノ川」


 火を(まと)った石が『魔獣』へと降り注ぐ。

 熱さと衝撃で、『魔獣』は(ひる)んだ様子を見せた。

 そこに唯愛が透かさず、銃口を向ける。


「紅炎」


 銃弾は火の玉になり、その火の玉は『魔獣』の鼻先で爆発した。温度約一万度で、地面をも溶かした。だが灼熱の中心にいたのにも関わらず、『魔獣』はその場を動いてすらいなかった。

 唯愛はすぐにマガジンを取り替える。


「覆い水」


 今度は水の塊が『魔獣』へゆっくりと飛んでいく。胸に当たると離れずにくっつく。その瞬間、一気に膨張し『魔獣』の体を包み込む。水の中に居るかのように、息ができない。が、ホログラムなので意味がない。

 『魔獣』は目を見開く。すると、目が赤く光り水は重力に引かれ落ちて行く。

 大樹が杖を『魔獣』に向け、唱える。


「苔の(いわお)


 すると頭上から苔の生えた、尖った大きな岩が出現する。裏の大きさは『魔獣』の背中ほどで、重さは100㎏ほど。『魔獣』は岩で脳天から崩れ落ち潰される。身動きがとれなくなった『魔獣』は体を捻り岩を落とそうとする。


「あ!」


 『魔獣』は何かに閃いたような声を出す。『魔獣』は右手を岩につける。すると、岩が爆発し四散した。

 飛んで石になり野次馬や隊員に打撃、擦り傷でダメージを負わせた。


「くっそ、遠距離ばっかり」


 『魔獣』は、討伐隊の戦い方に文句をいった。そして足に力を入れ、地面を蹴り、飛躍する。


「やかましい。うっとうしい」


 そういうと『魔獣』は消えてしまう。消えてしまったと思った『魔獣』の姿は光希の後ろにあった。『魔獣』は光希を横に蹴り飛ばす。その体に間髪いれずに、踏み潰す。(かかと)鳩尾(みぞおち)に入り、息苦しくなる。光希はそのままそこで悶える。

 光希を踏み台にして、ものすごい速さで大樹に向かって跳んでいく。


「『高密度 纏う盾』」


 シャボン玉のように杖から出た透明の高硬度の盾が大樹の体を隙間なく包み込む。その大樹を『魔獣』は蹴り飛ばす。バランスが崩れ大樹は地面に倒れこむ。が、ダメージはない。


「あっぶねぇ。光希!大丈夫か!」


「あぁありがとう」


 纏う盾を解除し光希の方へ駆け寄る。

 光希は痛みを堪えながら立ち上がる。


「大樹くん!光希!だいじょ───」


 唯愛からの心配の声が途絶える。光希の方へ駆けて来ていたはずなのに。完全に直立できた光希が声のした方を見る。

 ───そこには唯愛がうつ伏せに倒れていた。


「唯愛!」


「───」


 呼吸はある。心臓は止まっていない。なのに返事が返ってこない。


「唯愛に何をした」


 悲しみより怒りが光希の中で膨れ上がる。


「うわ、ミスったぁ。殺すつもりだったのに」


 そしてその怒りが爆発する。


「てめぇ!ふざけてんじゃねぇぞ!『火ノ羽織(ひのはおり)』!」


「おい、光希!羽織を使うな!動けなくなるぞ!」


 大樹が叫ぶ。羽織は裾が伸びるほど身体能力が上がるが寿命が縮まる。


「───」


 もう光希は冷静に考えることができなくなっている。三年間付き合って来た人がまるで人形のようにされてしまったのだから。


「───」


 何も考えることなく、光希は『魔獣』に向かって火を纏った刀を奮う。気づけば、羽織は出現時より長くなっていた。羽織は光希の怒りを表しているように絶えず伸びている。その長さに比例して、足の速さ、刀を奮う力、炎の高さが上がっていく。それを『魔獣』は後ろ飛びで(かわ)す。


「くっそ、火属性で、この力は、あいつを、思い出す。お前も、俺が、消す。あいつと、ともに」


 避けながら『魔獣』は光希に言う。光希は、自分に触れる間も与えない。


「やめろ!このまま羽織が伸びると本当に死ぬぞ」


 大樹の叫びは光希の耳には入らない。


「てめぇら!本当になにもしてねぇなぁ!おい!救急車呼ぶこともできねぇのかよ!」


 大樹は近づけない怒りを他の班員にぶつける。


「ひぃ、怖い、怖い」


 『魔獣』はそういうと、体を後ろに倒し、浮いた足で刀を蹴り飛ばす。飛んだ刀は落ち音をたてて地面を滑る。

 『魔獣』はゲートの方へ向かう。


「待て!逃げる気か!」


「まぁな、気いすんだし。それと、魔獣、魔獣、うるせぇよ、俺には名前がある。『由月(ゆづき)』名字は忘れたがいい名前だろ?覚えとけよ」


 上を見上げた『魔獣』は舌打ちをしてゲートに入っていく。光希と大樹はゲートに向かって走る。が、間に合わず閉じてしまう。

 

───此処で最愛の人を動物ではなくしてしまった。それを太陽が嘲るかのように燦々と耀いていた。

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