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始まりの終わり

 「アルティマの脊椎動物には、爬虫類から鳥類とは別に進化した『竜類』がいる。磁気嵐によって荒れた気候でも生きられるよう、強固な外殻や内臓を手に入れたような種族がそれにあたる。」


 基礎的な学術を纏めたノートを読みあげて、ドロシーに聞かせる。もう片方の手では剣を振るいながら。


 「勉強しながら剣も教えろって言ったのはオレだけど、マジでやるかフツー?!」

 「出来てしまったのは仕方ない。」

 「さらっとやってのけやがって・・・。」

 「お前の打ち込みが単純なんだよ。」


 歩みのステップを合わせるだけで、剣戟のパターンも合わせられる。これではむしろガイの方が勉強してるような感覚になる。


 「その生態は様々で、恐竜のように地を走る地竜種、首長竜のような海竜種、空飛ぶ空竜種など様々。主に大陸南部の暑いところに生息しているらしい。冷血動物らしいな。」

 「サメルでは家畜のトカゲウシとかも多いぜ。硬いけど歯ごたえあってうまかった。」

 「大型のやつらは火を吐いたりするそうだけど、食って大丈夫なのかな。」


 いわゆる『ドラゴン』であるが、魔法や科学によって人為的に生み出されたというわけではなく、自然の進化によって得た形質らしい。それも全部磁気嵐による飛躍的進化によるもだろう。


 「その磁気嵐ってなんなんだ?オラッ!」

 「おっと。俺もここが一番気になっていたところだ。」


 大陸が一塊になった大変動のきっかけ、それは北極点が破壊され、地球の磁場がバランスを失ったことに始まる。破壊された極点の磁気金属が、世界中に散らばって、電磁波を生み出している。特に大陸の境目では、文字通り磁石となって大陸をくっつけているらしく、その辺りは特に磁気嵐が強いようだ。


 「さて、物理学はこのあたりにして、次はゼノンの話をしようか。」

 「おっ、逆手持ちとは邪道な!」


 ゼノンの能力とは、言ってしまえば電気を発生させる能力。白兵戦において一定のアドバンテージを稼げるほか、ゼノン教団員には専用の武器を持つことを許可されている。


 「俺も最初はお前の能力でハンディサイズのレールガンでも作ろうかと思ったけど、ゼノン教団がそういうのまとめて禁止してるんだわな。」

 「ゼノンの銃剣超欲しいけど、教団に縛られるのはイヤなんだよなぁ。」

 「だろうな。専用の学校に行かされるらしいし。徹底的に手ごまにするつもりだぜ。」


 一般的な兵士が騎兵か、よくてマスケット止まりなのに対して、ゼノンの騎士はライフルを装備しているものと思えば、その差は一目瞭然。


 「ただゼノンの支配も盤石ではない。ゼノンの手が回っているのは、主にノメルと、それからサメルの一部地域だけ。その外に出ちゃえばゼノンも手を出さないだろう。」

 「でもそうなると、バロンになるって夢がなぁ。」

 「まあな。考えの一つとして念頭に置いておこう。」


 いったん話を終えたガイの振るう剣が、ドロシーの剣を叩き落とした。


 「だー!負けた!」

 「力で押しすぎだ。ベクトルが一方向にしか向いてないなら、いなすのもかわすのも簡単だ。」


 「もうすぐ春休み(チュートリアル)も終わるけど、準備はいいのか?」

 「問題ねえぜ、ドロシーはやれば出来る子ですよ!」

 「普段からそれぐらいやる気を見せてくれればいいのにね。」

 「おっ、エリーゼ。」

 「考え方が変わってきてるってことか。それもまた成長じゃない?」

 「目覚ましい成長に喜ぶべきなのか、それとも私たちの力不足を悲しむべきなのかしら。」

 「ドロシーにはそっちの方が会ってたってことさ。」

 「えっへん!」

 「確かに、ドロシーはお母様の、ヘレン叔母様に似ていますからね。叔母様も昔は世界を旅したりしていましたわね。」

 「へー、アクティブ。」

 「今もたまに出かけてるぜ。つっても、里帰りみたいなもんだけど。」


 あとで聞いたところによると、ヘレンの実家はサメルで海運商をやっているらしい。大陸の境目には壁のような山脈が出来上がっていることが多く、海路による輸送は非常に大きなリソースとなっているらしい。惜しむらくは大航海時代のように、新大陸を見つけに行こうなんてロマンが無いことか。


 「その辺りの話も今度聞きたいな。おじいちゃんについても、もうちょっとよく知りたい。」

 「でしたら、今お話ししますわ!『光の人』のお話を!」

 「光の人?」

 「エリーゼまたそれかよ。」

 「光の人のお話はいつ聞いてもいいんです!」

 「エリーゼが語りたいだけだろ?オレなんかもう耳にタコだね。」


 『光の人』という単語にガイは不思議そうに首をかしげる。その反応に気を良くしたのか、エリーゼは強く声を張り上げる。


 「そう、光の人ですわ!かつてこのアルティマで、無敵の強さを誇った超人ですわ!悪を薙ぎ、魔を打ち払い、厄災から人々を救ったという伝説の英雄・・・!」

 「超人・・・それってゼノンとは違うの?」

 「さあ、なんせじいちゃんの昔話でしか聞いたことないからなあ。」

 「おじいちゃんは実在した人なんですから、光の人だって実在します!」


 まるでおとぎ話のヒーローを信じる子供のように、純粋に光る眼でエリーゼは語る。


 たしかに歴史の勉強もしてきたが、そんな超人についての記述はなかった。ちなみに人種としてのゼノンの存在が公に出てきたのはここ50年ほどの話。教団がゼノンを管理し始めたのはさらに5年ほど後になってからで、そこから急速に支配力を強めていった。


 ノメルは50年前までは戦国時代にあり、様々な諸侯が鎬を削っていた。現在そんな争いの気配を微塵も感じられないのは、教団が力を握り、それを諸侯も容認しているから。諸侯、諸国はゼノンの存在を見張り、ゼノンは管理する。あたかもお互いに見張りあう形になっているわけだ。


 閑話休題。エリーゼはとにかく嬉しそうに光の人について語りつくした。ドロシーは半ばうんざりとしていたが、ガイはふんふんと真剣に聞いていた。


 「どうですか?面白いでしょう?」

 「ホント好きだよなー、エリーゼは。」

 「実に・・・興味深い話だった。」

 「そうでしょう?そうでしょう!いつか会ってみたいですわ・・・。」


 大人らしく振舞うエリーゼも、この時ばかりは年相応か、それ以下のように笑顔綻ぶ子供のようだった。


 「いずれ、おじいちゃんのことも含めて聞かせてほしいな。」

 「ええ、もちろんかまいませんわ!むしろ今からお聞かせしましょうか?」

 「いや、コイツ(ドロシー)の勉強もあるし。今日はいいや。」

 「・・・勉強するかじいちゃんの話きかされるかって言われたらなぁ。」

 「おい?」

 「冗談、ちゃんと勉強するぞオレ!」



 ☆



 「テストの結果返すぞ。ドロシー、72点。」

 「よっしゃー!過去最高点!」

 「それはもうちょっとがんばれよ。」


 数日後、追試は予定通り行われ、結果ドロシーは無事通過と相成った。


 「いや、それでもよくがんばったと思う。やれば出来るじゃないか!」

 「えへん!」

 「カンニングとかしてないよな?」

 「ひでえ!」


 「次にガイ、100点。」

 「えっ。」

 「勉強になった。この世界について基本的なことも知れたし。」

 「このまま模範生なってくれれば有難い。ウチのクラスは問題児だらけだからな。」

 「ちょっと待てーい!100点だと?!」

 「言っとくがカンニングはしとらんぞ?」

 「アッ、まさかドロシーがガイのカンニングを?」

 「してねえよ!」


 不思議とガイはこういうことが卒なくこなすことが出来る性分だった。


 「まっ、いいや。終わったんだし遊ぼうぜー!」

 「まだだ、間違えたところの復習が必要だ。」

 「うへー!」

 「もうひと踏ん張りしな。俺は図書館行ってくるけど。」

 「はくじょうもの~!」

 

 その足で宣言通り図書館へと赴く。もうすぐ春休みも終わりとなると、やがてはこの人のいない廊下にも活気が出てくることだろう。それまではど真ん中を歩かせてもらおう。


 「どうも。」

 『こんにちは。』


 図書館に入ればまず目につくのは、カウンターに座る司書のリーン先生。


 「追試は終わった?」

 「ええ、ドロシーも無事に通りましたよ。」

 「その言い方、あなたが通るのは予定調和だったようね。」

 「当然、賢いですから。」


 気さくに話しかけてくる、というより語りかけてくるリーン先生。その表情は相変わらず眉一つ動かさない人形のようである。


 「今日は何がご入用?」

 「この地域の歴史が知りたい。」

 「でしたら、これがちょうどいいわ。」

 「ん、用意していたかのように。これは?」

 「ダイス・キャニッシュの日誌。」

 「日記?」

 「あなたは、まさにあの人が想定していた読み手だから、読んでみるといいわ。」

 「あの人、ね。わかった借りていく。」


 1ページ捲ってみてその理由がすぐに分かった。それをじっくり読んでみたくなったガイは、足早に外へ出て行った。




 ☆



 「ここにいましたのね。」

 「うん?エリザベスか。探しに来たのか?」

 「ええ、もうすぐ日が暮れますよ。」


 いつの間にか陽が陰ってきていたのに、ガイは気づかなかった。それはここが元からかなり明るい温室だからというのもある。


 「そんなに面白かったですか、その本?」

 「読みふけってた。非常に興味深い内容だった。」

 「それ、おじいちゃんが書いたんですよ。」

 「そうか・・・やはりそうだったのか。」

 「ええ、リーン先生から薦められたのでしょう?」


 このダイス・キャニッシュという名前には聞き覚えはなかったが、内容からその人柄を読み取ることが出来た。


 「おじいちゃんがこの世界にやってきて間もないころから、欠かさずにつけていた日記だそうです。」

 「相当波瀾万丈な人生だったらしいな。」

 「でも、そのおかげで私たちは生きているんです。この土地も、民もみんな。」

 「・・・幸せだったろうか。背負い過ぎちゃいなかっただろうか。」

 「・・・幸せでしたよ。最後そう言ってくれました。」


 エリーゼは指輪を見せた。片時も離れることのない、一つの指輪。それに、もう一つの遺品であるキーパーツも見せた。


 「そして遺してくれました。この世界を守っていける力と意思をも。」


 キーパーツ。使い道のわからない、金属の円筒。


 「記憶媒体・・・とかでもなさそうだけど。触ってもいい?」

 「どうぞ。使い方がわかるのなら。」


 キーとつくからには何かの鍵なんだろう。どこに、どう使うかは見当もつかないが。


 「中は空洞のようだけど・・・ちょっとわからないかな。」

 「そうですか・・・。」

 「ところで、この本に出てくる『石碑』というのは?」

 「ああ、そこです・・・その石碑がまさにそうです。」


 キーパーツを返して、示された温室の中央に目を向ける。確かに石碑がある。


 「そうか・・・。」

 「おじいちゃんは、最後はここに腰かけてました。」

 「この石碑は・・・そうか。」

 

 その表面を触りながら、ガイはぶつぶつとつぶやく。その姿に、どこか祖父の面影をエリーゼは見た。


 「・・・後で戻ってきてくださいね。待ってますから。」

 「ああ、先に行ってて。」


 いかんいかんとエリーゼはそっぽを向くと、この場を後にすることにした。このままでは、いつ涙が零れてしまうかわからない。


 ガイはエリーゼが行ったことを気にもせずに、思考を続けた。


 そして」ひとつの結論を導き出す、


 「これを残したという事は、お前は生き残っていたんだな・・・ツバサ。」


 日記をもう一度読み返す。そこには確かに、あの素直になれない弟のようなあいつが生きているのを見た。


 日記の最初のページ、目録の前には『あの日』、『大消滅』が起こった時に消えていった人たちの名前があげつらえてあった。その一人一人を記憶するように、ガイは指でなぞっていた。

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