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カワリハテ

作者: うさぎバチ
掲載日:2019/08/18

 病院がテーマだったので、病室での話です。


 ――夏真っ盛りの頃だった。


 俺は救急車で運ばれて、入院する羽目になった。


 理由は呆れたもので、只の食あたりだった。


 しかし、検査のために一週間ほど必要だと言われたのだった。


 俺が寝泊まりする病室は、六人用の病室で窓際に二人が雑談している。


 自身の所のベッドに座って、テレビなんかをみているのが一人。


 俺のベッドの隣は、ベッド横の仕切りカーテンが締め切っている。

 

 中の様子がわからないが、時おり物音が聞こえてくるので居るのだろう。


 それが、一人。


 あと今、俺と話をしているのが一人で、計六人で満室だった。


「……それで、(あに)さんは何で入院したんだ?」


「まぁ、只の食あたりだったんすよ」


 ここに来たばかりの俺に、飄々と話をする(多分)年上のオッサン。


 オッサンは入院生活が長く、半年ぐらい入院しているとのこと。


 世間話をずっと続けて自分の診察の時間が来るまで、随分と話が弾んでいた。




 ――今日の診察が終ったあと、自分のベッドに戻ってしばらくして、外が真っ暗になった頃だった。


 眠っていた俺は、誰かの会話が聞こえてきて目を覚ました。


 隣の仕切りカーテンが、閉まっていたベッドの方からだった。


『……酒、持ってきてくれんか?』


『……駄目だよ、先生に止められてるだろ』


『……これで、お金引き出して買ってきてくれよ』


『……』


 中年の男と、若い男のようだった。どうやら親子で、父親が【アルコール依存症】のようだった。


 話には聞いたことがあったのだが、自身の子供にすらすがるほどなのか。


 二人の会話は、そのあとループしているかのように同じだった。


 その会話を聞いているうちに、俺は気分が悪くなった。


 仕方なく逃げるようにして病室から出て、廊下をぶらつくことにした。


 しばらくして病室に戻ると、会話はきこえなくなっていた。


 もう、あの息子は帰ったのだろう。そう思って自身のベッドに戻り、再び眠りについたのだった。




 ――それから数日が過ぎて、ある日の深夜頃だっただろうか。


 ナースコールの音が聞こえてきて、俺は目を覚ました。


 スピーカーから、看護師さんの声が聞こえてくる。


『……さん、どうしました?』


『……身体が痛くてしょうがない、痛み止を持ってきてくれ』


『……今、行きますね』


 鳴らしたのは、隣のアル中の男だった。唸り声をあげながら看護師さんが来るのを待っている様子だった。


 看護師さんが来ると男はすぐに、痛み止の薬の催促をする。しかし、看護師さんは、


『すこし前に服用したばかりなので、まだ駄目ですね。……我慢は、できますか?』


『……だったら、酒が欲しい』


『駄目ですよ、どうしてここにいるのか、思い出してください』


『いいから、酒をくれ!それなら、身体も動くし痛みも無くなる!』


 男は、怒り叫んだ。


『……俺は、早く家に帰りたいんだ。家では家事もあるし、ペットの世話もしなくちゃならない』


 男は、そんなことを語りだした。


 ……本当に、そうなのだろうか?


 すこし前に、男が息子との話の中には、奥さんと母親も居るようだった。


 しかし、男は就職していない様子だった。


 ――いや、アルコール依存症の影響で、まともに働くことが出来ないのだろう。


 身体が痛い、身体が動かない、ということには同情する。


 でも、その事だけ。この男が以前まで、どんなことをしていたかは知らない。


 しかし、病気になったのは、彼自身の責任なのだ。


 果たして、今の彼が家に戻ったとして必要とされているのか。


 それでも男は、美談のように語り続ける。


 ここまで、酷くなってしまうものなのか。俺は呆れ返ってしまう。


 考えを巡らせているうちに、看護師さんがなだめることができたようだった。


 そして、既にその場を後にしていたようで、隣は静かになっていた。


 何とか、俺は再び眠りにつくことができたのだった。




 ――別の日に、診察を終えて病室に戻ったとき、オッサンに男の話を聞かされた。


「ついさっきの事なんだがな、どうもあの人(アル中の男の事)、家族に見捨てられたようだった」


「えぇ!?何があったんですか?」


「なんかなぁ、電話していたみたいなんだよな。まあ、病室でしちゃいかんのだが……」


 オッサンは呆れた様子で、ため息をついた。


 どうやら、その時の電話の話が駄々漏れだったようで――、


『……もしもし、……か?頼みがあるんだが、酒もってきてくれないか?』


『……無理だって?いいからタオルにでも何でもいいから、持ってきてくれよ』


『……そうじゃなくて、何?無理』


『……おい、俺を見捨てるって言うのか!?』


『おい!お……』


 そこで、電話が切れたらしい。要するに、家族から別れ話を持ち掛けられたのだ。


 男は、そのあと特に騒ぐこともなく、未だに物音ひとつ立てずベッドにいるそうだった。


 結局、俺が想像した通りの事になった。でも、同情はしない。


 自業自得だと、思ったからだ。



 

 ――それから、音一つ立てていなかった男だったが、深夜になった頃、ぶつぶつと呟き始めた。


 男の声が聞こえてきて、俺は目を覚ました。


『……くそ……、何で俺がこんな目に……』


 ――やれやれ、自分でわかっていないのか……。


 俺は男に話しかけた。


「おい、あんた。病気を直したいんじゃないのかよ」


『……うるせぇ、酒さえ呑めれぱ大丈夫なんだよ』


 俺は遂に、しびれを切らして男に言いはなった。


「それで酔いがさめたら、また同じだろうが。全て取り戻したいならら、さっさと我慢するんだな」


『……』


 すると男は、静かになった。


 しかし、しばらくして男は何かを言っているようだった。


 耳を澄ましてみると――、


『……だったら……』


 声が聞き取れたと思った瞬間、カーテンが開け放たれると同時に、


『だったら、変わってくれ!!』


 叫び声と共に、俺は男に首を掴まれた。


 真っ暗でよく見えなかったが、人の形をした真っ暗な人影が顔の目の辺りだけを光らせていた。


『やっやめろ!!?やめてくれ!』


 俺は必死に抵抗して、男の腕を引き剥がそうとした。


 しかし、とんでもなく力が強かった。


 ――-本当に、この人は病人なのか。


 そう、思わせるほどだった。


 暴れるようにして、抵抗していると、


『……さん?……さん?』


 耳元から声が、聞こえてくる。


『……さん?大丈夫ですか?』


 はっきりと聞こえたとき、辺りが暗くなったと感じて、目を覚ました。


 目の前には、看護師さんの顔が見える。


「……うなされていましたけど、大丈夫ですか?」


 心配そうに、顔色を伺う看護師。


 ――どうやら、夢を見ていたようだ。しかし、妙に現実味のある夢だった。


「……すいません、隣の人の声が気になって」


 俺は、はぐらかして説明した。すると看護師さんは、不可思議そうな顔を見せる。


『……隣って、隣のベッドには【誰もいませんよ】?』


 ……今、何て聞こえた?誰もいない?


 俺が固まっていると、


「確かに隣には、今日の朝まではいましたよ。でも、昼前には退院しましたよ」


 そう言って看護師さんは、隣のカーテンをシャッと開いたのた。


 隣のベッドは、もぬけの殻だった。シーツはキチンとたたまれていて、荷物も何もなかった。


「……確か、隣の人は【アルコール依存症】だったんですよね?」


「いいえ、【食あたり】で検査と診察で入院。今日、処方薬を貰って退院しましたよ」


 ――食あたりで、入院?それは、俺のことではないのか?


 だんだんと、怖くなってきた。もしかして、俺の病気は……。


「……あの、俺は何の為に入院しているんでしたっけ……?」


 すると、看護師さんは呆れるようにして、


「どうしたんてますか?あなたの病気は、【……】ですよ」


 それを聞いて、俺は愕然として、頭の中が真っ白になった。


 なぜなら、それは俺が【一番なりたくない病気】だった。


 ――終

『病気というのは、侵される事はないと思っていても、なってしまうと恐ろしいものです。最後の病名は、読んだ人が病名を想像して下さい』


「所で、男は結局どうなったの?」


『実際に入れ替わったでも、最初から夢の中の話でも怖いと思った方が【オチ】になりますかねぇ……』


「どちらにしても、バッドエンド」


『そうですね、でも男はまだ治療が出来れば、バッドエンドてはなくなる事ができます。解釈は色々出来ると言うことで。ただ前者の方だとアル中の男性は入れ替わって【終】ではないんですよ』


「何で?」


『例え入れ替わって、多少まともな身体を手に入れたとしても、元の家族の所には戻れませんし、何より【再びアルコール依存症にならないとは限らない】からです』


「一番怖いのは、病気になる事と再発する事だね……」




 いかがだったでしょうか?怪談として読んでいただいても、ヒューマンホラーとしても、恐怖していただけたでしょうか?


 それでは、最後まで読んでいただき有り難うございます。

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