将来と今
センターが遂に終わった。
次は二次だ。
オリーブは古木も若木も少し頼んだら貰えた。
聖典と交えて話すまでもなかった。
絶対持て余してるでしょ?
流石に今持って帰る訳ではなく、明日昼前に屋敷に届けてくれると申し出てくれた。
だが俺は自分の畑に持ってきてくれるように頼んだ。
屋敷よりは近いでしょ?
多分。
そして今は帰りの馬車の中だ。
父さんとは別で中には妹と俺しかいない。
え?
使用人?
別に連れてこれない訳でもないけど必要性が皆無なので付けてもらっていない。
俺もクレアもある程度は自分で出来る。
それに俺たちは次男に次女だ。
上の2人も優秀なため、そこまで気を使われる程ではない。
よって専属使用人要らない、って言ったら付けないでもらえた。
たまにメイドや執事に頼み事するぐらいで丁度いいだろう。
俺は対面に座る妹、クラウディアと話している。
「あれは、酷かった、な」
「ええ、はい、とても、です」
主語はないが伝わっている。
昼食の事だ。
まぁ、あんなのは忘れるに限るのでさっさと話を帰る。
「まぁ、あれは忘れることにして、今の問題は、コレだよね」
ステイタスボードを持ち出して言う。
2人の編集したステイタスは現在こうだ。
名前 アンドレア カヴァリーノ
年齢 6
称号 スティバーリ王国カヴァリーノ子爵家次男
加護 酒の神バローラの加護
体力 265/265
魔力 666/666
スキル
戦闘系
格闘術Lv2 短剣術Lv3 棒術Lv3
魔法系
火魔法Lv1 水魔法Lv1 土魔法Lv1 氷魔法Lv1 雷魔法Lv1 樹魔法Lv1 無魔法Lv1 従属魔法Lv1 魔力操作Lv1 魔力回復Lv1
耐性系
魔法耐性Lv1
その他
指導Lv1 目利きLv3 農業Lv2 罠Lv1 調教Lv1 調理Lv5 清掃Lv2 探索Lv2 礼節Lv2 味覚強化Lv3 嗅覚強化Lv1
固有
無
名前 クラウディア カヴァリーノ
年齢 6
称号 スティバーリ王国カヴァリーノ子爵家次女
加護 酒の神バローラの加護
体力 120/120
魔力 990/990
スキル
戦闘系
格闘術Lv2 棒術Lv2
魔法系
全魔法Lv- 魔力強化Lv1 魔力操作Lv1 魔力回復Lv1
耐性系
魔法耐性Lv1
その他
家事Lv1 歌唱Lv3 礼節Lv3
固有
親愛
クレアの全魔法、それに固有の親愛、そしてバローラの加護は消せなかった。
特に付け足すものはない、と思いきや俺は礼節Lv2を足している。
まさかLv1すらないとは思わなかったぜ。
結構外面はいいんだけどな。
それより問題はクラウディアだ。
俺は明日からの教育で料理を素材から徹底するために、関連するスキルを少しLv高めにして残した。
その分野に限れば才があると思われるだろう。
クレアは魔法使いとしてのんびりホワイトに生きていきたいらしい。
そのために必要なものは揃っているが、これは流石に過ぎるというものだ。
……多分ね。
結構俺たちには周りの基準が一切分からないのでどうしようも無い。
自分の意志を伝え、押し通すだけだ。
と、クレアに切々と語る。
なぁに、なるようになるさっ!
大丈夫、俺はいつもクレアの味方だよ。
最悪の場合は『父様のわからず屋っ! 大っ嫌い!』とか言えばなんとかなるから。
ルチアーノ兄さんは少し頼りないけど、ミオ姉さんが味方してくれるって。
ミラオル姉さんクレアに甘々だし。
馬車の中で俺はひたすら妹を励ましていた。
しかしそれでも、クレアの瞳に光が宿ることはなかった。
うーん、自分のステイタスについてもそうだけど、何か他のことも原因がありそうだな。
やっぱあのオリーブオイルもどきか?
そうなのか?
屋敷に着いて、俺達はひとまず自分の部屋に戻った。
そしてまず最初に自分で紅茶を入れて舌を治す。
食後の紅茶も出さない教会はほんともうやめていただきたい。
オリーブの木を俺に寄贈したらもう関わらないことを切に願う。
そして、今のうちに考えておかねばならないことがある。
これからの事だ。
明日からちゃんとした教育を6年間、成人するまで受けることになるが、これは貴族の親の義務だからだ。
将来、この家を継ぐのはルチアーノ兄さんだ。
別に俺は要らない。
現在、カヴァリーノ子爵家は特に派閥に属している訳では無いが騎士家3つに30を超える従士を抱えている。
子供は次期当主の長男、嫁にはいかない、最悪でも婿をとると言い張る長女、前世の記憶持ちの双子の次男、次女がおり、母は現在第5子を妊娠している。
妾が1人いて、側室に、第二夫人にするか父が悩んでいることも知っている。
そちらにも2人子供がいる。
正式に妻として家に入れるなら子供に貴族相応の教育を施さなければならないから悩みどころなのだろう。
領地は丁度盆地になっており、2つのそれなりの河川が流れている。
降水量はさほど多くないが極端に少ない訳でもない。
日本よりは少ないが大陸の内陸にある盆地としては降水量は多いほうだろう。
まぁ、北と南が森の深さは兎も角山の標高自体はそこまで高くないのと大きな風の通り道にもなる谷間もあるおかげだろう。
人口は800人程度の町が1つ、500人に少し届かない位の大きな村が2つ、それに50人いるか居ないかのような村が幾つかあると聞いた。
平野部では十分に農耕が可能であるし、それ程頭数はないが家畜もいる。
河川では川魚が多少は捕れる。
周辺部の山は鉱山資源は少ないが、西の山では領内を賄えるだけの岩塩が採掘できるし、石材も質は良くないが切り出しているらしい。
北と東は深い森があり木材の採取も可能である。
特に北の山に自生しており、今は一部植林もしているネボリーツは加工した工芸品も高く売れるし、原木でも輸出しているのを見たことがある。
南の山の森は果樹が多かったり、大きめの湖が山の中腹にあるらしいが凶暴な野生動物や魔物がよく出るようだ。
まぁそれも2つの騎士家が見張っているし、北東と南東には他領へと続く街道がある。
西は完全に未開の地だ。
もし開拓して、国王に申し出て帰順すれば、お目付け役が来るけど領地貰える。
結構荒地っぽいけどね。
つまりこのカヴァリーノ家はスティバーリ王国の辺境、西端に位置するが、領地のポテンシャルはかなり高い。
作物は質は兎も角、蓄えをしっかりと確保した上で他領に流せる程の量はあるし、タンパク源も川魚と森に生息する獣や魔物の一部が確保出来る。
冬支度にもなれば家畜も潰すしね。
魔獣対策に兵も平均的な子爵よりは大分多いだろう。
気候についてももう少し詳しく触れようか。
四季はある。
が、それほどはっきりとしている訳では無い。
冬でも雨やみぞれが多少降ったり、粉雪が舞う程度だ。
スキーやソリができるほど積もったことはないし、分厚い氷が張ることもない。
夏は暑いが湿度は日本ほど高くないので、そこまで苦しくはなく、朝と夕方に作業をすることが多くなる程度だ。
まぁ快適と言って申し分ないだろう。
という事でお家の、領地の未来は明るい。
天変地異や変な政治に巻き込まれたりしなければゆっくりと着実に富んでいくだろう。
ここで身の振り方を考えなければいけないのが俺達だ。
先程も出てきたが貴族の子には成人するまでそれ相応の教育を施すことが義務付けられている。
しかし全員貴族になる訳では無い。
そもそも貴族とは当主とその配偶者を指し、その他の家族は準貴族となる。
しかし準貴族も爵位毎に規定数がある。
まあ下級貴族は基本的に跡取りともしもの時の保険で一人と言ったところだ。
妾の子は2人とも男児で歳も俺より上でそれなりに優秀なようだし、アンドレア兄さんがいて、更にはミラオル姉さんが控えているので後継やその補佐に悩むことは無い。
女性当主は貴族の在り方、成り立ちが領地を守護すると言う戦闘面に起因する為少ないが、ダメな訳でもない。
寧ろあの姉ならば頼りない兄よりもよくやるだろう。
実際父さんはそれがわかっているから姉の家を出る気がないことを咎めることをしない。
また父さんは、基本的に婚姻での関係を重視していないきらいがあるので特にだ。
そうなると正直なところ、俺達は別に家としてはあんまり必要ない。
父さんとしては西を開拓してそっちで新しく貴族として自立してくれるのが一番だろうが、誰がどう見ても不毛な荒地を開墾してくれとは言わないだろう。
そうなると貴族としては本当にやる事がないわけだ。
こういう子供は基本的には教育を終え、成人したらそれなりの金と共に外に出される。
しかしこの場合でも俺はアンドレア カヴァリーノである。
身分は自由民相当であるが元カヴァリーノである事は当たり前のように話すし、普通の平民はまず持っていない苗字も使える。
残念ながら子供に引き継がせることは出来ないけどね。
外に出て以降、特に子供サイドから連絡を取らなければ接点はないが、普通は手紙を書いて近況を知らせるものだ。
たまに領地に戻って来ても変に邪険にされることも無い。
勿論領地に住んでもいい。
他の平民と同様に労働に励むことになるが。
しかし貴族というのは、先言ったように元は領地守護の一族だ。
そのため、力がある。
魔法という力が。
教会でステイタスボードに魔力が数値で表示されたが、世の中の95パーセントの人間は魔力を持たない。
つまりステイタスで魔力は0と表示されるのだろう。
残る5パーセントの中の更に極一部が貴族だ。
そして貴族は特に魔力が高い傾向があるそうだ。
ま、父さんの成り上がりの経緯やそれ以前の経歴を知らないので、この家の場合は何とも言えないが、騎士や従士より父や兄、姉が強い魔力を持ち、魔法を使い、剣や槍の腕が立つのは事実だ。
因みに騎士家は必ず魔力持ちだが、従士は魔力持ちが好ましいとされるだけで、必ず魔力持ちである必要は無い。
よって家を出た元貴族が王都で軍に入ることも多いし、他家で騎士や従士として取り上げられることも多い。
本題に戻るが、俺は軍閥になるのは嫌だし、他家で楽しみもなく、忙しい毎日を送るのは御免蒙りたい。
俺としては、この冬遂に手に入れた畑の近くに家を建てて、家と畑を任せられる人物に任せて、そこを拠点に様々な領地や国を巡って酒や料理に触れたいと考えている。
管理人の雇用ぐらいは家から貰う金でどうにでもなると思う。
また、管理人も少し思うところがあり、成功すればタダで雇用できるし。
問題は各地を回る時に金が足りるかどうかだ。
傭兵や冒険者業をしてもいいが安定はしないだろう。
行商、というか行く先々で転売をするのも面白そうだが、それもなんだか違う気がする。
商会を立ち上げてもいいがそれに掛かりきりになったら本末転倒。
生産から一貫して何か特別な商品を作ろうとしても、食品関連だと保存の効く物が好ましく、特に売れそうでコスパの良い物はそんなに数を思い付いたりはしない。
焼き菓子とか素材からして単価高くなるし、輸送等の面でも良さそうだけど基本的には専門外だしなあ。
あーあー。
どっかから大金転がり込んでこないかなぁ〜。
コンコンコンッ。
あれからずっと成人後のこと、成人前に必要なことを考えていたがノックの音で一気に現実に引き戻される。
「アンドレア様、そろそろ御夕食になりますが、
その前に御当主様がお呼びです。
執務室へといらしてください。
クラウディア様も御一緒にとのことです」
合図をしてやれば、父の専属のメイドが父さんがお呼びだと言う。
夕食の前にまだ話があるのか。
夕食もだらだらと話しながら食すだろうに。
面倒くさいが反抗しても百害あって一利あるかどうかなので身なりを少し整えて向かう。
どうせそのまま夕食になるだろうからステイタスボードも持っていく。
ステイタスボードはあまり重くはないけど、嵩張るので普段から持ち歩くものでは無いのだ。
出来ればポケットに入るサイズに改変して貰いたい。
因みに余談だがこの世界、少なくともこの国の貴族が着る服にはポケットはあってもボタンがなく、脱ぎ着するのが大変だ。
よって教会に行った時と同じ服装で部屋をコロコロしていた。
また、ボタンはないがブローチや、やけにデカい安全ピンのようなものはあるのだが、あんまり普段使いするものでは無い。
まぁ、今日は朝から良い服を着ているし、留め具ではなく装飾として、貴金属で作られたブローチを左胸の上の方につけているけどね。
流石に部屋の中ではブローチは外してたので、今また付け直して執務室へ向かう。
執務室へ向かう途中でクラウディアとかち合った。
部屋の位置関係からして先に着いてるとして思っていたがそうでもないようだ。
いや、というよりクラウディアが多分待っていたのだろう。
二人きりの時ならまだしも、そうでなければ基本的には俺を立てるからな。
先に行くのがはばかられたのだろう。
やっぱり可愛い妹である。
一、二言交して執務室へ入る。
父さんは普段は粗悪なパピルスのようなB5程の紙と、必ずしも羊由来ではない羊皮紙が高く積み上がる、最高級のネボリーツの机の先にいた。
驚くことにその机の上はがらんとしており、普段の仕事の風景とは結びもつかない。
促されて近付くけば、普段は目にすることのない美しい木目が見て取れる。
と、言いたい所だが俺は、これは高い木目だ、と思いはしても、それが美しく見えるかと聞かれると首を傾けざるを得ない人間だ。
せめて絵画なら……いや、どっちもどっちだな。
前世の頃から斬新やら奇抜、異質だの言う言葉は俺の枕詞としてついてまわった。
皿の上に限れば、その先にほぼ必ず美しいと続いていたが。
ちょっとばかり昔を思い出していたら父さんが、優しい口調の割には威厳のある声で話し掛けてくる。
「アンドレア、クラウディア。
早いもので君達も6歳だ。
本当におめでとう。
話したいことはたくさんあるんだけど、それは夕食の時にしようか。
今呼んだのはもう少し真面目な、将来の、具体的には成人後のことを話したいからなんだ」
やっぱりきたか。
最近ミラオル姉さんが遠回しに考えておけとよく言うのでくると思っていたよ。
「勿論今決める訳では無いけど、今後の方針とかもあるからね。
今どういう考えを持ってるかを知りたいんだ。
特に考えてないって言うのでもいいからそのまま伝えて欲しい。
アンドレア、クラウディア、なにかあるかな」
クラウディアと目を合わせる。
ある?
なんとなくなら。
おれも。
なら多分そのままいえば。
うん、そうだね。
どっちが先に?
クレア先が良い?
いや、少し緊張するから。
なら俺から話すね。
以上アイコンタクトとほんの少しの顔の動きでの双子コミュニケーションでした。
元々は表情も何も無い魂だけで会話をしていたし、小さい頃から一緒に育ったのだ。
この程度は容易い。
「では僕から。
正直まだ決めかねていますが将来的にはこの町に拠点を置きながら様々な領、国を巡りたいと考えています。
そして特に食についての見識を高めたいと考えています」
「なるほど、なぜ、食なんだい」
「この世で最も僕としては興味深いことが食なのです。
それと、これを」
ステイタスボードを俺の能力値を表示させて渡す。
「あぁこれも夕食より先にみせてもらおうと思って……んんっ!」
父さんのそんな感情の篭った、詰まったような声なんて初めて聞いたなぁ。
もちろん見せてるのは偽装済みのものだ。
それでも料理Lv5だ。
たぶん高い方だろう。
また、態々見せたのは説得力を持たせること以外にも、このステイタスがどのくらいのものなのか反応を見るためでもある。
バローラの、あの絡み酒のOL天使の加護も気になるしな。
「あ、あぁ、ごめん、そうだね、クレアのも見せてくれるかい」
父さんに言われてクレアも持ってきていたステイタスボードを少し躊躇いながらも渡す。
「んんっ、あぁ、……はぁ」
ちょっと父さん、2人のステイタス見てのため息はやめてもらいたいのですが?
「僕達はよく分からないのですが、何か問題でも?」
頑張って偽装したけど最悪偽装しない方がよかったということもあるかもしれない。
偽装が足りなかったのかもしれない。
「そうだよね、まだ自分たちのしか知らないからね。
参考までに、これが僕の今のステイタスだよ」
父様は机の引き出しから自分のステイタスボードを取り出し僕達に見せてくる。
名前 ファウスト カヴァリーノ
年齢 30
称号 勇猛なる錬金術師 蹂躙者 スティバーリ王国カヴァリーノ子爵家初代当主
加護 魔法の神マグナイシスの加護
体力 850/850
魔力 468/600
スキル
戦闘系
格闘術Lv4 剣術Lv4 槍術Lv3 棒術Lv3 杖術Lv4 盾術Lv3 投擲Lv2
魔法系
火魔法Lv4 水魔法Lv4 光魔法Lv3 錬金術Lv3
耐性系
魔法耐性Lv3 毒耐性Lv3
その他
指導Lv3 家事Lv1 礼節Lv3 探索Lv2
はい、アウトー。
俺たちアウトー。
武勲立てて叙勲された人がこれでしょ。
体力はまだしも魔力オーバーしてるじゃん。
それにスキルのレベル最高でも4だし。
俺のレベル5がマジやばいやつじゃん。
あと30年生きてるのにそのスキル数?
俺たち多すぎるな。
いや、特に俺がか。
まぁ、2人とも隠してよかったな。
それだけは確かだ。
「この年でこの体力は素晴らしいといえる。
だけどそれ以上に魔力だよ。
体力の値より魔力が多いと暴走の危険性がぐっと高まるんだが、今までの生活でそんなことはなかったよね。
魔力操作のスキルを持っているからだと思うけど、これから魔法を使っていく時は気をつけてね」
父さんの話に2人して頷く。
分からないことだらけなので真剣に聞く。
「父様、固有スキルというのはなんでしょうか?」
「ああ、僕も驚いたよ。
2人共固有スキルを持っているとはね」
うん?
ふたりとも?
自分のステイタスを見る。
固有スキル
無
固有スキル、無いよな。
父様のステイタスでも……
固有スキルの欄がない。
あれ?
もしかして。
『無い』んじゃなくて『無』っていう固有スキルがある、のか?
うーわっ!
マジか
気付かなかったよ。
クレアの親愛みたいにもっと分かりやすいのにして欲しいわ。
「固有スキルって言うのはね、個人魔法ともいわれるものでね。
君達一人ひとりにしか使えない魔法の系統なんだ。
古くは、もはやお伽噺の頃の話だけど、古の王達は皆固有スキルを持っていて、それ即ち王の器である事の証とも言われていたらしい」
スケールが壮大すぎて今すぐこの部屋から逃げ出したい。
まぁ、真実かどうかは全くわからないんだけどねって言われてもなんの慰めにもならない。
「固有スキルもそうだけど……アンドレアはレベル5のスキル、レベル3も複数、クレアは全魔法、かぁ。
スキルのレベルは僕のスキルが参考になると思うけど、一般的には人間はレベル5がほぼ最高。
スキルを絞って天才がそれだけを極めれば6や7に届き得るかなどうかと言われている。
因みに王都にいる国軍の大将軍が槍術Lv5で他にもいくつか高レベルのスキルを持っていて、国内最強の座に座っている。
3000年を生きるエルフの長でもレベル5を超えるスキルなんて5つだけだった。
スキルの上限は10と教会は言っているが確認されているのは8までだ。
僕もこの年でやっとレベル4が5つになったけどまだレベル5には届かない。
いや、まさか息子に先をこされるとはねぇ。
はははっ」
そんな返事に困ることを言わないで欲しい。
「あぁごめんね。
いや、しかしほんとに驚いたよ。
それでクラウディア、君の持ってる全魔法なんだけどね」
「はい、なんでしょうか」
クレアは既に顔を引き攣らせている。
もう絶対ダメな話が飛ぶやつだって。
「それは北の隣国のフォルキュアス帝国、その初代帝王、俗に言う魔帝メフィスト、が保有していたといわれるスキルなんだ。
メフィストフェレス、僕の師であり最初の友でもあった。
公的には12年前に突如失踪したことになってるね。
うん、知っているよね。
去年遊びに来てたからね。
そういえばクレアは特に気に入られてたよね。
もしかして何か感じるところがあったのかもね」
悪魔狩りの女帝、メフィスト フェレス。
結構な厚さの物語にもなっており、王都や帝都では舞台のテーマにもされていると言う。
父さんの古い既知が来たと言われ紹介された時は本当に驚いた。
ってか失踪したんじゃないんですかってね。
まぁ、そこらじゅう渡り歩いてるみたいだったね。
あぁ、そうか。
俺もあんな感じになりたいんだ。
楽しそうに色んな場所の風景や文化そこに生きる人々、料理や酒について語るあの人みたいに。
そう暗に伝えたらすんごく複雑な顔をされた。
「まぁ、アンドレアのやりたいことはわかったよ。
それじゃあクラウディア、君は何かあるかい?」
何だか流されたような気がする。
いや、時間もそんなにある訳では無いし気のせいだろう。
「いえ、正直特にこれをしたい、というものはありません。
ですが……」
んっ?
なんだ?
クレアが俺に顔を向ける。
なんなのだろうか。
俺みたいに自分のやりたいことをズケズケとは言えないという事だろうか。
いや、それは違うか。
「私は、アンドレアお兄様と、一生、共にいたい。
共に笑い合い、泣き合い、隣に立ち、歩いていきたいのです。
そしてっ、アンドレアお兄様の……いえ、これは違いますね。
アンドレアお兄様!」
「あ、あぁ」
クレアが急にこちらを向いて声をかけてきた。
それ以前に前のセリフで中々思うところがあるのだが、可愛い妹はそんなことはお構い無しだ。
生返事になってしまったのは仕方ない。
仕方ないのだ。
クレアは、いや、クラウディアは顔を真っ赤にしながらも、俯くことなくこちらにその眼を向けている。
「アンドレアお兄様。
この生を受ける前から、お慕い申しております。
どうか、私と、結婚してくださいませ!」
チッ
モゲろや