メシマズ
クラウディアがなんとか復活したので、これから教会で祝福された昼食をいただく。
ここの教会では聖典に出てくるオリーブ育てており、それをたくさん使ってくれるようだ。
あれって別にたくさん使ったからどうこう、ってものじゃないんだけどなぁ。
縦にやけに長いテーブルに白いクロスが掛けられている。
カトラリー、食具は木製だった。
オリーブの古木らしい。
聞けばオリーブの実は若い木だけから収穫しているらしい。
なんて勿体ない。
ここの領地には地球では見たことのないものだがネボリーツという扱いやすくキレイな木材があり耐水、対油脂共に優れていて硬度や靱性も悪くないはずだった。
食器や食具にはそちらを使えばいいので是非オリーブの古木は俺に譲って欲しいものだ。
あと父さんに銀食器を出すのはいいけど、ちゃんと磨いたり、空気に触れさせなかったり、布に包んだりしてる?
ここから見た限りだと銀の白い反射が綺麗に見えないんだけど。
卵もにんにくも玉ねぎもここら辺ではよく使うから特に注意が必要なんだよ。
全く、もう。
そもそも食器や食具は統一した方が良くない?
等と思わなくもないが、
この国ではの個人で分けるのが主流だ。
少し面白いと思う。
で?
これが食事な訳?
良かったぁ。
全然いいわ。
なんて言うか、素材を食え、って言われてる感じ。
味が悲しいことはなくもないけど食材自体はしっかりしてる。
ちょっと火入れが過ぎるところもあるけどまぁいいとしよう。
この辺りだと塩も安くないしな。
ひどいっていうからさぁ、アバンギャルドで背徳的なごちゃまぜのスープとか出てくるかと思ったじゃないか。
全然いけるって。
屋敷の方がもっとひどい時あるもん。
確かに薄味が極まってるしハーブのセレクト間違ってるけどちゃんとしてる方だよ。
でもやっぱりこのあたりは料理方法が焼く、茹でる、煮るしかないんだね。
あぁ保存食としての燻製と塩漬けはあったか。
羊がいるのにペコリーノのチーズがないのはなんでだろうね。
クリームもバターもないよね。
ほんと不思議。
なんで冷やしてかき混ぜないの?
なんで分離させないの?
飲んだ感じちゃんとノンホモだぜ。
むしろホモジナイズしてあったら驚くわ。
置いといて上を掬うだけでもいいよ。
古いワインをなんか変なことしてワインビネガーもどきの酸味料っぽいのを作ってるのは見たことあるよ?
レモンも多少なら入ってきてるし領地の外れにやけに水分含んだオレンジっぽい実をつける果樹が幾本かあるらしいじゃん?
なぜ、混ぜない?
卵だってそうさ。
1週間に2個は必ず産んでくれるだろ?
それなのになぜ必ず殻ごと茹でることしかしないのか?
そのくせ半熟文化はあるよね。
エッグスタンドとか使わないくせに。
ナイフとフォークとスプーン、更にはピックもあるのに。
もうほんと意味不明。
食べれればいいって思ってる人多すぎだよね。
そこでさぁ、それ以上を求めちゃうと、え? 何? 俺が悪いの? みたいになるじゃん、ほんと。
食材がそこまで無いわけでもないのにさぁ。
サクッ!
マッズっ。
にっがっ。
かっらっ。
えっぐっ。
え、なにこのオイル。
おーい、オリーブを搾ってオイルにはしたんだね。
それをパンにワインを濃縮? したバルサミコもどきと一緒につけて食べろと。
その考えは悪くない。
前世でも一般的な考えの方だ。
この世界でその発想に至れたなら、むしろかなりいい方だろう。
だがな、酸味料もどきには仕方ない、目を瞑ろうとしよう、だとしてもだ。
何だ、このオイルは?
舐めてんのか、てめぇら!
聖典に出てきたんだろ?
オリーブがよう?
だったらもっとリスペクトして、大切に扱おうぜ!
それも自分たちで育ててるなら特にさぁ!!
ちょっとその話自体怪しいけどねっ!!!
まず、最低限の濾過はして欲しい。
いや、濾過というか異物の排除だ。
あと多分実を採ってから絞るまで時間経ち過ぎ。
きっと木を下に何を敷くでもなくぶっ叩いて実を落として、地面からテキトーにゆっくり拾って、傷がついて腐り始めてても気にしないで、絞ってるんだろ。
そんでもってきっと搾り始めるのはゆっくり全部の実を拾った後だな?
そうじゃなきゃここまでの酷いことにはなるまい。
強酸と強塩基の毒をパサついたパンにつけられてる気分だったわ。
そしてこれ、どうやって搾ったの?
昔ながらだと石臼かと思ったけどぜったい違うよね。
もしかして実を思いっきり種も果肉もちょっと付いてる枝や葉も全てまとめて叩いたり踏み潰したりしてない?
いやマジで。
そんな感じがする。
ダメだ。
こんなものをオリーブオイルと認めたくはない。
認める訳もない。
違うにきまってる。
なるほど父さん、これは酷いわ。
これの事を言っていたんだね。
まだオイルや酢漬け、塩漬けにもしてない未熟な生のオリーブの実を食べていた方がいいよ。
あれもなかなかだけどさ。
スペイン系のコルニカブラに近い種だと思うんだけどさすがに俺も枝葉の味は知らないわ。
葉っぱだけなら口に含んだことはあるけどあの時のはコルニカブラじゃないしなぁ。
それになんかこれはもう全部台無しすぎて品種がどうのとかの問題じゃない。
あ〜、舌が変に痺れる。
もうだめだってこれ。
正直に言ってみ?
毒でしょ、これ?
誰に幾ら積まれたの?
他のみんなは……クラウディアが目で、もうダメ、おうちに帰りましょう、って訴えてるな。
父さんも気づいてるけど、どうしようもないらしい。
無理なものは無理なんだと、悲壮感と諦念をその濁りきった銅色の瞳に浮かべるばかりだ。
今日の夕食はご馳走と言っていたし(あまり信じてない)、明日からは俺が厨房に立つ事を許されている。
そうだ、今日までなんだ。
こんなレパートリーもなく、迷子な味付けで、たまに変なインパクトだけを求めたような食事は。
そうだ、今日まで、なんだ。
今日、これを耐えれば、終わり、なんだっ!
オリーブオイルがこんなものだと誤解されたらかわいそうだから、地中海料理への冒涜だから、古木を後で譲って貰おう。
そしてオイルを作るんだ。
あとバターとチーズ。
以前山を見た感じ岩塩も探せばありそうな雰囲気だった。
ハーブは既に自分用の小さな畑で栽培を冬から認められてる。
収穫が終わった畑を譲って貰ったから冬からなのだ。
陰湿ないじめではない。
屋敷には鶏と牛がいる。
町には山羊や羊を飼ってる人も少なくない。
香辛料も流通量が少なく高価だが無い訳では無い。
小麦粉は一度篩にかけようか。
町で買うとしたら混ざり物があるから気をつけなきゃな。
大丈夫ヴィジョンはしっかりしている。
明日からは大丈夫だ。
だから今は……耐えるしかないんだ!
あぁ、心の底からブォーノやらデリツィオーゾなどと言える日が待ち遠しい。
いや、私も年頃だからヤミィ〜!って幼稚に言ってやろうか? ああん?
ヴォーノは英語のグッドみたいな感じ。
デリツィオーゾはデリシャス。