5歳になりました、明日からは6歳です
Ciao!
俺はアンドレア カヴァリーノ。
5歳である。
前世を含めるならば31歳である。
なんと三十路越えたオッサンになってしまう。
俺は前世では梶原 柳という名前の色気のあるいい男だったのだが、こうしてこの世界にて生まれ変わったのだ!
このっ、一般市民まで剣を振るい、摩訶不思議なる魔法という、物理法則も、質量保存の法則も、一は全、全は一、も何も通用しないこの世界にねっ!
おい! 治安!
あとこの世界飯がそこまで美味しくない。
いや、飯は俺がまだ良いやつを食べてないだけであろう。
そうであって欲しい、切に。
「兄様、父上が呼んでますよ」
黒髪ショートの美少女が、扉をノックすることなく開き、粛々とのたまう。
彼女はクラウディア カヴァリーノ。
俺の双子の妹である。
前世合わせて29歳である。
もちろん、生物的年齢は俺と同じ5歳だ。
「クレア、ノックぐらいしたらどうなんだい」
クラウディアの愛称はこの世界ではクレアである。
「兄様はこの可愛い妹に何か隠すような事がお有りなのですか?」
「隠し事はないけれども一人の時間というものは、そして自らの領域というものは、大切だと思わないかい?」
「ふむふむ、善処致しますね。
それより父上が明日のことで話があるようですよ。
さぁ参りましょうか」
何故こんなことになってしまったのか?
俺にはわからない。
勿論、クラウディアの事だ。
こいつは元は哀れなる残念な女だったはずなのだ。
なのに何故こんなに逞しく、そして可愛くなってしまったのだ!
おい、残念さはどこにいったのだ。
お前は元気っ子であんぽんたんな後輩キャラだったじゃないか。
何もない所で転んだり右と左を間違えていたお前はどこに行ったのだ!
魂だった頃は言わずもがなだが、3歳位まではちょこちょこ、ちまちましていて、よく泣いては兄様だのお兄ちゃんだの言っていたではないか。
そのくせ好奇心旺盛で、イロイロ人には言えないようなこともやって、よく失敗したりしてコロコロしてたではないか。
いや、今も本質は変わらないことは知っている。
これは演技なのだ。
いや、スイッチがあって外向けの強気の御令嬢モードと誰にも見せない、いや、封印した残念美人モードがあるのだ。
個人的には残念モードの方が弄り甲斐があるし、気楽で好きなのだが、最近は見ることはなくなってしまった。
しかも俺に対しては特に徹底している気がする。
どうして、どうしてだ!
そんなくだらなくないことを考えていたらリビングに着いた。
「あぁ、来たね。
座っておくれ」
大きなソファの左側に腰掛けていた父さんが言った。
あの場所がお気に入りらしい。
母さんが父さんの右側に居たいだけな気がするが。
俺は父さんの言に従ってテーブルを挟んで向かいのソファに座る。
左側にはクレアが音もなく優雅に腰を落とす。
座ればメイド長のアナスタシアが紅茶を淹れて出してくれる。
一口だけ口をつけ、香りを楽しんでから父さんに目を向ける。
父さんの名前はファウスト カヴァリーノ。
もちろん、この目の前にいる今世の父さんの方だ。
ここでわざわざ前世の父の話なんかしない。
位は子爵である。
カヴァリーノ子爵家の現当主だ。
ちなみに初代でもある。
父さんは一介の自由民の冒険者だったのだが、武勲により叙勲、拝領されたらしい。
子爵とは上級貴族と比べればだいぶ隔たりこそあるが下級貴族の中ではトップクラスである。
そんな子爵にいきなり叙勲されたのだ。
普通はありえなぁ〜い、と言いたいところなのだが実際目の前に体現者がいるのでなんとも言えない。
叙勲された理由は武勲としか教えてくれないのだが、一体何をしたのだろうか。
甚だ疑問である。
「さてアンドレア、クラウディア。
君達は明日6歳になるね。
ここまで無事に大きくなってくれて本当に嬉しいよ」
「ありがとうございます、父上」
「父上や母上、それからお兄様にお姉様。
本当にみんなのおかげです」
先の台詞が俺で後がクレアの台詞だ。
なんというか篭ってるものが違う気がする。
それと、クレアは俺と居る時は、俺が話した後にしか基本的には話さない。
3歩後ろを歩くような感じで少し居心地が悪い。
まぁ慣れてるけど。
それはそうと、父さんが愛称を使わずに俺たちを呼んだので、それなりにちゃんとした話をするつもりなのだろう。
ちなみに俺アンドレアのこの世界での愛称はアンディ、またはドレークだ。
アンドレアは地球ならば国により男性名か女性名か別れるのだがそれは世界を跨いでも同じようで、ここスティバーリ王国では男性名なのだが他国では女性名であったり両性で使われていたりする。
愛称のアンディも両性でありえるがドレークは男性の時だけだ。
女性名の時はネアと言われることが多い。
あとはこの国では違うがアンとかアンドレとかレイカとか言われることもある。
これらは両性ありえるね。
めんどうくさい。
本名で呼べばいいのに。
極たまにこういうことを考えてしまう。
あまり文化や風習を否定する気はないんだけどな。
積極的な肯定もしないけど。
あぁ、家名のカヴァリーノも少々厄介で、カヴァリーニと混同される事が他国だとあるらしい。
もう全員数字でいいのでは?
という思考に蓋をする。
「ははっ。
そう言ってくれるとありがたいよ」
父さんは照れ隠しの様に紅茶を少量口に含んだあと言葉を続ける。
そうそう、関係ないけどこの世界、飯は美味しくないけど紅茶は結構美味しい。ちなみに家でよく飲まれるのはフラッシュダイヤリー・アニゲキルハという銘柄だ。なんでも海沿いで育てられており、そこの魔獣もこのお茶の木を好むらしいく積極的に護ってくれるらしい。
面白いね。
「それで明日なんだけどね、朝から教会に行くよ。
そこで洗礼の儀をしてもらうんだ。
昼食も教会で祝福を受けたものを食べるんだ。
あんまり美味しくないけど、文句言っちゃだめだよ。
その代わり夜はみんなでご馳走だよ。
そしてそこで君たちのステイタスを見せてね」
今の飯も別に美味しくないのに、更に美味しくないものが出るらしい。
第一父さんがわざわざ一言添えてそんなことを言うのだ。
推して知るべきであろう。
それはそうと……
「父上、ステイタスとはその肌身離さず持っている石版のことですよね?」
「あぁ、そうだよ。
あれは教会で洗礼をした後貰えるものなんだ」
あ〜、めんどくさい。
元々、人間個人の才能やら技能を共通の単語やら数値で表すことは好きではない。
それに何だか嫌な予感がするのだ。
この手の感覚は違えたことがないのが俺のちょっとした自慢なのだが……
はぁー、やだなぁ。