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顔を見れば判る

  2007年6月30日月曜日



 彩香のことを少し気にしながら楠見第2中の校門に入った。

 電車がつい先ほど着いたのか、最寄り駅から学校までは通学者の嵐だ。

 鬱陶しいなぁ・・・。

 とりあえず、玄関に入ろうとする時。

 「お、翔じゃん」

 ん、この声は。

 「誠司じゃん、おはよー」

 「うん、おはよう」

 それより、誠司がこの時間帯にいるって事は・・・、

 「なぁ、あいつも近くにいてるんじゃないのか?」

 「うん、いるよ」

 こいつあっさりと言いやがった・・・。

 「でも大丈夫大丈夫。こんな人気の多いところで手出ししないって」

 そうだと良いけどな。

 少し気にしつつも玄関で靴を履き替えようとする。

 「よぉ、久しぶりだな。もう大丈夫か?」

 ゾクッ・・・。

 「よう、久しぶりですねー」

 またこいつか。今までの事が思い出してくる。

 早く立ち去りたい。

 「今からちょっと時間あるか?」

 時間無くても連れて行くだろうが。

 とりあえず巻き添えが食わないように誠司を先に行かせた。

 「45分からホームルームが始まるだろ」

 靴を履きながら答える。

 さて・・・、これからどうしようか。

 「俺らコーコーセーだぜ?多少の遅刻は何もいわれねーよ」

 あぁ、やっぱり意味が無かった。

 周りを見渡す。

 薄情なやつらばっかりだ。

 巻き添えを食らいたくないのは誰でも一緒か。

 しゃーねー。そこにいる人影も気になるし、こいつに付き合ってやるかー。

 「あぁ、良いぜ」

 「へぇ、今日はいつになくやる気があるじゃねーか」

 「たまには、な」

 真っ向から受ける気なんて無いけど。

 「今日は体育館裏に数人ほど呼んであるからなぁ。こうなるならもう数人連れて来たら良かったよ」

 こいつ卑怯過ぎだろ。

 「ま、お前なら1人でもすぐにノビちまうだろうけどな」

 だったら初めから連れて行かなければ良いだろ。他のやつを探せよ。

 「おら、着いてこいや」

 仕方ない。せこい方法はあまり好みじゃないが、

 「判ったよ」

 さり気なく後ろに回られたな。やっぱこっそり逃げるとか無理かなぁ。

 と、相手が俺の後ろにいてるということは、普通俺は逃げられないと思う。

 つまり、それを逆手に取れば、普通俺は逃げられないわけだから、相手は油断してる確率もある。

 さっきの態度を見てても、俺が逃げないと思い込んでそうだし。

 現に今まで逃げたことはほとんど無いからな。

 「なんて・・・。素直に行くと思うか、アホが!」

 一言罵倒し、即座に逃げる。

 奴も咄嗟の事だったようで一瞬隙が生じた。

 目指すは、信二の下へ。

 さっき靴箱から見かけた人影は信二のものだ。

 「待てやぁ!」

 あぁ、くそ。

 少しずつ詰められてる。

 あと少し、あの曲がり角。

 何とか曲がり角を曲がり、信二とすれ違う。

 俺は無視して階段を上がって上に駆け上る。

 このまま上に行けば俺のクラス。

 誠司もいてるはず。

 ふと、駆け上る際、下を見ると、

 こけたのか、起き上がってからこちらを睨み、辺りに当り散らしてる。

 小さい人間だなぁ。

 なんて思いながら、信二を探した。

 こかしたのは信二だろうが、信二がいてないってことは、うまく逃げたのだろう。

 まだホームルームが始まる直前ということで廊下に出てる生徒も多い。

 助けてくれたお礼に後でジュースでもおごってるやるかな。



 教室に入った俺がまず目にするのは教室の後ろのほうで遊んでいる奴ら。

 時間は8時40分。

 遊んでいる・・・、いや、これもいじめだろう。

 片方は楽しんでるが、もう片方はどんな風な見方をしても楽しんでるようには見えない。

 席に着いて鞄から午前中に使う教材を机の中に放り込んだ。

 8時45分。先生が来てホームルームを始める。

 「ホームルーム始まるから早く席に着け。特に後ろで遊んでる奴ら」

 先生、あれが遊んでるように見えるんですか。

 いじめられてた奴は席に戻ろうとするが、いじめてる側はそれを許さない。

 先生の忠告はあまり意味がないみたいだ。

 先生もそれ以上はあまり咎める気がしないのか、それ以上は言わなかった。

 朝の報告を適当にやってそれで終わり。

 職員室に帰っていた。

 所詮はこの程度。何の役にも立ってない。

 中には良い先生もいてる。面倒見の良い先生や、正義感の高いような先生。

 でも、大半は給料だけをむしりとるような先生だろう。

 ただすることだけして終わりっていう先生はそんな言われ方を仕方ないと思う。

 授業が始まるのは9時から。

 まだ時間もあるから暇なわけだが。

 「翔。あの後大丈夫だった?」 

 「おぉ。何とか撒いた」

 「すごいじゃん。どうやったのさ」

 「そうだな、それについてはまた追々話すよ。俺はちょっとトイレに行って来る」

 「もったいぶるなよな。じゃ、行ってらっしゃい」

 誠司は信二の事知らないし、後で言った方が面白そうだ。

 ちなみに、この棟には男子トイレは1個しかない。

 1階と3階は女子トイレ。2階に男子トイレ

 横の芸術・クラブ関連の教室のある棟には逆の配置。

 男子トイレで、奴に会わなければ良いけど。

 トイレの中に入る。その時、目の前の人から話し声が聞こえた。

 「お前体育館裏に連れてくるって言ってたじゃねーか」

 「わりぃわりぃ。逃げられてよ」

 「ったく。おかげで俺ら、無駄に遅刻して減点対象になっちまったよ」

 「悪かったって。次は連れてくるからよ」

 「おぅ、期待してるわ」

 やばっ。

 隠れるところは・・・。個室だよな。

 「あぶねぇ」

 思わずつぶやく。

 人違いだったら良いけど、あの後姿は絶対に奴だ。

 ちなみに俺は名前を知らない。聞く機会も、耳にする機会も無いからだ。

 別に知りたくもないけどな。

 そう思いながら、そろそろ立ち去ったと思い、ドアを開ける。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・おい」

 何でバレてんの!?

 いや、マジで。えーと、なんで?とりあえず目が合ったから閉めてみたけど。

 「他の奴らは居なかったみたいだけど」

 どうしよう。

 「おら、開けろや」

 時間を確認、55分。まだ時間あるな。

 あぁ、くそ。最悪だ。

 何でバレたんだろう。

 いや、そんなことは今はどうでもいい。

 もう一度開けてみる。

 「・・・・・・」

 やっぱりいるよね。

 「・・・・・・・・・」

 バタンッ

 「てめっ!」

 俺の身軽さなめるなよ。

 便器の上に足を掛けて、隣の個室に乗り移る。

 上に隙間が開いてある所に体を刷り込ませる。

 よし、何とかいけた。

 「ぁん?隣に移ったのか?」

 やべ、勢いよく・・・開ける!。

 バタンッ!

 「いってぇー!何すんだ!さっきといい・・・ッッッ!」

 鼻は痛いだろうな。狙い通り。

 ドアを思いっきりぶつけたのが利いたのか、追ってくる気配も無く、俺はそそくさと逃げ出した。

 あぁー・・・、結局俺は何のためにトイレに行ったんだ?

 余談だが先生が来る直前に席に戻ることができた。

 もちろん誠司には言ってない。




 昼休憩。12時20分

 「翔。昼ごはん食べよう」

 「ん。あぁー・・・、そうだな」

 「どうしたの?」

 「今日は俺、学食だからさ」

 というか、ここにいてると奴がいきなり出てきそうで怖い。

 「僕もそうだよ。じゃ、行こうか」

 「そうか。行くか」

 芸術・クラブ棟の方へ行き、1階にある食堂へと向かう。

 また、そこでもいじめは普通に行われてる。

 歓声を上げる者もいるが、大半はそこを避けて、食事をしていたりする。

 「居心地悪いな」

 思わずつぶやく。

 誠司もあまり良い気分はしないようだ。

 適当にパンを買って、食堂を後にする。

 ・・・が、いじめられてる対象を目に入れてしまった。

 「信二だ・・・」

 「え、誰?」

 ジュースをおごってやるって言ってたからな。

 「ちょっと先に中庭に行ってろ」

 「うん?わかった」

 500ミリペットボトルのジュース。

 フルーツの類のもので、ちょっとズッシリとしてる。

 信二の場所は・・・、あそこか。

 いじめっ子は・・・、一人だけ、あそこか。

 「あの時の借り、今返す・・・ぜっ!」

 ペットボトルを投げる。寸分違わず狙い通り。

 頭に命中。

 数瞬停止してる内に俺は逃げる。

 中庭に向かうか。

 


 「翔お帰り。結局なんだったのさ」

 「すぐわかるよ。仲間が居ないと不安だろ?」

 そろそろ信二が来てくれてもいいが。

 「食べようぜ」

 「そうだね」

 と、食べて知らばくしない間に、信二が来た。

 「来た来た」

 「こんなところに居たのか、さっきはありがとな」

 「なぁに、今朝のお礼だよ。ついでにそのジュースもな」

 そう笑いながら話してると、

 「ねぇ、誰?さっきの信二って人?」

 誠司は知らなかったな。

 「そうだな、なんていうか・・・」

 一拍おいて、

 「信二であり・・・、俺たちの新たな同士ってところ?いや戦友か」

 言った。

 誠司の驚いてる顔面白いなー。

 「今更そんな驚く必要も無いだろ。2人だけでやっていけるわけ無いんだし」

 「そうだけど・・・。何で言ってくれなかったのさ」

 「昨日仲間に入ったんだよ。今朝言おうとしたけど、ごたごたがあったからなぁ」

 「そう・・・か」

 すぐに言わなかったのは悪いとは思うが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。

 俺がずっと気にかかっていたこと、今朝の彩香の様子。

 学校に行けば必ず会えるはずだ。

 時計を確認する。12時35分。

 昼休憩終わりの時間は12時55分。

 後20分。

 「悪い。これから用事あるから先出るわ」

 「え、僕たちも一緒に行こうか?」

 「いや、一人でいい」

 「わかった。気をつけて」

 「あぁ、お前らもな」

 恐らくこの時の顔は怒っているような、悲しいような、そんな表情をしてたと思う。

 教室棟に戻る。

 目の前にある、1年の教室

 彩香の教室は1年1組だったな。

 教室を見渡す。

 あれ?いない。

 「なぁ、彩香どこにいるか知らないか?」

 ドアの前に立っている女子に話しかけた。

 「彩香・・・?今日は来てませんけど」

 「は?来てない?そんな事はないだろ」

 「いえ、今日は来てませんけど・・・」

 どういうことだ。

 「あの、あなた、中島翔さん?」

 「そうだけど」

 「はじめまして、私佐島聡美と言います」

 「はぁ・・・」

 「ちょっとこっちに・・・」

 なんだ?っていうか、何で俺のこと知ってるんだ

 「彩香、いつも他の女子にいじめられてるんです。やってる事は小さいことなんですけど、落書きや、靴を隠したり、輪ゴムを飛ばしたり・・・」

 「・・・」

 「彩香も反抗したら余計に危なくなるって判ってるのか、何もしなくて、でも、ずっと続けられて・・・」

 あぁ・・・、やっぱり

 「私も下手に手を出すこと出来なくて・・・」

 「知ってるよ」

 「え、どうして?親にも、誰にも言ってないって彩香が・・・」

 そんなことは簡単。

 「そんなの、彩香の顔を見ればわかる。小さい頃からずっと一緒にいてたんだ。確証付けたくて今日はここに来たんだがな・・・」

 「そうですか。翔さん、彩香がいつも話しとおりの人ですね」

 彩香が?

 「今いないんだったら仕方ないや。また出直すよ」

 「はい、また来てください」

 手を振って別れた。

 ひとつ判ったこと、

 彩香が学校に来ていない。

 今朝は一緒に・・・、っていう表現はおかしいが、学校に向かっていたはずだ。

 やはり、あの後どこかに行ったのだろうか。

 教室に戻ると、誠司は読書をしていた。

 適当に誠司に話をし、誠司の制止を聞かずに教室を飛び出していった。

 靴を履き替える。

 玄関に出ようとするとき、

 「てめぇ!あの時はよくもやりやがったな!」

 げっ。何でこいつがいきなり出てくるんだ!

 「うるさい!今はお前なんかに構ってる暇は無いんだ!」

 あんな奴無視。っていうか、おとといの傷は癒えてないんだ。話したくも無い。

 「あぁ!?お前早退すんのかよ!」 

 遅刻しても構わないって言った奴に言われたくねぇ!

 「じゃ、俺も早退しよう」

 「なんでそうなるんだ!」

 構ってられねぇ。

 走り出す。

 「待てやっ!」

 追ってきた。

 構わず走る。

 しつけぇよ!

 そんなことより彩香が何処に居てるのか探さないと。

 どこか思い当たる場所・・・。

 泣き出したのは家をでて間もない時。

 一番近くて良さそうな場所・・・。

 ゲーセン?

 いやいや、彩香はそんなところには行かない。

 ・・・公園。

 小さい頃いつも彩香と遊んでいた公園。

 「あそこしかない」

 そこに向かおうと足を向ける。

 ふと後ろを見る。

 まだ追ってきてるよ・・・。

 何とか振り切ってから行くか。

 「あぁ?スピードあげてんじゃねぇ!」

 「ぅるっさいな!」

 喋っても息切れが激しくなるだけじゃ。

 「てめぇ、待て!」

 「・・・・・・・・・」

 無言を貫く。

 「無視するんじゃねぇ!」

 「・・・・・・・・・」

 お前なんかに構ってられない。

 「て・・・め・・・。くそ・・・っ」

 息切れか。馬鹿だろ。

 その間に俺は全力で走り、振り切った。


 そして、公園に着いた。


 案の定、彩香を見つけた。

 昼過ぎと言う事もあるのか、公園には誰も居ない。

 もっとも、この時間帯に制服でうろついてたら補導の対象なんだが。

 何て言えば良いんだ。

 何か気休めの言葉を言えば良いのだろうか。

 場を和ませようとしたら良いのか。

 俺は

 「彩香・・・」

 声を掛けた。掛けずには居られなかった。

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