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初体験

「ユウキさんにユイさん!1ヶ月もいなくなって死んだのかと思いましたよ!?」


1ヶ月ぶりの依頼を受けに来たら、ミナさんにそう言われた。新人冒険者が、1ヶ月も姿を見せなくなったらそう考えるのが当たり前だ。


「すいません。ユイの修行に付き合ってたもんで。」


「今度から長期間冒険者ギルドに来られないのでしたら、連絡してください。まだ低ランクだから良いですけど、高ランクになると指名依頼が来るんですから。」


「分かりました。」


「そう言えば、ユウキさんはユイさんとパーティを組んでますよね?パーティ名は無いんですか?」


「うーん…成り行きで組んだから考えてなかったな。あとで考えておきます。」


「次の依頼達成で、Fランクに昇格するのでそれまでに考えておいてください。」


仕方ない。俺の無いネーミングセンスを搾り出してみるか。


「というわけでどんな名前が良いと思う?」


「パーティの特徴が表れている名前が良いと思う。爆★槌とか。」


「待て待て待て!そんな恥ずかしい名前あり得ないだろ!もっと抑え気味のやつを。」


「悪く無いと思うんだけど…じゃあファイアハンマー。」


「お前の火属性魔法と俺のハンマーから取るのは無しにしようか。」


「そんな。私たちからその二つ取ったら何にも残んない。」


「確かにそうだけどさ…何というか強くなった後に、カッコ良い感じの説明が出来るような名前にしたいんだよ。」


「そんなに悩むんだったら、他人にどんな風に見られてるかで決めれば良いんじゃ無い?」


「面白そうな話をしているじゃ無いか!」


何か男が話しかけてきた。


「ユイ知り合い?」


「ううん。知らない。」


「忘れるなんて酷いじゃないか!ほら模擬戦で無様にも負けたマイケルさ!」


「あ、名前知らなかったから分かんなかった。相方は?」


「ジャックの奴なら、スライムに股間を攻撃されたせいで股間が腫れ上がってるから自宅療養中だ。」


ずいぶん間抜けなやられ方だな。


「で?話に入ってきたからには何か良い意見があるのか?」


「ああ。君達は随分噂になってたからな。美少女魔法使いのユイに纏わり付いてる金魚の糞とか、財布とか美人局とか噂は絶えなかったぞ。」


「随分と失礼な噂だな!」


「美人局とかそんな事実は無い。」


「じゃあ2人は付き合ってるのか?男女の冒険者が2人パーティなんてそれ以外に考えられないぞ。」


そう言われると、どんな関係性か困る。この1ヶ月間。修行という名目があったとはいえ、2人っきりで過ごしてかなり仲良くもなった。それでも、明確に告白したわけでも無いし、周りからカップルとして見えていたとしても付き合ってはいないのだ。


「そうか。まあ冒険者のパーティ解散の理由の3割が男女関係らしいからな。お互いきちんと話し合ってパーティを続けるか考えたほうが良いぞ。」


「「…うん。」」


心に何とも言えない感覚を残したまま、その日の依頼を受けに行くのであった。



依頼からの帰り道。今更ゴブリン狩りなんて全く苦戦せずに達成出来たのだが、空気は重苦しいままだった。


マイケルの言葉が脳裏から離れない。俺とユイの関係は今までずっと後回しにしてきた事だ。初めは、やっほーい美少女だハスハス!くらいのふざけた感覚でユイの事を考えてた。それが思いがけず模擬戦でペアになり、そのままなし崩し的な感じでパーティを組めて浮かれていた。多分そのせいで俺のステータスについてもばれたのだろう。


しかし、その感情はステータスがばれた時に変わった。もしバレたら、何も言わずに去る予定だった。でも、ユイが強くしてほしいと頼んできた時に欲が出てしまった。もっとユイと一緒にいたい。そんな下心で火属性魔法のスキル上げと称して修行を請け負ってしまった。俺がスキルを教えても極めるには1年くらいかかるだろう。その間だけでもまだ一緒にいたい。そうして修行が終わって、一人前になったら今度こそ諦めて去ろうとそう思っていた。


しかし修行はわずか1ヶ月で終わった。多分ユイは天才だったのだろう。

1年間かけて、自分の気持ちに整理をつけるつもりだった。だが1ヶ月間という期間では自分の気持ちに整理がつけられず、逆に最も意識してしまっていた。ユイに魔法を教えるために手を繋いで指導してた時なんかはいつも心臓が破裂しそうだった。それでも修行が終わったので去ろうとしていたのだが、ユイは俺と冒険者生活を続けるつもりだった。


思えば、怖かったんだろう。もし俺が告白してしまう事で、ユイとの友達以上恋人未満といった関係性が壊れる事が。思えば、前世でもそんな恋ばっかだった。気になった女の子は何人もいたけど、どうせ自分の顔じゃあOKされない。それで関係が崩れるよりは、お互いに話し合う程度の関係性でいいと思って1回も告白した事はなかった。


でもそれじゃダメだ。前世でだって、毎回そうやって告白しないでいる内に相手が違う男と付き合っていった経験からわかってはいる。恋愛においては、どちらかが動かないと変化が無いと。ここらで覚悟を決めないと。


「ユイ。話があるんだ。」


「何?」


普段から大して表情の変わらないユイだが、少し顔が赤い気がする。


決意を決めたはずなのに、全然声が出てこない。


「えっとさ。ユイとこの1ヶ月間一緒に過ごしてさ。俺すごく楽しかったんだ。最初は、可愛いなあって思って近づいていったんだけど、しばらく一緒に過ごしている内にどんどん惹かれていってさ。でもそれを口に出すのが怖くって。この楽しい関係を崩したくなくて。でもそれじゃ何も進まないって思った。だからさ、よーく聞いてくれ。」


「うん。」


自分でもちゃんと言えていたか分からない。支離滅裂になっているかもしれない。それでも何とか声に出してみる。


「一目惚れでした。付き合ってください。」




実際には10秒も経ってないだろうに、時間が止まったかのように長く感じた。そして…



「はい。これからもよろしくお願いします。」




俺の人生初の告白は、成功したようだ。嬉しさと恥ずかしさの感情が入り混じって涙が溢れた。俺は、この日の事を一生忘れないだろう。気づいたら俺は、ユイの事を抱きしめていた。





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