立花の事が大好きだ。
もう誰の声も聞きたくない。
自分の部屋に閉じ籠った私はベッドに潜り込んだ。
何でこんなことになった?
少しづつ暗くなる夜の帳の中このまま消えてしまいたかった。
『昔はそんなんじゃなかったっすよね?』
立花に言われた言葉を思い出す。
そう。私は完璧な姉と比べられるようになってから人から遠ざかるようになった。
何をしても姉に勝てないなら、一生姉の影に隠れよう。
姉の存在で自分の存在を消してしまおう。
それに、きっとあの時の立花は姉の事が好きだった。
立花はいつも姉を追い掛けてたから。
だから、私は心を閉ざした。
ピコンと軽いリズム音が、鞄の中のLINEの通知音を教えた。
きっと立花からだろう。
どうでもいい、もう放っておいてよ。
私に構わないで。
それなのに、トントン、ドアをノックする音が聞こえる。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
次から次へと私の心を引っ掻き回す。
「早く開けなさい。…知ってた?私とあなたの部屋の鍵って同じなのよ。だからあなたの部屋のドアなんてすぐに開けられるのよ、強引に開けられたい?」
強気な姉の物言いに背中がゾクッとする。
え?そんなこと聞いたこと無い。
小さな抵抗が意味無いと分かった私はゆっくりと扉に近付き、ドアを開けると、満面の笑みを見せて私を見ている姉がいた。
「なーんてね。同じ鍵の筈ないじゃない、本当単純なんだから」
クククッと満足そうに笑って入ってくる姉を見て、やっぱり姉には勝てないと思ってしまう。
「どうした?あんたがお母さんに言い返すなんてあんたらしくなかったじゃない」
「お姉ちゃんには関係無い。用が無いなら出ていってくれる?」
「あんた、いつからそんな風になっちゃったの?昔はもっと笑う子だったよね?」
姉も立花と同じようなことを言う。
「いつからそうなった?」
またそれ?うんざりしながらその言葉を受け取った。
「お姉ちゃんには私の気持ちなんて分からない何でもできて、欲しいもの全て手に入れられるお姉ちゃんには分からない」
「あんた何か誤解してない?」
お姉ちゃんは部屋のチェアーに腰掛け、語尾を上げて、一言。
「私だってこれでも必死だよ」
黒目がちの瞳をより一層黒くして私を見上げた。そんな姉の目からは余裕なんて感じられなかった。
勝ち気な瞳は心の中を悟られないためのバリケードのようだった。
ごく最近こんな目を見たことがあった。
そうだ、立花だ。
立花もこんな目をして、私の事を好きだって言ってくれた。
「あんたは逃げてるだけじゃないの?」
追討ちを掛けるような姉の言葉にハッとした。
そうだ、私はいつも自分に正直に生きてたことなんて一度も無い、いつも逃げていた。
母からも姉からも立花からも…。
私の正直な気持ち。
瞬間、頭の中に立花の笑顔が浮かび上がる。
長い間ずっと気付かないふりしてたけど。
それは…。
私、立花が好きだ。
立花の事が大好きだ。
そう思ったら、今まで悩んでいた自分がバカらしく思えた。
逢いたい。
立花に逢いたい。