立花が私の事を好きになるはずないじゃない。
立花が私とは全く別の人種だと言うこと初めから分かっていた。
立花の隣にいるときの違和感。
自分が一番気付いていたじゃない?
立花と言う人はそこにいるだけで、みんなの注目を浴びてしまう。何をしても様になる、別に彼の事好きじゃないと思っていても彼が通ると無意識に目で追ってしまう。
そんな学校一の人気者と、いてもいなくても誰にも気付かれない空気のような地味子。
今朝ユイナに言われた凶器のような言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
『立花くんがあんたにコクったのは罰ゲームだって』
何言ってるの?と聞き返す事ができなかった。
罰ゲーム?それは本当なの?
信じたくないけど、私と立花が並んでる姿を見たら私たちが似合っていないこと。
一目瞭然だもの。
立花の告白はもうほとんどの生徒に知れ渡っていて。
面白くない女の子たちは私へ容赦なく刃物のような視線を投げ掛けてくる。
これは本当に罰ゲームだ。
立花への罰ゲームでは無く私への罰ゲームだ。
「送ってくれてありがとう」
学校中の冷たい視線を浴びて気持ち悪くなっていた私はそれでも何とか一日を乗り切り、一緒に帰ってくれた立花によそよそしくペコリと頭を下げた。
「…何かあったんすか?」
玄関の戸に手を掛けた時、背後から立花の不満そうな声が聞こえた。
帰り道、一言も言葉を発しなかった私の横で立花は何かを感じ取りながらも、明るい口調で、夏になったら海に行こうとか、高校に入ってもバスケしたいなとか当たり障りの無い話をしていた。
「別に」
「別にじゃないよ?やっと心を開きかけてくれたと思ってたのに、また振り出しに戻った感じっす」
「…」
「手も繋いでくれなかったし、哀しいっす」
振り向くと、血色のいい唇をつんと尖らせて拗ねる彼の姿があった。
彼が私にコクったのは罰ゲーム?
これが演技だとしたら彼は相当の役者よ。
正直に自分の気持ちを言いたくなってしまう。
罰ゲームなんて嘘だよね?って。
だけど…。
「私は立花に相応しくないから」
立花の目を見て言うことはできない。
見てしまったらきっと泣いてしまう。
だって、本当は好きなんだもの。
本当に本当に大好きだから、嫌われたくない。
「え?」
「だってそうでしょう?立花が私の事を好きになるはずないじゃない?」
可愛くない、最悪の言葉。
「は?何言ってんすか?」
イラついたような立花の言葉が心を掻きむしる。
人を好きになるってこんなに苦しいものなの?
胸の痛さを感じながらも私は扉を閉めた。
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「ただいま」
重い玄関の扉を開けると。
「ちょっとそこに座りなさい」
居間の食卓に座っている母に呼び止められた。
「この間の模試の結果、これ何?こんなんじゃお姉ちゃんと同じ高校に行ける訳ないじゃない?」
入った瞬間のどんよりとした空気からお母さんの機嫌の悪さが分かる。
まさに弱り目に祟り目ってこんな時にあるのね。
金切声のお母さんの声が部屋を充満させる。
私、お姉ちゃんと同じ高校なんて行きたくない。
その一言が言えない。
私が何も言わないものだから、次から次へと母の罵声を浴びてしまう。
「あなたは元からお姉ちゃんと違ってデキが悪いんだから人一倍努力しないとダメなの!分かる?」
「しかも、見てたわよ。お隣の光洋くんと一緒に帰ってきて、勉強もしないで男の子となんて…お姉ちゃんを見習いなさい」
グワっとお腹から熱いものが沸き上がってくるのを感じた。
恥ずかしいと言う気持ちもあった。
モヤモヤとした言いようの無い怒りに心が支配されていた。
「私は…お母さんの人形じゃない」
初めてお母さんに言い返してしまってから、はっと我に返る。
案の定、母は真っ赤になった顔のまま硬直していた。
「あんた…今、何て…?」
私が言い返すなんて思ってもみなかった母からしたら、そんなことを言う私は自分の全く知らない生き物に見えたのかもしれない。
「…ご、ごめんなさい」
それだけ言うのがやっとだった。
二階に上がる時、帰ってきたお姉ちゃんとぶつかった。
「ちょ、どうしたの?」
お姉ちゃんの驚いたような言葉を無視して、私は自分の部屋の鍵を閉めた。