罰ゲーム
今回は胸キュンが全く無くてすみません。
来月の27日までちょくちょく設定変わって本当にごめんなさい。
そして、ありがとうございます‼
ここ数日の出来事が日常の常軌を逸し過ぎていて、長い夢でも見てるのではないかと思っていたけど。
「おはよう」
次の日の朝。
約束通り、私を迎えに来てくれた立花を見て、ああ夢じゃなかった。
と、幸せな現実を噛み締めることができた。
「おはよう」
立花の目を真っ直ぐに見ることができなくてうつむいたままで返事をする。
そんな私に気付いて、私の顔を覗き込み、もう一度『おはよう』と言ってくるから。
ただでさえ、今日は暑いのに余計に熱くなってしまった。
立花が私の隣に並んで歩いてくれるだけで、いつもと同じ通学路の風景がまるで違った景色に見える。
朝日も、騒がしい小学生の列も、自転車で抜かしていく高校生も全てが新鮮に見える。
「いやー、夢みたいっす。こうして椎名と登校できるなんて」
まさか立花の方がそんなこと言うなんて思いもしなかった。
「考えてみると不思議っすよね?家が隣同士なんだからもっと早く誘えば良かった、昔は幼稚園行くときもこうして手繋いで通ってたのにな」
クスっと笑って、私の右手に触れた。
温かくて大きな手。
「幼稚園の時と今じゃ全然違うよ」
「そうだな」
偶然にも私たちの横を、リュックを背負った幼児の集団が過ぎていく。
それを見ながら、立花がポツリと言った。
「幼稚園の頃、遠足で博物館に行ったこと覚えてる?」
「何となくだけど…動物のはく製とかあった場所だよね?」
博物館と言っても小さな小さな博物館だったけど、小さな私たちには充分楽しめる場所だった。
「…恐竜いたの覚えてる?」
「恐竜?」
ああ、そう言えば…。
「小さいけど動く恐竜いたね」
あれ?そう答えながら胸がざわついた。
私の記憶の扉がガタガタと音を立てている。
何か大切な事を忘れている気がする。
恐竜を見た後、幼い私の目の前にいたのは…私の目の前にいた男の子は…。
立花?
立花が泣いてる?
私、立花に何したの?
ダメだ、そこから先が思い出せない。
「その様子だと覚えてないみたいだね」
「ごめん…私、何か…」
何かした?と続けたかったのに、突如現れた人物によって邪魔された。
「おはよう、椎名」
級友のユイナはツインテールの髪をぶんぶん揺らして私たちの前に立った。
同じ制服のはずなのに、ユイナのスカートは随分短く見える。
「へぇー、あの噂本当だったんだぁ!立花くんと付き合ってるって噂」
ユイナはふぅんと、不満気な声を出した。
「私も一緒に行っていいかなー?立花くん?」
クルクルとよく動く目で立花を見上げて、普段の声より高めの声で言ってきた。
「オレは構わないっすよ」
ちらっと私を見たものの、断る理由が見付からないと判断したのだろう。
笑顔で応えた。
「良かったー」
ユイナは嬉しそうに笑って、私の横に立ち、私にしか聞こえない声で…。
「みんな言ってるよ、立花くんがアンタにコクったのは罰ゲームだって」
ユイナの低い声が鈍く胸に突き刺さった。