椎名にまだ彼氏と認められてないみたいだから。
またまた設定を変えてしまい本当に申し訳ありません。
「何?」
家の外で待っていてくれた立花に向かって、私は心とは裏腹な冷たい一言を発してしまう。
本当は嬉しいくせに。
立花に会えて、立花が私に会いに来てくれて本当はすごくすごく嬉しいのに。
こんな時素直になれない自分がイヤだ。
「ちょっと歩かない?」
立花はそんな私の言葉に気分を害した様子も無く、私の返事も聞かずに歩き出した。
「あ、ちょっと待って」
急いで立花の背中を追い掛けた。
立花は表の商店街ではなく、裏の土手に向かって歩いているようだった。
裏の土手は小さい頃、立花と姉の三人でよく遊んだ場所だった。
蓮花で花飾りを作ったり、追い掛けっこをしたり、キャッチボールをしたり、そんな他愛ないことをして日が暮れるまで遊んでいた。
そんなこともすっかり忘れてた。
小学校上がってからお互い別の友達を作ったりして三人で遊ぶことなんて無くなっていたから。
「てか、オレ肝心なこと忘れてた、そのさ、今更なんだけど…」
土手のベンチに座った立花は言いにくそうに口をもごもごとさせて、少し頬を赤くするものだから、何を言い出すのかと思えば。
「LINE交換してもらえないかな?」
自分の鼻の先を指で掻きながら、視線を足元にやって照れたように小さな小さな声で言うものだから、思わず聞き返してしまいそうになった。
は?
私にいきなりキスしようとしたり、みんなの前で交際宣言してきたり、堂々と手を繋いだりしてるくせに、何でこんなこと言うのに照れてんの?
「な、そんなこと今更…てか、ごめん。私、LINEしてない」
「え?は?LINEしてない?今時?まじっすか?」
予想外の私の返答にガクッと項垂れてしまった。
「せっかく勇気を振り絞って聞いたのにぃ」
「いやいや、アンタみたいなのがそんなこと聞くのに勇気を振り絞るってどう言うこと?もっと他の事で照れるべきでしょう?」
つい突っ込んでしまった。
「他に照れる事って?」
ふわっと立ち上がり、何の前触れも無く私の頬に触れた。
瞬間にカァーと体温が急上昇して何も考えられなくなる。
私の頬を撫でていた右手が顎に触れ、立花の顔が近付いてきた!
これは…!このシチュエーションは!
やばい、あの時の感覚がよみがえってきて恥ずかしくて息ができなくなる。
「大丈夫、まだ椎名に彼氏と認められてないみたいだから、まだしないよ」
立花の吐息が顔にかかり、目を開けると、いたずらっ子のように、ニカっと笑う彼がいた。
そして、私の頭を優しくポンポンと叩くと、言葉を続けた。
「あのさー、何か誤解してっかもしんねーけど、オレだってあの時めちゃめちゃ頑張ってコクったんだけど」
今度は立花の方が顔を真っ赤にしていた。
「まぁ、その…あの時は、突然キスしようとして悪かった。だけど。オレ、いい加減な気持ちで椎名にコクった訳じゃないから」
今私の目の前にいるのは、あのいつでも自信満々の立花だろうか?
こんな目立たない私に対して学校一のイケメン王子がこんなこと言う?
こんなのずるいよ…。
立花にドキドキが止まらない。
「私もLINE始めようかな?」
立花の態度にアタフタしながら、カーディガンのポケットからスマホを取り出した。
「これにLINE登録お願いします」
「了解っす」
初めてのLINE登録。
私のすぐ下に立花の名前がある、ただそれだけがくすぐったい。
ベンチに腰掛けたまま、他愛のない昔話しをする立花姿を見ているだけで幸せな気持ちになっていた。