27
ブレナルトへ帰ってきてから、新は王都へ行くための準備を急いでいた。
ただ、用意する物はそんなに多くもなく、服や装備品などが必要だった。
特に新がしている魔力制限をどうするかが問題であった。
オーレイルとの話し合いでは、ある条件から制限について黙っていてくれる事になった。
王に対し危害を加えない、オーレイルが対応出来ない事態に対し助力をする事が条件だった。
ただこのまま制限を身に付けていれば一目でわかるので、その対策を施した。
まず身体制限については、弄るのに特殊な魔術が必要で作ることも改良する事も出来なかった。
そんな物をダズが持っていた事も疑問だが。
それらを左腕に纏め、その上から苦し紛れに包帯を巻く事にした。
それを見た新が
「…中二病患者に、なった気分だ…」
とこぼしてしいたが。
ここまでして身体強度を誤魔化さなくてもと思うが、1つダズも気づかなかった誤算があった。
新の年齢はまだ17歳ほどで、身体の成長は止まっていない。
限界を迎えたと思った新の身体強度は、時間が経つにつれて上限が上がっていた。
特に身体制限は、身体に常に負荷を掛けている様なものなので、身体の成長で上限が上がると同時に、制限解放時の能力も軒並み増加していた。
簡単に言うと、素手で熊などの大型の獣を圧倒出来る様になってしまった。
これで普通に過ごせと言う方が無理だ。
そんな事情から、泣く泣くこの格好を受け入れるしか無かった。
あと魔力制限に関しては、非常に簡単な解決法があった。
タクナへと魔力を流すのだ。
するとタクナとしては食事にもなるし、タクナ自身は魔力を大量に摂取しようと感知に掛からない為に一石二鳥だった。
そうして、外出も安心して出来る様になると、街に買い物に出かける事になった。
何故かテオが買い物に付き合ってくれる事になり、学術院から一駅の商店街を案内してくれていた。
「あの、すみません、テオ先輩。買い物に付き合わせて…」
「そんな事ないさ。俺んちもアラタ君に迷惑かけたんだ。鍛錬にも付き合ってくれてるしな。」
「ありがとうございます。でもせっかくの休みに予定とかはないんですか?」
「……予定って、あると思うかい?」
同様に友達などいない新は、してはいけない質問をしてしまった事に気付く。
「なんか腹減りましたね!!ご飯はどこにしますか?!」
何とか取り繕おうとするが、不自然な大声を出してしまう新。
「あぁ、今日は俺のオススメの店行こうか。付いておいで。」
何とか誤魔化せたと思ったが、友達のいないテオに外食する機会があったのかなどと失礼な事を考えてしまっていた。
案内されたカフェの様な場所で、洋風な昼食を頂いた。
ちなみこの世界の主食は穀類である。
農業は地球のものと殆ど変わらない姿を新は目にしているが、やはり魔物の事も考慮が必要らしくマーセナリーの依頼として、農家の護衛依頼が大量にある。
この様な依頼は5級が全て請け負い、ユニオンも格安で引き受けている。
昼食を食べ終わったあとに、これからの事など、他愛無い事を話していた。
その時、大きな爆発音が響いた。
音の様子からして遠くの方だと感じられたが、2人とそれ以外の客も慌てて、店の外に出ると周囲を確認した。
すると現在いる店からかなり離れた場所で、黒い煙が上がっていた。
其処彼処から、なんだなんだと声があがる。
「どうしたんだろう?」
「わかりません。事故ですかね?」
総都という巨大な都市の中で魔物の出現など考えられないため、真っ先に事故が思い浮かぶ。
そして今度は、煙が上がっている方向とは反対側から、爆発とともに炎が吹き上がった。
「なんだ!?」
「わかりません!でもかなり近い!」
「えっ?どうする?」
「とりあえず…危険がない場所までいきましょうか?軍も動くと思いますし…」
「…そうだな」
この様な突発的な事態に対処するのは、軍の仕事である。
事後処理などマーセナリーが駆り出される事もあるが、いくらユニオンに登録したとはいえ彼等は民間人だ。
現場に駆けつけて行う事などありはしない。
むしろ軍の仕事の邪魔になるだけだ。
2級以上には、事故や災害において個人の判断で軍に寄与する事が定められているが、あらかじめ昇級の試験などで軍との連携についても触れられる。
これらを無視して、二次災害など起こされては堪らない。
この世界にはなまじ力を持つ者が多すぎるため、この様な事態には軍が優先行動をとる。
故に、2人も含め周囲の者は皆それぞれに行動をおこす。
興味を持って野次馬をしに行く者、自分には関係ないと再び屋内に入って行く者、安全そうな場所へ避難する者など、様々だ。
都市部では高い建物が乱立しており、その場での状況把握なども出来ない。
新とテオの2人は、とりあえず安全が最優先で確保されるだろう鉄道の駅に向かった。
しかし移動中も、断続的に爆発音が聞こえてくる。
それらの近い遠いはあれど、これは明らかに事故とは思えない。
「これは…明らかに何かの攻撃だね。」
「…なんでそんな事…。って、ならユニオンに行って指示仰いだ方がいいですかね?依頼が入るかもしれないし…」
「アラタ君は、そうだね。その方がいいと思う。一応俺も一緒に行こ…」
その時、何故か今まで聞こえて無かったサイレンと共に、街中に魔術による軍の拡声放送が行われた。
「ただいまブレナルト南東区画は何らかの攻撃を受けています!市民の皆さんは、安全の為にお近くの避難施設へ避難して下さい!軍関係の施設には攻撃が続いており近くは大変危険です!繰り返します。ただいま…」
放送内容からして、軍に不測の事態が起こり、機能していない様だった。
「…テオ先輩、どうしますか?」
「えっと…軍に攻撃って、何でそんな…とりあえず放送の通りにしよう。ここから一番違いユニオン支部も列車に乗らないといけないし。」
「分かりました。」
2人には戦う力がある。
しかし敵がどれだけの数かも、力がどれくらいかも分からない。
軍に攻撃を仕掛けるなど常軌を逸している。
この世界の国は現在1つだけだ。
そこに真正面から楯突いて、勝てる訳が無いからだ。
放送では、魔物と言う単語は聞こえなかった。
ということは、これは明らかにテロである。
こんな事態は初めてで、軍と協力して迎撃に向かうなど、考えすら起こらなかった。
土地勘のない新は、テオの指示に従って近くの小等学術に向かって歩き出した。
そこへ先輩マーセナリーの見様見真似で、避難誘導を行ないながら、移動していく。
この世界では、学院関係はほぼ公立であり、魔物等が襲撃してきた際もこうやって学院などに避難するらしい。
着いた小等学院では、すでに受け入れを行なっていたらしく、そのまま一息を着いた。
そして緊急事態という事で、有志のマーセナリーは別で集められ、3級マーセナリーより周辺の警戒に当たる様に指示が出された。
テオもユニオンに登録していないが、戦闘専門の学術院生という事で自分から警戒に参加する。
新はと言えば、臨時で組まされた4人パーティーで学院の北側で警戒に当たっていた。
言葉少なく、互いの死角を補うように歩く。
新としては感知も働かせているが、避難中の者達とも出くわす程なので、街中では人が多すぎて細かく把握ができない。
なので、殆どパーティーの周囲に限って感知をしていた。
そこでパーティーリーダーの女性、ギアナが言葉を発した。
「はぁ、何が起こってるのよ…これいつまでやるのかな?」
「さぁ、とりあえずこっちには何も無いから見回り続けようぜ?」
「そうね。とりあえず、もう一度放送があるまでは…
と言いかけた所で近くから轟音が響いた。
新が視線を向ければ、火の手こそ上がっていないものの、煙が上がっている。
そしてあちらの方向にテオがいる事を知っていた新は駆け出した。
「ちょ、何が、ってチョット!?」
突然の大音量に驚いていた、ギアナは走り出した新にさらに驚くが、気にしている暇は無い。
(もう、失わないんだ!先輩も!)
ここまできて、対岸の火事に見えていた事態が、テオを意識する事でようやく自分も当事者だと理解した新。
向かう先からは、マナの揺らぎが感じられる事から魔技を使われているらしい。
当のテオは、魔力感知にはかかるが、先程からほとんど動いていない。
かなり急いでその場は向かう新だった。
「…なんなの?!あの速さ!?あの子5級でしょって…もう、見えない!」
テオが学生という事で、4級の者5名の補佐という形で、哨戒に参加していた。
まだ団体で依頼もしくは任務など受けた事がないので、本当にくっついているだけだ。
大きな道路を進んでいると、かなり先の方で路地から人が飛び出して来るのが見えた。
それを見て1人が声を上げる。
「避難場所はこっちだぞ!早くこーい!」
避難が遅れた市民に呼びかける様に、手招きをしながら呼びかけた。
それを聞いてその人物が顔を上げる。
その瞬間テオは魔力の揺らぎを感じ取った。
その視線の先で、どうやら男性らしい人がこちらに向かって手を向けるのが分かった。
(あれは…座標指定…?マナが揺らいで…)
「!?避けて!」
テオはそう叫ぶと、近くにいた女性の前にでて魔力障壁を展開した。
「「え?」」
2名ほどは反応したが、他3名は声をかけた男性も含めて立ち尽くしていた。
「――――」
そして、魔技が放たれる。
と同時にテオの意識は途切れた。
簡潔に言えば爆裂系の魔技が、パーティーの手前で発動し、全員が衝撃で吹き飛ばされたのだ。
戦闘可能な1人が声をかける。
「無事な奴返事しろ!」
「おう!」
「こっちも!」
その後に続く返事が無い。
1人が素早く周囲を確認する。
魔力障壁を展開して2名が無事、テオの後ろにいた女性もテオと一緒に吹き飛ばされが、無事な様だ。
一緒に来ていた学院生は気絶していた。
反応出来なかった残りの2人は、体のあちこちに傷を負っていて分からない。
「魔力障壁を展開しろ!攻撃された!無事なミミは怪我負った奴を守れ!俺とラルで迎撃する!」
「分かりました!」
「なんなんだよ!?軍は!?」
「とりあえず、前に出るぞ!軍が来るまでだ!」
リーダーのディーは、油断なく攻撃して来たものを見据えながら、走り出し腰の剣に手を伸ばす。
もう一人は槍を携えながら、敵に向かう。
「アイスアロー」
攻撃してきた男は再度、魔技で攻撃しながらも剣を構える。
ディーが前に出て、氷の矢を弾いた上で、後ろから跳躍したもうラルが魔術で攻撃を加える。
男が防御している隙に、ディーが男に斬りかかるが、剣で攻撃を受け止められてしまった。
「おい!何が目的だ!?いきなり攻撃してきやがって!」
槍を相手に突き出しながら、怒鳴る。
男は後ろに飛んで槍を避けた後、再度魔術を放とうとするが
「させないよ!スラッシュ!」
ディーが下がった男に迫り、戦技を男に叩き込んだ。
剣で防御する間も無く、右肩から袈裟懸けに斬られた。
そこに槍の戦技を追加で加えられる。
「ペネトレイト!」
左肩を貫通し、そのまま男を弾き飛ばした。
攻撃を加えた2人は、まだ倒れた男を見ている。
ここで倒しきれず目を離せば、まだ動けた時、怪我をしている仲間に再度攻撃されるかもしれないからだ。
ただ、連続攻撃によって、両腕を封じる事が出来た。
後は魔技を撃たせなければ良いだけだ。
しかし、倒れていた男は立ち上がると、依然戦闘を続ける様に構える。
「まだ、やんのか?!もう諦めろよ!」
「これ以上抵抗するなら…殺すしかないよ?」
だが男は、表情も崩さず構えを解かない。
そして、よく見ると何故か先程の傷から血が流れていない。
「なんだ、こいつ…」
「わからない。でもやるしか無いよ!」
3人は更に戦い始めた。
その後ろでは、ミミと呼ばれた女性が怪我人の治療をしていた。
と言っても、止血や火傷を冷やすなどの応急処置だ。
そうしていると、怪我も殆どないテオが目を覚ました。
「気がついた?どんな状況かわかる?」
「…俺は…!?そ、うだ!攻撃されて…君は大丈夫?」
「ええ、ありがとう。あなたのおかげよ。でもまだ敵がいるの。この2人を「テオ先輩!」」
いきなり声をかけられたミミは、短剣を抜くが
「!?アラタ君…大丈夫。無事だよ。」
「よかった…。」
無事を確認しあう2人の様子に、安心した様に息を吐く。
「ごめんなさい。まだ怪我がいるの安全な場所まで運ぶのを手伝ってもらえる?」
「えっ、あ、はい!」
そうして3人は怪我人を建物の陰に運び、未だ続く戦闘に加勢する前に確認をし合う。
それぞれの戦闘方法や、得意な距離、ランクなどだ。
そうして学院生のテオは、念の為に怪我人に着く事になった。
戦闘は長引いていた。
男には何度も傷を負わせているが、それらを気にした様子も無く狂った様に襲いかかってくる。
ただ致命傷になる様な攻撃は大きく避けるなど、理性はある様だ。
ただ切った武器にも血は付かず、その不気味さを際立たせる。
マーセナリー2人も反撃によって多少怪我をしてはいたが、戦うのに支障はない。
そこに新とミミが加勢する。
「ディー!ラル、2人は安全な場所に移動させたわ!」
「助かる!でもこいつ変だ!切っても血は出ないし、痛がりもしない。明らかにおかしい!」
「もう首飛ばすか魔術て吹き飛ばすしかねえ!油断すると魔術飛ばしやがる!気絶させようにもあれじゃできるかもわからねぇ!」
「じゃあ、私が「…俺に考えがあります!やらせて下さい!」
魔術を使うと提言しようとしたミミの言葉を遮って新が、会話に割り込む。
「君は?」
「同業者です。一撃だけ俺に任せてください!」
「できるか?」
「やります!」
「分かった!フォローする!行け!」
そう言って炎を飛ばすディーの攻撃に追随する新。
炎は防がれるが、その間に男に肉薄する。
突き出して来た剣を紙一重でよけ、男の腹に掌打で一撃を入れ、すぐさま離脱した。
そして男の反応は劇的だった。
「ぎゃああぁぁぁぃぁあぁ!!」
全身から血が吹き出し、叫びながら倒れてる。
「「「なっ!?」」」
「やっぱり!このままでは死にます!治療を!」
「なに言ってんだ!?こいつは!!」
「ラル!やめろ、やったのはこの子だ。取り敢えず応急処置だけだ。」
そう言って不承不承男を手当てする2人。
男は既に意識を失っており、血は2人がつけた傷から出ていた。
「しかし、どういう事だ?お前なにやった?」
仕事をしながら、新に問いかけるラル。
ミミは、怪我をした2人が心配だからと戻った。
新の元いたギアナのパーティーも合流し、現在は2パーティーで警戒に当たっている。
「えっと、この人の中に、なんか変なエナがあって…2種類のエナが混ざってるような感じだったんです。」
「??エナの種類?そんなのあるの?」
「うーん、例えば俺とあなたのエナは少しますよね?それはわかりますか?」
自分とラルを指でさす新。
「…いや、魔力の量は分かるが…リーダー分かるか?」
「いや、エナはエナだとしか…」
「えっと、俺は感知能力が少し高いらしくて…」
「そうなんだ。なら、そんな違いも分かるのかな?」
「あはは…」
「んで?その魔力がどうしたんだ?」
「傷の周囲に沢山集まってるエナがあって、これが痛みや出血なんかを誤魔化してたんじゃないかと思って。俺の魔力を流し混んで、無理矢理外に弾きだしました。」
「なるほど…理由は分からないけど、この人は特殊な身体強化かな?それを使って戦ってたのか…分かった。取り敢えず本当に助かったよ。」
「いえいえ、俺の先輩もお世話なったみたいなので…お互い様です!こちらこそありがとうございました。」
「よし、それじゃ避難所に戻ろうか。この人は拘束しておこう。」
そうして、新達は戻ることにしたのだが、テオが女性(新は名前が分からないがミミである)と仲良く喋っていた。
どうやら、テオのおかげで怪我をせずにすんだ事で、彼に好感を抱いた様だった。
そんな様子を見ながらら、ほんの少し、ちょっとだけ羨ましく思った新なのだった。




