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シャナとの会話の後にしばしシャリマ家でお世話になる事になったのだが、ラオの態度が激変していた。
新に対して妙に丁寧な口調になったのだ。
ワーリルなどは苦い顔をしていたが、恐らく新が朱雀の客だと分かったからだと思った。
シャリマ家の屋敷で3日ほど過ごした後、新はオーレイルと共に大学にいるレックスの元へ向かった。
予定通り、新が迷い人のため王宮に保護されるので、大学での研究を手伝えない事を伝えた。
レックスはこの話を伝えられた時驚きと共にやはり落胆していたが、王都でも次元震の研究をしたいので付いて来てくれないかと伝えると返答は待って欲しいと言われた。
いきなり家族もいる場所から、遠い王都まで来て欲しいと言ったのだから当然だろう。
出発は5日後だと伝え、そのまま学術院の事務で5日後に寮を退寮する旨を話し手伝きを行った。
荷物の片付けの為に、寮を訪れるとテオと出くわした。
「!?アラタ君、もう…帰って来たのか。」
何故か申し訳なさそうな、それでいて安心した様な表情だった。
「あぁ、テオ先輩。はい、思ったより依頼が早く片付いたので。…大丈夫ですか?」
依頼と書いて顔色が悪くなったテオに、心配した新は声をかける。
「えっ?あ、あぁ…あの、アラタ君ごめん!」
「え?何がですか?」
「…その、姉様が…久しぶりに連絡して来たから、アラタ君の事を話たんだ。そのせいで、アラタ君が…シャリマに縛られるんじゃ無いかと。本当に、本当にごめん!!」
「あ…あははは…大丈夫ですよ、テオ先輩!ワーリル様もそんな事言ってましたけど、諦めて貰えましたし。」
「え?!?…そうなんだ。やっぱり俺のせいだ!本当に迷惑をかけて…ごめん、アラタ君。本当に…」
「テオ先輩、落ち着いて。大丈夫ですから!」
尚も謝り続けるテオに対し新は声をかけるが、彼の表情は晴れない。
テオが大声で謝罪を述べるのでいい加減周囲の目が気になった新は、静かな場所で話でもしようと言って、テオを外に連れ出した。
寮のすぐそばにあったベンチに座り、新はテオに話を聞くことにした。
テオは暗い顔をしながら、シャリマ家の事について話出した。
テオは生まれつき魔力が低かった為に、シャリマ家では出来損ないとして煙たがられていた。
また、テオには友達も出来なかった。
テオに寄って来るのはシャリマ家との繋がりを狙ってくる者だけだった。
そんな者たちもテオに貴族としては魔力が少ないと分かると去って行ったし、いじめられもした。
テオの為にシャリマ家が何かをする事は無いと知っていたからだ。
それでも貴族としての体面を気にしてか、ラオには学術院までは面倒を見ると言われていた。
その言葉は、せめて学術院までは卒業しろという命令に聞こえたらしい。
学歴さえあれば、何かに使えると思ったのだろう。
そうして入った学術院では戦闘技能の科目を履修する様に言われていた。
その結果が新の見た授業だった。
そしてテオは新から助言を受ける様になった。
大学に入ってからはレックスというしっかりとした教師が付いていてくれたが、彼は魔術師だった為アドバイスも教科書通りで中々上達しなかった。
それが新と出会ってからは、僅かながら技能の上達が見られた。
それにテオと、この様に付き合ってくれる者も初めてだった。
そんな浮かれていた時、久しぶりに姉から呼び出された。
ワーリルは幼い頃は、テオに優しく接していたが小等学院に上がってからは、人が変わった様に扱いが変わり、当主を継いだ時から会話もしていなかった。
それが、最近の生活の様子などを聞いて来た。
友人などはどうだ?と。
訝しんでいたテオだったが、そう聞かれて嬉しくなった。
姉が自分に興味を持ってくれたのだと。
それから、学術院生活や初めて出来た友人について話したが、姉はそうかとだけ頷くとそのまま部屋から出ていった。
それが、次の日にいきなり寮まで訪ねきて、新を連れていくからレックスの所に案内しろと言われたのだ。
それでようやく分かった。
ワーリルは有用な駒を見つけて、たまたま近くにいたテオから情報を得ただけなのだと。
それから、何と出来ないかと思ったが、何もできる事は無く結局、新は行ってしまった。
テオは、もう新が帰って来ないと思っていた。
それがテオの知るシャリマ家に目を付けられた者の末路だった。
有用な道具なら、使い潰して、潰れなければクランのメンバーとして囲い込む。
新がシャリマ家に逆らえるとは思えない為に、自分が新を売ったのだと思っていたらしい。
そこまで聞いて新は苦笑いしながら、テオに言う。
「…テオ先輩、目を付けられた事は確かに迷惑でした。何故かワーリル様が諦めてくれましたが…ただ、この件でテオ先輩が悪いと思った事は無いです。」
「…え?」
「テオ先輩は、俺を売ろうと思った訳じゃ無いですよね?」
「当たり前だ!…あ、ごめん。」
「いえ、いいんですよ。それだけで。ただ目を付けられた事は自業自得ですし、テオ先輩は関係ありません。」
「でも…俺は、シャリマの人間だし…」
「…貴族には色々あると思います。でも俺は貴族とかそういうの分からないので、どの一族だからとかはありませんよ。」
「…ありがとう、アラタ君。」
「あ、でも伝えておかないといけない事もあります。俺、実は迷い人なんです。」
そういうとテオは目を見開き固まってしまった。
「あはは、やっぱりビックリしますよね…俺これから王宮に保護されるんだそうです。色々助けてくれるって言われました。」
「…てことは、これでお別れかな?…せっかく仲の良い後輩が出来たのにな、ははは。」
何か返そうと思ったのか、とりあえず返答するテオ。
だがその顔は寂しそうだった。
「…テオ先輩も貴族って大変だと思います。でも強くなれば色々な事が出来ます。だから頑張ってください!」
「…あぁ、ありがとう!アラタ君から習ったことしっかりやってもっと強くなるよ、俺も!アラタ君は王宮で何かするのかい?」
「俺は、元の世界に帰る方法を探します。残して来た人達がいるので…」
「そっか!帰れるといいな!」
「はい!ありがとうございます!」
こんな別れをした後に、2人して寮に入ろうとするので、テオがいつ行くのかと問いかけた。
「5日後です。向こうでも準備とか色々あるようで…」
「……すぐ行くと思ったよ。じゃあ、後しばらく鍛錬に付き合ってもらえるか?」
「はい!分かりました」
新は、この世界できた数少ない繋がりに少しの暖かさを覚えながらも、テオの鍛錬に付き合うのだった。
ブレナルト郊外の森の中。
2人の人物が立っていた。
1人は外套を頭から被り、その顔を伺う事は出来ないが、かなり小柄だ。
「依頼の最終段階に移行しました。これより実行に移ります。よろしいですか?」
声からして女性の様だ。
その声で了承を求めるのは、一緒にいる人物だろう。
こちらは顔を隠していない。
容姿は、青い長い髪を後ろで結び長身痩躯で引き締まった体は戦闘に従事する者のそれだ。
背中には戦斧を背負っており、これが彼の獲物なのだろう。
「いや、よろしいですかって…ンな事聞くのあんただけだぜ。俺ら代行者は識者の依頼遂行すんのが仕事だろ?毎回のその確認って結構気にさわるんだよなぁ」
「すみません。そう教えられたものですから。」
「はぁ、鶸のもなんかめんどくせぇ性格してんなぁ…まぁ、いいさ。どうせやるこたぁ変わんねぇ。よろしいもよろしい、準備万端だ。」
「分かりました。それでは代行者『流瀑斧』に全権を移譲。これより生体魔術端末として撹乱行動に移ります」
「はいはい。好きにしてくれ…んじゃま、やりますかね。」
男はそう言葉を発すると街の中心部へ向かって歩き始めた。
「ったく、特筆戦力が2人もいるとか無茶もいいとこだ。運が悪すぎだぜ…。これで戦えとかだったら逃げ出してたな…」
そういいながら、白い仮面を被りエナを鎮めていく。
そうして、周囲の自然と気配を同化する様に気配が薄くなっていく。
「これより鶸の識者よりの依頼の遂行を開始する。新天地を目指して。」
彼らは、世界の知らないところで動き出した。




