25
ブレナルトに到着した一行は、取り敢えずシャリマの家に厄介になる事にした。
依頼をかなりの早さで片付けたのだが、いかんせん早すぎた。
航空機内で、出来るだけ目立ちたくないという新の要望もあり、出来る範囲で協力してくれる事となった。
朱雀との約束もあったので、取り敢えずユニオンや寮には向かわずに、先にこちらを訪れる事になったのだ。
シャリマ家に到着した新は、屋敷の大きさに開いた口が塞がらなかった。
屋敷の外門をくぐると、そこから屋敷まで徒歩で10分かかるなど、不便ではないのかとすら思ってしまった。
そして屋敷自体も、石造りではあるが綺麗に整備された大きな洋館で、どう見ても1つの家族が住む為の物とは思えない。
極め付けは入り口で待機していたメイド達だ。
純日本人の新にとってカルチャーギャップも甚だしい。
屋敷の門まで来た所で1人の男性が出て来た。
「お帰りなさいませ、当主様。この度の依頼は終えられたのですか?」
「あぁ、予定よりかなり早いがな。失敗などではないから安心してくれ。それより取り急ぎ話したい事があってな。父はいるか?」
「はい。お部屋にて読書をしていると思いますが。」
「分かった。こちらが出向いたほうが早い。今から行くと伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
おそらく執事だろう男性は優雅に一礼をして、屋敷へ戻っていった。
屋敷の中も、入った途端に煌びやかな装飾が目につく派手な内装であった。
玄関正面には大きな階段があり、先程の執事らしき人が登っていくのが見えた。
落ち着かず視線を周囲に巡らせていると、ワーリルが声を掛けて来た。
「すまんが、まず父上と話さねばならない。少しの間、客間で待っていてくれ。」
「分かった。アラタ君こちらへ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
オーレイルの後ろに付いてたどり着いた客間で、だされたお菓子も緊張して手を付けずにいた。
するとオーレイルがくすっと笑って話しかけてきた。
「ふふ、どうしてそんな緊張しているの?」
「いえ、こういう大きなお家は初めてで。なんとなく、場違いな感じがして…」
「あらあら、これから行くのは王宮も入っているのよ?これで緊張していたら大変ね。」
「す、すいません。」
「あぁ、あとね…その若干言いづらいのだけど、シャリマ前当主は、あの、凄く誇り高い方なの。その…」
「?なんですか?」
「…アラタ君とは合わないかも知れないのよ。」
「えっと、しょうがないです。むしろ元の世界に関わる事にじゃないなら、多少の無理位は大丈夫ですよ。貴族様なんですし。」
その顔を見ながら、オーレイルは、自分がこの温厚な少年を怒らせた事を改めて恥じた。
その後、少し会話をしながら待っていると、部屋にワーリルが入ってきた。
「あーっと、すまない。アラタ、父の部屋まで来てくれるか?オーレイルはここで待っていてくれ。」
「はい。分かりました。」
「…ワーリル、大丈夫そう?」
「…あれを見ると、自分の振る舞いを考えされられるよ。今なら、尚更な…まぁ、何とかなるだろう。」
「そう。頑張ってね。」
そんな会話を聞きながらどうしたのかと思ったりもしたが、新には何の事か分かりそうに無かった。
そのままシャリマ家前当主ラオ=シャリマの居室の前まで来ると、ワーリルはドアをノックして語り掛けた。
「ワーリルです。アラタを連れて来ました。」
「入れ。」
入室を促され、ワーリルの後に付いて入った部屋では、壮年の男性が大きな椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
こうして見ると、テオによく似ていると新は思った。
短く切り揃えた赤い髪と、切れ長の目は鷹のように鋭く新を見据えている。
「父上、こちらがアラタです。今回は依頼の折に協力を頼み、その役割を果たしました。」
「初めまして。アラタと言います。」
新は軽く会釈をした。
「良くやった。俺はラオ、ラオ=シャリマという。…そのゴミの様な魔力では、まぁ良くやった。」
「いえ、ありがとうございます。」
ラオの言い様に対して新は気にした風もなく、へり下る。
実際偉い者に対しての振る舞いなど新に経験がある訳もなく、取り敢えず日本人らしく敬語を使って丁寧に話す事しかできない。
父の言葉に不満を表に出すことが無い新に対して安心するワーリルは、しかし父の振る舞いにかなり不安を覚える。
実際新がその気になれば父ごとシャリマ家を吹き飛ばすのも訳ない事を知っているので、ハラハラしているのだ。
「…ふむ。自分の立場はしっかり分かっている様だな、小僧。お前をシャリマの道具として使ってやる。ありがたく思えよ。」
新は困惑した様に言い返すが
「…いえ、あ「父上!!」」
途中でワーリルの制止が入った。
「父上、先程申し上げたはずです!彼は、彼の目的があると。それを阻む様な真似は止して下さい。今回は当主として、アラタに用事があったから呼んだのです。父上が言う様な目的で呼んだのではありません!」
まさに自分と同じ様な事を言う父にワーリルは焦りと供に諌める。
その様子に、むしろ新は申し訳ない様な表情をみせるが、ラオは呆れた顔を見せ言い聞かせる様に言葉を発する。
「ワーリル、確かに当主はお前だ。だが有用な人物はしっかりと取り込めと教えた筈だがな。この小僧の能力は便利ではないか。何故魔力無しの小僧の事情など斟酌している?」
「…父上は、分かっていない。いいですか?今回アラタを呼んだのは朱雀様の御神体を見せる為です。」
「なに!?何を考えている!?朱雀様にこの小僧を合わせるなど気でも狂ったか!!許さんぞ、そんな事など!!」
「それが分かっていないとおっしゃっているのです。まず当主は私です。父上には、前当主として後の事を考えて伝えたまで。それに、今回の事は朱雀様が言い出した事です。」
「なん…」
ラオはまさしく絶句する。
「朱雀様の要望なのです。それを蔑ろにする訳には参りません。」
「嘘を申すな!そんな事信じられるか!?シャリマの当主でもお目通りできるのは生涯2度のみだぞ!?それがなぜこんなゴミに!!」
「父上!アラタにその様な言い方はやめて下さい!朱雀様に見限られます!」
自分の話しなのに全くの蚊帳の外に置かれて、ヒートアップし始めた2人に新は困惑気味に声をかける。
「あの、少し落ち着い「黙っていろ、小僧!」」
さっきから全く喋らせて貰えない新。
「とにかく、これは当主としての決定です!」
「信じられるか!?馬鹿な事をそれ以上口にするなら、当主の座から引きずり降ろすぞ!」
全く止まらない親子喧嘩に、諦めてそのままにする新。
長い言い合いの果てに、結局ワーリルは譲らず、それならば自分も同席すると言い張る父に呆れながら新の方をみるワーリル。
「…すまんな、アラタ。許せ。」
「いえいえいえいえ、あの、問題なら俺は…」
「これは朱雀様の要望だ。アラタを会わせるのは決まっている。父上も行きますよ。」
「これで朱雀様の機嫌を損ねたら、一族総出でお前を抹殺するぞ。」
「それなら私達が同席する事で、その様になる事を心配された方がいいでしょう。私は止めましたよ、父上?」
「ふん!」
「ハァ…」
朱雀に会う前に既に疲れ果てた新を連れてワーリルは屋敷の敷地内にある、小さな神殿の様な場所に案内する。
周 囲には、呆れるほどに高い壁があり上部や入り口は人によって警備されていた。
ワーリルに付いて神殿内にに入ると、中にも大きな扉があり、それを開けて中を覗くと中では重厚な燭台に赤い炎が灯っていた。
そして燭台の前にまで来ると炎が大きく揺らめいた。
そして、炎が大きく揺らめいてその形を大きな鳥の形に変わっていく。
変化が終わった後には、ワーリルが呼び出した姿と同じ姿の朱雀が浮んでいた。
そこでワーリルとラオは跪いたので、新もそれに倣う。
「お久しぶりです、朱雀様」
『ああ、久しぶりだな、御前。今日はどうした?』
「いえ、娘がこの小僧ごとき者を朱雀様に会わせると申しましたので、諌める様進言したのです。それを聞かない娘に変わり謝罪に参りました。」
『おや、主より聞いていないのか?この少年を呼んだのは私だ。そこまで気にする必要はないぞ。』
「!?そ、そうなのですか?それは、失礼しました…」
その返答に顔を引きつらせながら吃るテオ。
ワーリルは呆れた様な目を向けるが、朱雀の要望は更にテオを驚愕される。
『私はこの少年と話がある。すまぬが主達は席をはずしてくれるか?』
「な!そんな!?それはいくら…」
「父上!!」
『御前、私はこの少年と話しがあると言ったのだが。聞こえ無かったのか?』
「!?も、申し訳ありません!それでは!」
「はぁ…それでは朱雀様、機会があればまた。」
『あぁ、主よ、励めよ?』
「はい、此方はありがとうございました。それでは。」
そしてワーリルは先に出て行った父を追い掛けてその場を後にした。
「ごめんな、なんか。迷惑かけて…」
新は事態がややこしくなると思ったので、ずっと閉じいた口を開く。
『良い。人間は面倒な生き物だが其れ故に面白い部分もある。』
『ほう、其れは我も興味深いな。』
新の腕に巻き付いていたタクナが、解ける様に外れて元の大きさに戻る。
「タクナ、元に戻るならそう言ってくれ。心臓に悪い。」
『む?其れは申し訳ないな、ご主人。』
『これは、そのお姿もお懐かしい。お久しぶりです、タクナ様。』
『うむ。シャナも久しいな。お主も人間と契約してるとは思わなんだ。』
『それはこちらの台詞です、タクナ様。呼び出された時に違和感を感じなければ攻撃しておりました。肝が冷えましたよ。』
「俺も幻想種が出てきた時は、これから死ぬかもって思ったよ…」
『いや、シャリマの子孫とは契約でな。許せよ、少年。』
「こちらこそなんか巻き込んでごめん。それで、なんか用事でもあった?」
『いや、偶然とは言え久々にタクナ様と見えたのだ。私も色々話しをしたくてな。』
『そうか。我もずっと外界とは接触を絶っておったからな。他のものがどうしていたのかも興味がある。』
「思い出話しかぁ。それじゃあ、俺は外した方がいいかな?」
『いや、タクナ様の主人に席を外せとは言わんさ。ゆっくりしたいってくれ。』
「そっか。ならそうさせてもらうよ。」
そこから、タクナとシャナと呼ばれる朱雀は、現在に至るまでの経緯を教えあっていた。
シャナが契約した経緯が求婚されたからと言うのは新にとって面白かった。
タクナ達幻想種はどうやら人の姿を取る事も出来るらしく、その時に巡りあった男性がワーリル達の先祖だったらしい。
つまりワーリル達はシャナの子孫という事だ。
幻想種が人種と子を成せることにも驚いた。
逆に、シャナはタクナが話す新の話を面白そうに聞いていた。
新が異世界人で、一撃でタクナを下したと話した時はとても驚いていた。
その流れで「竜胆」を見せた時に少し怯えていた時は、新も少し傷ついた。
タクナから時折話を振られるので、その都度気になる事を質問したりもした。
「あんまり気にしなかったけど、タクナ達って魔力感知に引っかからないよな?シャナさんもこの部屋に入った時もエナを感じなかったし。今も分かんないし」
『人種はエナやマナと呼んで区別するが、元々魔力に違いはない。それは知っているか?』
「えっ?そうなの?」
『あぁ。ただ意思あるものに自然魔力が吸収されると、魔力の質が若干変化するのだ。魔物などは変化が小さいからそのままマナに干渉できる。ただ人種は感情など自我が強いためか、その変化が大きい。そのため人種のエナは人種にしか干渉せず、またマナにも干渉できない。』
『そうだ。しかし我らは自我は強いが概念生命体なのでな。任意にエナとマナを体内で変化させられる。待っている魔力は自身に干渉する時は流石にマナのままでは無理だ。だから戦闘のときのみエナに変化させるがな。しかしどんなに多量にあってもマナはマナだ。それ故エナを感知する人種では我らの気配は分からん。』
「へぇ〜、羨ましいなぁ…細かい違いも多いし、種の違いって凄いな。」
『それを言えば、魔物や私達達が使う身体強化も人種の物とは違うぞ?人種はエナを物質化させて筋肉や骨を強化するな?我らは肉体の性質自体を変化させる。人種でそんな事をすれば身体が耐えきれず死ぬ。ただ少年の、氣、だったか?それも同じような事をしているのが驚きだったがな。』
「へぇ。人種に身体強化が広まったのって800年以上前だろ?それまで人種はよく耐えられたよなぁ。」
人種に身体強化が広まる前によく魔物に滅ぼされ無かったな、と感心する新。
そしてやはりそれらを広めた仙人は偉大な人物だったらしい。
『あの時代は激動だったな。私も苦労した。その前にも大きな戦争もあってな。あれが人種の転換期の1つだったな。』
「え!?戦争って900年位のブレナリオス戦争!?」
『シャナ、戦争について知っておるのか?』
『え?いや、そこまで深くは知りませんが、当時の住処が戦禍で消し飛びまして…』
「あの、俺、次元震について調べてて、その戦争の頃から次元震が始まったみたいで。何か知りませんか?」
『いや、あの穴については深くは分からんが…あれがこの世界で一番最初に起こったのはタクナ様の住処の近くだった筈だぞ?』
「……ん?そうなの?タクナ?」
『……すまぬな、ご主人。あの頃は眠る事が多くて…しばし眠り気付いたら、あの様に理に歪みが出来ていたのだ…。』
『…タクナ様は昔から、我ら幻想種ともあまり関わりませんでしたな。よもやそれが寝る為とは…』
『すまぬ…』
「ははは…はぁ。あそこの近くっていったら、やっぱりキセン総だ。これから王都にも行くし、そこで調べてみよう。」
シャナとの会話で、次元震について重要な情報を掴み、王都にいったら調べてみようと思う新だった。




