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「すまなかった…。」
「ごめんなさい…。」
オーレイルとワーリルの2人は戦う前の威勢など既にない。
少し落ち着いて考えてみれば、新も打ちのめした後に更に追い打ちをかけ過ぎた。
それ以外にも、一応殺さな異様に配慮はしたが、15年の慣れとは恐ろしい物で、手足が残っているから上手く手加減出来たなどと考えている時点ですでにおかしい。
あの様な脅しも、実は鍛錬中ダズに散々かけられた。
やれ、帰る気があるのか?会いたい人なんてその程度か?今からお前を殺すぞ?などなど挙げればキリがない。
その結果、人界が誇る特級とナイトの女性陣2人はしおらしくなったが、怒りが冷めれば、やり過ぎてしまった感が途轍も無かった。
1人自己嫌悪していると、2人から怯えた目で見られている事に気付いた。
「…すみませんでした。」
「…どうして、貴方が謝るの?」
「いえ、その…」
新は先ほどまでオーレイルが座り込んでいた所に視線を向けるが
「…忘れて。お願い!」
「…ホント、すいませんでした…」
「…まるで別人だな、戦っている時とは。」
ワーリルがボソッッと言うが、2人には聞こえていないらしく気まずい雰囲気が流れていた。
「それで…これからどうする?」
「…あぁ、はい。まずは魔物を討伐してしまいましょうか。」
「…違うわよ、その後の事でしよ?ワーリルが言いたいのは。」
新の望みはただ1つ。
元の世界に帰る事である。
今回、または今後それらのための依頼や活動を妨害される事になるので2人に抵抗したのだ。
ただその中で2人には、異世界人だと自ら言ってしまった事で、今後どうするかを改めて決める必要があった。
「…やはり、申し訳ないですが、俺は元の世界に帰る事を邪魔されたくありません。なので今回のように利用されることは御免です。」
『…主、この少年と戦うハメになったのはまさか…?』
ちなみに朱雀は未だ現界していた。
本来は契約に従い、加護の名の下に契約者の敵と戦うのだが、今回はそれを果たしていない。
その為にこの召喚を無効とする事は伝えらていた。
現界の為に必要なのは契約者の命の危機と、大量のエナだ。
ワーリルのエナ量が残り少なかった為に、何故か新が与える事になった。
「…すみませんでした、朱雀様。この様な事になってしまい…。」
『良い。力が中心となるのはこの世界ではしょうがあるまい。少年の慈悲に私も感謝しよう。』
「…力でくれば、力で返される事は当然です。力で押さなければならない時もあるとは思いますが…。」
「分かってるわ。私は、傲慢だった。最初から無理に迫ったのは、私達だもの。相手が強かったからごめんなさいじゃ、通らないわよね…。」
「………部下を、見逃してくれた事礼を言う。人の大事な物を軽んじた、自分が浅はかだった。」
「分かってくれればいいです。俺も結局は力押しでしたし。ただ、本当に困っている時は相談にのりますよ。こちらの都合を無視しないなら、ある程度は手伝えます。」
「そうか。ありがとう。」
2人が本当に理解したかは分からない。
何故なら結局、新も同じ事をしたからだ。
新の様な力がない者には、また同じ様な事をするかも知れないが、そこまで親身にはなれない。
この様な事は結局の所、自己認識の問題で、他人との折り合いのつけ方は人それぞれだ。
この事で損をするのも、得をするのもこの2人の問題という事である。
「ただ、オーレイル様、俺が迷い人だという事を話しますか?」
「…それは…」
「正直、かなり面倒ですが…言ったのは俺です。貴方達に力で押し通すなと言ったばかりですし、オーレイル様にこうしろとは言いません。」
新には、別に自分が迷い人であると、伝える必要は無かった。
これは、新の自業自得である。
「…本当に、ごめんなさい。貴方が、悪い人ではないとは分かっているの。でも、王宮に報告しない訳にはいかない。」
迷い人の件は、僅かに期待しながらオーレイルに任せたのだが、こればかりは譲れないらしい。
どうしても譲れない物を力で押し通そうとするなと暴れたばかりである。
ここで脅すのも自己矛盾が大きすぎて、できないし、もしやったとしてもオーレイルの雰囲気から無理だと悟った新は、追加でお願いを聞いて貰えないかと思い付いた。
「はぁ…ですよね。…なら、レックス先生を一緒に連れて行く事は出来ませんか?少しでも信頼出来る人を連れて行きたいんです。」
「一緒に来てくれるのね…それくらいなら、構わないわ。レックス先生にも聞いてみて大丈夫であれば。」
「はい。それでお願いします。」
「なら、後は魔物の討伐を済ませてしまいましょう。その後は、一度ブレナルトまで戻るわ。」
「なら、早く済ませよう。私は疲れた。」
『いや今回は、私がやろう。ここら一帯で蛇型の魔物を駆逐すればよいのか?』
「…よろしいんですか、朱雀様?」
『この度の召喚では、なにも果たしていない上、少年にエナを貰っているからな。このまま本体に戻っても収まりもつかん。』
「じゃあ、お願いしていい?俺達は、駐屯地に戻るよ。」
『あぁ、少年とは一度話したい。ブレナルトにあるシャリマの屋敷に依り代がある故、この後帰った時でも訪ねてくれ。』
「分かったよ。ありがとう。オーレイルさん、大丈夫ですか?」
「逃げたりしないなら、構わないわ。報告の時に貴方がいればいいのだし…」
「あぁ、それは大丈夫ですよ。レックス先生にもテオにも迷惑がかかりそうだ。
「ありがとう。正直本気になって逃げられたら、もう諦めるしかないもの。」
「あはは…すいません。」
「いえ、いいわ。それじゃあ帰るわよ、ワーリル。」
と彼女は、ワーリルに話かけるが
「…一体どうすれば、幻想種とこんな対等に…?」
ワーリルからすれば意味が分からない。
契約しているとはいえ、ワーリルにとって朱雀とははるかに格上の存在であり、敬うべき対象である。
過去、シャリマ家の者は朱雀と契約する時、最も大事な物を捧げたときいている。
それは当時の当主の命より大切な物だったらしいが、それをきっかけに今代まで続く契約が結ばれた。
それでも、当主に課せらせた契約では当主が存命の内で生涯5度のみ呼び出せるというもので、決して家来などではない。
依り代についても、当主でさえ特別な時にしか入らない建物内に安置されており、見たいと言われてもシャリマの者なら決して見せないだろう。
オーレイアに促され、3人は駐屯地に帰還した。
この間、遠方では朱雀が広大な範囲を攻撃しながら、魔物を殲滅しているのが分かった。
その光景を見ながら、あのような人外が勝てないというこの少年はどれくらいの力を持つのかと改めて恐怖した2人であった。
駐屯地に付くと、クラン「ケツァール」の面々が、近寄ってきた。
「随分早いですね?もう終わったんで?」
「…あぁ、やはり早く発見してな。見つけ次第、殲滅した。」
新の関係者やクランには、この依頼中の経緯は話さない事にした。
人界を代表するクランのリーダーが、ナイトと二人ががりでさえズタボロにされ、幻想種でさえ勝てないなど信じられるものではない。
新自身も、化物の様な目で見られるのはごめんだという事で、内緒にしてもらうことにした。
しかし、帰還時間から新の感知範囲に偽りがないことが分かり、やはり驚愕の目を向けられる。
「団長、やっぱりこのガキ…?」
「…あぁ、しっかりと感知していた様だ。」
実際に新の感知範囲は異常に広い。
この能力は本来生まれついての能力として知られている。
その様な子供は生まれながらに常軌を逸したエナを内包して生まれてくるが、その為か魔力に非常に敏感でエナやマナの揺らぎ等を広範囲かつ詳細に感知する。
しかし、新は鍛錬の過程でこれらを得た上に魔力を制限しているので、奇妙に映るのだ。
先天的か後天的かの違いはあるが、この世界ではかなり特殊な能力である。
「…それで、この後はどうするんで?」
「私達は一度ブレナルトへ戻る。実家で少し用事がある。ユニオンへもついでに報告してくるが、なにかあったら連絡をしろ。」
「分かりやした!それでは!」
こうして来たと同じようにして、航空機に乗り込みブレナルトへ向かった。
帰りの航空機内―
「それで、アラタ君には聞きたい事があるのだけど。」
「なんですか?」
「…迷い人と言うのは、この世界には無い知識を持ち込む事で知られているけど、戦闘については一般人と変わらないの。過去、1人だけ例外はいたけど。貴方はもともとそう言う力を持っていたの?」
「…あぁ、この世界に来た時に、助けて貰ったんですよ。その人については…俺も話せませんが、元々一般人でしたよ。戦う力は鍛錬によってです。」
「そう…その、助けてくれた人が鍛えてくれたのよね?」
「そうです。はっきりいって地獄でしたけど…」
「どれほど鍛錬を積めば、そのような力を…」
「毎日、40回程、瀕死を経験すれば…お二人もこうなります…。」
「…拷問では無いか。」
「アラタ君は、この世界にきてどれ位なの?」
「一年と少し位だと。かなり濃かったですが…」
「そんな!?一年でそこまで強くなるなど、ありえん!こればかりは幾らなんでも信じられんぞ!」
ワーリルの言っていることも当然だ。
この世界でも、戦う術を学ぶのは早くても中等学院からである。
それらの者でも1年では、魔術の使用すらおぼつかず、戦闘中の感知などもってのほかだ。
ましてや、新の場合、近接戦闘力、遠距離攻撃力、魔力量などとても1年で鍛え上げたなど信じられない。
「…時空間魔術って、知ってますか?」
「!?!それはっ、禁術じゃない!そんな物何に使うの!?」
「簡単に言えば、1年を引き延ばして15年ほど鍛錬をしていたんですよ。」
「じゅ、15年!?」
「そんな必要がどこにある!?そいつが気でも狂っているのか?禁術まで使い、世界征服の手駒にでもする気か!?」
「俺が、たどり着いた場所が未開領域内だったんですよ…」
「なに!?」
「うそ…どこの領域なの?」
「キセン総の東の果てにある森です。」
「「!?!!?」」
「どうしたんですか?」
「あそこは…龍の森という名前があるけど、その危険さから別名「魔界」と呼ばれているのよ。魔界は現在、その危険度の大きさから開発を行っていないの。ただの警備のために、特級2人とナイト4人が、壁沿いに分散して常駐しているといったらその危険さが分かると思うけど。」
「あそこを抜けるには、このくらいの強さが必要なんですよ。俺でも、何度も死にかけました。」
実際、人界に至るまでの道程で遭遇した魔物については、ほぼ戦闘は行わずに逃走を選んでいる。
積極的に襲撃してきたものだけは相手にしていたが。
「そんな…お前がか?」
「はい。正直、あの森の異常さは人界にたどり着いてからわかりましたよ。廃渓谷でした?あそこの外縁にいた魔物では、森の獣に食われますね。あそこは獣すら身体強度が以上に高い。」
「…そこの森に入って帰って来れるのは、特級でも2人、ナイトでも3人ほどよ。アラタ君の戦闘力の理由がよく分かったわ。」
自分のいた場所のとんでもなさを、改めて自覚した新だった。




