23
仙勁漆花流の技は、通常の戦技の様にただ強力な一撃を放つ物ではない。
それぞれが身体操作の概念に則った型である。
壱打「撫子」
貳突「山茶花」
参斬「紅花」
肆寸「柘榴」
伍流「薄」
陸歩「百日紅」
漆発「睡蓮」
打つと言う動作を突き詰めた壱を例にとれば、「打つ」為に例え片手でも、両手でも、蹴りでも、頭突きでも、身体操作によってあらゆる状況で最小限の動きをもって最大限の力を放つ型である。
確かに習得までは血反吐を吐くよう鍛錬を繰り返す。
新の場合は血反吐どころか、日に何度も死に掛けながら身体を作り型を成し戦いに明け暮れ15年。
そうして至った結果だった。
それらを合わせ、同時に二つの型を為す事を連花と言う。
仙勁漆花流 壱陸連花「百日撫子」
虚実を織り交ぜ、縮地法によって速さを追求して、打ちに行く。
そんな概念。
本来仙勁は連花、三つ以上を合わせる結花を基本とし相手の特性によって戦い方を変える。
今回、二つなのはそれで十分という事だろう。
身体強化を使う以上、魔技とは相性が悪いが、新にとってどうなるか?
戦いは今始まったのだ。
新の発声と同時に、二人は相手を見失った。
いや、見えてはいるのだ。
オーレイルなどは、それに向かい攻撃を放つが
「残像!?」
攻撃をすり抜けていく。
ワーリルが顕現させた8匹の不死鳥も、それぞれに嘴や、足、翼を使い攻撃を仕掛けるが、どれもが残影で本体をとらえられない。
さっきから魔力感知も併用しているが、エナの活性化と鎮静化を繰り返しているのか、混乱されられている。
「っ!?」
オーレイルは衝撃が衝撃を感じ取った時には、すでに新が拳を振りぬいた姿が映っていた。
そこに1匹の不死鳥が突っ込んでいき、自爆した。
「取った!!」
が、そこには膝をついて片腕を抱えているオーレイアが、障壁を展開しているのみだった。
オーレイアの目には移動している新が確かに移っていた。
しかし時に緩慢にも見えるその動きを意識した瞬間に、彼の姿が掻き消えるのだ。
とんでもない緩急の差で、次に見つけた時には攻撃された後だった。
それに攻撃の質が今までとは段違いだ。
一撃を貰っただけでオーレイルの左腕は使い物にならなくなっていた。
(どんな攻撃よ!?一撃で片腕がグチャグチャじゃない!!こんなのワーリルが受けたら…)
対してワーリルはその光景に舌打ちをして、自身の周囲に不死鳥を配していた。
身体強化は魔技と相性が悪い。
身体強化の障壁では、マナとエナが干渉しあい上手く魔技を防御できないのだ。
魔力障壁を展開させれば大丈夫かもしれないが、そうなると不死鳥に触れた瞬間に感知できる。
そこに最大火力で攻撃をたたき込もうと思ったのだが、
「雹開山!!」
影が出来たので上を見上げると、巨大な氷の山が頭上に出来ていた。
切っ先をこちらに向けて。
不死鳥たちが反応するがもう遅い。
ワーリルのすぐ近くで、不死鳥と巨大な氷山が衝突した。
想像発動の隙を付いて斬りかかってきたオーレイルの剣を避け、背後にまわって攻撃を仕掛けようとする新。
しかし、姿を見失った瞬間に彼女は魔技を発動させていた。
「ライトニングネット!」
自身の周囲に電撃を蜘蛛の巣のように張り巡らせるが、当たらない。
(早すぎる!!感知能力も反射速度も化物じゃない!?)
「プロミネンスエクスプロード!!」
顕現させた不死鳥と氷山を衝突させ、相殺したが5匹もの手駒が持っていかれた。
ならばと全方位に避けられない攻撃を放つ。
新は、この攻撃に対しさすがに足を止め障壁を展開した。
それを魔力感知で反応したオーレイアが、すかさず飛び掛かり剣を振り下ろした。
しかし、信じられない事に新が素手でいなしてしまい剣が空をきる。
(しまっ!?)
そこに新が先程被弾した左腕以外の四肢に、連打をたたき込んだ。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?!???!??!??」
オーレイアの絶叫が木霊した。
その光景を見ていたワーリルは、夢でも見ているのかと思った。
ナイトとは近接戦闘と遠距離攻撃を完璧にこなすオールラウンダーだ。
その防御力は、単独で1級の魔物の攻撃を防ぎうる。
それをいともたやすく打ち抜いた。
最初の攻撃をもらった左腕があれでは、彼女を戦闘不能だと判断するしかない。
残っていた不死鳥を3匹とも放つが、当たらないのは分かっていた。
ワーリルは自身が放つことのできる最大火力を広範囲に高速で届かせる魔技に全てを託す。
紅炎の爆発に更に、不死鳥の自爆がかさなる。
そして魔力感知で新が避けた方向に放射状に広がる溶岩を放った。
「ヴォルカニックカノン!」
勢いよく放たれる溶岩は、横向きに火山が噴火したかの様だ。
これでやったと思った。自身のもつ魔力の半分をつぎ込んで放つ最大火力だ。
魔力障壁は、確かに魔技を防御するがそれでも限界がある。
幸いオーレイルは射程に入っていなかったので気にしない。
やらなければやられると思ったのだ。
と発動中の魔技が収まりを見せたと同時に後ろに引き倒された。
「うお?!」
そのまま砂地に倒されて見上げればあるのは、少年の怒りの顔。
そして肩に足を乗っけておさえつけられていた。
「…まだやりますか?」
「あたりま、
ボキ
…うあああぁぁあああ!!?!」
肩にを踏み折られた。
「まだ、やりますか?」
少年はワーリルを見下ろしていた。
怖かった、どうしようもなく。
そして、ワーリルは最終手段に出る。
幻想種とは、神の使いであると世界では言い伝えられている。
幻想種は、加護と呼ばれる物を人種に授けるのだ。
ワーリルの持つ二つ名「赤赫鶯」は、その昔シャリマの者が幻想種「朱雀」と契約してから当主が、代々引き継いできた名だ。
その為シャリマ家の者は炎の魔術と非常に相性がいい。
そして二つ名をワーリルが持つという事は―――
「顕現、朱雀!!」
幻想種「朱雀」が、戦場に降りたった。
ワーリルから今までとは違う力を感知したとき、新は大きく飛び退いた。
オーレイルは恐怖していた。
紅き爆風の中、自分を見下ろしていた少年に。
手も足も出なかった。
特級と二人がかりでさえもだ。
これは夢なのだと、思うが全身の痛みが許してくれない。
先程まで、圧倒的に有利な立場だったはずの自分が、こうして転がされながら悲鳴も出せず震えている。
ましてや、少年に傷をつける事はおろか、攻撃を当てる事さえできない。
少年の顔は、怒りに満ちていた。
こちらを見下ろすその顔の眉間には深い皺が刻まれ、歯を食いしばりながらこちらを見下ろしていた。
その後に来た不死鳥の自爆を、魔力障壁を展開して耐えた。
爆発が終わる頃には少年の姿が無かった事に安堵した。
もう立ち上がる事さえ出来そうに無かった。
身体も、心も。
その後、何度か轟音が聞こえたが、ワーリルの悲鳴が聞こえたので、あちらも終わったかに思えた。
だがワーリルの方から巨大な力の奔流が感じられた。
それがオーレイルには希望だった。
シャリマの当主が契約せし、紅き幻想種。
顕現させれば、ナイト2人でも手も足もでないという守護獣。
自由意志を持つため、好きに操る事などできないが、機嫌を損ねなければこれ以上の味方はいない。
ワーリルは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、新を見ていた。
そして
「朱雀様、お力をお貸しください!」
『………』
その光景に新は、かすかに目を見開いたがまだ戦う姿勢を崩さない。
この相手にも戦う気を起こす新にオーレイルは、瞠目する。
(あれをワーリルが顕現させたのは過去1度だけ。いくらあなたでも…)
「朱雀様、どうされたのですか?」
『…控えよ、主。』
「……は?」
『あの少年には我でも勝てん。』
「………………え?」
そうして、朱雀は新の前に羽を下ろし、頭を深く下した。
『ご無礼をお許しを。主の命だけは勘弁願います。』
「…貴方は?」
『私は朱雀と申します。幻想種の内が一。』
(…タクナ?)
(こやつ、我の気配を感じておる。それ故の事だろう。)
(あの2人にはタクナの事内緒にしたいんだけど…)
(分かった。あの二人に聞こえなければよかろう。)
そこでタクナは無音結界をはり、腕に巻き付いたまま声を上げた。
『シャナ、久しいな。』
『ッ!!??やはり、タクナ様…この方は?』
『我がご主人よ。一撃で首と胴が泣き別れた。』
『!?それは…タクナ様の鱗すら切り裂きますか。やはり敵いませんな。して、この結界は?』
『これ以上、あの子娘どもを怯えさせるもの可哀想という事だ。ご主人は慈悲が深い。』
「ちょ、タクナ!?」
『やはり…その様子であればかなり加減していただいた様子。ご慈悲に感謝します。』
『我の事は子娘どもには伝えるな。混乱を招く故。』
『はっ!ご意思のままに。』
そこでタクナは結界を解く。
これらの光景を傍から見ていた、2人はとても混乱していた。
(朱雀様が…傅いている!?なんだあれは!どういうことだ!?)
「……え?え?なにあれ。」
そうしてしばらくした後、新と朱雀が2人に向かって寄って来た。
その光景を見た2人は震え出す。
そして、ワーリルの肩をもってオーレイアの方に移動をする。
オーレイア所まで来た所でワーリルを離した。
2人は大量の疑問符を浮かべて、更に恐怖からか震えが止まらない。
「………これで、分かりましたか?及びもつかない力が、どういう恐怖を引き出すのか。」
2人は答えない。
『主、この少年はかなり手加減をして戦っておられた。感謝せよ。』
「「っ!?」」
起死回生で顕現させた筈の生涯で5度しか使えぬ契約は、意味を成さなかった。
2人は俯いたままだ。
「顔を上げて下さい。」
2人はビクリと肩を震わせるが、顔を上げない。
「聞こえませんでしたか?」
2人は漸く顔を上げるが、涙を流していた。
「…何を泣いているんですか?」
「「………。」」
「…はぁ、言いたいことがあれば聞きますよ。」
しばらくの沈黙の後、ワーリルが問かけた。
「……殺すのか?」
「殺してほしいですか?」
「なら、一思いに殺せ!!」
「…オーレイア様もですか?」
「…そうね。負けたのだから、私に、自由はないわ。殺しなさい。」
「なら、まず…この未開領域の入り口にいる、クランの方々を殺しましょう。」
「な!?あいつらは、関係ない!!」
「なんてことを…」
「なら、オーレイアさん。王都に出向いて暴れましょうか?」
「やめて!!?」
「2人はいま、そんな命を背負っていることを自覚して発言してください。俺にあれほど要求してきたでしょう?ここまで来て自分の言ったことが、自分に帰って来ると思わないんですか?」
「…卑怯者が…」
「そっくり、そのままあなたにお返しします。」
「アラタ君、もうやめて…?お願い…」
「随分しおらしいですね?俺に向かって弱いから悪いといったのは貴方ですよ?」
新は、かなり怒っていた。
帰るために見つけた手掛かりを潰され、1ヶ月も拘束すると言われた。
そこでした契約などどうどうと破棄された上に、この世界で出来た関係者をやり玉にあげ脅され、その意思を無視して拘束されそうになったのだ。
散々言葉を尽くした結果がこれだ。
怒らない訳がない。
彼女たちは分かっていなかったのだ。
自分たちが何に脅しを掛けていたのかを。
「…それは…、でも、」
「なんですか?」
オーレイルには、言い訳すら思い浮かばない。
「…どうやった?」
「はい?」
「朱雀様!貴方ならこんな奴など!」
『…無理だ。』
「嘘だ!人間に貴方が負けるなど、ある訳が!…こんな、騙すのですか!?契約違反です!」
「そうです。信じられないでしょう?自分の信じていた物、貴方の場合力ですか?それを真正面から打ちのめされる。自分の都合のみを優先して貴方がされたら、その言い分だ。本当に仲間1人でも失ってみますか?」
「黙れ!どうやって幻想種をたぶらかした!答えろ!」
「俺の、本気が見たいんですか?」
新が殺気を出し始める。
それはワーリルに向けた物だが、近くにいるオーレイルなどそれだけで震え始める。
当のワーリルは
「っ?!ヒッ!…あ、あぁ…」
収まっていた涙が、また流れ始める。
そこで、新はズボンの裾をあげる。
足に付いていたのは、都合10もの魔力制限だった。
これを見た2人は、何を見ているのか理解できないらしく目を、足と新の顔で往復させていたが
「これを全部取り払って見ましょう。」
と言って、全てを外した。
外した時には2人の顔には、怯えしか残っていなかったが、追い打ちを止まない新。
「俺の魔術は、知っての通り想像発動です。魔術1つに込める魔力量も調節できるんですよ。分かりますよね?さっきワーリル様が放った様な魔術に全てを込めて放ったら、どこまで届くと思いますか?」
新は、笑いながら言い人界の方をみる。
彼のもつ魔力量など大きすぎて、既に2人から上限が把握出来ていない。
「貴方達がやっていたのは、こう言う事ですよ?ワーリル様がどうしても分からないなら、分かって貰うしかありませんね。いきます。」
そうして現実に空間が歪むほどの魔力を始める。
「や、やめろ…。」
「は?」
「やめて、下さい…」
「聞こえません。」
「お願いします、やめて下さい!」
「分かりました。やめましょう。」
一瞬で収束するエナ。
「…お二人がやっていた事を体験されてどうです?どれくらい理不尽で、どれくらい腹立たしく、思ってもいない事を言わせられる気持ちが分かりましたか?」
ここで2人に治癒魔術をかける。
ただ、滂沱の涙を流しながら、虚ろな目で新を見ているだけだ。
殆どワーリルに注意を向けていたのに、オーレイルなど、足元にシミが出来ていた。
『……少年。私達幻想種にも性別はあってな?私は女なのだが…これはさすがに』
(…修行では、これくらい普通だったんだけど…あれ?…ナイトが、お、お漏らしするぐらい…なの?でも…………)
「……ご、ごめんなさい!」
そして、2人が再起動するまで待つ羽目になった。
もちろん外していた制限は首を除いて腕にも付け直した。




