22
この世界には魔物がいる。
だからこそ力を持ち、力で対応する者達がいる。
故に人界では、力ある者の発言は影響力が大きい。
言葉を尽くさずとも、自分の意思が通る事が多いのだ。
だから、オーレイルもワーリルも気づかない。
2人に対し拒否を示す新の理由が、彼にとってどれだけ大事な物なのか。
力で通る事が多いからこそ、力で劣る彼と話合うよりも押し通す事の方を選ぶのは、彼女達にとって簡単だからだ。
足を狙って放たれた初撃を新は横に移動して回避した。
その狙いからも殺すつもりは無い様だ。
尚も止まりそうに無い炎の閃光に対して、新は止まらずジグザグに走りだす。
魔力感知で発射されるタイミングを読み巧みに躱していく。
ワーリルは業を煮やしたのか、次の攻撃を放つ。
「ファイアーバースト!」
その時には、新は急停止から反転し逆方向に走っていた。
発動した魔技は、先程までの彼の進行方向先で爆発を起こす。
「雷矢」
牽制で、雷の矢をワーリルに向かって放ちながら、弧を描き彼女に向かっていくが
「ファイアーバレット!」
雷矢を障壁で防いだワーリルの圧倒的な弾幕によって、接近を妨げられる。
数十発もの炎弾を防御している間も、新は足を止めない。
「スカーレットリジェクション!」
ワーリルは新が近接戦闘を狙っていると分かると、彼が近づけない様に周囲に炎の壁を構築する。
これで相手も諦めるかと思ったが、新は障壁を纏って壁に突っ込んだ。
「レッドウィップ!」
魔術師にとって近距離でも戦う方法はある。
魔技で操作する武器の様な物を作り出すのだ。
ただそれらを使いこなせるかは人によるが、特級の彼女が出来ない訳がない。
壁を突破した新に炎で出来た鞭を振り下ろすが、半身になってギリギリで躱される。
さらに鞭をしならせて攻撃を仕掛けて、新をその場に縫い止める事に成功するが、至近距離にも関わらず当てる事が出来ない。
「水弾」
そこに新が水で攻撃を仕掛けるが、この程度でワーリルの魔技が消える訳がない。
炎と水がぶつかりあって水蒸気が発生し2人の姿を隠す。
そこで新の魔力反応が消えた。
通常魔力を感知出来る者にとって、視界が効かない事は余り怖くないのだが、魔力反応が消えたとなれば攻撃がどこから来るか分からない。
ワーリルは周囲を薙ぎ払おうとしたが、反応が消えた事に一瞬の間が出来ていた。
突然身体に痺れが走り、硬直する。
そして水煙が晴れると拳を腹に突き付けられていた。
だが―
ワーリルの全身が発火した。
ここで新は大きく距離をとる。
そして周囲の炎も一瞬で収まったあと、ワーリルが姿を現わす。
彼女は魔力障壁を張り、想像発動によって炎を纏ったのだ。
「…見事だ。お前は魔力を感知するのも、反射速度も常軌を逸しているな。」
「魔力制限で、魔力反応を誤魔化すのは考えたつかなかったわ。」
外から見ていたオーレイルも賛辞を送る。
「ただ、彼女は手加減しているわよ、アラタ君。それは…分かるわよね?貴方を殺さない様にかなり苦心しているのよ。」
「もう、諦めろ。これ以上歯向かっても結果は見えている。それほどの戦闘技術があれば、それも分かろう?」
首に着け直していた制限を外す新に、諭す様に言葉をかける。
「彼女の魔技はもっと威力が高いわ。本気で放てば、貴方くらいの魔力なら一瞬で吹き飛ぶわよ?」
「これ以上面倒をかけるなら、本当に瀕死に追い込む。生きていればどうとでもなる。」
その時、新の姿がブレる。
そしてワーリルは吹き飛ばされる。
「が?!」
「え?」
ワーリルは反応すら出来なかった。
防御すら意識していない所に、肉体強化をしたまま殴り飛ばされたのだ。
オーレイルには辛うじて見えたが、それも新が動き出すまでだ。
独特な動きで一瞬で加速した新の動きに目が付いて行かなかった。
「なに?今の動き?」
その疑問に新は答えず、ワーリルを見つめている。
そこでワーリルが起き上がり膝をつくが、口元には血が流れている。
「グッ!?…」
思ったよりダメージが大きく、立ち上がれない。
当然だ。
意表をついた攻撃で、身体強化での防御すらできていない。
いかな特級とはいえ、生身に強化された拳を打たれればダメージも入ろうというものだ。
「…アラタ君、今の動きは凄かったけど、ジャレつくのはその位にしときなさい。じゃないと、彼女の二つ名の異名を身を以て…」
「…もう遅い!」
ワーリルがキレた。
「優しく諭している内に聞けば良いものを…。消し炭にしてくれる!」
そこで、ワーリルが爆発的に魔力を解き放つ。
かなりの量のマナに干渉しようとしているのが分かる。
そして新は
「陸歩『百日紅』(さるすべり)」
それを無視して飛び込み、先程と同じくワーリルの鳩尾に一撃を入れるが、それを読んでいたワーリルのエナの量に物を言わせた力任せの身体強化に阻まれてしまった。
「無駄だ!お前ごときのエナの量では、私の身体強化は抜け
「肆寸『柘榴』(ざくろ)」
な、グ?!」
その場で震脚を踏み、寸頸を持って拳を振り抜く。
ワーリルは踏ん張り切れず、また吹き飛んだ。
ただ、防御はしていたためか、直ぐに立ち上がり新に向かって怒声をあげる。
「…まだわからんのか!もう良い!スカーレットレオパルド!」
そうして、発現するのは炎の豹。
魔力で作りだしたそれは、1級に類する魔技だ。
決められた挙動ではなく、発動者の脳の潜在領域を継続的にギアに割り裂くことで、思考する一匹の協力者を作り出すのだ。
この様な技能を並列思考といい、1級の魔術師の必須技能とされる。
かなりの難度で、これを習得する者は多くない。
「ちょっとちょっと!…もう、まだ不死鳥を顕現させないだけ良心的だけど…。」
オーレイルはこの戦いに意味を見出せない。
「アラタ君、こんな事をしても意味がないわ?そもそも目的は、魔物の討伐でしょう?」
「あなた達は俺の今後も、都合関係なく契約も破ると言った。」
「それが気に食わないの?国の為なのよ?」
ここまで来て新は衝動的に口走った。
「俺はこの世界の人間じゃない。そういったら、考えてくれますか?」
「っ!?え……?」
「俺はただ元の世界に帰りたいだけだ。」
その言葉にワーリルは怪訝な顔をするが、オーレイルは直ぐに意味を察した。
「貴方、迷い人なの?それならどうして国に…」
「この世界の人間じゃない俺は、国が信用出来ない。」
「そんな、貴方が迷い人なら国が保護します!決して傷付けたりしない!」
「なら、俺の自由を保障してくれますか?俺が帰る方法を探すのを邪魔しませんか?」
「…あのね、アラタ君。今まで何人も帰りたいと調べた人はいたのよ?でも全員諦めたわ。次元震の研究もしたけど無理だったの。」
「国がその研究を公表しない理由は?異世界人としての名前すら秘匿され書物にもならない理由は?」
「研究の結果分かった事は、人為的にあれを起こすとは無理という事だけよ。」
「なら異世界人に付いては?」
「それは…」
「今、国が保護している迷い人は何人ですか?」
「…4人よ。」
「その人達に自由は?」
「あるわ!ちゃんと人して生活できる様にしてる!」
「俺が聞いた所では、市井などとは交わらせずに、城の一画からは出られないと聞きましたが。」
「…誰から聞いたの?」
ダズからだ。
ダズも現在の異世界人の扱いに付いて詳細を知っている訳では無かった。
ただ無くなってしまったダズの国ではそうだったし、キセンラルナルクでも同じだったと言っていた。
ダズが王子だった事もあって知っていたのだ。
ちなみダズが王子だった事を新は知っているが、その事をダズは知らない。
ダズの友という人もキセンラルナルクの城から逃げてきたと言っていたらしい。
「こちらの質問に答えて下さい。」
「…貴方を保護します。自由に付いては最大限配慮するわ。」
「それが信用出来ないと言っているんです。それに、研究は国の関知しない所で出来ますか?」
「…考慮します。」
「貴方にその権限がありますか?」
この問にオーレイルは答えなかった。
ただ腰に下げていた剣を抜いて、新に向けた。
「貴方が迷い人である以上、もう私も引けない。引きずってでも連れていくわ。」
「オーレイル、どういう事だ。あいつが迷い人なのか?」
ここで怒りをようやく冷ましたのか、話しを聞いていたワーリルが質問をする。
隣には顕現したままの炎の怪物もいる。
「そうよ、この子は国で保護します。」
「国で…か。それなら、しょうがない、な。…手伝おう。」
「いらないわ。出来るだけ傷付けずに、連れて行きたいの。」
「ここまでやられてはな。少しはやりかえさせろ。」
「はぁ、なら私はみてる。どっちがやったって変わらないもの。」
「結局、どちらにしても貴方達は力尽くなんですね?」
「引けない理由が増えたの。…ごめんなさいね?」
言葉を尽くしても分かってくれない。
2人相手に戦うほどの必死さを見せればオーレイルなら分かってくれるかとも思ったが無理だった。
衝動的に口にした異世界の事も、新の意思は聞かないと言う。
何もかも力で新を抑えつけようとする。
ここまで静かにしていた新だが、実はキレていた。
「ふざけんな…ふざけんな!!それなら俺もやる事決めたぞ!」
「何だ?何を…」
「もう、諦め…」
新は袖を捲りあげ、両腕に付けていた身体制限4つと、魔力制限4つを引き千切った。
その瞬間、2人からみて新のエナの量が跳ね上がった。
その量は特級魔術師のワーリルにも匹敵する。
そして、地面に落ちた残骸からまだ4つも身体制限を付けていた事を察したオーレイルは驚愕する。
「うそ…あんなに付けてたら心臓すら動きを止めるわよ!信じられない!!まだ抑えていたというの!?」
「!??!オーレイル!この魔力、私と同等程度だ!一体どうなってる!」
「あの子、首の以外にも魔力制限4つと身体制限4つ付けてたの!それを外したの!迷い人が一体どこで、こんな力を…!」
「と言う事は、あいつは!?」
「特級に匹敵する!身体能力はナイトの序列上位と同じかそれ以上よ!」
「あんた達2人でこい!それを真正面からぶっ潰してやる!」
「「っ!?!??」」
新から猛烈な怒気が伝わって来て、2人はたじろぐが
「ワーリル、やるわよ!近接は私が担当するから、気にせず撃ち込みなさい!」
「分かった!」
「確かに強いけど、私達2人でかかれば絶対負けないわ!」
「私も本気でいく!オクタブル・フェニックス!」
並列思考で都合8匹もの不死鳥を顕現させる。
オーレイルも全身に身体強化をかけ、新と対峙する。
そして
「仙勁漆花流 壱陸連花『百日撫子』!」
新が本気で牙を剥いた。




