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「えっと…まず魔力感知は出来ますよね?動かなかったら、何となく分かりますか?」
「魔技の兆候?揺らぎ自体を感知は出来るけど、そこからは…。」
「これは慣れですよ。まずは動かない状態でやってみましょう。」
「分かった。魔技をお願いしていいかな?」
「…俺、エナの保有量が350くらいしか無くて…あまり強いのは無理なのですが…。」
まさか今すぐにやると思わなかった新はそう声をかける。
「えっ!?そんなに?…俺より少ないのか…。」
「その、友人とかにお願い出来ませんか?」
「…俺友達少なくて…。」
目を逸らしながらいうテオに
(あ、これ触れちゃいけない奴だ…)
と、シンパシーを感じる新。
「あのっ、俺やりますよ!」
「ありがとう。」
それから少し離れて訓練に入る。
まずは新が射出系の魔術を発動する。
「火矢。」
「え!?」
「ん?」
「あれ?」
テオが発動した瞬間に驚くが、待機状態で止まっている魔術をみて、困惑している。
「どうしました?」
「いや、聞いた事無い魔技だし…飛んで来ないから?」
「??えっと、あぁ、そういう事か。あのこれ登録設定された奴じゃなくて、想像発動なんです。」
人界の魔技は、戦技と同様にギアに発動までのプロセスを設定して、音声認識で発動する。
その為、発動された魔術は所定のエナを使用し決められた動作をする。
対して、新の物はダズが全くギアの設定など出来ないので、予め魔術のイメージを固めておき、名前を付けて置く。
名前を口に出す事で固めてあったイメージが想起され魔術が発動するという仕組みだ。
前者を登録設定魔技といい速度にすぐれ、後者を想像発動魔術といい自由度に優れる。
狭義の意味では後者を魔技に含まない場合もある。
一応これらの事は習ってはいたのだが、困っていない為に、人界に来てからもギアの設定をしていない。
というか、洞窟内ではあるが15年も親しんで来た方法を変えようなど思わなかった。
「え?想像発動って、なんでそんな面倒な事?」
「えっと、魔力が少ないので自由度を高くした方が、良いと、思って…」
苦しい言い訳である。
人界ではエナの保有量が少ない者は必然的に前衛だ。
前衛が魔技を使う理由など撹乱目的で牽制に使う程度である。
畢竟、速度重視の登録設定魔技を用いた方が良いに決まっている。
しかし
「変わってるけど、それがアラタのやり方なんだな。」
人がいいのか、テオは直ぐに信じてくれた。
「それで、今の分かりました?発動方法に差はあっても揺らぎ自体はそこまで変わら無いと思うんですけど…。」
「うーん、小さすぎて良く分からなかったなぁ。」
「小さな物が分かるようにならば、大きな揺らぎの方が特徴的なので分かりやすいと思いますよ?」
「そうか?じゃあ、頼むよ。」
「はい。」
そこからも2人は授業終了まで続けた。
新の方は、制限されたエナを目一杯使った。
少し打ち解けた2人は、レックスに挨拶をして、寮まで一緒に帰って来たのだ。
「そういえば、貴族寮って事はテオ先輩も貴族なんですよね?」
「テオ、先輩…」
いつの間にか、テオに先輩を付ける新。
テオは嬉しそうに呟いていた。
「テオ先輩?」
「あ、うん、そうだけど…まぁ、俺貴族なのに魔力が小さいからあんまそうに見えないよなぁ。」
「でも戦い方は人それぞれだと思いますよ?」
「そうだね…。俺も色々練習してみるよ!今日はありがとう!」
「いえいえ、それじゃあまた。」
そのまま、新は自室に戻った。
一度ユニオンに行こうと思っていたのだ。
金策である。
レックスは自由時間をくれたので、暇な間は情報収集や今のウチに出来る事をやっておきたかった。
ユニオンに行って依頼を確認した所、拘束時間が長い物が多く、結局選んだのは道路の舗装だった。
時間は明日、明後日の午前中だったので、帰ってレックスに予定を報告した。
「それにしても、今日はホントにすごかったよ。なんであれで5級なんだい?」
「マーセナリーのランクは対魔物で測られていますから。避けるのは得意でも攻撃が、ちょっと。」
「そうか、ちょっと残念だね。あんなに器用なのに。」
「ハハハ…。」
「そういえば、テオ君の事もありがとう。あの子貴族って事だけど魔力が低いからちょっと浮いててね。貴族の子って少し、魔術師って事に高い誇りを持ってて、色々あるんだ。」
少し遠回しに話しているが、これだけで新はレックスが何を言いたいかを理解した。
(虐めかぁ…20歳超えてもそんなのあるのか。)
生死を彷徨い、命を摘み取り、依頼受けたりと常識では考えられない様な経験を経て、元の世界での事で心に残っているのは、葵のことのみだった。
しかし虐められている者を見るとやはり思う事はある。
「今日は、テオ君もアラタ君と話せて嬉しいそうだったし、良かったら依頼の間だけでも気にしてくれると嬉しいな。ごめんね、なんか依頼と全然関係ない事だけど。」
「いやいや、それぐらいなら全然大丈夫ですよ。」
そしてそのまま寮で食事をとっていたが、またもテオと出くわし、予定を聞かれた。
依頼のため午後のみ空いている事を伝えると、また実技のために手伝って欲しいと言われた。
それを快諾し、部屋に戻ってその日は眠りについた。
それから寮内では嫌がらせを受けた。
寮のドアに落書きをされたり、窓から何かを投げ込まれたりした。
上の階で何かしているの、1晩中床を叩く音がしていたりなど。
ただ、死ぬことに比べればこんな事は何ともない。
新は粛々と対応した。
寮の管理をするものにすべてを任せて、器物破損、騒音で苦情を出した。
結局なにも変わらなかったが、別に気にしなかった。
入寮時の職員の表情の意味は分かったが。
本当に気にしていないので、レックスやテオと話す機会があっても既に忘れていた。
2日後、昨日と同様に道路の補修を数名と行っていたとき、軍用の車両が通りかかった。
かなりの大所帯で、10台以上の魔導車が連なっていた。
その中でも一際目を引くのが、中ほどを走っている大きめの車で、キセンラルナルクの国章が入っていた。
国の要人でも乗っているのかと思いながら、車を見送った。
そして依頼を終えて帰ろうとした時、2人の軍人が硬い顔をして近寄ってきた。
「君はアラタという者で間違いないか?」
「?はい。そうですけど…」
「少し時間を貰えないか?聞きたい事がある。」
嫌の予感がしたので、断ろうとすると
「えっと、午後から予定が入っていて…。」
「率直に言おう。君には刑務所脱走の嫌疑がかかっている。大人しくついてきた方が身の為だそ?」
「はぁ?!え?どういう…事?」
「…正直に行って、我々をこんな事は言いたくないのだ。無理矢理ではなく君の意思でついてきて欲しい。」
苦渋の表情でいうその軍人は嘘を行ってない様だったので、渋々ではあったが頷いた。
「えっと、分かりました…」
「では、こちらに付いてきたまえ。」
そのまま軍人の後を付いていくと、何故か高級レストランについた。
こんな所で取り調べ?と思いながらも軍人は中に入っていく。
結局レストランの中でも奥にある、個室の前で軍人は止まった。
「この中にいる方が君に話があるそうだ。すまないが付き合ってくれ。」
「えっと…はい…?」
そして1人は入り口に立ち、もう1人と中に入ると、そこには1人の女性が座っていた。
金髪の長い髪を後ろで1つに結わえており、顔立ちはとても綺麗で柔和な表情で笑っていた。
「どうぞ、座って下さい?」
「えっと、あの…」
優しく促されるが、困惑して固まる新。
「閣下、この少年に付いてユニオンにも確認を取りましたが犯罪を犯して逃げ出したというにはあまりに…」
「少しお話をするだけよ?アラタ君、だったわよね?少し座って下さらない?」
「えっと、はい。」
軍人は諦めた様に溜息を吐き、新はそのまま椅子に座る。
するといきなり女性が、新に向かって顔を近づけてきた。
「え?!あの!」
「閣下!」
困惑する2人を他所に、その女性は新の首を見つめている。
「あら、拘束術式がなくて、制限だけね…。」
「えっと…あのあの…その…。」
「閣下、少年が不憫です。さっさと解放してあげて下さい。」
「解放って…私はちゃんと仕事を…。」
「なら、しっかりと説明をお願いします。ユニオンまで巻き込んで個人情報まで調べた理由もです。」
「分かりましたよ!…まず、自己紹介をしましょう。と言ってもアラタ君の事は知ってるから、私の方ね。私はオーレイル=パラジャイル。『守護騎士』をしているわ。」
「……え!?ナイト!?」
この国の軍には階級が存在するが、そのなかに属さない戦力が存在する。
国を守る象徴として、王に任命されて名乗る事の出来る称号。
この世界で唯一の騎士。
それが「守護騎士」である。
その強さはマーセナリーの特級に匹敵するとされ、現在は16名のみしか存在しない。
彼等はその強さから、軍の最高戦力とされるが、同時に王の剣として国を守るため独自行動が許されているのである。
立憲君主制ながら王の権威に翳りがないのはこのためである。
「…えっと、そんな偉い方が、なんで俺に?」
「あなた、その首に着けている物が何か分かってる?」
「っ!?」
「あら、知ってるのね。それは犯罪を犯した魔術師の魔力を制限して拘束するためのものよ。」
「…ええぇえ?!!!?」
「なんで…そこで驚くのかしら?」
説明を受けた時点で、さっきまで可哀想な物をみる様な目で見てきた軍人は、剣に手をかけ思いっきり警戒している。
「まあ、あなたが着けてるの、魔力制限だけで、拘束術式が入ってないから国の管理してる物とは違うわね。」
「あ、はぁ…。」
「でも、あなた身体強度まで制限してるし、その魔力制限も着けてるだけで1万はエナを制限してる筈だけど…何故?」
「「なっ!?」」
軍人も新も違う意味で、同時にに驚く。
(全部バレてるーー!!?)
「ん?あぁ、ラズ、大丈夫よ。この子に害意は無いわ。」
ラズとは軍人の事だろう。
それを聞いてラズは警戒を解く。
「さぁ、理由を聞かせて?」
「えっと、あの…修行のためです…。」
「修行?それくらいならマーセナリーでも2級になれるはずよ?魔力量なら1級にも匹敵するわ。それを抑えてまで5級で活動する必要ある?」
完全に正論である。
依頼にはランク制限などもあり、ランクが高い方が難易度が高い依頼を受けられる。
新はもう逃げ出したかった。
しかし正直に話してもどうなるか分からない。
「えっと、あまり目立ちたく無かったんです…昔嫌な事があって…。」
「………はぁ。なんか虐めてる気分だわ。」
「閣下、外から見ていると、まさに虐めている様にしか見えません。」
「だってこんなの着けてたら誤解するわよ!もう…。アラタ君は外したくないの?これって軍関係のみる人が見れば、すぐ勘違いすると思うわよ?」
「えーと、…出来れば。ユニオンで目を付けられるのも嫌ですし…。」
「なんか…ホントに可哀想になって来たわ…。んー…分かった。有望な少年には先行投資をしときましょう。」
そう言ってオーレイルは軍服のポケットからバッジを取り出した。
「これはパラジャイルの関係者を示すバッジよ。軍関係の人に見せたら、優遇してくれるはずよ。」
「え…?」
「これ持っときなさい?いつも着けてる必要無いし、あなたには必要だと思うわよ?」
「…いいんですか?」
「勘違いから無理矢理連れた来ちゃったし、お礼ね。ホントはご飯も食べさせてあげたいけど、予定があるんでしょう?」
「はい。」
「なら、もういいわ。ごめんなさい。もう言っていいわよ。」
「はい、ありがとうございました。」
新はラッキーとばかりに、急いで立ち上がって、レストランを出ることにした。
そしてバッジを受け取り、そのまま学術院に帰った。
なお、待ち合わせをすっぽかされたことになったテオは大分落ち込んでいた。
また、その日の夜に、新は制限系の装備品がどういう用途で使われているのか言わなかったダズに、呪詛を吐いた事は言うまでもない。
新は気付かないが、もう1つ幸運な事があった。
「また、付き人のバッジとは思いっきりましたね。」
「うーん…」
「どうかされましたか?」
「勿体無いと思って。魔力制限もそうだけど、身体強度の制限したまま目立ち高くないなんて聞いた事ないわ。魔力制限はエナが制限されるだけだから良いけど、身体強度制限はかなりきついわよ?あれ1つで結構キツイのよ?3つも着けたら、私でも身体能力は一般人並みね。」
「そんなにですか。」
「人の身体強度の限界なんて見極めた人が居ないから分からないけど、恐らくその位が最高ね。まぁ、エナの保有量はラズよりも少ないから、戦えばあなたが勝つわ。ただ、1つずつあれを着けてるってことはスタイルが私達と一緒でオールラウンダーってこと。ホントに勿体無い…」
そう。
今日新は作業着で、長袖、長ズボンを着ていた。
つまり、それぞれ1つずつしか着けて居ないと思われたのである。
オールラウンダーとは、戦技、魔技を使用し接近戦も遠距離戦もこなす者のスタイルである。
「何かあれば、あの子に助成をしましょう。目をかけておいて損はないわ。」
そして、大きなトラブルを呼び込んだことも――
ユニオン・アルダ支部
「…ユニオンのブレナルト本部が本支部で登録したアラタと言う少年の依頼達成状況などの詳細を報告書にして提出するよう求めています。」
「?どうした?なんかやらかしたか?」
「いや、オーレイル=パラジャイル様より情報照会を求められたらしく、ユニオンでも調査している様です。」
「ナイトが、なぜ…。とにかく、それなら調査しない訳には行かないな。」
同様の連絡がギャルトライス、リグエルのユニオン支部にも届けられた。
後日報告書をまとめたブレナルト本部によれば
アラタ
腕力E
頑強E
魔力E(352)
戦闘C 総合E
5級
依頼の際に、30km先の魔物を魔力感知にて発見したと同依頼を受けた者より証言。
4級との模擬戦闘にて、被弾無しで終了。しかし相手の損傷は極めて軽微なため攻撃に関しては貧弱であると予想される。
剣を携帯しているが戦闘に際しては無手である。アルダの試験官の報告によると、戦闘技術に関してはランク以上の能力があると判明している。
人界にきて1ヶ月もしないうちに、ダズのせいで状況が大きく動こうとしていた。




