18
この世界の政治形態は立憲君主制で、議会制を取っている。
議会は選挙で選ばれた議員からなり、右院、左院があり地方も同様である。
その中で、貴族とは何か?
現在はただの血のつながりである。
それ以上はなく、それ以下でもない。
過去は政治の中心にもあったが、今は政治的な力はない。
ただ、過去から現在に至るまで優秀な血を取り込み、家系の力を高めることを進めてきた。
よって先天的に能力が優れていることが多い。
特にエナの保有量は遺伝することが多く、総じて高い魔力値を示す。
なので力による名声がいまだ残っている。
各地方や、各機関に貴族用の部署、施設などが存在することもあるのだ。
エナを直接自身に作用させる戦技と違い、魔技はマナにエナを干渉させて発現することから、エナの消費量が大きいのだ。
新やダズの様に、鍛錬で瀕死になり強制的にエナの保有量を増やすなど普通はない。
よって人界では、エナの量を増やすのは自然増加しかない。
先天的に高い魔力があるということは、必然、魔術師に高い適性があるということだ。
マーセナリー特級に名を連ねる5人の魔術師の内、「雹零狼」、「雷劫虎」、「赤赫鶯」の3人は貴族と呼ばれる家系の出身である。
そして魔術師は、魔術を使えない者に差別意識をもつ者もいる。
たとえそれが肉親だとしても。
貴族学生寮・1階角部屋
「広すぎじゃないか…?」
『ご主人、ここがしばらくの塒か?』
新に割り当てられた寮室は、貴族専用の寮室だった。
今だ人界にて貴族にあったことがない新は、少し不安があったが、目下の所部屋の豪華さに驚いている。
部屋の広さはおよそ20畳ほど。
トイレや風呂まで付いており、落ちつた内装ではあるがそれぞれが高そうなものばかりだ。
「はぁ、ちょっと落ち着かないけど、せっかくの好意だし。宿に比べてめっちゃ安いしな。運が良かったと思うことにしよう。」
『してご主人、今回は門について調べるのだな?』
「そうだよ。詳しいこと明日、説明してくれるみたいだけど。」
この学生寮では食堂もついているらしく、なんと無料だった。
「まずはご飯食って来よう。」
食堂に向かう途中、明らかに部外者の新には奇異の視線が向けられたが、どうにもならないので我慢した。
食堂では沢山の学生がいたが、1人だけ男性が座っていてそのまわりが空いていた場所があった。
注文をして、その場で食事を受け取り、そこに向かう。
「あの、ここいいですか?」
「っ、…はい…大丈夫ですよ。」
新を見て少し怪訝な顔をされたが、了承されたので座って食事を始める。
この世界は5歳から通う小等学院、11歳からの中等学院、16歳からの高等学院、そして20歳からの学術院と区分が分かれている。
また、世界の特性故か、高等学院、学術院には戦闘系の学科が必ずある。
どの学校も入るには試験があるが、中等学院まではおおむね進学し、その後進路が大きく分かれる。
普通の職、戦闘系の職、進学である。
よってこの学術院の学生はほとんどが新より年上の者達である。
例外として、飛び級で進学したり特殊な事情で入学を許可される場合もあるが。
「あの、君は…飛び級かい?」
「えっ?あ、いえ、この学校の講師の方に依頼を受けたマーセナリーです。ご厚意で寮を使わせてもらっていまして。」
「あ、そっか。何か随分若いからすごいなって思ってさ。」
「俺も学術院の人たちは、みんな頭がよさそうに見えます。ははは…」
「俺は、戦闘学部だからそこまでじゃないけど、みんなやっぱり勉強もできるよね。」
「そっか。羨ましいなぁ。」
そこで会話が途切れ、新が食べ終わる前に男性は席を立って軽く会釈していってしまった。
いきなり話しかけられ少しびっくりしたが、優しそうな人だったなと思いながら、そのまま部屋へ戻って眠った。
翌朝、新がユニオンで手続きをして戻ってくると、寮の部屋に伝言があった。
レックスからで、戻って来次第研究室へ来てほしいとあったのですぐ向かう。
「それで具体的な話なんだが、魔導学的には次元の揺らぎを人為的に起こす方法が研究されていて、僕もそれが専門なんだ。だけど次元震を感知できないんじゃしょうがないから、今までは理論だけだったんだ。」
「なるほど、それで依頼を…。」
「そう。だから、アラタ君にはそれを手伝ってほしい。実験準備とか細かいところは当然僕と、ゼミの学生がやるから実験の時に手伝ってほしいんだ。」
「分かりました。それ以外は、どうしますか?」
「ん?自由に他の依頼なんかを受けてもいいよ?」
「それなら、学術院の授業を見学してもいいですか?」
「あぁ、勤勉だな、君は。僕の授業なら構わないよ。他の講師のは少し無理があるけど、それなら大丈夫。
」
「ありがとうございます。レックス先生の授業は、何があるんですか?」
「3っつだね。魔導工学と魔導分析学、それから戦闘実技上級だよ。」
「一人で実技と座学ってすごいですね…」
「文学部とか教育学部以外の講師は必ず1つ、戦闘実技の講座を持たないといけないんだ。」
「それで今日はなにが?」
「今日は午後に戦技上級だよ。早速来るかい?あ、あとアラタ君の戦闘方法は?」
「魔力が少ないので、前衛型ですね。」
「了解。じゃ、午後2時に第3訓練場までおいで?それまでは、自由だよ。あ、そうだ!!図書館の許可証とかも出せるけど?」
「ほしいです!!」
新は飛びついた。
「2個ぐらいあるから、貸してあげる。はい、これ。じゃあ、またね?」
「本当にありがとうございます!」
新はそのまま図書館で情報収集を行い、昼食を取った後、授業の会場に向かった。
地面は馴らされた土で広場の様になっており高い壁に囲まれている場所だった。
そこには40名弱の学生とレックスの姿があった。
「あぁ、来たね。アラタ君は、見学だからあっちで見ているといいよ。」
「はい、勉強させてもらいます!」
その後授業が始まると、レックスが何やら小屋の様な場所に向かって手を挙げた。
その瞬間、魔術が発動されたのを感知する。
(これは、結界…か?)
魔力障壁を広い空間に展開した状態を結界と呼ぶ。
この様な実技で魔術の使用が想定される、場所には必ず魔導結界と呼ばれる魔導機を用いた装置が置かれている。
その魔導機も発動には人の演算が必要なため、魔導用務員という職がある。
その後、レックスが学生に支持を出して、2人1組で対人戦を始めた。
その中に昨夜、同じテーブルで話をした学生がいることに気が付く。
全員が魔術主体で戦うなか、その学生は一人身体強化をかけ、戦技を用いていた。
試合では、範囲が広い魔技を回避できず魔力障壁を展開し防御する姿が目立っていた。
(エナの量が他の人に比べて少ないな。あれじゃ、魔力障壁に全部もっていかれるぞ…あ、ジリ貧だ。)
そして、そのまま火炎系魔技を防ぎきれず、火傷を負った所で勝負がついた。
しかし、倒れ伏した学生に手を差し伸べる者がいない。
しばらくして、気付いたレックスが来て治癒魔術を施すまでそのままだった。
鍛錬で傷を負うなど、新にしてみたら至極当然なのだが、その後の対応には首を傾げる。
(あれ、ほっとくの普通なのか?)
ダズは鍛錬が終了時点できっちりと治療していたが。
そして、学生と話していたレックスがなぜかこちらを向いて手招きをしていた。
それに従って近づいていく。
学生は少し俯いていた。
「ごめん、アラタ君、ちょっと聞いてもいいかな?」
そこで学生は顔を上げて、新を見ると少し驚いたように声を上げた。
「え、君は…。」
「昨日ぶりですね?」
「なんだ、2人は知り合いだったのかい?」
「いえ、昨日寮で食事をとった時に少し、会話をして…アラタといいます。よろしくお願いします。」
「あ、あぁ、講師ってレックス先生の事だったのか。よろしく、俺はテオだ。」
「で、どうしたんですか?」
「うん。テオ君は戦技主体の前衛でね、僕もアドバイスをあげたいんだけど中々うまくいかなくてね。アラタ君が前衛だったのを思い出して。テオ君に限らず前衛は、広範囲の魔技の対応に苦慮するんだ。マーセナリーとして意見が聞けたら丁度いいなと思って。」
もちろんレックスは教師である。
自分の仕事の誇りをもっているし、ちゃんとテオの事も考えてアドバイスをしてきた。
ただレックス自身が魔技を主体としているため、実践的に教えるとは言えなかった。
新にこれだという答えを求めていた訳ではなく、単純に何かテオの励みになればと思っての物だろう。
それに対して新は――
「先程の戦闘では、ずっと身体強化をしていましたよね?あれは勿体ないと思います。」
「え?それは…」
「…アラタ君だったら、どうしていたかな?」
「魔術の発動を感知した段階で身体強化を発動し、範囲外へ出ます。どうしても防げないものだけに魔力障壁を張りますね。じゃないとエナがいくらあっても足りません。それから、躱した後は接近します。広範囲の魔技は自分の近くで使うのは得策ではありませんので、そのような状況に持ち込みます。後、魔力障壁を展開する際に、干渉するマナの量が適切ではありません。魔力障壁が厚すぎて、エナが勿体なかったです。」
「…えっと、」
新の言っている事は正論だが――
「アラタくんは、どうやって魔技の見極めを?」
「俺の場合は、マナの揺らぎ方でその系統を見分けますね。あと揺らぎの大きさで、魔技の範囲を、相手の視線や挙動で指定位置を予測しています。」
「………そんな事出来る訳…」
「え?」
当たり前の様な顔をして言ってのける新に、テオが何かを漏らすが声が小さくで聞き取れない。
そこでレックスが新に提案をしてきた。
「……ごめん。アラタ君、それを実践してみて貰って構わないかな?相手は僕がしよう。万が一のこともあるからね。」
「はい、構いませんよ?」
「じゃあ、テオ君は合図をお願いね?」
「…はい。」
それから、レックスが生徒に話をしてとりあえず全員が訓練場の端によって見学の体制に入る。
「あれ誰?」
「分かんない。でも若くない?」
「あいつ、魔力低すぎじゃん?ww」
「なんでレックス先生と?」
「さあ?」
「テオが審判してっけど、何故?」
「分からんww」
学生はそれぞれ他愛ないことを話していた。
そして――
「始め!」
テオによって開始の合図が出された。
「ファイアアロー!」
レックスはまず直線状に飛ぶ魔術を発動するが、新は動じない。
新はそれを全て躱す。
レックスが2波、3波と打ち込むが新は危なげなく避け切り、着弾の余波も受けていない。
「ファイアボム!」
そして、威力の低い範囲指定の魔術を発動して放つが、足に身体強化を発動して左に走る。
そしてそのまま、カーブを描きながらレックスの方へ走る。
「ファイアアロー!」
レックスは牽制として魔術を射出するが、走りながら全て躱される。
そしてなぜか、前面全体に魔力障壁を張った。
レックスは顔を引きつらせて、魔術を発動させなかった。
そのまま新は、レックスに近づき拳を突き付けた。
模擬戦はこれで終わりと思った新が、レックスに話しかける。
「最後、どうしたんですか?」
「いやはや、参ったよ。最後、自分を巻き込んで範囲魔法を放とうとしたんだけど、魔力障壁を展開していたから読まれてるってわかってね。」
「なるほど。」
そして、レックスがテオに話しかけた。
「どんなだった?」
「…よく分かりませんでした。」
「だよねぇ、ははは…正直僕も驚いてるよ。」
「??どうしたんですか?」
「ちょっと驚いててね。アラタ君すごいね!僕、本当にびっくりしたよ!」
「…えっと、なにがですか?」
「魔力反応から魔術を見極めるってのは僕と同じ意見なんだよ?でもそれを戦いながら実際にやるってのはすごく難しいよね。」
「はい。かなり。だから俺も師匠には、出来るようになるまでやらされました。俺は魔力は少ないので、エナを節約して戦えるように。」
前半は本当だが、後半は真っ赤な嘘である。
「テオ君も、参考になったかな?」
「あ、えっと…少なくとも方法は間違ってなかったとわかりました。」
「うん、そうだね。これから時間もあるしアラタ君に色々聞いてみたら?」
「はい、そうします。」
「アラタ君、お願いできる?」
「はい、よろしくお願いします。」
「俺の方こそよろしく。」
こうして2人は戦闘について話を始めたのだった。




