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「それじゃあ、あれは見えていたのか?信じられん動体視力と反射神経だな…」
現在ブレナルトまでの護衛依頼1日目の夜。
新、ナギド、アルマの3人は食後に、今日の模擬戦について話していた。
「あれであなたが5級ってのは信じられないわ。」
「あれは人だからですよ。魔物相手だと躱す事は出来ても、攻撃が通りません。腕力も魔力も両方E判定だったので。」
「そうかぁ。…本当に勿体無いわね。どこかのクランとかに入って鍛えたりしないの?あれなら引く手数多だと思うけど…。」
「そうだな、それがいいはずだ。俺は長年4級止まりだが、アラタはもっと上に行けるはずだ。」
「いえ、ちょっと目的があって。今は考えて無いんですよ。」
「そうか。まぁ、そこらへんは個人の問題だしな。それに今回の依頼受けてくれて本当に嬉しいよ。あのまま断られたらどうしようかと思った。」
「私もよ。カッツは前からあんなだったけど、人に向けて戦技を使うなんて信じられないわ…」
そこから後は今までの愚痴や、これからの話などを話して、部屋で寝た。
新も、あれよあれよと話が進んだため、断り切れずに結局受けてしまっただけだ。
キセン総の時と似た様な事が早々ある訳もなく、後は何事も無くブレナルトに到着した。
今回も報酬を貰い、2人と別れてユニオンへ行く。
流石に総都と言うだけあってかなり広く、宿もピンからキリまである。
街中の中に鉄道網が敷かれている位である。
この世界にも鉄道技術はあるが、小回りの効かない鉄道では魔物に対応出来ない為、大都市やその周辺にしか存在しない。
この街でどのくらい滞在するか分からないが、時間を掛ける予定なので宿泊場所などのアドバイスと、可能なら学術院への渡りを付けられ無いかの確認の為だ。
ユニオン・ブレナルト本部
総都の本部だけあって建物もかなり大きい。
中に入ると人でごった返していた。
案内人に頼んで、カウンターの番号を教えて貰い、整理券を配られた。
かなり長い時間待ってから新の番号が呼ばれた。
新は、受け付けで手短かに要件を伝える。
職員は少し席を外した後、紙束を持って戻ってきた。
「これは宿泊可能な学術院周辺の施設のリスト、こちらは学術院に関係する依頼のリストになります。この中から御自分で選ばれるのが宜しいかと。」
「はい。ありがとうます。」
そのまま、次の者の対応に移る受付。
随分おざなりな対応だが、この人の多さを考えれば当然だろう。
まずは依頼について目を通す。
この総都内と周辺は、魔物の脅威と言う点では、かなり安全だ。
総都ついては、軍の大部隊が駐留しておりそちらの方が定期的な見回り、獣の間引き、魔物討伐を請け負っているのだ。
それが出来るのが総都の軍と言う所だろう。
ただ、魔物の脅威が無いからなのか多少気が緩んでいる。
人間は、種として大きな脅威があると同じ方向を向いて協力するが、それが無いとそれぞれ個の欲を満たそうとする。
つまり、この世界で大都市と言われる街では治安が悪いのだ。
これを裁く警察機構を軍が担っているが、総都の人口が多過ぎるため追いつかない。
そこで細々とした犯罪や小さな依頼はマーセナリーが利用される。
街の補修や点検、工事、護衛、失せ物探しなどその内容は多岐に渡る。
その中に学術院からの依頼も含まれている。
新が目をつけたのは
・学術院の学生の戦闘指南
・学術院の学生向けに魔物に対する授業
そして
・次元震に対する調査依頼
これらの依頼の中で断トツに興味を惹かれるのはやはり次元震の調査だろう。
依頼人は学術院の講師で、依頼を受注したい場合は学術院内の研究室を訪れる様に書いてあった。
ある条件もあったが、それは既にクリアしていた。
居ても立っても居られず、すぐさま学術院に向かう。
鉄道を乗り継ぎ、学術院の駅前に降り立つが、外観を見るなどの余裕も無く守衛の様な者に場所を訪ねるが、講師の名前だけでは分からないと言われた。
大学の事務で聞いてくれと言われたので、そちらで聞いた所、魔導学部棟の部屋を教えられ走りながら向かう。
そして辿り付いた研究室の扉をノックする。
「はい。…ん、どうしたのかな?」
出て来たのは若い細身の男性だった。
「えっと、あの依頼を受けたくて、次元震の…」
「あぁ、ユニオンからか。取り敢えず入って、中で話をしよう。」
促されて中に入ると、細長い部屋で奥に大きな机が見えた。
手前にあると4人がけのテーブルに座る様に言われた。
男性も座って、話を始めた。
「こんにちは、僕はレックス。この世界で色々な現象について調査しているんだ。」
「始めめまして。お、俺は、アラタといいます。今日は次元震の調査という事でお伺いしました。」
「ハハ、そんな緊張しないでいいよ。本題に入ろう。アラタ君は次元震に付いてどれだけ知ってるかな?」
「いえ、あの殆ど知りません。何かが流れ着くという事と異界、別の世界と繋がる事くらいしか。」
「うん。そうだ。そして、それが今分かっている事の殆どだと言っていい。ただ異界と繋がっていると言える理由はあまり知られていないんだ。」
「異世界人…ですよね?」
「おぉ、知ってたか!」
「依頼を受けるにあたって少し調べました。」
「勤勉だね。よし!ホントはもう少し色々話をしてからと思ったけど君にしよう!どの道2ヶ月出して、君が初めての受注希望者だしね。」
「ホントですか?!ありがとうございます!」
「あら、随分と嬉しそうだね。ハハッ、マーセナリーっていうのはもう少し大雑把な方をイメージしてたよ。それで続けてもいいかい?」
「はい。お願いします。」
「うん。公表されてるのは3人の異世界人なんだけど、その人達の話を照らし合わせると、恐らく同じ世界だと思われるんだ。詳しい話の内容は国が公表してないんだけど…。」
「なぜ国はそこを隠すんですか?」
「それは僕にも分からないな。ただ理由はあるんだろうけど、材料が無さすぎて考えられないし。まぁ、それは置いといて。歴史上、異世界人が初めて確認されたのは今から840年ほど前だ。それより前には確認出来ていない。それから、これが問題なんだけど、次元震を把握するためにはある技能が必要なんだ。マナが感知出来るだけだと分からない。知ってるかな?」
新はダズから聞いて知ってはいるが、ここは一応知らない振りをして置く。
「いえ、分かりません…。ただあの条件からすると…」
「そう。依頼書に受注の条件と書いたけど、精霊術だよ。」
この世界には精霊と呼ばれる存在がある。マナの溜まりから生まれ、意志を持ったマナと言われる。
この精霊はマナの波長が違うので普通の人間から知覚する事が出来ない。
極稀に先天的に精霊と繋がる事が出来る者がおり、その者はギアを使わずに魔術を行使する事が出来る。
何せマナの塊が力を貸してくれるのだ。
マナに干渉するのにギアなどいる訳がない。
新は2人、この固有技能を持っている者を知っている。
それがダズとタクナである。
ダズの場合、先天的では無いらしく詳しい事は教えてくれなかったが、禁術が理由だと言っていた。
タクナの同行を嫌がっていた新は、タクナが精霊が見えると言った事で即諾した経緯がある。
「そうだ。次元震は我々が知覚する事が出来る現象では無い。精霊術師のみが次元震を感知出来るんだ。これが研究が進まない理由の1つなんだ。」
「へぇ。」
「アラタ君は精霊術師としての能力は?」
「僕は精霊の存在を知覚して騒ぐのが分かる程度で、術の行使までは出来ませんから固有技能とまでは…。」
嘘である。
タクナは精霊自体を使役しているが、ユニオンに精霊術師として登録していない以上、後で問題になる事が予想された。
「そうか。でも十分だよ!ホントに数が少なくて、僕が出来れば良かったんだけど。君が来てくれて助かった。」
「いえ、私も良かったです。」
「後は、また明日にしよう。この後の講義があるからね。明日は大丈夫かい?」
「はい。この近くに宿を取るつもりですし。」
「??あれ、そこは読んでないのかな?この依頼を受けてくれたら、学生寮の部屋を使えるとも書いておいたけど。」
「えっ!?ホントですか?」
「ハハッ、マーセナリーは条件が良くないと来てくれないと思って。宿を決めて無いなら、入ってみるかい?料金は無料にはならないけど、それでもとても安いよ?」
「是非!お願いします。」
「なら、この書類を事務に渡してくれ。それでいけるはずだ。それじゃあ、また明日。」
「はい、ありがとうございます!」
事務で手続きをした時、可哀想な者を見る様な目つきで見られた。
それを学生寮の目の前で知ることになる。
学生寮は石作りのしっかりとした物で、そこにはこう書いてあった。
【ブレナルト学術院貴族学生寮】




