15
護衛依頼は2日目も無事に終わり、昨日と同じように一晩を明かす。
そしてギャルトライス市まであと半日となった午前。
(ご主人。)
(分かってる。)
タクナより警告が入る。
人界に入ってからは不用意な挙動は避けていたので、タクナには人前で話しかける事は止めて貰っていた。
最後に話したのは、ブエナ市を発つ前の宿が最後だった。
新は現在魔力を限界まで制限しているが、感知能力はそのままだ。
そして現在、バスが向かう方向に魔物と思われる魔力反応があった。
その周囲には幾人かの人の反応もある。
魔力の揺らぎから判断して戦闘中だろう。
判断を仰ぐためにラナに伝える事にした。
「ラナさん、この先に魔力反応があります。恐らく魔物です。」
「えっ!?…あ、すみません。」
ラナの反応に数名の乗客が振り向くが、すぐに前を向く。
ラナは他の人に聞こえないように小声で話しかける。
「ホント?シータも気付いていないけど。」
「魔力を感知することは得意なんです。他に人種の反応もいくつかあるので戦闘中かと思われます。」
「それは…どのくらい先なのかな?」
「恐らく30kmほどだと。」
その言葉にラナは絶句する。
確かに魔力感知はマーセナリーのは必須の技能だ。
魔物などは総じて特徴的なエナの挙動を示すので危険を回避したりするのに役立つ。
得手、不得手はあれどマーセナリーなら初期に習得するべきものだ。
このパーティーの中で得意なのはシータである。
その感知範囲は500m前後。
これだけで新の発言がどれほど非常識なのか分かる。
「ラナさん?」
「っ、あ、ごめんね?それは、どのくらいの魔物かは分かる?」
「うーん、多分この5人では厳しいかと。ただ現在戦闘をしているということは、依頼を受けたマーセナリーがいると思われます。ここは、バスを止めて様子を見るのがいいと思います。」
「それは…、ごめんなさい、ちょっとみんなと話をしようと思うんだけど。」
「このままだと恐らく20分ほどで接敵します。判断は早い方がいいかと。」
先程までとは雰囲気が違う様子の新に困惑するラナ。
一方、なぜ迅速に対応しないのか不思議に思う新。
ここで2人の様子に気付いたフィヤが話しかけてきた。
「どうしたんだい?」
「それが…」
「現在30kmほど先に魔物の反応を感知。恐らくマーセナリー都の戦闘中と判断したのでバスを停車させた方がいいと進言していました。」
「っ!?魔物って…って30km!?そんな範囲まで感知できる訳ないだろ?」
「え?」
「うちのシータだって500mが限界よ?アラタの進言に従ってバスを止めて何もなかったら…ユニオンで問題になると思うの。」
「すまんが、さすがに5級の範囲感知で30km先が分かるってのはね…。」
逆に絶句する新。
まず、その感知範囲の小ささに驚く。
500mなど森の魔物なら戦闘範囲だ。
その中に気付かずに入った時点で並みの者なら、理由さえ分からず死ぬ。
ダズから人界のレベルについては聞いていたが、思わぬ所でボロが出てしまう。
それからいくら不確定でも、危険が予想される場所に行くのに信用問題を気にする所だ。
ただ、これは新の言動があまりに常識外れのためでもある。
そこで新は黙り込む。
「ごめんさない。ちょっとそれは無理があると思うの。今から30kmも先に魔物がいると言っても運転手も止まってくれないと思うわ。」
「…分かりました。それならシータさんをバスの先頭に配置して警戒してもらっていいですか?」
「それくらいなら…」
「そんな言うんだ、なんかあるんだろ。それくらいはやってやろう、ラナ。」
「分かったわ。」
それからシータに事情を説明し、戦闘に立ってもらう。
それからフィヤにも事情を説明したが、シータもフィヤも疑い半分の目で見てきた時は少し傷ついた。
それから、およそ19分後――
シータが声を上げる。
「ッ!??!止まって下さい!」
その声に運転手はブレーキを踏みバスを停車させる。
そこは見通しの悪いカーブで先の様子が分からないが、シータの魔力感知には確かに何かが引っかかった。
その数7。
その様子に女性陣4人は戦闘態勢を取り、乗客に外に出ないように指示を出す。
新が把握している範囲では戦闘は続いている。
「シータ、詳しい状況は?」
「多分まだ戦闘中。数は魔物1、人6」
「外に出て警戒しましょう。」
「乗客のみなさん。現在この先で魔物とマーセナリーが戦闘しているようです。大丈夫ですから落ち着いてバスの中で待機してください。」
おびえる乗客を後目に、4人は外に出て行ってしまう。
(俺は…どうするんだよ…)
ラナも多少焦っているようで新に支持を出していなかった。
そこで新を自分から外に出て声をかける。
「ラナさん、俺はどうしますか?」
「アラタは、…シータの護衛をお願い。」
ラナは先程の進言を無視したのが若干気まずいのか、言葉少なに支持を出す。
「分かりました。」
それからバスの前に出て、警戒を続ける。
時折、戦闘音がここまで聞こえてくる。
戦闘開始から20分が経過しているも終わらないのはかなり苦労している証拠だ。
シータは魔力感知から戦局を把握する事が出来ない。
じりじり時間が過ぎていく中、新が言葉を発する。
「もう終わります。」
「「「「え?」」」」
「もう戦闘が終わります。近づいて安全確認をしてもいいと思います。」
その言葉にラナはシータを見るが、シータは首を横に振るだけだった。
それを見たラナは
「もう少し…待ちます。」
その時シータが反応する。
「待ってください!魔物の反応が消えました。」
そして、全員で確認しに行くと警戒していたマーセナリーがこちらに気付いてやってきた。
「おう、もう終わったぞ?そっちは…別依頼だな?魔導バスか?」
「はい、そうです。もう終わったんですか?」
「あぁ、かなり手古摺ったがな。そっちはよく止まったな?お、丁度400m先でバスの反応があるな。早く気付いて判断したな。偉いぞ。」
明らかに上級のマーセナリーはラナ達をほめる。
「もうすぐどかすから、その後通過してくれて構わない。」
「…ありがとうございます。」
その時、新達から魔物が見える。
4級の大型のクマの様な魔物だった。
それを見た新を除く4人は戦慄する。
もし気付かないまま突入していたら、おそらく―――
そして無事バスも平常運行へ戻ったのだが、バスの中では女性陣4人は一切の会話がなかった。
新はそんな気まずい雰囲気の中、ギャルトライス市まで耐えた自分を褒め称えた。
ようやく到着したギャルトライス市にて、5人で依頼完了の手続きを行い報酬を受け取る。
そのまま、軽く会釈をして4人から別れようとしたが
「ちょっと待って…アラタ、今日はごめんさい。ホントに助かったわ。」
ラナが話しかけてきた。
「いえいえ、僕もちょっと変なこと言いましたよね、ハハ…。」
「…貴方を疑ってしまってごめんなさい。」
「いえ…こちらこそ図々しい真似をして申し訳ありませんでした。みなさんもこれからも頑張ってくださいね?それでは失礼します。」
新はしっかり一礼すると、反対方向に向かって歩き出した。
「あの子、すごいわね…魔力反応から戦闘状況を知れるなんて初めて知ったし。」
「そうだね…今日は1つ学んだよ。」
「…何を?」
「死にたくないなら、もっと用心深くなれってね。今日も、もう少し手前でバスを止めて、徒歩で確認も出来たはずた。アラタを信じてたらな。」
「そうね。私達は乗客の命も預かってたんだし…」
「でも…30kmを感知するって信じられない。」
「そうね。あの子、感知能力だけなら1級…いくかな?」
「分かんないけど、1級で済めばいいかも…」
脳裏に浮かぶのは、特級というランク。
世界に10人といない文字通りの最強だ。
「将来、大物になるかもね…」
「ラッキーだったと思うことにして、私達も自分を鍛えなおしましょう!」
「「「はい!!」」」
新としては、
(やっべー…こんな細かいとこまで気を付けるのかよ…疲れる。)
(ご主人、常識とは難しいな。)
人外2人、人界は難しいと身に染みて痛感した。




