12
新はこの世界の地理は大まかに聞いていた。
この世界は天体の観測から、新の世界と同じ惑星であることが分かっている。
海もあり、大きな大陸は3つ。
その内の半分が人種が進出していない未開領域らしい。
新が来た森は大陸の1つの半分を占有する広大な森で、龍の森と呼ばれている。
生息する獣、魔物共に強力なものばかりの危険な森である。
この話を聞いた時、新はダズに出会えたことに心底感謝した。
2人がいた所から、東におよそ2000km行くと人界に到着する。
この距離を新は僅か4日で走り抜けた。
その間に幾度か、獣や魔物の襲撃もあったが、無事に人界の外縁まで来ることが出来た。
今、新が目にしているのは長大な壁であった。
人界と未開領域を隔てるその壁は、高さも5mあり入り口も見つからなかった。
「ダズの言った通りだな。」
『これからあの中に入るのか、ご主人』
「あぁ、そうだよ。とりあえず街に行くんだ。」
そういうと、新は夜になるのを待つため、壁から1kmほど離れた木の上に登った。
『なぜ隠れる、ご主人?』
「この森に入るには許可証がいるらしい。だけどそんなの持ってないだろ?そんな状態で正面から堂々といくと明らかに目立つ。」
『ふむ、目立つとまずいのか?』
「そうみたいだよ。…異世界人ってばれると結構らしいね。」
この世界では有名な異世界人が3人いる。
1人は仙頸の開祖、あとの2人は名前も秘匿されて表に出てきていない。
それ以外にもいるらしいが、この3人は齎した物が大きいので国の歴史書にも乗っているようだ。
そんな経緯から異世界人は「迷い人」と呼ばれ保護されるが、あまり自由がないとダズが言っていた。
新の目的からすると、それは困るため徹底的に隠すことを決めた。
ただ異世界人には特徴らしい特徴はないが、未開領域からいきなり人種が現れれば、面倒な取り調べになりかねない。
その過程で疑われる事を嫌ったのだ。
夜になり、新は息をひそめて壁に近づく。
魔力感知ををすると、かなりの人数が壁の上を歩いており警戒をしていることが分かる。
森から強力の生物が襲ってくる事もあるので当然と言える。
新は人がいない場所を選び壁を慎重に登って行く。
そのまま上に出ると反対側をのぞき込む。
その下には明かりがないことを確認して、周囲を見渡す。
壁に沿って視線を向けると、かなり遠くに沢山の明かりが確認できた。
下に人が居ない事は分かっていたので、そのまま飛び降りた。
そのまま大きく前進して、迂回して明かりの下に向かうことにした。
その途中で夜を明かし、不自然にならないように近づいていく。
ともあれ目的はそこではない。
そこから通じる道を目的としていたのだ。
この世界は魔導車といわれる物があり、舗装された道がある。
それを辿れば、街を見つけられると思ったのだ。
その方向へ向かう途中に、無事道を見つけることが出来た。
新はその道を、向かっていた方向とは反対に辿ることを決めた。
その時、かすかな音が聞こえたので茂みに隠れてやり過ごす。
道を車のようなものが走っていた。
(本当に車だな。ちょっと懐かしい。この駆動音、覚えておこう。)
そのまま新は走り去った。
それから新はいくつかの街や村を通り過ぎる。
目にした町並みは、城壁などもなく石造りやレンガ造りの建物が並んでいた。
少し外国のような雰囲気はするが、新の世界とはさほど変わっている様には見えなかった。
森から離れるほど、農業などの風景も見て取れた。
魔力感知で、人を避けて走っていたため、まだ人とは関わっていないが。
森を抜けて、かなりスピードを落として進み、5日。
少し遠くに見える町並みを眺めながら、新は思う。
(この辺でいいかな?そろそろ食料も少なくなってきたし。)
(どうした、ご主人?)
タクナが新に話しかける。
魔術による会話を声に出さずに行う。
(あそこに見える街で傭兵登録するよ。あそこまで大きければ、ユニオンがあるはずだ。)
(傭兵とは、戦うことを生業にするものか?)
(そうだよ。じゃあ行こうか。)
そのまま新は街に向かう。
町の中に入り、大通りのような道に出る。
そして向かいから歩いてき男性に道を尋ねた。
「すみません。マーセナリーユニオンはどこにありますか?」
「ん、あぁ。あの大きな白い建物みえますか?あれですよ。」
「ありがとうございます。」
お互いに軽く会釈しあう。
新は教えられた建物を目指し進み始めた。
ユニオン・アルダ支部
ユニオンの入り口から中に入ると中には、いくつもカウンターがありその中に人が座っていた。
ちょうど元の世界の銀行のような場所だった。
物珍しそうにあたりを見回していると案内のような人が話しかけてきた。
「お客様。どのような御用でしょうか?」
「えっ?あの、登録…傭兵登録を行いたいのですが。」
「はい。承りました。それではあちらの8番のカウンターへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
そのまま8番のカウンターで要件を伝えると、少々お待ちくださいと返された。
その後、幾つかの書類を書かされた。
ちなみに、この世界に来て新が一番困ったのは言葉と文字だ。
最初はダズが魔術で言語を合わせていたが、途中からダズに教えてもらい勉強した。
今では普通に書けるし話すことが出来る。
あの洞窟内では文字を書くことはほとんどなかったが。
書類の中で分からない所は空欄で良いと言われたのでそのまま提出した。
内容は出身地、年齢、戦闘方法などが主なものだった。
ちなみ名前はアラタで登録した。
そこだけは付け焼刃で誤魔化せるとは思えなかったからだ。
偽名を付けて反応できる気がしなかった。
「それではアラタ様の測定を行いますので、この書類をもって隣の階段から2階へ上がってください。」
いわれた通り、2階に上がるとそこは体育館の様に運動が出来る様な場所だった。
上がったところに男性がいたので書類を手渡す。
「登録に来ました。お願いします。」
「はいよ。こっちにきな。」
少し乱暴な口調で男性は新を導く。
そこでは身体強度と魔力測定を行った。
「うし、あとは戦闘力だな。今から模擬戦だがいけるか?」
「はい。よろしくお願いします。」
「武器はそこにかかってる物から選べ。そのあとすぐ始めるぞ。」
「あぁ、武器はいりません。すぐにでも大丈夫です。」
「アン?その背負っている剣はつかわねえのか?」
「えっ、あぁこれは貰い物なんですけど、まだ使いこなせなくて…」
「…ハァ、使えねえのにそんなもん持つなよ…」
新は苦笑しながら訓練場の中心で男と向かい合う。
そこから戦闘が終了するまで15分とかからなかった。
「それでは、これがアラタ様の試験結果になります。」
登録が新一人だったためか、戦闘試験終了後すぐに結果が出た。
アラタ
腕力 E
頑強 E
魔力 E(352)
戦闘 C 総合E
「総合がEでしたのでアラタ様は5級として登録されます。よろしいですか?」
「はい。」
「それではこの結果で登録証をお出しします。少々お待ちください。」
カウンターの前で待っていると、すぐに名前を呼ばれた。
そのまま登録証を受け取り、新は宿を探しに外へ出た。
「どうでしたか、あの子は?」
スタッフの間では本日唯一の登録者について話にあがっていた。
「ちょっと幼すぎな気がしますが。」
「…あいつは少しおかしいな。」
戦闘評価を下した男が、そう零す。
「何がです?能力的には新人って感じでしたが。戦闘評価はかなり高かったと思いますけど。」
「戦い方がな、完全に玄人なんだよ。俺の腕力はCだが、それで打ち込んでいなされるんだぜ?戦闘の流れを読むのもすごかった。技術が圧倒的だった。最後は結局、ギブアップしたが息も上がってなかった。」
「それは、変わってますね。」
「あぁ、あのままだったら間違いなく戦技使ってたわ。」
「っ!?それは…そんなにですか?」
「あぁ、あんな戦い方はじめてみたぜ。ギアもつけてんのに何もしなかったしな。」
この世界は、戦技と魔技に頼った戦闘方法が主流である。
魔物を相手に戦う時は、自然と身体強化と戦技、魔技に頼った力押しになる。
だから技術が上がるのは上級者で戦闘経験を積んだ者達だ。
あの身体能力でそこまでの技量は不思議だった。
「面白いガキだったな。」
そのまま話題は別の内容に移った。




