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つながる世界  作者: hyrot
その頃、世界
13/30

その頃、世界1

 

 彼女には兄がいた。


 彼女の家庭は少し複雑で、父子家庭で育った。

 父に、兄、たまに顔を合わせる叔母と合わせて家族と呼べるのは3人だった。

 

 父はとても優しく、兄妹を育ててくれた。

 そんな父に似たのか、兄もとても優しかった。


 そんな中、父が急逝する。

 病気だった。


 彼女は、泣いた。

 当然だろう。

 家族が死んだのだ。

 とても悲しかった。


 そんな中、兄は涙も見せず、いつもと変わらないように淡々としていた。

 兄は悲しくないのか?

 父は兄にとってあまり大切ではなかったのか?


 火葬場で遺骨を受け取った後、小さくなった父を抱き兄が言った。


「これからは俺が父さんの代わりをする。」


 そんな言葉に彼女は、苛立ちを覚えた。

 父の代わりなんていない。

 兄は、何を言っているのか?


 兄から聞かされたのはこれからの事だった。

 これからは叔母が親権者となって、一緒に暮らすいう。

 家は売るといった兄を、彼女は信じられないと思った。

 あの思い出の詰まった家を売るというのか?

 大切な場所なのに。


 そんな思いが募って、彼女は兄と話さなくなった。

 それから、彼女は兄を無視するようになった。

 

 叔母には隔意もなく普通だったが、それほど父が死んだのは悲しかった。



 中学生だった彼女は思春期に入り、なお一層異性の兄が疎ましかった。

 


 友達とは兄弟の話もする。

 愚痴ばかりだったが。

 ある日、彼女の友達が家に遊びに来た時、兄の話になった。


「お兄ちゃんが家事してるの?偉くない?www」

 

「あいつ、そんなことくらいしかできないし。でも何かと話しかけてくんのがウザいんだよね。」


「え、やっぱり?うちも兄貴キモイわww」


「ホント。つか喋り方キモイし、死ねって感じww」


「え?でも新さん結構人気高いよ、女子から。落ち着いてて。顔も悪くないじゃん?」


「は、そうなの?顔はまあ、父さんに感謝しろって言いたいわw」


「ひどくない?wそれで、新さんのどこが無理なの?www」


「分かんないけど、まずキモイ!生理的に無理!ww」


「えー新さんかわ…凛、誰か階段上ってったよ?」


「あーたぶんあいつ。帰ってきたんじゃん?」


「えっ?聞かれてたら可愛そうじゃない?」


「は?いいよ、別に気にしないし、会話もないもんww」


 それから、兄が彼女に話しかけることは無くなった。

 彼女は、内心少しだけの申し訳なさを覚えたが、それだけだった。

 兄が高校生になっても兄の私生活など全く知らない。



 そんな兄が自殺をした。







 兄が家に帰って来なかった日は、夜ご飯が食べられなくてイライラした。

 次の日の夕方、叔母さんが急いで帰ってきて彼女に問いかけた。

「凛ちゃん、新くんいる!?」


「え、いないよ?」


「そんな……」


「どうしたの、悦子さん?あいつ昨日も帰ってきてないし、まじありえないんだけど。」


「一緒に…来て。」


 叔母は彼女に行き先を告げず、家を連れ出した。

 着いたのは警察署だった。

 

 一室に着いて、警官がカバンを持ってきた。


「中身の確認をお願いします。」


「はい…」


「ねぇ、どうしたの、悦子さん?あいつなんかやらかしたの?」


 そこで警官が何かを言いかけるが、叔母がそれを制して言った。


「私が…話しますから…」


 そこから彼女に現在の状況が説明された。


 高校生が橋から飛び降りるのが目撃されたこと。

 通報で駆け付けた警官がカバンを発見したこと。


 死体が見つかっていないこと。

 そしてカバンに入っていた学生証が、彼女の兄の物だった事。


 そこまで説明された彼女は全く言葉を発しなかった。


 叔母は彼女を連れて家に帰った。

 そこから数日は嵐のようだった。


 兄の学校の教師、教育委員会の人がやっきて調査の報告。

 彼女の兄は学校でいじめられていたらしい。

 叔母も家をいけることが多く、彼女も気付かなかった。



 兄の幼馴染がやってきて必死の謝罪を繰り返す。

 兄は幼馴染とはすれ違いから別れた様だった。

 彼女は付き合っていたことすら知らなかった。

 

 目まぐるしい状況にほとんど覚えていない。


 結果、死体は見つからなかったが、彼女の兄も帰っては来なかった。

 叔母は望みを託して行方不明届を提出したが、そんな叔母に彼女は言った。


「…なんで、そんなこと…どうせ死ん「凛ちゃん!」…」


「どうしてそんなことって、凛ちゃんは新くんが心配じゃないの…?」


「…だって、…あいつだって、父さんが死んだ時悲しまなかった!あいつが死んでも私だって別に…」


 叔母はそこで立って、新の部屋からあるものを取って帰ってきた。

 封筒に入った便箋だった。

 彼女はそれに見覚えがあった。

 彼女の父が死ぬ前、父からもらった物と一緒だった。

 彼女に手紙を差し出し、叔母が言った。


「あの子は泣きながら、これを手に持って、私の所に来たわよ。」


 手紙にはこう書いてあった。


―ごめんな?先に少し休む。

 凛の事をよろしく頼む。

 お前はお兄ちゃんだから、あいつに涙は見せるなよ。

 強く守ってやるんだ。

 お父さんは、そうやって2人を守ってきた。

 だから、新もできると信じている。

 それから―


 そこから先は、字が掠れていた。

 紙は濡れたように皺が目立っていた。


「あの子は、それを持って自分だけじゃ、あなたを守れないからって…泣きながら、頭を下げにきたわ。」


 彼女は無言で手紙を見つめていた。







 その日から、彼女はよく川に行くようになった。

 来るたびに下流へと目的地をかえて。




 



 彼女が兄の部屋の前で寝ているのを叔母はよく見た。

 起こす前に彼女はこう言う。


「ごめん…なさい。」


 その頬は必ず濡れていた。

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