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仙勁には8つの花が咲くと言われている。
しかし、新がダズから習ったのは壱から漆までだった。
「最後の花を咲かせたのは初代、つまり仙人だけだ。口伝では名前だけ伝わってるが詳しいことは知らん。」
名を零龍「竜胆」
新が自分の中に眠っている力に気づいたのは、自己鍛錬に移ってからだった。
集中の為にと取り入れた瞑想の最中、ふとそこにあったのだ。
エナとは明確に違う、しかし自分の中にあるこの力を新は全く使えなかった。
龍の首が地に堕ちる。
振り抜いた腕から力を抜く。
そこで、放たれていた力の放出が収まる。
何故かこの時なら使える気がした。
それは正しかった。
理由なんてどうでもいい。
失わずに済んだのだから。
だから
「帰ろう、ダズ。」
「あぁ。クハハッよくやった!」
ダズは近づいて来て新の頭を乱暴に撫でまわした。
「やめろって!もう一度そんな年じゃないって!」
「いいじゃねぇか。褒めんのも師匠の役目だ!」
気恥ずかったのか、それから黙ってしまった新
ダズはそれでも嬉しそうに笑っていた。
その時
『なるほどな。』
2人は弾かれた様に、振り返り戦闘態勢をとる。
先程首を刎ねられたはずの龍がそこにいた。
首も胴体も繋がっており、ダズとの戦闘でてきた傷もなかった。
もう一度か、と思ったが
『やめよ。もう約定は果たされた。そなたは我を殺した。名を聞こう。』
新は警戒しながらも名を告げる。
「新。田中 新…です。」
『アラタか。畏まるのはやめよ。そなたは我を殺した。しからば、我が主人なのだから。』
時が止まる。
「「は?」」
新とダズの声が重なる。
『これからよろしくお願い致す、ご主人。』
「「はああぁあぁあああぁぁぁぁあ!?!!!??!?!?!!!!」」
2人の絶叫が森に、木霊した。
とりあえず洞窟内に戻ってきた2人は、リビングで一息入れていた。
龍は決して新から離れなかったため、付いてきてしまっているが。
「しっかし、『竜胆』がマジであるとは。師匠も言ってたが眉唾だと思ってたぜ。」
「俺もよく分からないけど、体の中にエナみたいなのがあったんだ。気付いたのはつい最近だけど。」
「エナみたい、か。俺にもあんのか?」
「いや、ダズからは感じられない。エナと違って操作しなくても常に全身を巡ってる感じなんだけど…」
『それは、おそらく異界の者が持つ特有の物だろう。』
しれっと会話に入ってくる龍に目を向ける2人。
幾ら言っても僕になると言ってきかないため、取り合えず帰ってきたのだ。
「ハァ、そうなんですか。だってよ、アラタ。」
「俺にフルなよ!?あの…龍様は―」
先ほど殺したとはいえ、幻想種だ。
この世界では神の使いとも言われている。
喋り方が畏まってしまう。
『我が名はタクナ。名で呼んでくれ、ご主人』
「え?タクナ、様は『タクナ』…え?」
『タクナだ、ご主人。我は僕。ご主人に敬われるのは困ってしまう。そちらの咎人も、気にするな。』
2人は目を合わせ、頷いた。
「はい、あの、この力の事をタクナは知ってるのか?」
『ご主人は異界から来たのであろう?異界には異界の理がある。この世界の魔力とは違う力のはずだ。』
「アラタが異世界人だから、か。ってことは………『氣』か!?」
「氣って、エナの事じゃないの?」
「仙勁の開祖はな、弟子に丹田より練り氣を組み上げろって教えたんだ。ただどんだけ頑張っても氣なんて見つからなかった。だからこの世界の人間はそれをエナだと理解したんだよ。この流派は身体操作が重要って話はしたな?それは習得出来れば、あとは仙人の教え通りになるようにエナでそれに合った身体強化を組み合わせて戦技として組み上げたんだ。」
「ん?でもダズに氣が無くて俺にエナがあるっておかしくない?」
「それは確かに、そうだな。ただシンも出会った時には魔術を使ってたぞ?」
「タクナは何か知ってる?」
『門を通ったためだと思うが…。あの様な歪みは理が混じり合う。故に器が変化したのかも知れぬ。詳しい事は我にも分からん。』
「門ってのは、次元震で開く穴の事か?」
「あれの事知ってるのか!?俺はもう一度あの向こうに帰りたいんだ!どうやったら開く!?」
『済まぬが、我も知らぬ。しかし、あれは我が生まれた頃はなかった。900年ほど前から突如世界の境界が揺らいでな、その頃の事を調べれば何か分かるやもしれぬ。』
「そうか…いや、ありがとう。」
「しっかし、幻想種を一刀で斬り伏せる『竜胆』てのは、どんな戦技なんだ?」
それを、斬り伏せた(正確には斬り殺した)相手の前で聞くのもどうかと思うが
『我も興味があるな。』
その当人が気にしていない様である。
「あれは本来、仙勁の技の基本なんだと思う。純粋に使い手の身体強度を引き上げるんだ。俺のはそこからエナの身体強化もしてたから…」
「あの威力か?身体強度限界を超えるのか…そりゃ納得だな。今もできるか?」
「うん、たぶん。」
新は体内に感じる氣を丹田で練り上げながら、全身に伝えていく。
「…?もうやってるのか?」
「え?うん。あ、氣が分かんないのか。ほら。」
新が手をダズに差し出す。
それを見たダズは即座に理解し、新の手を握る。
新は手に力を籠める。
「うおっ!?こりゃ、すげえ…が、エナでもできるレベルだぞ?」
「うん。これで大体10分の1ってところかな?」
「これで!?…納得だな。」
『…いや、あの時の力の波動がない。ご主人、その状態で身体強化を使ってくれ。』
「あぁ、分かった。」
言われた通り身体強化を施すと、新の体から仄かに薄紫色の光が漏れ始めた。
その様子にダズは息を飲む。
『仙人とは異界の者なのだろう?ならエナも使えたはずだ。これがこの技の完成形なのだろう。』
「これは、凄まじいな。」
「そうだね。これなら大抵の魔物にも負けない気がするよ。」
新は、自信に満ちた表情を浮かべる。
「『ハ?』」
「ん?」
「いや、アラタ。これは…」
『咎人や、お主はご主人に何を教えていたのだ?……憐れだぞ?』
「いや、だってよ…」
「なに?もっと強い魔物もいるの?」
「アラタ、この龍、タクナはな、この世界で四王って呼ばれててな。一応伝説の幻想種なんだ。」
「うん?幻想種ってのはほとんど姿を見せないんだよな?」
「いや、だから…」
『我の呼び方はどうでもよいが…ご主人、我はこれでも幻想種の中で戦闘に特化した4体の内の1匹でな。その我をご主人が倒したのだ。』
「あぁ、なんかごめんな?」
これでもなお察しが悪い新に対し、1人と1匹は無慈悲に告げる。
「そうじゃねぇ、アラタ。この世界に四王に勝てる魔物なんか存在しない。だから…」
『恐らくご主人は…』
「『この世界で最強の生き物だ』なんだよ。」
「 え?」
「はっきり言って一般人から見たらもう人種にゃ見えないな。次元が違う。」
『魔物など物の数ではない。どんな生き物もご主人の足元にひれ伏す。』
「 え?」
「すまん、アラタ。お前を人間やめさせちまった…」
「 え?」
そこから新は1時間どんな問いかけにも反応しなかった。




