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学校の授業はまるで頭に入ってこなかった。
早く教習所に行きたい。
帰宅部の俺は放課後になるとすぐ、教習所に向かった。
しまったな。
昨日、紫織に連絡先を訊いておけばよかった。
教習所までの送迎バスに乗り込む。
そういえば紫織はどこに住んでるんだろう。
連絡先だけじゃなく、どこの学校なのかも聞きそびれてしまった。
私服通学の学校っていうと、どこがあったっけ。
っていうか、そもそも彼女いくつなんだ?
姉と比べても、化粧はほぼすっぴんというか、ぜんぜんケバくないし、姉ほどガサツそうにも見えない。
かといってそこらへんの女子学生と比較してみても、むしろ紫織のほうが童顔で若く見えるくせに、服装は地味というか落ち着いてるというか。
まるで二輪車みたいにアンバランスなんだよな。
でも話してみると、不思議と安定してる。
あ。これがジャイロ効果ってやつ?
んなわけないか。
第二教室に入ると、昨日と同じ席に紫織が座っていた。
「早いね」
「如月くんが遅いんだよ~」
「これでも目一杯なんだって。うちの学校、けっこう郊外にあるからさ」
――あ。
隣に座ると、昨日と同じく、なんかいい匂いがした。
「紫織の学校は、近いの?」
「その制服、宮平学園だっけ?」
「うん。だから学校からここまでくるのに、けっこう時間がかかるんだよね」
「勉強、大丈夫? 宮平って進学校だから、そろそろ受験勉強もしなきゃでしょ」
「え?」
「ん?」
紫織が不思議そうに首を傾げる。
「…………えっと、このまえ終わって宮平に入ったばっかだけど」
「え?」
「え?」
「……ぇええっ!?」
第二教室に紫織の叫びが響き渡る。
「ちょ、紫織、こ、声おおきいよっ」
ほかの教習生がいっせいにこちらを見て望外に注目を浴びてしまった。
「あ。ご、ごめん。でも、でも、ってことは如月くん、まさか宮平の一年生!?」
「そうだけど?」
「うそぉ!?」
「ど、どういう意味それ?」
「ごめん」
紫織が顔の前で両手を合わせて謝ってきた。
「わ、わたしてっきりその、如月くん、大人っぽいっていうか、あの、落ち着いてるっていうか」
「…………」
「……てっきり、その、もう三年生くらい、なのかなあ……、とか」
「…………」
「ご、ごめんね」
両手を合わせたまま上目遣いに俺のほうを見てくる。
「まあ、老けてるもんな俺」
「そういうわけじゃなくて、その……」
「はいはい。もういいよ。へんにフォローされるとますますへこむし」
「ちが、そうじゃなくて――」
「教官きたよ」
「ううぅ……。ご、ごめんなさい」
ったく。泣きたいのはこっちだっての。
相変わらず紫織はまえだけを見て、まじめに授業を聞いていた。
その横顔をちらちらと盗み見る。
童顔。
白い肌。
長いまつげ。
黒目がちな瞳。
スッと伸びた鼻筋。
桜色の女性らしい唇。
――やっぱ……、かわいいよなぁ。
…………。
……。
見とれているうちに、授業が終わってしまった。
なんとなくわだかまりがあるものの、まだ申し訳なさそうな顔をしている紫織に俺は、何事もなかったように話しかけた。
「それじゃあ、ツーリングにでも行きますか」
「え?」
「ブゥーン」
俺は右手でアクセルをふかすような仕草をしてみせる。
「あぁ! シミュレータね!」
「そうそう」
紫織の顔がほころぶ。
悔しいけど、やっぱかわいいんだよな。