結婚式
あの人の結婚式になってしまった。
朝から天使様親子にお呼ばれしてお屋敷に行くと、ヘアメイクとメイクをバッチリされた。
ドレスはイディオンが買ってくれたワインレッドのドレスにルビーのネックレスにピアスにバングルだった。
「ダリアさん、笑ってください。」
奥様にそう言われて笑いかけるとアカリ様が笑顔で言った。
「完璧!」
「素敵ですダリアさん。」
二人の太鼓判をもらって私は決戦の地に赴いたのだった。
結婚式はつつがなく終わった。
披露宴の会場は神殿の中庭。
誰もが二人の未来をお祝いに来ているわけではないようで、陰でこそこそ不満をもらす人もちらほら見えた。
「もしかしてダリア?」
「マリアーナ!久しぶり~‼」
久しぶりに会う友人は心配そうに私を見ていた。
仕方がないだろう。
私はこの結婚式の新婦になるはずだったんだから………
「心配しないで。私は今幸せなのよ!」
私が思いの外元気そうにそう言ったからなのか、マリアーナはニコッと笑顔をくれた。
「今私ね、ヴィスコ様の娘のアカリ様に勉強を教えているの!」
「あの、天使様の娘の天使様?」
「そうよ‼」
「宰相様には合った?」
「勿論!」
マリアーナはキャッキャとはしゃいだ。
私が通っていた学校は魔法学を中心とした学校だったから、魔法局から派遣された講師としてイディオン様が来てくれたことが数回あった。
その後すぐに宰相様になってしまったから、もう講師には来てくれないだろう!
そんなことは置いといて‼
イディオン様は私が通っていた学校では神がかった人気を一人占めしていた。
見かけただけでキャーキャー、声をかけられたら失神なんて普通だった。
だから、イディオン様と近い職場ってだけで実は自慢になる。
「でも、宰相様は実家にはあまり帰らないらしいじゃない!自慢にもならないって解らない?」
そこに現れたのは私の婚約者を奪った、今日の主役のシェリーだった。
「シェリー、結婚おめでとう。幸せになってね。」
私はシェリーに笑顔を向けた。
イディオン様が言っていた。
『笑顔を向けられると嫌味を言おうとしたやつは怯むんだよ。』
案の定、シェリーは笑顔でお祝いを言われると思っていなかったようで、絶句していた。
「ハーシグはきっとシェリーと一緒になれて幸せね。シェリー綺麗よ。」
私が褒めるとシェリーは眉間にシワをよせた。
「シェリーも綺麗だけど、ダリアも綺麗~どうしたのそのドレスにメイク!アクセサリーも高そう。」
「天使様達が…」
「さすが天使様ね!」
マリアーナはシェリーを無視してキャッキャとはしゃいだ。
「………」
シェリーの怒りのオーラが見えるような気がした。
「………ダリア。」
「ハーシグ。結婚おめでとう。」
私の元婚約者は驚いた顔で私に近寄ってきた。
「ダリア!見違えたよ!君も磨けば光るんだな!」
失礼な男だ。
「今のダリアだったら婚約破棄なんてしなかったかもな!」
シェリーの顔がヒクヒクとひきつっている。
気が付いてハーシグ!癇癪おこされてもいいのか?
「私はハーシグに婚約破棄されて良かったって思ってる。今がスッゴく幸せだからハーシグは気にしないでシェリーと幸せになってね!」
私はイディオン様に教わった幸せ全開笑顔を作った。
その後すぐにブーケトスをすると声がかかり、シェリーは不満全開の顔でブーケトスをする方につれていかれた。
その時私は手を掴まれ、驚いて手を見ると空色の髪の毛に海色の瞳の男の子がニコニコ笑いながら私の手を掴んでいた。
「ダリアちゃんも行かないと‼僕、応援してるよ!まかせてね!」
男の子はそう言うと人混みに消えていった。
ボーとその男の子が消えた方を見つめているとマリアーナが私の手を掴みブーケトスの方に連れて行ってくれた。
ブーケトスの開始を知らせる係りの声にシェリーは私の居る位置を確認してから後ろを向いてブーケを後ろに投げた。
勿論私が居ない方に。
だけど、何故だかブーケを必死に取ろうとする女性達の手を弾き弾かれ私の所にストンと降ってきた。
あまりに普通に受け取ってしまったブーケ。
回りの女性達が溜め息をついた。
シェリーは私が受け取ってしまったばかりに、殺意ともとれるオーラが漏れ出ていた。
あらかたの出し物が終わり、後は食事をしたら披露宴も終わるな~などと思っている頃。
シェリーとハーシグが二人でやって来た。
隣には何とも……冴えない男の人がいた。
「ダリア!ブーケを取ったらしいね!ブーケを取っても相手が居なくちゃ意味がないだろ?そこで、彼なんだが………」
ハーシグの言葉は途中からよく聞こえていなかった。
予想外の展開に私は小さく息を飲んだ。
この二人は私を下に見たいからってそんなことまでするのか?
冴えない男の人は少し顔を赤らめて私の手の甲にキスをした。
鳥肌がたった。
思わず手を引いてしまったのは許してほしい。
「彼は………良い奴なんだよ‼」
「ダリアにも幸せになってほしいのよ!」
二人の笑顔が気持ち悪い。
私は思わず後ずさった。
すると、回りがキャーキャーと騒がしくなったのがわかった。
騒ぎの方に目を向けるとそこに居たのはイディオン様だった。
目の前に居るシェリーすらも顔を赤らめて跳び跳ねている。
イラッとした。
「呼ばれていないのにすまないね。ダリアを少しかりても良いかな?」
回りが驚いているのが解る。
「今朝渡そうと思っていたんだけど間に合わなくてごめんね。」
そう言うとイディオン様は私の左手をとると薬指に指輪をはめた。
「それで良かったんだよね?」
見るとこの間気に入って見ていた羽が巻き付いたようなデザインの指輪………あの時の物とは違って大きなダイヤが中心に付いていて存在感をアピールしていた。
「気に入った?」
「い、イディオン!………ダイヤモンド?本物だし!………無駄遣い!」
「無駄遣いって言われると思ってダイヤモンドは僕が加工したんだ!その分安く上がってるよ。」
「………技術も無駄遣い!」
「ええ~。」
あんなに鳥肌がたっていたのにイディオン様に触れられた途端に落ち着いてしまった。
ああ、私はこの人が好きだ。
身の程知らずにも程がある。
何とも言えない気持ちでイディオン様を見上げるとイディオン様はニコッと笑って言った。
「そのドレス、良く似合ってる。お金を出したかいがある。」
「………無駄遣い。」
「可愛い格好させたかったんだから良いんだよ。次はいつプレゼントさせてくれるか解らないから僕の気がすむまで付き合ってもらうよ!」
「もう、いらない‼自分のために使ってって言ったよね?」
「うん。だから自己満足に付き合ってねって言ったよね?」
イディオン様はニコニコ笑顔で私の挙げ足をとっていく。
「好きな女性を着飾りたい男心も解ってよ。」
好き?………ああ、友人としての………だよね?
私が首を傾げるとイディオン様は私の手に握られているブーケを見ながら言った。
「ああ、約束をまもってブーケを運んでくれたみたいですね。」
「約束?」
「いえいえ………ちょっとした神頼みだよ。それより、ブーケを取ったって事は次に結婚するのはダリアだね。」
「………どうせ相手が居ませんよ~。」
「居るよね?ここに。ダリアは僕が幸せにするって言ったよね?」
「へ?」
「良いよ。忘れたならいくらでも言うから。」
「えっ、いや、だって………」
「家の天使達は君を姉のように慕っている。なら本当に姉になったら喜ぶね。」
イディオン様は家の小さな弟と同じ悪戯が成功したような笑顔を作った。
私は何だか眩暈がする気がした。
「イディオン………あの………一回失神して良いかな?」
「良いよ!アカリもシグレも居ないから今度は僕の寝室に直行だけど、良いよね?」
私は一気に赤面してしまった。
「その可愛い顔は僕の前だけにしてね。」
私は意識が飛びそうになるのを必死で絶えた。
翌日この出来事のせいで町中大騒ぎになったのは当たり前であった。
イディオン様大暴走!
次で終わります。