俺のステータス
『あなたの現在の所持ポイントは100です。それを種族、ステータス、スキルなどに割り振ってください』
その下に続くのは、どの種族が何ポイント必要かとか、現在の生身のステータスがどのくらいだとか、スキルがどうのこうのといったもの。
宙に浮かぶ半透明のモニターは指で触るとタッチパネルのように操作できるみたいだな。
何というか、ゲーム的なモノのようだ。
俺はゆえあって異世界に転生だかトリップだかをさせられる事になってしまったのだが、トリップに際してこのゲームみたいな操作で何かを付き足さないといけないらしい。
そうする事によって何の得が発生するのか知らんが、それでもまだこうやって自分で何かを択ぶ余地があるというのは凄く恵まれた状況といえよう。
この恵まれた機会を無駄にすべきではないために、俺は色々と調べてみる。
ちなみに俺の現在のステータスはこうだ。
・種族:地球人・男・33歳
・HP:15/15
・MP:1/1
・パワー:7
・体力:5
・素早さ:6
・魔力:2
・精神:10
・スキル:人並の我慢・人並の計算能力
・最初の地点:安全レベル5
……大雑把過ぎて頭が痛くなってくる。
ヘルプで調べたところ、日本人の平均的な成人男子くらいはあるそうだ。
むしろスキルの「人並の我慢」「人並の計算能力」がある分は総合的にマシといえよう。
日本の社会での仕事の能力とかはスキルとして認識されないらしいが、人間としての我慢強さや総合的な計算能力というのは異世界でも通用するスキルとして認識されているらしい。
ヘルプの言うことが確かなら最近の若い連中は人並の我慢も計算もできてない奴の方が多いくらいだとか。俺と同年代だったら同なのかと聞いてみたら、日本人では半々くらいらしい。
日本人は我慢強い種族だとか言ってたが、平均を取ると日本よりも欧米の方が我慢のスキルを持ってる人は多いらしいが、まぁそこら辺はどうでもいいことだな。
このステータス、100ポイントを使い加工して新しい俺になってから、異世界に行く事になるらしい。
異世界に行かなきゃならない時点で損ではあるが、そのために100ポイントとやらを追加してくれるというのは本当にありがたいことだ。
まぁとりあえず弄ってみるか。
最初は種族かな。
・種族:地球人・男・33歳
……異世界に行くんだから地球人のままではなぁ。
そう思いタッチパネルのようになってるモニターの種族の項目に触れてみる。
するとあるわあるわ、択べる種族が。
色々な種族があるので触って調べてみる。
それで判ったのは、種族によってポイントの上下があるということだな。
例えば現地人、と言う奴の説明はこうだ。
『これから行く異世界に居る普通の人間。一応地球人であるあなたと等価交換のため、ポイントは地球人と同じ。地球人に比べ若干、身体能力や魔力に優れたものがあるので交換はとてもお得』
で、他の種族を見たらその現地人を基準にして優れてるとか優れてないとかを言っている。
例えばゴブリンだと
『知能も低く体も小さいため、体力に劣るものが有るけど瞬発力はそこそこ。基本は数で責める存在で下等生物と思われてる節がある。生物としての優劣は別として、固体としての能力が劣る為にポイントは低い』
だとか。
もし種族でゴブリンを択べば、最初に貰っている100ポイントが120ポイントにまで増える。
単体の生物として現地人より優れた生物を択んだ場合は元々ある100ポイントが95とか90になる。ポイントを消費してしまうと言うことらしい。
とりあえず現地人に設定しておいて、種族を本格的に決めるのは後回しにしよう。
次はステータスの数字みたいな奴だな。
こうも数字になるとゲームみたいでなんだかなぁ、という気分になる。
良いとか悪いとか関係無しに自分の能力が数字になるというのは何とも気分が悪い。
少なくとも数字で表示できるような単純な存在じゃない、といいたい気分だ。
ちなみに種族を現地人とした事で数字に変化が起きている。
どうやら地球人としての俺の能力をその生物に当てはめた場合はそのくらい、という変化になるらしい。
で、種族を現地人と変えた今の俺のステータスはこうだ。
・種族:現地人・男・33歳
・HP:18/18
・MP:6/6
・パワー:9
・体力:7
・素早さ:7
・魔力:8
・精神:10
・スキル:人並の我慢・人並の計算能力
・最初の地点:安全レベル5
……概ね上がっているな。
生物として地球人より現地人の方が優れている……と、単純に考えたくはないが。
地球人の今の平均的な体力が落ちているのは、地球人が体力を使わずとも君臨できる存在だからだ。
昔の王族並みに体を酷使しないで済むから、自然と体力が衰え逆に頭脳が発達したり指先が器用になったりしたのだ。
地球人は種族全体が王様並の暮らしのできる優れた存在だから、無用な体力を捨てた存在と言い切ることも出来る。
そこを考えると、現地人は体力が必要な暮らしをしている存在……悪い言い方をすれば下等動物と言える存在かも知れない。差別は良くないと思うがね。
ま、そこら辺はどうでもいいや。郷に入りて郷に従うのが日本人の精神よ。
そういや精神ポイントは変化が無いし、種族が変化しても俺は俺であるらしい。良い事か悪い事かは今の段階ではわからんがね。
で、ゲームでやるように100ポイントでステータスを加工してみた。
10ポイントをHPにつぎ込む。
・HP:118/118
……えらいダイナミックに上がったな。1ポイントごとにHPは10上がるのだな。仮にゴブリンになった場合はポイントが20追加されるらしいし、なんかすごい強化が約束されてるような気がする。
本当に100ポイントも貰っていいのか? 後で返せとか言われそうですごく怖いな。
HPに入れたポイントを再び戻してからMPにもポイントを入れてみたが、MPもポイントは1に対して10上がるシステムだった。
次はパワーとかだな。
パワーに10ポイント入れると。
・パワー:29
どうやら1ポイントに対し2、上がるようだ。
他の数値もそんな感じだったが精神に振ろうとすると
『精神を変換してしまう場合はお試しではなく、そのまま取り返しの付かないポイントとさせてもらいまっせ』
と、出た。
まぁ種族が変化したというのに、精神が俺のままだったりするくらいだ。精神と言うのは今の俺が俺である証拠のようなものなのだろう。
我思うゆえに我ありとか? 哲学は興味ないんで知らんが。
てかMPとか魔力って何だよ。と、先ほどから若干気になってたものについて調べてみる。
どうやら俺が行く事になる異世界には魔法があったりするらしい。
地球人の頃から魔力が2もあった事についてどうなのかと調べたら、地球では魔法とかの事を超能力と呼んでたらしいな。
大半の地球人が超能力なんて使えないらしく、スプーン曲げをするのにも最低でも魔力は5が必要らしい。
現地人の平均魔力は8~10くらいで、一般人は普通は魔法なんて使わないとか。
役に立つ魔法の運用は最低でも魔力15くらいから、らしい。よくわからんが。
あとパワーなどについては、一般人だと8~10くらいが平均らしいのだが、鍛えたら才能が無くても15までは上げれたり、素質があれば30くらいまで行くとか。
30あればベンチプレスで700キロくらい上げれるらしい。
他の筋力もそれに見合った分だけ上がってるらしいが、地球人に換算するとバケモノだな。ゴリラと素手で喧嘩しても勝てるやもしれぬ。
とりあえず、上げ下げしてたのを元に戻して次に行ってみよう。
スキルか……種族を変えたみたいに、既存のスキルを失くしてポイントに還元できるのかと思ったが、やろうと思えば出来るらしい。
ただし、人並の我慢も人並の計算能力も俺の精神とそれなりに干渉しあう能力ゆえに、一度外してしまうと取り戻すのに還元したポイント以上のポイントをつぎ込まないといけなくなると言われた。
怖いから触らないほうがいいな。
ポイントで得られるスキルについては、魔法だとか剣術だとかを中心に色々あるが、どうもゲームっぽいと思っただけあって、なんとも暴力の匂いがするものが多い。
一応治癒能力だとかもあるが、これは魔法の回復魔法の亜種みたいなもの、とか言われてたり。
スキルは見れば見るほど微妙な気分になって、あまり良い気がしないなぁ。
スキルはもう良いから次は安全レベルだ。
・最初の地点:安全レベル5
『地面に接した場所、溺れることもなくすぐに沈む心配もなし。発見後に即あなたに殺意を向ける生物が半径10メートルにおらず、あなたを殺害しうる生物はあなたを中心とした50センチの間合いに存在しない安全な場所』
うむ、わかるようでわからんのう。
まぁトリップだか転生だか、その直後に死ぬことはない安全地帯ではあるが、トリップした自分を周りの生物が見つけてからどうするかまでは責任を取れませんよ、と言うことらしい。
ちなみに安全レベルを上げると、より安全な場所にいけるらしいがポイントの消費が激しい。
安全レベルを1上げたら10ポイント減り、2上げるには30ポイント必要で系40ポイント、3上げるには50ポイントの消費で系90ポイントも使うらしい。
まぁその分、安全レベル8はとても安全そうではあるが。
逆に安全レベルを下げるとどうなるのかとやってみたら、ポイントがすごい上がる。
5レベル下げて安全レベル0にすると150ポイントも増えた。
まぁその分安全度が低い事になるが。
・最初の地点:安全レベル0
『煮えたぎる溶岩か、或いは極寒の吹雪の中か。ひょっとしたら深海の底かもしれないし地表から遠く離れた上空かも。人間が生身でそんな所に放り出されたら余裕で死ねます』
安全レベルは0が最低地だが、マイナスとかできれば宇宙空間に放り出されたり、太陽の中からスタートみたいな無茶ぶりになってたのかな。
試したくはないが。
さて、これで一通り見たと思うがどうすべきか……
そこで気付いたが、人間が生身で放り出されたら死ぬ、という安全レベル0だけど、人間以外ならどうなんだろう。
と、いうのも。
種族を弄れるわけだし、人間なら死ぬ場所でも人間以上の存在なら死なない可能性があるからな。
で、調べたらすごいのが有った。
・種族:神龍
『直接神様と関係してるわけじゃないが、人知を超えたその生体はもはや神と言う表現しかできない気がする。燃え滾るマグマの中であろうと深い深海であろうと極寒の吹雪の中であろうともものともしない生命力。食うときは大量に食うが食わなくても死ぬことはない。高い魔力に高度な知能を備え持ったその種族はまさにこの世の頂点と言える』
す、スーパーすげえ……でもポイント消費が激しく、230ポイントも必要としやがる。
安全レベル0にして150ポイントの加算を得て、手持ちが250ポイント……とりあえず試しで種族を神龍に変えてみよう。気に入らなかったら戻せるし。
そして変化した俺のステータスはこうだ。
・種族:神龍・性別なし・年齢に意味なし
・HP:18000000000000000/18000000000000000
・MP:6000000000000000/6000000000000000
・パワー:450000000000000
・体力:350000000000000
・素早さ:400000000000000
・魔力:400000000000000
・精神:10
・スキル:人並の我慢・人並の計算能力
・最初の地点:安全レベル0
ステータスの数字もすごいが、体感で感じる全能感もすごい。
今思えば、地球人から現地人に種族を変えたときに少し体が軽くなった気がしたが、今はそんなものがクソに思えるほどのパワーアップだ。
もうこれでいいんじゃないかな、とか思ってしまう。
未使用のポイントが20ポイントもあるというのに。
しかしまぁ、なんだ。
ステータスの数字で見ると、他に比べて精神だけしょぼく見えるから、やっぱ身の丈にあった種族にすべきかなぁと自重しないといけない気もする。
でも今のこの全能感がとても惜しい。
どうしよう、とても迷う。
仮にこの体になったとして、デメリットとメリットを考えてみよう。
メリットは簡単だ、この体は強い。
神龍というのは今からトリップする世界でもそんなに数が居ないらしいが、居たとしてもお互いで殺しあうような事は無い種族らしい。
更に言えば、仮に神龍の中でありえないくらいの落ちこぼれが居たとしても、そいつが他の生物に殺されることはないとか。まぁそりゃそうだわな。
その上で性別なし、年齢に意味なしってのが気になるが、性別なしは増える必要が無いからとかそんなのらしい。年齢も、殆ど不老不死のようなものという事で、意味がないらしい。
すげえな。
つまり、なってしまえば超安全と言うことだな。
デメリットについてだが、神龍はめちゃくそデカイらしい。もうバカみたいにデカイ。
だから細かい動きとか難しそうだなぁ、と思う。
でも人間だって歩いていて常に地面の微生物に気を使っているかと言えばそんな事は有るまい。だったらそこら辺は気にすべきところじゃないな。
気にすべきところは、食事とかかな。俺は好き嫌いは無い方だが、それでも腹が減ってないのに虫を食えと言われたら言ったやつをぶん殴りたくなるくらいの精神力だ。
神龍になったとしても、神龍の食生活に耐えれるかどうか……食うときは大量に食うらしいが食わなくても問題ない、というわけの判らん生体だからなぁ……仙人みたいに霞でも食うのだろうか?
それともどんなに飢えても死なないのか? ちょっと怖いなぁ。
更に言うなら、元人間として全く人間と関わらなくて平気で居られるのか、とも思う。
でも、正直この体の全能感を持った今だと、人間なんて虫けら以下に思えてしまう不思議。だったら別に人間との暮らしなんて考えんでもいいのか?
うーん、どうすべきか……
「こうするしかあるまい!」
俺は決断した。
現在の俺のステータスはこうだ。
・種族:神龍・性別なし・年齢に意味なし
・HP:18000000000000000/18000000000000000
・MP:6000000000000000/6000000000000000
・パワー:450000000000000
・体力:350000000000000
・素早さ:400000000000000
・魔力:400000000000000
・精神:50
・スキル:人並の我慢・人並の計算能力
・最初の地点:安全レベル0
やってしまった。
しかし後悔は無い。
精神を追加したからか、後ろめたさや不安と言ったものをそれほど感じない精神になったようだ。
なんというか、本当に別の存在になった気分である。
今の俺なら生きる為に必要であればクソでも食える気がするし、そもそも飢えて死ぬとしてもそれが自分の選択の内であるというのなら、納得して上に苦しむことも怖くないような気分である。
精神:50というのは人間の限界を遥かに超えた精神力なのだろうなぁ。
何はともあれ、俺はこの能力で異世界に行く事になった。
「あ、ステータス決まりましたんで異世界送ってくれていいです」
『お疲れ様です。ポイントの使い忘れはありませんか?』
「はい」
『今の内にステータスをやり直したい、あのスキルを取得しておきたい、など、思い残したことはありませんか?』
「大丈夫です」
『それでは、これからあなたは異世界で生きることとなります。これからの生を頑張ってください』
そうして、異世界に飛ばされた俺が最初に居たのは絶賛噴火中の活火山の火口のど真ん中だったが、さすが神龍なんともないぜ。
とりあえずどこでも生きていけそうだと思ったが、別段焦ることも無いかと思った俺は一旦火山の火口の中に身を沈め暫くは寝る事にした。
神龍に睡眠は不要なのだが、あえて言うならこの世界に繋がりながら色んな情報を見たりするのが神龍にはできるらしい。
スキルとかじゃないの? とは思ったがこれは人間で言えば手を動かしたりするのと同じ位の、出来て当然の事らしいので、まったく問題なかった。
それからン百年くらいしたら、この土地に済む知的生物からは火山の守り神みたいなものとして崇められる事になっていたりしたが、それもまたどうでも良い事に思えた。
世界に繋がりながら色んな情報を見たりして知った事だが、俺と同じようにこの世界にトリップだか転生だかをした人はそれなりの数が居たらしいが、今では俺以外は寿命やら戦って死んだりやらで大分減ったみたいだ。
それでも、寿命の長い種族とかスキルで長い時間を生きることを可能とした奴らは数人生き残って今も頑張ってるみたいだ。多種多様な種族やステータスを得た者たちが居るが、どうやら種族を神龍にしたのは俺だけらしい。
人間だった頃なら寂しいとでも思ったかも知れんが、今は別にどうでもいい事に感じる。まぁみんな頑張ってるみたいだからこれからも頑張ってほしいと応援するが。
さらに数百年。
ある日、そんな奴らの内の一人が俺の元までやって来た。
彼は言う。
「俺は異世界の存在だったが、神様によって力を与えられてこの世界に送られた。でもその結果、死なない体、強い体を利用されて戦争に借り出されたり、怒って力で支配すれば反逆を起こされたりで疲れた。俺をどうにかしてくれ」
と。
どうやら、異世界の神とは言え、自分をこうしたのは神の責任なのだから同じ神としてなんとかしろ、と言うことらしい。
俺は別に神様じゃなくて、現地人とかがかってにそう言って崇めてるだけなんだがなぁ。
そこら辺を説明してやらねばなるまい。
「俺は神様ではない。種族こそ神龍と言うが、別に神様と関係してるわけじゃなくて、神様としか言いようがないほどに他の生物と隔絶した能力を持ってるだけの、ただの生物だ。それに俺もお前と同じで転生者? あるいはトリッパーってやつだ。俺をどうこうした神様みたいなことは出来ないのだ。ごめんね」
俺は別に悪くはないとは思うが、期待してしまうのも仕方ないと思って、とりあえず謝る優しさを忘れない俺。さすが精神50だ。
相手は少し呆けていたけど、暫くして言ってきた。
「俺と同じトリッパー? で、でも何か随分と俺と違う気がするぞ。どうなってるというんだ」
別に特別な事をしたつもりも無いんだけどなぁ。
「俺より有効活用したというのか!? どんなステータスだよ! チートかよ!」
まぁ別に隔すようなことでもないし教えてあげるとするか。
「俺の今のステータスはこうだ」