第五話 驚愕の真実
やっとオチです。
ヒロインの名前も少し出てきます。ヒロインはもちろんあの人。
かっこよく飛び出した俺だったが――
バインッ
「あれっ?」
予定では、かっこよくジャニラちゃんを万能球で防御した後、俺が辿り着いて、二人一緒に脱出、のはずが……万能球が、地中から生えてきた植物で弾かれてしまった。
それだけならば良かったのだが、その植物が今度は俺を襲ってきたのだ。
俺、敵認定ですか?
「ちょ、ストーップ! 俺は敵じゃないぞ!」
両の手の平を前に突き出して、必死に「止めて」をアピールする。
だがそんな俺の行為を、植物は完全に無視して、俺を捕まえようと襲ってきた。
俺の抵抗も虚しく、蔓が手足に絡みついてくる。
「うぉーっ! お、おばちゃん、ヘルプミー!」
「お止し! その子は大丈夫だよ。それよりあいつらを捕まえとくれよ」
植物は、おばちゃんが頼むと、あっさりと引いていった。
なんてムカつく植物なんだ。
「ここのマットゥは、私らビラトの民にしか言う事を聞かないんだよ。それが"恩寵"。外の者は基本的に排除対象なんだよ」
「それを早く言ってください……」
何て物騒な恩寵なんだ。この世界にはそんな物がゴロゴロしているのだろうか。
いや、それよりも目の前の光景である。
緑色の子供――ジャニラちゃんが、植物に護られながら、槍で懸命に突っついている。
問題はその相手だ。
「おとーさんのかたきっ、やぁーっ!」
「キキキィッ」
「おとーさんをかえせぇー!」
「キキッキ、キキキィーッ」
敵の正体が判明しました。
「え~っと、人間?」
俺の想像する人間と、この集落の想像する人間とは、別のようである。
これを人間とは思いたくはない。
――『猿』
確かに人間と縁はある。だが過去形だ。
人間の進化前の存在。だがこれを人間とは言わない。
何故誰も気付かない。
見た目が全然違うじゃないか。知能指数も違うのだぞ。
「これは生物学上、"猿"と言います」
「人間じゃないのかい?」
「……いえ、"猿"です」
「う~ん、違いが分かんないねぇ」
何故わからないのだ。全然違いますよ。あなた方の目は節穴ですか?
その時、猿の一匹が俺に標的を変えてきた。
猿ごときが人間様に逆らうか。良いだろう、受けてたとう!
戦闘に向けて身構えるが――
「舐めんじゃないよ!」
俺の横から飛び出したおばちゃんから、放たれる一撃――ドカッと豪快なローリングソバットが炸裂した。
俊敏な筈の猿に、的確に命中して、猿が吹き飛ぶ。
格闘派の方でしたか。見事な腕前で。
男連中よりも、貴方の方が強いのではないでしょうか?
純粋に、そう思わずにはいられなかった。
おっと、見とれている場合じゃない。
おばちゃんばかりに、良い所を持っていかれる訳にはいかない。
取り敢えず、どこかに飛んでいった万能球を戻すことにする。
「万能球、戻ってこい!」
その言葉で、万能球が飛んで戻ってくると思っていたが、いきなり目の前に湧いて出てきた。
どういうことだ? 消えていたのか?
一定範囲外にまで離れると消える、もしくは転移して戻ってくるってことか。奥が深いな。
そもそも、この球は何なのだろうか。
便利だから使っていたが、怪しさ満点だぞ。
そんなことを考えていたが、ふと気づくと、猿共がジャニラちゃんに襲いかかるのが見えた。危ない!
「クソッ、万能球、俺を囲んでジャニラちゃんの所まで飛べ!」
ジャニラちゃんの所まで進む途中、傍らでおばちゃんの戦闘が見えたが……うん、大丈夫だね。
猿の一体に的確にアッパーを叩き込み、後ろの猿をサマーソルトキックで迎撃。
おい、何者だ、あのおばちゃんは。強いなんてものじゃないぞ。
おばちゃんを見ているうちに、ジャニラちゃんの目の前に到着した。
「よし、そのままジャニラちゃんを中に入れてくれ」
ブゥインッと低音が響き、万能球の中にジャニラちゃんを取り込む。
俺の腕に抱かれ、ジャニラちゃんが暴れ出す。
「やっ、なにするの! はなして!」
「危ないからじっとしてなさいっ! こらっ、その槍は危険だからこっちに向けるな!」
言う事を聞かない我侭なジャニラちゃんを、必死に宥めようとするが、効果がない。
外では、猿共が俺達に危害を加えようとしているが、万能球に阻まれて、思うようにいかないようだ。
流石は万能球だ。
全方位が猿で埋め尽くされている様は、圧巻である。
少々ビビりながら、嵐が過ぎ去るのを待っていたのだが――
「お前ぇら、やめねぇか!」
その時、太い男の怒鳴り声が聞こえてきた。
その人物を見定めるが――
喋る猿!? いや、違う。あれは、猿……顔の人間……か? こいつがボスか?
「キキキィッ」
「言い訳は聞かんっ! さっさと全員集合させろ!」
「キキッキ、キィーッ!」
猿ボスに答えるかのように、一匹の猿が大声で吠えた。
その叫びを合図に、猿共が一斉にこの場に集まってくる。
一、二、三……十……五十? おいおい、一体何匹いるんだ?
猿共が集まってくると、一緒に集落の男連中もこの場にやって来た。
万能球を見られるのも面倒なので、慌てて消し去る。
集まった猿共を見て、猿ボスの人間が大声で怒鳴りつける。
「お前ら! 他所様に迷惑をかけるなと言っておいただろう! 何だ、この有り様は!」
「キッキ、キィ~ッ」
猿共が、一斉に落ち込み始めた。
何だこの光景は……いや、ちょっと待て、そうか、謎は全て解けた。
コイツのせいで人間と猿が混同されているんだな。
猿共を統括する猿顔の人間。
こいつら猿も人間と間違われてもしょうがない状況だ。
とすると、猿ボスの命令に逆らった? いや、本能が勝ったというべきか。
所詮人間と猿だからな。意思疎通がとれているだけで奇跡だ。
そこで、猿ボスが集落の者達に気付く。
そのボロボロの姿を見て猿ボスの顔が一気に青褪める。
「あ、い、あ、す、すまねぇーッ!」
猿ボスが、豪快に土下座を決め込む。
潔い、というか、凄いな。あんな豪快な土下座は生まれて初めて見た。
集落の皆も困惑顔である。
その中の一人が、怒り顔で前に進み出た。
確か、俺にいちゃもんをつけてきた、ピッツンとかいう名前のオヤジである。
「謝って済む問題じゃねぇんだよ。この子の父親がやられてるんだ! どう落とし前を付けるってんだ! あぁ?」
「あ、う、ほ、本当にすまねぇ。この通りだ」
まるでヤクザのような言い草のピッツンオヤジに、猿ボスがさらに深く頭を下げようとする。
それ以上は下がりませんよ。地面に穴を掘りたいなら別だけどね。
ちょっと可哀想だが、俺が庇ったところで飛び火するだけと思われる。
ここは事態をそっと見守るだけにしよう。
「コイツらにはキツく言ってあったんだが、森の食いもんが無くなってきてどうしてもやむを得ず……本当にすまねぇ!」
え~っと、つまりこの猿ボスが、本物の猿を従えて食料を奪取していた……じゃなくて、むしろ猿の暴走を抑えていたということか。
そういえば、ここだけ妙に食いもんが見当たるな。
「そりゃ仕方ないねぇ。ここはメルシン様の恩寵で食料には困らないからねぇ」
「だけどそれじゃ……」
「この人間の言う事にも一理あるよ。私らビラトの民はこの"マットゥ"のおかげで恩寵を受けているから大丈夫だけど、外の者にはこの森はキツイからねぇ」
「全部、俺のせいだ。償いは何でもする」
「いや、アンタのせいじゃないだろ? むしろ被害を抑えていたんだからさ」
あまりにも可哀想なので、つい口を出してしまった。
だがそんな俺を見て、猿ボスが血相を変える。
「人間!?」
「うん、そうだけど」
「近寄るな、人間!」
「いや、貴方も人間でしょ?」
「人間連中は皆おかしくなっちまった。信用できねぇ」
どういうことであろうか。
人間にトラウマでもあるのか? それで猿化した……いや、そんな筈はない。
外がヤバいってことか。一体どういう世界なんだ。
猿ボスと俺が対面していた訳だが、そこに小さな声が届いてきた。
緑色のお子様、ジャニラちゃんである。
「……もういい」
「いや、しかし……」
「お父さん……帰ってこないもん! もういい! ぐすっ、うわぁぁぁぁぁぁん!」
申し訳なさそうな猿ボスを放っておいて、ジャニラちゃんが大泣きし始める。
泣き喚く子供をじっと見ているだけなのは、偲びない。
我慢できずに、ジャニラちゃんを、ついギュッと抱きしめてしまった。
何とか落ち着かせようと、背中を優しく撫で撫でする。
俺はこういうのに弱いんだ。
韓流ブームで培った涙腺の弱さを、舐めないでもらいたい。
俺の抱擁に、ジャニラちゃんがギュッと抱き返してくる。
しばらく、その場は沈黙に包まれ、ジャニラちゃんの泣き声だけが響いていた。
数時間後。
何故か、ジャニラちゃんが俺の服をギュッと掴んでいる。
何だか妹ができたような感じで、一人っ子の俺としてはそそるものがある。
猿共は一旦集落の外へと帰って行き、猿ボスは何かを長老と話し合っているようだ。
俺はまだピーラおばちゃんと一緒にいた。
いつの間にか仲良くなっていたのである。
「ごめんねぇ。前に一度見た人間とそっくりだったからねぇ」
「人間? あの猿ボスじゃなくて?」
「猿ボス? ああ、今長老と話している人間の事かい? そうだよ。あの人間とは別の人間だよ」
以前には他にも人間がいて、そいつも猿ボスと似ていたのか?
もしかしてこの世界の人間は皆あんな猿顔……嫌だ、何か萎えてきたぞ。
「そう……確か、髪が長くてアンタと同じような服を着ていたっけねぇ」
服? ……制服の事か!? もしかして!?
制服といえば、拉致被害者に直結する。
早速、脳裏に鮮明に焼き付いている姿を写真にして、万能球で現像して、おばちゃんに見せる。
「この人ですか!?」
「へぇ、便利だねぇ。どれどれ……そうだよ、この人間だねぇ。一ヶ月前くらいだったかな」
「この人だけですか?」
「そういや、あと一人、同じ格好の人間が半年前くらいに来た気がするねぇ」
どうやらこちら方面には二人、入れ違いにやって来たみたいだ。
全員あの場所で放置されただろうか。
ここに来た、ということは、やはり今までの行方不明者を攫った連中は、俺を攫った連中と同一犯の可能性が大きくなった。
連中、何が目的なんだろうか。
とにかく情報は得られた。
これからは、帰る方法探しと合わせて探す必要がある。
目的が二つに増えた。
――今どこにいるんだろう、聖羅先輩。
次回、ヒロイン登場。再会はまだです。