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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『豊穣の森』編
7/30

第五話 驚愕の真実

やっとオチです。

ヒロインの名前も少し出てきます。ヒロインはもちろんあの人。

 かっこよく飛び出した俺だったが――


 バインッ


「あれっ?」


 予定では、かっこよくジャニラちゃんを万能球で防御した後、俺が辿り着いて、二人一緒に脱出、のはずが……万能球が、地中から生えてきた植物で弾かれてしまった。


 それだけならば良かったのだが、その植物が今度は俺を襲ってきたのだ。

 俺、敵認定ですか?


「ちょ、ストーップ! 俺は敵じゃないぞ!」


 両の手の平を前に突き出して、必死に「止めて」をアピールする。

 だがそんな俺の行為を、植物は完全に無視して、俺を捕まえようと襲ってきた。

 俺の抵抗も虚しく、蔓が手足に絡みついてくる。


「うぉーっ! お、おばちゃん、ヘルプミー!」

「お()し! その子は大丈夫だよ。それよりあいつらを捕まえとくれよ」


 植物は、おばちゃんが頼むと、あっさりと引いていった。

 なんてムカつく植物なんだ。


「ここのマットゥは、私らビラトの民にしか言う事を聞かないんだよ。それが"恩寵"。外の者は基本的に排除対象なんだよ」

「それを早く言ってください……」


 何て物騒な恩寵なんだ。この世界にはそんな物がゴロゴロしているのだろうか。


 いや、それよりも目の前の光景である。

 緑色の子供――ジャニラちゃんが、植物に護られながら、槍で懸命に突っついている。


 問題はその相手だ。


「おとーさんのかたきっ、やぁーっ!」

「キキキィッ」

「おとーさんをかえせぇー!」

「キキッキ、キキキィーッ」


 敵の正体が判明しました。


「え~っと、人間?」


 俺の想像する人間と、この集落の想像する人間とは、別のようである。

 これを人間とは思いたくはない。


――『猿』


 確かに人間と縁はある。だが過去形だ。

 人間の進化前の存在。だがこれを人間とは言わない。

 何故誰も気付かない。

 見た目が全然違うじゃないか。知能指数も違うのだぞ。


「これは生物学上、"猿"と言います」

「人間じゃないのかい?」

「……いえ、"猿"です」

「う~ん、違いが分かんないねぇ」


 何故わからないのだ。全然違いますよ。あなた方の目は節穴ですか?


 その時、猿の一匹が俺に標的を変えてきた。

 猿ごときが人間様に逆らうか。良いだろう、受けてたとう!


 戦闘に向けて身構えるが――


「舐めんじゃないよ!」


 俺の横から飛び出したおばちゃんから、放たれる一撃――ドカッと豪快なローリングソバットが炸裂した。

 俊敏な筈の猿に、的確に命中して、猿が吹き飛ぶ。


 格闘派の方でしたか。見事な腕前で。

 男連中よりも、貴方の方が強いのではないでしょうか?

 純粋に、そう思わずにはいられなかった。


 おっと、見とれている場合じゃない。

 おばちゃんばかりに、良い所を持っていかれる訳にはいかない。


 取り敢えず、どこかに飛んでいった万能球を戻すことにする。


「万能球、戻ってこい!」


 その言葉で、万能球が飛んで戻ってくると思っていたが、いきなり目の前に湧いて出てきた。


 どういうことだ? 消えていたのか?


 一定範囲外にまで離れると消える、もしくは転移して戻ってくるってことか。奥が深いな。


 そもそも、この球は何なのだろうか。

 便利だから使っていたが、怪しさ満点だぞ。


 そんなことを考えていたが、ふと気づくと、猿共がジャニラちゃんに襲いかかるのが見えた。危ない!


「クソッ、万能球、俺を囲んでジャニラちゃんの所まで飛べ!」


 ジャニラちゃんの所まで進む途中、傍らでおばちゃんの戦闘が見えたが……うん、大丈夫だね。

 猿の一体に的確にアッパーを叩き込み、後ろの猿をサマーソルトキックで迎撃。

 おい、何者だ、あのおばちゃんは。強いなんてものじゃないぞ。


 おばちゃんを見ているうちに、ジャニラちゃんの目の前に到着した。


「よし、そのままジャニラちゃんを中に入れてくれ」


 ブゥインッと低音が響き、万能球の中にジャニラちゃんを取り込む。

 俺の腕に抱かれ、ジャニラちゃんが暴れ出す。


「やっ、なにするの! はなして!」

「危ないからじっとしてなさいっ! こらっ、その槍は危険だからこっちに向けるな!」


 言う事を聞かない我侭なジャニラちゃんを、必死に(なだ)めようとするが、効果がない。

 外では、猿共が俺達に危害を加えようとしているが、万能球に阻まれて、思うようにいかないようだ。

 流石は万能球だ。


 全方位が猿で埋め尽くされている様は、圧巻である。

 少々ビビりながら、嵐が過ぎ去るのを待っていたのだが――


「お前ぇら、やめねぇか!」


 その時、太い男の怒鳴り声が聞こえてきた。

 その人物を見定めるが――


 喋る猿!? いや、違う。あれは、猿……顔の人間……か? こいつがボスか?


「キキキィッ」

「言い訳は聞かんっ! さっさと全員集合させろ!」

「キキッキ、キィーッ!」


 猿ボスに答えるかのように、一匹の猿が大声で吠えた。

 その叫びを合図に、猿共が一斉にこの場に集まってくる。

 一、二、三……十……五十? おいおい、一体何匹いるんだ?


 猿共が集まってくると、一緒に集落の男連中もこの場にやって来た。


 万能球を見られるのも面倒なので、慌てて消し去る。


 集まった猿共を見て、猿ボスの人間が大声で怒鳴りつける。


「お前ら! 他所様に迷惑をかけるなと言っておいただろう! 何だ、この有り様は!」

「キッキ、キィ~ッ」


 猿共が、一斉に落ち込み始めた。

 何だこの光景は……いや、ちょっと待て、そうか、謎は全て解けた。

 コイツのせいで人間と猿が混同されているんだな。


 猿共を統括する猿顔の人間。

 こいつら猿も人間と間違われてもしょうがない状況だ。


 とすると、猿ボスの命令に逆らった? いや、本能が勝ったというべきか。

 所詮人間と猿だからな。意思疎通がとれているだけで奇跡だ。


 そこで、猿ボスが集落の者達に気付く。

 そのボロボロの姿を見て猿ボスの顔が一気に青褪める。


「あ、い、あ、す、すまねぇーッ!」


 猿ボスが、豪快に土下座を決め込む。

 潔い、というか、凄いな。あんな豪快な土下座は生まれて初めて見た。

 集落の皆も困惑顔である。


 その中の一人が、怒り顔で前に進み出た。

 確か、俺にいちゃもんをつけてきた、ピッツンとかいう名前のオヤジである。


「謝って済む問題じゃねぇんだよ。この子の父親がやられてるんだ! どう落とし前を付けるってんだ! あぁ?」

「あ、う、ほ、本当にすまねぇ。この通りだ」


 まるでヤクザのような言い草のピッツンオヤジに、猿ボスがさらに深く頭を下げようとする。

 それ以上は下がりませんよ。地面に穴を掘りたいなら別だけどね。


 ちょっと可哀想だが、俺が庇ったところで飛び火するだけと思われる。

 ここは事態をそっと見守るだけにしよう。


「コイツらにはキツく言ってあったんだが、森の食いもんが無くなってきてどうしてもやむを得ず……本当にすまねぇ!」


 え~っと、つまりこの猿ボスが、本物の猿を従えて食料を奪取していた……じゃなくて、むしろ猿の暴走を抑えていたということか。


 そういえば、ここだけ妙に食いもんが見当たるな。


「そりゃ仕方ないねぇ。ここはメルシン様の恩寵で食料には困らないからねぇ」

「だけどそれじゃ……」

「この人間の言う事にも一理あるよ。私らビラトの民はこの"マットゥ"のおかげで恩寵を受けているから大丈夫だけど、外の者にはこの森はキツイからねぇ」

「全部、俺のせいだ。償いは何でもする」

「いや、アンタのせいじゃないだろ? むしろ被害を抑えていたんだからさ」


 あまりにも可哀想なので、つい口を出してしまった。

 だがそんな俺を見て、猿ボスが血相を変える。


「人間!?」

「うん、そうだけど」

「近寄るな、人間!」

「いや、貴方も人間でしょ?」

「人間連中は皆おかしくなっちまった。信用できねぇ」


 どういうことであろうか。

 人間にトラウマでもあるのか? それで猿化した……いや、そんな筈はない。

 外がヤバいってことか。一体どういう世界なんだ。


 猿ボスと俺が対面していた訳だが、そこに小さな声が届いてきた。

 緑色のお子様、ジャニラちゃんである。


「……もういい」

「いや、しかし……」

「お父さん……帰ってこないもん! もういい! ぐすっ、うわぁぁぁぁぁぁん!」


 申し訳なさそうな猿ボスを放っておいて、ジャニラちゃんが大泣きし始める。


 泣き喚く子供をじっと見ているだけなのは、偲びない。

 我慢できずに、ジャニラちゃんを、ついギュッと抱きしめてしまった。

 何とか落ち着かせようと、背中を優しく撫で撫でする。


 俺はこういうのに弱いんだ。

 韓流ブームで培った涙腺の弱さを、舐めないでもらいたい。


 俺の抱擁に、ジャニラちゃんがギュッと抱き返してくる。


 しばらく、その場は沈黙に包まれ、ジャニラちゃんの泣き声だけが響いていた。






 数時間後。


 何故か、ジャニラちゃんが俺の服をギュッと掴んでいる。

 何だか妹ができたような感じで、一人っ子の俺としてはそそるものがある。


 猿共は一旦集落の外へと帰って行き、猿ボスは何かを長老と話し合っているようだ。


 俺はまだピーラおばちゃんと一緒にいた。

 いつの間にか仲良くなっていたのである。


「ごめんねぇ。前に一度見た人間とそっくりだったからねぇ」

「人間? あの猿ボスじゃなくて?」

「猿ボス? ああ、今長老と話している人間の事かい? そうだよ。あの人間とは別の人間だよ」


 以前には他にも人間がいて、そいつも猿ボスと似ていたのか?

 もしかしてこの世界の人間は皆あんな猿顔……嫌だ、何か萎えてきたぞ。


「そう……確か、髪が長くてアンタと同じような服を着ていたっけねぇ」


 服? ……制服の事か!? もしかして!?


 制服といえば、拉致被害者に直結する。

 早速、脳裏に鮮明に焼き付いている姿を写真にして、万能球で現像して、おばちゃんに見せる。


「この人ですか!?」

「へぇ、便利だねぇ。どれどれ……そうだよ、この人間だねぇ。一ヶ月前くらいだったかな」

「この人だけですか?」

「そういや、あと一人、同じ格好の人間が半年前くらいに来た気がするねぇ」


 どうやらこちら方面には二人、入れ違いにやって来たみたいだ。

 全員あの場所で放置されただろうか。


 ここに来た、ということは、やはり今までの行方不明者を攫った連中は、俺を攫った連中と同一犯の可能性が大きくなった。

 連中、何が目的なんだろうか。


 とにかく情報は得られた。

 これからは、帰る方法探しと合わせて探す必要がある。

 目的が二つに増えた。


――今どこにいるんだろう、聖羅(せいら)先輩。


次回、ヒロイン登場。再会はまだです。

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