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拉致・のち、放置&放浪記  作者: 七草 折紙
『豊穣の森』編
6/30

第四話 見えない敵

書いちゃいました。異世界ものってドキドキしますよね。

4/21 文章修正しました。

 緊張に包まれた場で、駆けつけてきた集落の男が、勢い良く捲し立てる。

 元々緑色で悪く見える顔色が、さらに青褪めており、相当緊迫した事態のように見受けられる。


 早速、例の人間達が襲ってきたという訳か。

 一歩遅く、俺も巻き込まれてしまったようだ。


「奴ら、西の方からやってきた。今すぐ来るぞ!」

「西? いかん! あっちにはジャニラが!」

「ああ、それなら確認してきた。ジャニラは家にいなかったぞ」

「いない? どこに行ったのじゃ?」

「近くを探したんだがいなかった。それよりも……来た!」


 話の途中で何かが飛び込んできた。目で捉えようとするが、速くて見えない。


――おい、冗談じゃないぞ。何だあのスピードは。


 黒い影が、凄まじい速さで、そこらじゅうを飛び交っている。


 あれが人間? 人間はあんなに速く動けませんよ。

 いや、そういう力の持ち主なのかもしれない。もし異世界だったらありえる話だ。


 そうなると、益々、異世界説が濃厚になってくる。というより、ほぼ決定だろう。


 その結論に、憂鬱になりかけるが、今は現状確認が先だ。

 人とは思えない速度で移動する黒い影。

 あんな怪しい要素を、知らぬ存ぜぬのままでいる訳にはいかない。


「あの、ここって魔法とかあるんですか?」

「何だって? 今それどころじゃないんだよ!」


 近くにいた男の人もどきに聞くが、それどころではないと跳ね返される。

 世間の風は冷たい、と心の中で嘆いていると、さっきのピーラおばちゃんが親切に答えてくれた。


「魔法? 何だい、それは?」

「う~ん、不思議なパワー?」

「魔法は分からないけど、自然の"恩寵"なら使えるよ」

「自然の恩寵……ですか?」


 恩寵、というと神様から与えられる力みたいなものだろうか。

 神様、といえば宗教だ。

 ちょっとした発言がとんでもない人間関係の摩擦を生む、胡散臭い宗教が蔓延る世界を想像してしまうが、それはご遠慮願いたい。俺は無宗教家なのだ。


「そうさ。ここは『豊穣』のメルシン様の力が及ぶ地。私らはメルシン様の恩寵が使えるんだよ」

「えっと、具体的には?」

「あれを見てごらん」


 ピーラおばちゃんが指差した場所では、地中から、植物みたいなものがニョキニョキと生えてきている。

 その植物から、何本かの蔓が、黒い影を捕まえようとしているが、速くて捉えきれていない。


「あの植物みたいなのが、自然の"恩寵"?」

「凄いだろう? 私らの誇りだよ」

「へぇ、俺にも使えますかね?」

「無理だね」


 考える余地なく、俺の期待がスパッと切り捨てられる。

 安易に「お前みたいな奴にそんな才能はないんだよ」と言われたみたいで、凹みました。


「い、いや、そんなあっさりと……」

「この大樹は"マットゥ"と呼ばれるものの一つ。私らビラトの民に力を与えてくれるものだよ。余所者のアンタには無理な話なんだよ」

「マットゥ?」

「そうさ。各地に存在する力の象徴。これは"メルシン様"のマットゥ。まあ、メルシン様のマットゥはここ一つだけじゃないけれどね。メルシン様以外のマットゥもあるって話だよ」


 マットゥとは、この世界独自の造語か何かだろうか。

 メルシン様とやらは神様みたいなものだろう。

 この集落の者しか使えない、ということは種族制限でもあるのだろうか。


 様々な疑問が頭に思い浮かんできたので、一つずつ解決することにする。


「あの、その"マットゥ"って種族毎に違うものなんですか?」

「へぇ、良く気づいたねぇ。一般にはそう言われているよ」


 やはり、種族――恐らく遺伝子のような情報に反応するものと思われる。

 そういえば人間がいるって話だったが、人間のマットゥもどこかにあるのだろうか。


「じゃあ、人間に使えるマットゥもあるんですか?」

「それは聞いたことがないねぇ」

「へっ? ないんですか?」

「人間の"恩寵"は聞いたことがないねぇ。代わりと言っちゃなんだけど、人間は"魔兵器"を使う」

「魔兵器?」


 科学と魔法のような関係だろうか。


 いや、それよりも憶える事がいっぱいで、鬱になりそうである。

 勉強嫌いの吸収量の低さを舐めないでもらいたい。そろそろ、脳みそがパンクしそうなのだ。

 細かい説明は割愛しよう。


「そうさ。人間が作り出した訳の分からない道具。アンタのいう不思議なパワーを持つ得体の知れない道具だよ」

「じゃあ、あれはその力ですか?」

「それしか考えられないだろう? ボスしか見たことがないけど、ソイツは人間で何か持ってたんだよ」


 正体は分からないが、ボスだけは目撃して、そのボスが人間で、魔兵器とやらを持っていた、ということか。

 見たんであれば疑いようがないが、厄介だな。


 得体の知れない道具――"兵器"という言葉から察するに、とんでもない代物だろう。

 万能球があるとしても安心はできない。


 というか、この力が珍しいものであった場合、最悪モルモットにされる危険性有り。

 やたらと使うのは止めた方が良いだろう。


 さて、どうする?

 そもそもこんなにのんびりと話していても良いのだろうか。


「おばちゃん、俺らは行かなくても良いんでしょうか?」

「私らが行ってどうなるんだい? 狩りに慣れた男達が手も足も出ないんだよ」


 確かにそうだな。俺や女子供が行ったところで、足手纏いなだけだろう。

 しかし、何で襲われているんだろうか。


「あの、その人間達の目的って何なんでしょうか?」

「奴らは根こそぎ掻攫(かっさら)うつもりなのさ」

「え~っと、人攫いとか?」

「何バカな事言ってんだい? 食料だよ!」


 原因は食料、仲良く分け合うことはできないのだろうか。

 空腹の苦しさは俺も良く知っているが、何故奪い合うのだ。

 あるいは、話し合いで解決という考えがなく、奪い合うのが標準とか……。


 もしかしてそういう世界なのか。

 だとしたら、今後は怒涛の展開が待っていると予想される。

 これは本格的にやばいな。


 その時、悲鳴にも近い、切羽詰った声が聞こえてきた。


「大変だよ! ジャニラちゃんが!」

「落ち着くんだよ。何があったんだい?」

「ジャニラちゃんが槍を持って奴らの所に行っちまった」

「何だって!?」

「無茶な!」


 おいおい、そのジャニラちゃんはどれだけ向こう見ずなんだ。

 大の大人がかかっても敵わないんだ。無謀にも程があるぞ。


 だが良く考えると、ここでジャニラちゃんを失うと、地図も見られず、下手をすると、同じ人間ということで、俺にとばっちりが来る可能性有り。


 そうすると、今すべきことはジャニラちゃんの救出、只一つ。


 だけど争い事は勘弁したい。

 同じ人間ということで何とか交渉できないかな?

 いざとなれば万能球で……うん、大丈夫だろう。


「俺が行ってきましょうか?」

「アンタがかい?」


 俺の提案に、一部の者達が訝しげな目を向けてくる。

 信用がないよね。人間だからしょうがないけど、いい加減にへこむよ。


 だが、ここでもピーラおばちゃんが立ち上がる。


「この子は長老が大丈夫だって言っただろう? 今はジャニラちゃんの救出が先だよ」

「そうだね。今はそんな場合じゃない」

「そうだよ。誰かが行くしかないんだよ」

「男連中はどこまで行ったんだ? ジャニラちゃんを保護してくれてるといいんだけどね」

「よし、アタシがこの子と一緒に行くよ」


 皆が団結して、最終的にピーラおばちゃんが名乗りを上げた。

 俺と一緒に行ってくれるようだ。


 個人的には若い子が良かったんだけど、怯えて一向に近づいてこないんだよね。


 それにしてもピーラおばちゃんの戦闘の腕はどうなんだろう?


「大丈夫なんですか?」

「なぁーに、こう見えても腕っ節には自信があるんだよ」


 腕をグッと引き寄せ、力こぶを見せつけるようなポーズをとるピーラおばちゃん。

 何だか頼もしい。


「どっちに行ったんだい?」

「え~っと、南の方へ向かっていったのを見たのよ」

「男連中は西に付きっきり。とすると、やばいね」

「早くいきましょう」


 おばちゃんと二人で、急いで南に向かう。


 しばらく走っていくと、黒い影に囲まれる小さな緑色の子供が見えてきた。

 あれがジャニラちゃんか。あのままじゃ、やられるぞ。


 慌てて万能球を出すことに決定し、目の前に黒い球を作り出す。


「な!? それはさっきの黒い球じゃないか! 何でまた出てきたんだい?」

「それは後です! 万能球、ジャニラちゃんを護れ!」


 万能球に、ジャニラちゃんを包み込んで護るように指示して、そのまま飛ばす。


 ちなみに、万能球は一つしか出せないので、これで俺は完全に無防備になる。

 おばちゃん、ボディーガード頼むよ。


 球を飛ばした後は、ひたすらジャニラちゃんの所までゴー。

 近づいていくが――


「コイツらが襲ってきた人間!?」


 目の前には衝撃の光景があった。


次回、衝撃の真実。ある意味衝撃です。

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