第四話 見えない敵
書いちゃいました。異世界ものってドキドキしますよね。
4/21 文章修正しました。
緊張に包まれた場で、駆けつけてきた集落の男が、勢い良く捲し立てる。
元々緑色で悪く見える顔色が、さらに青褪めており、相当緊迫した事態のように見受けられる。
早速、例の人間達が襲ってきたという訳か。
一歩遅く、俺も巻き込まれてしまったようだ。
「奴ら、西の方からやってきた。今すぐ来るぞ!」
「西? いかん! あっちにはジャニラが!」
「ああ、それなら確認してきた。ジャニラは家にいなかったぞ」
「いない? どこに行ったのじゃ?」
「近くを探したんだがいなかった。それよりも……来た!」
話の途中で何かが飛び込んできた。目で捉えようとするが、速くて見えない。
――おい、冗談じゃないぞ。何だあのスピードは。
黒い影が、凄まじい速さで、そこらじゅうを飛び交っている。
あれが人間? 人間はあんなに速く動けませんよ。
いや、そういう力の持ち主なのかもしれない。もし異世界だったらありえる話だ。
そうなると、益々、異世界説が濃厚になってくる。というより、ほぼ決定だろう。
その結論に、憂鬱になりかけるが、今は現状確認が先だ。
人とは思えない速度で移動する黒い影。
あんな怪しい要素を、知らぬ存ぜぬのままでいる訳にはいかない。
「あの、ここって魔法とかあるんですか?」
「何だって? 今それどころじゃないんだよ!」
近くにいた男の人もどきに聞くが、それどころではないと跳ね返される。
世間の風は冷たい、と心の中で嘆いていると、さっきのピーラおばちゃんが親切に答えてくれた。
「魔法? 何だい、それは?」
「う~ん、不思議なパワー?」
「魔法は分からないけど、自然の"恩寵"なら使えるよ」
「自然の恩寵……ですか?」
恩寵、というと神様から与えられる力みたいなものだろうか。
神様、といえば宗教だ。
ちょっとした発言がとんでもない人間関係の摩擦を生む、胡散臭い宗教が蔓延る世界を想像してしまうが、それはご遠慮願いたい。俺は無宗教家なのだ。
「そうさ。ここは『豊穣』のメルシン様の力が及ぶ地。私らはメルシン様の恩寵が使えるんだよ」
「えっと、具体的には?」
「あれを見てごらん」
ピーラおばちゃんが指差した場所では、地中から、植物みたいなものがニョキニョキと生えてきている。
その植物から、何本かの蔓が、黒い影を捕まえようとしているが、速くて捉えきれていない。
「あの植物みたいなのが、自然の"恩寵"?」
「凄いだろう? 私らの誇りだよ」
「へぇ、俺にも使えますかね?」
「無理だね」
考える余地なく、俺の期待がスパッと切り捨てられる。
安易に「お前みたいな奴にそんな才能はないんだよ」と言われたみたいで、凹みました。
「い、いや、そんなあっさりと……」
「この大樹は"マットゥ"と呼ばれるものの一つ。私らビラトの民に力を与えてくれるものだよ。余所者のアンタには無理な話なんだよ」
「マットゥ?」
「そうさ。各地に存在する力の象徴。これは"メルシン様"のマットゥ。まあ、メルシン様のマットゥはここ一つだけじゃないけれどね。メルシン様以外のマットゥもあるって話だよ」
マットゥとは、この世界独自の造語か何かだろうか。
メルシン様とやらは神様みたいなものだろう。
この集落の者しか使えない、ということは種族制限でもあるのだろうか。
様々な疑問が頭に思い浮かんできたので、一つずつ解決することにする。
「あの、その"マットゥ"って種族毎に違うものなんですか?」
「へぇ、良く気づいたねぇ。一般にはそう言われているよ」
やはり、種族――恐らく遺伝子のような情報に反応するものと思われる。
そういえば人間がいるって話だったが、人間のマットゥもどこかにあるのだろうか。
「じゃあ、人間に使えるマットゥもあるんですか?」
「それは聞いたことがないねぇ」
「へっ? ないんですか?」
「人間の"恩寵"は聞いたことがないねぇ。代わりと言っちゃなんだけど、人間は"魔兵器"を使う」
「魔兵器?」
科学と魔法のような関係だろうか。
いや、それよりも憶える事がいっぱいで、鬱になりそうである。
勉強嫌いの吸収量の低さを舐めないでもらいたい。そろそろ、脳みそがパンクしそうなのだ。
細かい説明は割愛しよう。
「そうさ。人間が作り出した訳の分からない道具。アンタのいう不思議なパワーを持つ得体の知れない道具だよ」
「じゃあ、あれはその力ですか?」
「それしか考えられないだろう? ボスしか見たことがないけど、ソイツは人間で何か持ってたんだよ」
正体は分からないが、ボスだけは目撃して、そのボスが人間で、魔兵器とやらを持っていた、ということか。
見たんであれば疑いようがないが、厄介だな。
得体の知れない道具――"兵器"という言葉から察するに、とんでもない代物だろう。
万能球があるとしても安心はできない。
というか、この力が珍しいものであった場合、最悪モルモットにされる危険性有り。
やたらと使うのは止めた方が良いだろう。
さて、どうする?
そもそもこんなにのんびりと話していても良いのだろうか。
「おばちゃん、俺らは行かなくても良いんでしょうか?」
「私らが行ってどうなるんだい? 狩りに慣れた男達が手も足も出ないんだよ」
確かにそうだな。俺や女子供が行ったところで、足手纏いなだけだろう。
しかし、何で襲われているんだろうか。
「あの、その人間達の目的って何なんでしょうか?」
「奴らは根こそぎ掻攫うつもりなのさ」
「え~っと、人攫いとか?」
「何バカな事言ってんだい? 食料だよ!」
原因は食料、仲良く分け合うことはできないのだろうか。
空腹の苦しさは俺も良く知っているが、何故奪い合うのだ。
あるいは、話し合いで解決という考えがなく、奪い合うのが標準とか……。
もしかしてそういう世界なのか。
だとしたら、今後は怒涛の展開が待っていると予想される。
これは本格的にやばいな。
その時、悲鳴にも近い、切羽詰った声が聞こえてきた。
「大変だよ! ジャニラちゃんが!」
「落ち着くんだよ。何があったんだい?」
「ジャニラちゃんが槍を持って奴らの所に行っちまった」
「何だって!?」
「無茶な!」
おいおい、そのジャニラちゃんはどれだけ向こう見ずなんだ。
大の大人がかかっても敵わないんだ。無謀にも程があるぞ。
だが良く考えると、ここでジャニラちゃんを失うと、地図も見られず、下手をすると、同じ人間ということで、俺にとばっちりが来る可能性有り。
そうすると、今すべきことはジャニラちゃんの救出、只一つ。
だけど争い事は勘弁したい。
同じ人間ということで何とか交渉できないかな?
いざとなれば万能球で……うん、大丈夫だろう。
「俺が行ってきましょうか?」
「アンタがかい?」
俺の提案に、一部の者達が訝しげな目を向けてくる。
信用がないよね。人間だからしょうがないけど、いい加減にへこむよ。
だが、ここでもピーラおばちゃんが立ち上がる。
「この子は長老が大丈夫だって言っただろう? 今はジャニラちゃんの救出が先だよ」
「そうだね。今はそんな場合じゃない」
「そうだよ。誰かが行くしかないんだよ」
「男連中はどこまで行ったんだ? ジャニラちゃんを保護してくれてるといいんだけどね」
「よし、アタシがこの子と一緒に行くよ」
皆が団結して、最終的にピーラおばちゃんが名乗りを上げた。
俺と一緒に行ってくれるようだ。
個人的には若い子が良かったんだけど、怯えて一向に近づいてこないんだよね。
それにしてもピーラおばちゃんの戦闘の腕はどうなんだろう?
「大丈夫なんですか?」
「なぁーに、こう見えても腕っ節には自信があるんだよ」
腕をグッと引き寄せ、力こぶを見せつけるようなポーズをとるピーラおばちゃん。
何だか頼もしい。
「どっちに行ったんだい?」
「え~っと、南の方へ向かっていったのを見たのよ」
「男連中は西に付きっきり。とすると、やばいね」
「早くいきましょう」
おばちゃんと二人で、急いで南に向かう。
しばらく走っていくと、黒い影に囲まれる小さな緑色の子供が見えてきた。
あれがジャニラちゃんか。あのままじゃ、やられるぞ。
慌てて万能球を出すことに決定し、目の前に黒い球を作り出す。
「な!? それはさっきの黒い球じゃないか! 何でまた出てきたんだい?」
「それは後です! 万能球、ジャニラちゃんを護れ!」
万能球に、ジャニラちゃんを包み込んで護るように指示して、そのまま飛ばす。
ちなみに、万能球は一つしか出せないので、これで俺は完全に無防備になる。
おばちゃん、ボディーガード頼むよ。
球を飛ばした後は、ひたすらジャニラちゃんの所までゴー。
近づいていくが――
「コイツらが襲ってきた人間!?」
目の前には衝撃の光景があった。
次回、衝撃の真実。ある意味衝撃です。